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第6話
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松野も間磯も、そして不良然とした姿の山本にも事情がある。
そして、四島にも。
大した理由が存在していないのは阿賀野だけなのかもしれない。
誰も彼もが何の事情もなく、パイロットになりに来たという物好きばかりではない。
間磯には成らねばならない理由が存在し、松野は岩松の言葉と施設長の言に乗せられた。
それは彼女の思いを、想いを、全て利用する。彼女がいた孤児院は国営であったと言えば筋が通る。
これは夜の話だ。
山本は誰かを探すかのように寮の中を歩いていた。殆どの候補者はこの時間帯は、他の候補者とどこかで話している。
そこで、彼は次の戦争で共に出兵する仲間の一人である松野を見つけた。
「なあ松野……」
暗い表情をする松野に山本は話しかけようとして、竹崎が話しかけにいくのを見て伸ばしかけていた手を下ろした。
「あれ、山本。松野に何か用事あったの?」
竹崎が不思議そうな顔をしながら、山本の顔を覗き込む。
山本は顔の近さに反応して後ずさりながら、「何でもねえ……」と答えた。
「山本……」
松野は心底不安そうに表情を歪めて、その場を走り去ってしまった。
「え!? 松野!」
竹崎は松野の突然の逃走に驚いたようだが、山本は無理もないと考えていた。
「ん? お前ら何してんだ?」
その場に阿賀野が通りかかった。単純な質問だったが、竹崎も山本もすぐには答えなかった為に、興味はそこまでなかったのか阿賀野は答えを待たずに廊下を少し歩いて、近くにあった自室に入っていった。
「ーー私も松野に話があるから!」
そう言って竹崎は松野を追いかけていく。
「ああ」
から返事のようなものを返して、山本も大人しく自室に戻ることにする。
「後で飯島とも話すか」
これからどうするべきかを考え、呟いて、山本はポケットに手を突っ込んで歩き始める。
彼は新しい仲間を失いたくなかった。そして、守りたいと、そう願う程にその関係を大事に思い、形あるものが送りたかった。
幸いにも、パイロット候補になったことで高額の資金が送られている。
「ーー後で三人で買いに行くか」
少しだけの楽しみが出来たような気がして、その嬉しさに思わず山本は薄く笑った。
とある男がパイロット候補者になるに至った、ある夜の話がある。
『君がーーだね。君に話があって来たんだ』
老人の声が檻の向こう、暗闇の中から聞こえた。
『こんな人殺しの俺に、何のようだ』
その言葉にーーは鋭く睨みつけながら、そう尋ねた。
『まあ手短に、だ。そんな君でも誰かの為になれる』
その言葉にーーは過剰に反応した。慌てて、立ち上がり走り寄って、檻を掴んで叫ぶ。
『ほ、本当か!?』
興奮がーーの察知能力を下げたのか。それとも深い暗闇がーーを惑わしたのか。
老人の浮かべる笑みはよく見えなかった。
『勿論だとも。約束しよう』
その日は、三日月が美しい夜だった。
そして、四島にも。
大した理由が存在していないのは阿賀野だけなのかもしれない。
誰も彼もが何の事情もなく、パイロットになりに来たという物好きばかりではない。
間磯には成らねばならない理由が存在し、松野は岩松の言葉と施設長の言に乗せられた。
それは彼女の思いを、想いを、全て利用する。彼女がいた孤児院は国営であったと言えば筋が通る。
これは夜の話だ。
山本は誰かを探すかのように寮の中を歩いていた。殆どの候補者はこの時間帯は、他の候補者とどこかで話している。
そこで、彼は次の戦争で共に出兵する仲間の一人である松野を見つけた。
「なあ松野……」
暗い表情をする松野に山本は話しかけようとして、竹崎が話しかけにいくのを見て伸ばしかけていた手を下ろした。
「あれ、山本。松野に何か用事あったの?」
竹崎が不思議そうな顔をしながら、山本の顔を覗き込む。
山本は顔の近さに反応して後ずさりながら、「何でもねえ……」と答えた。
「山本……」
松野は心底不安そうに表情を歪めて、その場を走り去ってしまった。
「え!? 松野!」
竹崎は松野の突然の逃走に驚いたようだが、山本は無理もないと考えていた。
「ん? お前ら何してんだ?」
その場に阿賀野が通りかかった。単純な質問だったが、竹崎も山本もすぐには答えなかった為に、興味はそこまでなかったのか阿賀野は答えを待たずに廊下を少し歩いて、近くにあった自室に入っていった。
「ーー私も松野に話があるから!」
そう言って竹崎は松野を追いかけていく。
「ああ」
から返事のようなものを返して、山本も大人しく自室に戻ることにする。
「後で飯島とも話すか」
これからどうするべきかを考え、呟いて、山本はポケットに手を突っ込んで歩き始める。
彼は新しい仲間を失いたくなかった。そして、守りたいと、そう願う程にその関係を大事に思い、形あるものが送りたかった。
幸いにも、パイロット候補になったことで高額の資金が送られている。
「ーー後で三人で買いに行くか」
少しだけの楽しみが出来たような気がして、その嬉しさに思わず山本は薄く笑った。
とある男がパイロット候補者になるに至った、ある夜の話がある。
『君がーーだね。君に話があって来たんだ』
老人の声が檻の向こう、暗闇の中から聞こえた。
『こんな人殺しの俺に、何のようだ』
その言葉にーーは鋭く睨みつけながら、そう尋ねた。
『まあ手短に、だ。そんな君でも誰かの為になれる』
その言葉にーーは過剰に反応した。慌てて、立ち上がり走り寄って、檻を掴んで叫ぶ。
『ほ、本当か!?』
興奮がーーの察知能力を下げたのか。それとも深い暗闇がーーを惑わしたのか。
老人の浮かべる笑みはよく見えなかった。
『勿論だとも。約束しよう』
その日は、三日月が美しい夜だった。
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