異世界版ヒーロー【魔石で変身 イセカイザー】

鹿

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22 女将

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アスカは大きく伸びをした。そして門の先を見据えると、広がる街並みに圧倒された。

(映画のセットかよ!まるで中世だ!凄いな……しかし、どこに行けば良いのやら……)

その時、街の中から黄色い声が聞こえた。

(よし!美女には騙されないように気をつけよう)

両手で頬を叩き街の中へ足を踏み入れた。

まず目に飛び込んできたのは、正面の突き当たりにある大きな教会であった。

「まずは木箱のお礼だな。女神に挨拶でもするか」

「今日は大盤振る舞い!宿泊費が半分だよ!」

左の方から男の声がした。

左を向くと、立派な服装の男が客引きをしていた。

(教会の後は、宿だな)

「今日は長雨が止んだお祝いで半額ですよ~」

その時、反対側から女性の声が聞こえた。
アスカが右を見ると、桃色のショートカットにバンダナを被った可愛らしい女性と目が合った。

「お宿はお決まりですか?今日は半額です。朝晩食事付きのサービスもしてますよ~」

「……」

首を倒し、人懐っこい笑顔で微笑む女性から視線を切り、教会へと戻した。

(すまん女神、また後で!)

アスカは教会に手を合わせた。
そして眉毛をキリリと上げ背筋を伸ばすと、女性に体を向けスタスタと歩み寄った。

「丁度良かった。宿を探してたんだ。君の宿に決めた」

「ありがとうございます!どうぞこちらへ~」

女性はアスカを先導して歩き始めた。

「こいつらも良いのか?」

キュウとミミは可愛く鳴いた。

「はい。宿の裏にテイムモンスター用の小屋がありますので、そちらになりますが」

「そうか……まあ仕方ないか」

「お客様は冒険者ですか?」

「冒険者?ん~旅をしてるから冒険者だな」

「そうですか!ランクを聞いても良いですか?」

「ん?ランク?何の?」

「え?ギルドランクを知らないんですか?冒険者じゃないんですか?」

「俺、田舎もんでさ。悪いけど、それ教えてくれる?」

アスカは恥ずかしそうに左手で頭をかいた時、イヤーカフに触れてしまった。

『説明しよう!
ギルドランクとは……』

アスカは慌てて小声で叫んだ。

「お前じゃないよ!」

「え?」

「あ、いや独り言です。で、そのランクって何?」

「はい!まず冒険者とは冒険者ギルドに登録している人達の事を言います。で、ギルドランクは、その人の強さを表しているんです」

「へぇ。そのランクって黒帯とか白帯みたいなこと?」

「は?え~と。一番下はGランクで、クエストをこなして行くとランクが上がって行きます」

「へぇ」

「Gの次はFで、Aまで上がると次は最高ランクのSです。Sランクになるのは、ほんのひと握りだそうです。私はまだ一度も会った事はありません」

「なんだか面白そうだな」

「お客様はもしかして貴族様ですか?それとも商人ギルドに所属してますか?」

「いや、貴族じゃぁないし、商人でもない」

「では、身分証もギルドカードも無いのですね。通門の時、金貨を払ったんですか?」

「まあ、そうだな」

「お金持ちなんですね」

「それが金は1円もないんだよね。一泊したいんだけど金がないんだ。どこか物を換金できる所知らない?」

「イチエン?……物にもよりますが、大体の物は冒険者ギルドか商人ギルド、どちらでも換金出来ますよ。でも、どちらかのギルドに所属していると、割高で引き取ってくれるメリットがあります」

「商人ってガラじゃぁないから、冒険者ギルドに入ってみるかな。デメリットってあるの?」

「着きました!ここです」

彼女の後ろには、なかなか豪華な建物が建っている。看板には『琥珀の渡鳥』と書いてある。

(結構デカい。高そうだな。デメリットは後で聞くとして……)

「あのさ、聞いてなかったけど、一泊いくらなの?」

「そうでした!ごめんなさい。一泊2000ギャリーです。あっ!今は半額の1000ギャリーでした」

女性は片目を瞑り舌をペロリと出した。

「1000ギャリー!?……ってどのくらいの価値があるのか分からないんだけど……」

「……どんな所から来たんですか?え~っと簡単に説明すると、100ギャリーでパンが買えます」

「なるほど。1ギャリーは1円くらいかな?」

「ヒャクエン?」

「あ、いや、何でもないよ。一泊、銅貨3枚か」

(1000なら……一泊1000円?) 

「安いな」

「そうですか?でも今は長雨のせいでお客さんがいなくて……でも、宿の人たちはとても良い人たちですよ!」

彼女は満面の笑みをアスカに投げかけた。

「そうか。それは良いな。じゃあ一度冒険者ギルドで換金してくるよ。ついでに登録もしようかな」

「ギルドは教会のすぐ側にあるんですが、一度門まで戻った方が早いです。それと、教会から奥は貴族様が暮らすエリアです。近寄らない方が良いですよ」

「あの教会か。分かった!ちょっと、りんごを換金したらまた戻ってくるよ」

「え?りんごですか?」

(しまった!つい口を滑らした)

「そう。りんご。食べる?」

「いやいやいや!そんなお金ありませんよ!!」

「金は要らないよ。説明してくれたお礼に」

「り、りんごの価値を知らないんですか!?」

「知ってるよ」

(さっき聞いて知ったんだけど)

「じゃあ、りんごの代わりに、君の名前を教えてくれよ」

(これ、俺に惚れるパターンじゃない?)

「え~~~!そんな事で良いんですか!?」

周りを行き交う人々が、大声に反応してアスカたちをジロジロと見ている。

「ちょっと静かにしようか……それと俺が田舎者ってのと、りんごの事、誰にも言わないでくれる?」

女性はコクコクと何度も頷いた。

「わ、私の名前はエレノアと言います」

アスカは手を叩き、りんごを取り出してエレノアに渡した。

「エレノアか、良い名前だ。親切にサンキュ!」

「ほ、ほ、本当に頂いて良いんですか?」

「誰にも言わないでくれよ」

アスカは人差し指を口元に当てた。その時店の入り口から男の声が聞こえた。

「エレノア!そ、それはどうしたんだい!?」

「シガニールさん!こ、これは……その~」

エレノアは、りんごをエプロンの内側に隠した。
周囲を行き交う人々が、何事かと足を止め野次馬へと変わり始めた。

「しー!しー!!おっちゃんがここの店長か?と、泊まりたいんだ!とにかく中に入ろう」

アスカは慌てて二人の背中を押して、無理矢理店の中に入った。

「ちょっと!あなた!何なんですか!私はこの店の店主ですが、今はエレノアと話がしたいんです!エレノア!大声が聞こえたから出てみれば、そのりんごはどうしたんだ!」

店の中は掃除が行き届いており、塵ひとつなく綺麗であったが、長雨のせいか少しカビ臭かった。

「綺麗な宿だな」

アスカは話を逸らそうと室内の話題に変えた。

「見ての通り、雨のせいで客が来なくてね!毎日掃除してたんです!それよりもエレノア!……まさか盗んだのか!!」

アスカの目論見はあっという間に崩れた。

「違います!そんな事しません」

「しかしそんな高級品は、お前の給金では買えんだろ!盗みはするなとあれ程言ってきたのに……」

「どうしたんだい!雨が止んだってのに景気の悪い声なんか出して!」

二階から恰幅の良い女性が降りてきた。その女性もバンダナを頭に被り、エレノアと同じエプロン姿である。

「聞いてくれよジーナ!外で大声がしたから出てみれば、エレノアがりんごを持ってたんだ!」

「ふ~ん。それで?どうしてあんたは怒鳴ってるんだい?」

「どうしてって、りんごだぞ!そんな物買える訳がない!盗んだに決まってる」

「エレノアがそう言ったのかい?」

「それは……違うが……しかし!それ以外に考えられんだろ!!」

「エレノアがそんな事すると思うかい!全く何を考えてるんだか。エレノアの話も聞かずに」

「しかし!」

「しかしも、シガニールもないよ!!」

「俺も無いって……どう言う事だよ……」

「は~、全く……」

ジーナはエレノアに向き直った。

「エレノア。そのりんごはどうしたんだい?」

「これは……言えません。ジーナさん。ごめんなさい!」

(良い子だなぁ。可愛いし)

「そうかい。分かったよ。話はこれで終わり。あんた、お客さんだよ」

「ちょっ、ちょっと待てよジーナ!話はまだ済んでない!」

「エレノアが言えないって言ってるんだよ!何かこれ以上あるかい!?」

「ジーナさん……」

エレノアは涙を浮かべた。
それを見たアスカが頭をかいて口を開いた。

「俺が無理矢理渡して口止めしてたんだ。まさかこんな事になるとは思わなかった。これはお詫びの印だ」

アスカは手を叩くとりんごを二つ取り出して、シガニールとジーナに渡した。

「誰にも言わないでくれ。今みたいな事になると申し訳ないからさ」

「り、り、りんご!」

シガニールは目を丸くして、受け取ったりんごを大事そうに両手で包んだ。

ジーナはりんごの匂いを嗅ぐと、口角を上げてウインクをした。

「お客さん気前が良いね。お金は要らないよ。好きなだけ泊まって良いよ」

「良いのか?」

「ジーナさん!」

「エレノア!やっぱりあんたは幸運を運んで来るね。夕飯を作るから手伝ってくれるかい?」

「はい!」

エレノアは涙を拭い、ジーナの後をついて行った。

「おっちゃん良いのか?」

「それはこっちのセリフだ!本当に貰って良いのかい?」

「勿論だ。本当に、ただで泊まって良いのか?」

「勿論だとも」

シガニールは、ホクホク顔でアスカを部屋に案内した。

『りんごを使いナンパするアスカ。
しかし、りんごの効果は絶大で、引っかかったのは宿屋のおっちゃん。二人はホテルの部屋へと向かった。今後のBLに期待!
頑張れアスカ!おっちゃんの愛を取り戻せ!
次回予告
再会』

「おい~!どこを見てたんだ!あれか?久々の説明を聞かなかったから怒ってんのか?おっちゃんとボーイズラブなんかするか!おっちゃんじゃなくてもしないけどもっ!!」
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