自衛官のスキル【正当防衛】はモンスターにも適用される 〜縛りがエグい異世界行軍〜

鹿

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36 マグネタイト

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上空から見た景色は、先ほどとはまた違う顔を見せた。
左の草原には、ヒポグリフが群をなして駆け回り、右の岩肌には幾つも穴が開いており、そこから鉱石を運び出すドワーフが確認できる。

「ロックジョーさんは塔って言ってたけど、塔には見えないよな」

「柱に見えるが、どこから入るのじゃ?」

正面の黒の巨塔は円柱状で、地上と天井に繋がっていて、巨大な柱のように佇んでいる。それもあって、入り口らしき物はどこにも見当たらなかった。

塔の麓には小屋があり、2頭のヒポグリフが繋がれている。

「ヒッポちゃんじゃ!あの付近に入り口があるのじゃな」

ポーラはそこを指差すが、ヒポグリフは反対に天井に向かい上昇を始めた。

「あれか!」

天井から少し下に、長方形の横穴が開いている。
ゼンジの言葉通り、ヒポグリフはその横穴に向かって行った。
入り口には足場となる出っ張りがあり、3頭はそこに着地した。

「ヒッポちゃん、ここで待っててくださいね」

『ギュォン』

落ち着きを取り戻したポーラは、喋り方も戻っていた。

ヒポグリフから降りた一行は、内部に足を踏み入れた。

「マジか……」

黒の巨塔の内部も、正方形の部屋だった。
違いは、床が銀色に輝いている事と、中央に低い円卓が設置してある事だった。

「ゼンジ!指輪が浮くのじゃ!」

喋り方は一瞬で変わった。
ポーラは右手を上げて、フワフワと浮き始めていた。

『ゼンジ!助けて!』

メロンは頭を下にして、指輪を胸の前で握りしめ、必死に翼と両足を動かしている。

「メロン!」

ゼンジはメロンに手を伸ばし引き寄せると、両腕でしっかりと抱きしめた。

「はぁ。やはりぬいぐるみが喋ってますね。彼女の能力にしては不自然ですが」

リズベスは、曲げた人差し指の側面を顎に当て、切長の目をさらに細めて、ひとりごつ。

「ここはマグネタイトの天井に一番近い場所だ。指輪程度ならそのまま進めるが、外す事をお勧めする」

「妾は平気じゃ。それよりも急いで下るのじゃ」

「ここには下る階段はない」

「どう言う事ですか!入り口の他に穴は無いですよ!下りが無いなら上るんですか?」

しかし穴はおろか、上へと続く階段らしき物は見当たらない。

「ガッハッハ。座れ!そしてしっかり捕まってろ」

ロックジョーは、笑いながら円卓に腰掛けた。

「どうしてですか?」

ゼンジはリズベスに助けを求めた。

「はぁ。掻い摘んで説明すると、ロックジョーさんが言ったことが全てです」

そう言うと、リズベスもロックジョーの隣に座った。その隣には、ちゃっかりポーラが座っている。

「あーもう!ダンバールさん!どうすれば良いんですか!」

説明を面倒臭がる2人は諦め、ダンバールに助け舟を求める。

「このフロア全体の天井はマグネタイト。全ての金属を引き寄せる。ここまでは理解しているな?」

「はい。だから金属の指輪が引き寄せられるんでしょ。早くここから移動しないと」

ゼンジは、メロンごと浮き上がろうとする体を、円卓の縁にしがみついて耐えている。

「待つんだ。待つしか無い。ここの床は、不純物の無い高純度のミスリルで出来ている。今は引き寄せられている状態で止まっているが、間もなく天井のマグネタイトが、街から吸い上げた不純物により、一時機能を停止する」

「まさか……」

「そうだ。そろそろ時間のようだ」

ダンバールがゼンジの隣に座った途端に、メロンとポーラの指輪が浮力を失った。

「ひっ……」

一瞬の浮遊感の後、突然、床が落下し始めた。

「キャァァァ!落ちるのじゃぁぁぁぁ!」

床はグングン落下速度を上げる。

「うわぁぁぁぁ!」

「ガッハッハ。口は閉じてろ。舌を噛むぞ」

「いやぁぁぁぁ!!まだ落ちるのじゃぁぁぁ」

「このまま最下層まで一気に移動するんだ」

「ダンバールさん!移動と言うより、落下してますよぉぉぉ!これ、どうやって止まるんですかぁぁぁぁぁ!」

『イヤだぁ!もう落ちたくない~!』

落下中に突然メロンが暴れ出した

「ダメだメロン!落ち着け!」

メロンが、ゼンジの手を擦り抜けて空中に放り出された。
しかし自由落下中のゼンジたちと同様に、メロンも同じ速度で落ちて行く。
目の前で止まっているようなメロンに、ゼンジは急いで手を伸ばすが、目を瞑り、耳を押さえるメロンは、翼を羽ばたかせてしまった。
それにより、フワリと浮かんだメロンには届かず、ゼンジの手は空を切った。

「メロン!こっちを見ろ!手を伸ばせ!」

更に羽ばたくメロンには手が届かず、距離が徐々に離れてしまう。

「ダメじゃ!メロンちゃん!戻るのじゃ!」

しかしメロンは、両手で耳を塞いでいる為、2人の声も届かず、あっという間に上に遠ざかって行く。

「メロンちゃんが!メロンちゃんが!」

しかし、永遠とも感じられる時間が、唐突に終わりを迎える。

「メロんぐっ」

落下速度が急激に遅くなり、激しいGが全身を襲う。

「ゔゔゔ……」

そして体を押さえつけるGが緩まると、フロアの落下も止まった。

「ぐうっ!舌噛んだ」

「着いたぞ。急いで出るんだ」

ダンバールは、目の前に現れた縦穴に向かい始めた。ロックジョーとリズベスも続いた。
前屈みになっていたゼンジは、顔を上げて叫んだ。

「メロぶっ!」

その時顔面にメロンが落ちてきた。

『イヤだ!落ちるの怖い!落ちるの怖い!』

メロンは、目を瞑ったまま翼を羽ばたかせ、ゼンジの顔にしがみついている。

「良かった!メロンちゃん怪我はないか!」

ポーラは、メロンをゼンジの顔から無理矢理引き剥がそうとした。

「痛い!ポーラやめてくれ!顔がとれる!」

「えいっ!可哀想に。嫌な思い出が蘇ったのじゃな。怖かったなぁ」

ポーラは力を込めてゼンジから引き剥がし、メロンを抱きしめて、背中を優しくさすり始めた。
その隣では、ゼンジは顔を押さえて悶絶している。

「ポーラ!強引に取るなよ!」

ゼンジの顔には、猫に引っ掻かれたような爪痕が残っていた。

「何しておるじゃ!ぬいぐるみに引っ掻かれたくらいで、傷など作るのではない!大袈裟じゃ!」

「はぁ!?喋り方!」

「傷を治して欲しいなら、メロンちゃんに謝ってください!」

「なっ!嘘だろ……俺が悪いのか?ごめんメロン」

『気にするな。落ちるのは誰でも怖いもんだよ。ウルトラヒール』

メロンは両手をゼンジに向け、回復呪文を唱えた。爪痕は消えるように無くなった。

「何か腑に落ちないな……落ちてきたんだけども」

「何をしている!早く来い」

ダンバールは、縦穴の向こう側から座ったままの2人を呼んだ。

「か、体がおかしい」

「フワフワするのじゃ」

急激な重力の変化により、ゼンジとポーラは覚束ない足取りで出口を目指した。

外に出たロックジョーは、腕を組んだまま大声で笑っている。

「ガッハッハ。もっと急げ!天辺まで引き戻されるぞ!」

「えっ!」

「何故それをもっと早う言わんのじゃ!」

2人が慌てて走り出すのと同時に、床が上昇を始めた。

「間に合わんのじゃ!あっ!」

思うように体が動かせないポーラは、足がもつれて転んでしまった。
そして縦穴が急激に小さくなり始めた。

「バレットタイム!」

ゼンジ以外の時間が、止まったように遅くなる。

「間に合ってくれ!」

転ぶ寸前の空中で止まったポーラを抱き抱えて、出口に向けてヘッドスライディングをした。
ギリギリの所で出口を通過したゼンジたちは、今度は地面に向かって落下を始めた。

「うわぁ!やばい地面にぶつかる!」

「はぁ。これはどう言う事かしら」

バレットタイム中に、リズベスがゆっくりと動き出し、落下位置にロックジョーを押し倒した。
そこでバレットタイムが終わり、周りの動きが加速した。

「ガッハッハ。どうして俺は横になっているん…だ!」

ロックジョーはゼンジとポーラを受け止めた。

「ありがとうロックジョーさん」

「た、助かったのじゃ」

「ガッハッハ。楽しめたか」

「最初にチュートリアルが必要ですって」

無事、最下層に着いた一行はダンバールの後に続き、縦穴と同じ形状のトンネルを奥に進んだ。

「はぁ。あれは神速?ちょっと違うわね。私も遅くなった?不思議な感覚だった……」

リズベスは縦穴を見つめて、1人呟いていた。

『この気配は……まさか……』

「メロンちゃんどうしたのじゃ」

『何でもないよ』

しかしメロンは、そんなはずはないと誰にも聞こえない声で呟いた。

「何だか暑いですね。それにまだフワフワする」

ゼンジは額を流れる汗を拭った。
その時地面が大きく揺れた。

「何だ!地震か?」

「崩れるのじゃ!逃げるのじゃ!」

「ただの地震れだ。この最下層は、ファビリオン火山の真下にある聖なる空間だ。長老もいらっしゃる。くれぐれも粗相のないようにな」

ダンバールは、ゼンジとポーラに言い聞かせるように2人を交互に見た後に、短いトンネルを抜けた。

「火山の真下?だとしたら、このくらいの暑さじゃ済まないだろ?」

ゼンジも恐る恐るトンネルを抜けた。そこには一本道の先に、円形の岩が迫り上がったフロアがあった。直径10メートルほどのフロアの周囲には、辺り一面、真っ赤なマグマが、ボコボコと煮えたぎり流動している。

「マグマ溜まりか!?だとすると、我慢出来るこの暑さはおかしい!」

目の前にマグマがあるのに、汗をかく程度の暑さに疑問を持った。

「赤鳥様の加護だ」

一本道の前を歩くダンバールが、振り向かずに答えた。

「ガッハッハ。しかしその加護も薄れているな。揺れが酷くなっている」

『ピュルルル』

どこからともなく、可愛らしい鳴き声が聞こえた。

「この声の主じゃな?」

「ガッハッハ。生まれたばかりなのに元気が良いな」

ロックジョーは、煮えたぎるマグマを見下ろしている。それに釣られて、ゼンジもマグマに視線を向けた。
そこにはまるで、白鳥が湖に浮かぶかの如く、小さな白い鳥が浮いていた。


(女神様、こちら自衛官、
転移の次は落下です!フリーフォールです!次は何ですか?バンジージャンプですか?どうぞ)
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