21 / 34
21 木箱
しおりを挟む「で?手品はそれでお終いか?」
ゾフィは腕を組み、苛立つように人差し指で腕を規則的に叩いた。
「ま、待ってくれ!この箱の中に何か入ってるかも知れない!」
「かも?自分の荷物の中身を知らないのか?」
長い髪で目元が隠れて見えないが、明らかに苛立つゾフィは、更に足もトントンと鳴らし始めた。
「ああ。拾ったからな」
「拾ったのか?怪しいな」
ボーマンは低い背をかがめてアスカを覗き込んだ。
「ああ。空から降ってきた」
「空から?ますます怪しいな」
ボーマンはしゃがみ込み、下からアスカを睨んだ。
ボーマンの眼力に慌てたアスカは、急いで木箱を開けた。
しかしそこには、りんごや干し肉、水が詰め込まれ金目の物は何も入っていなかった。
「何ぃ~~!食い物だ!早く開けとけば良かった!」
「何ぃ~!り、り、りんごだとぉ!」
チョビ髭のリカルドは何故か、ごく普通のりんごに驚いた。
「嘘だろ……しかもこんなに沢山……」
立ち上がったボーマンも中身を除いて震えている。
「ちょっとどいてくれ!見えないじゃないか!」
「それは前髪のせいじゃん?」
しかし今のゾフィには、アスカの嫌味など耳に入らない。リカルドの肩を強引に引っ張ると、木箱を覗き込み固まった。
「空から降って来たと言うのは、あながち嘘では無さそうだな。天の恵みか」
ロベルトは落ち着いてはいるが、その三白眼をギラギラと光らせた。
「金貨じゃぁなかった……大金持ちになったはずが……俺はまた文無しか……りんご食うか?」
「「「……」」」
三人は、無言でブンブンと首を縦に振った。
首を振らなかったロベルトは、眉をひくつかせ自分と戦っているようだ。
(こいつらそんなに腹減ってるのか?)
アスカは木箱からりんごを取り出すと、ゾフィに放り投げた。
「うわっ!」
続けて他の三人にも放り投げた。
「ちょっ!」
「あぶっ!」
「っ!そんなに乱暴に扱うな!超高級品だぞ!」
クールそうなロベルトもキャッチすると、衝撃を緩和する為か、りんごの勢いを抑えるようにしゃがみ込んだ。
「りんごだろ?他にもまだまだ沢山あるけど……これ売れるのか?」
リカルドが震えつつ、叫び声とも取れる声を上げた。
「馬鹿野郎!一つ金貨十枚はくだらない!貴族なら金貨百枚は出す!!」
「はぁ!?りんごだぞ!これ…りんごだよな?」
金貨一枚の相場がどれほどの物か分からないが、彼らの反応を見て高いのだろう事は理解できた。
「当たり前だ!しかも山程ある!一つ手に入れるという事がどれほどの奇跡か!」
ボーマンは目を潤ませている。
「ヘイヘイ!今更返せとか言わないよな?」
ゾフィはりんごを両手で大事そうに抱えた。
「そんな汚い真似するか!まだ欲しいならやるけど?」
「「「「……」」」」
一同目を見開き唖然としている。
「要らないなら別に良いけど」
アスカが木箱に手を乗せると、頬を赤らめたゾフィが待ったをかけた。
「う、売ってくれ!頼む!後一つでも良いから売ってくれないか?」
「ん?やるって言ってるのに。ほら」
アスカはゾフィにりんごを放った。
「うわぁ!わぁ!」
お手玉をするように、りんごを片手で弾いて最終的には大きく弾いたりんごへ飛び付き、頭から滑り込んだ。
「ヘイヘイ……放り投げるなよ。ハァハァ」
地面に寝そべりグッタリとしているゾフィを他所に、アスカは他の三人にもりんごを放った。
残りの三人も慌てふためいたが、落とす事なくキャッチした。
(面白いな。もう一個投げたらどうなるんだろう)
やっとの事で立ち上がったゾフィに、アスカは悪い笑顔を向けた。
「まさか……やめてくれぇぇ」
アスカはゾフィにりんごを放った。
「うわぁぁぁ!はむ!……ん~~~!!!」
ゾフィはりんごを口でキャッチした。
果汁が口に溢れたのか、目元は見えないが口元が緩み、天にも昇るという表情になった。
両手に持っていたりんごを片手に持ち替え、口のりんごに手を添えると、シャクリと食べた。
「うまぁぁぁい!!!こんなに甘い食べ物は初めてだ!この食感もたまらない!!!止まらない!」
「き、勤務中だぞ!」
ロベルトは顔を引き攣らせゾフィを咎めたが、その三白眼はりんごに釘付けだ。
するとそれを見ていた他の二人も、生唾を飲み込み、おもむろにりんごにかぶりついた。
「はわぁぁぁぁぁ!!生きてて良かった!」
ボーマンは涙を流して喜んでいる。
「例えようが無い……」
リカルドは齧ったりんごをうっとりと愛でる。
クールなロベルトは自分と必死に戦っていた。
そしてゾフィは耳まで赤らめてアスカに微笑んだ。
「すまなかったな。通ってくれ!こんなに幸せな気持ちは久しぶりだ!ありがとう!金は俺が払っておく!」
「良いのか?普通のりんごでそこまでしてくれて」
「さっきも言っただろう!これはSランクの果物だ!幻想の森でしか手に入らないんだ」
「そうなのか?この木箱以外にも、トレル爺さんから山ほど貰ったぞ。あそこは幻想の森だったんだな」
リカルドはりんごを齧りつつ、チョビ髭を整えながらこう言った。
「何だと!お前はあの森に入ったのか!?道理で珍しいモンスターを連れていると思った。あの森は気まぐれで、どこに姿を表すか分からない。俺も今だに出くわした事がない」
「天の恵みか……そのモンスターも然り。どうだボーマン。この青年は?」
りんごを齧り涙を流す小柄なボーマンは、ロベルトに声をかけられると、りんごとアスカを見比べた。
「ん?ああ。心が読めない……だが嫌な感じは全くしない。通して問題ない」
「だ、そうだ。通っていいぞ」
「あ、ああ、ありがとう。それでは通りますよ?」
アスカはキョロキョロと四人を見渡し、木箱に手を置くと小声で圧縮と呟いた。
目の前から一瞬で木箱が消えたのを見たロベルト以外の三人は、残念そうに溜息をついた。
ロベルトはアスカを見ていたが、焦点は合っておらず何かを考えているようだ。
アスカは大きく伸びをすると、両手で頬を叩き街の中へ足を踏み入れた。
「ボーマンが心を読めないとはな。だが、気持ちの良い青年だな。森に入れるのも納得だ」
ロベルトは、二つのりんごを見つめて呟いた。
「名前を聞くの忘れてた!」
ゾフィは慌てて振り向くが、アスカの姿は既にそこには無かった。
「雨が止み喜んで、パレードから外され落ち込んで、しかし彼と出会えて気分は最高潮だ。パレード以上の物が手に入ったな。心はみんな決まってるみたいだけど、これは四人の秘密という事で」
ボーマンはりんごを目の前に掲げると、ウインクをした。
「そうだな。街は今傷ついている。戦えるのは俺たち四人しかいないから仕方のない事だと諦めていたが……やはり、リカルドの言う通りだったな」
ゾフィは、アスカが通って行った門から目を離す事なく答えた。
「良い事があるって言っただろ?だから俺の勘は必ず当たるんだって!」
リカルドは、両手の人差し指でチョビ髭をなぞった。
「しかし俺たち四人を、ギャリバング王国から、このレガリアントの街に送るとはな。最近の王は……」
暗い声のボーマンをロベルトが止めた。
「そこまでだボーマン!我らは王の命令に従うのみ!それがギャリバングの盾と言われる我らの務め」
「いささかカッコ悪いけどな。守護天使とか聖騎士団とか他になかったのかね?」
「ヘイヘイ、リカルド……そっちの方が恥ずかしい」
ゾフィは振り向き、恨めしそうにリカルドを睨んだ。
「しかし、長年続いた雨は上がった。後は銀狼の娘たちが無事帰ってくる事を祈ろう」
ロベルトは晴れ渡る西の空を見上げ、りんごを一口齧った。
「ヘイヘイ!勤務中ですよ」
ゾフィの言葉に咳き込むロベルトと、楽しそうに笑うリカルドとボーマンは、ギャリバング王国が誇る最強の四人である事を、アスカはまだ知らない……
『黄金の箱は消えた。しかし残った木箱に収められたりんごは、この世界ではそれ以上の価値があった。アスカはりんごを餌に最強の四人を手玉に取り、まんまと街の中に忍び込んだ。
行けアスカ!お祭り騒ぎに便乗せよ!
次回予告
女将』
「おいおい!ちゃんと見てたのか?人をコソ泥みたいに言うな!騒ぎに便乗して盗みなんかするか!」
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました
mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。
なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。
不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇
感想、ご指摘もありがとうございます。
なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる