自衛官のスキル【正当防衛】はモンスターにも適用される 〜縛りがエグい異世界行軍〜

鹿

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39 反撃の狼煙

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ゼンジとポーラ、そしてドワーフたちは、イフリートの雄叫びで麻痺してしまった。
そして、動くことのできないゼンジを、イフリートは丸呑みにしたのであった。

「……嘘……ゼンジ……ゼンジ~!」

ポーラたちは目の前の現実に、何が起きたのか思考が追いつかないでいる。
ゼンジがいた場所には、イフリートの顔がある。
黒い炎を身に纏うイフリートが、積年の恨みでもあるかのような眼差しで、ポーラたちを睨みつける。

『イフリート!ゼンジを戻せ!』

メロンの声に反応したのか、イフリートがゆっくりと顔を上げる。
そこにあったはずの、えぐれた地面と共に、ゼンジの姿も無くなっていた。

ポーラは麻痺が解けると、崩れるようにその場に座り込んだ。

すると目の前のゼンジと目が合った。

「おったのじゃ……」

『あれ?』

イフリートの足元に、ゼンジが座り込んでいた。
キョトンとしているゼンジが口を開いた。

「ロックジョーさん?」

ゼンジは喰われる寸前で、ロックジョーに押し倒されていた。しかし代わりに、ロックジョーが喰われてしまったのだ。

ゼンジはリッキーを思い出した。

(自分がもっと強ければ!)

「ロックジョーさんが自分を助けてくれた!!自分の代わりに……」

ゼンジが生きていた事に安堵したのも束の間、ゼンジの叫びを聞き、ロックジョーの死を悟った。

「終わりだ……」

長老は、誰にも聞こえない声量で絶望を口にする。

恐怖に襲われ、誰1人として口を開く者はいなかった。動こうとする者はいなかった。

「はぁ。何度も言いますが、遊ぶのはやめて下さい」

リズベスを除いては。

「だ、誰に言っておるのじゃ?」

その時イフリートの口の中から、こもった、あの笑い声が聞こえてきた。

「ガッハッハ。残念だが、そうあっさりとメインディッシュにありつけると思うなよ」

『グヴヴヴ……』

イフリートが唸る。

そしてジワジワとイフリートの口が開き始めた。
なんとロックジョーが、イフリートの口を持ち上げていた。

「ロックジョーさん!」

「ガッハッハ……この黒い炎は、ちと厄介だな」

ロックジョーの体はイフリート同様、黒い炎で覆われていた。

「マッドランス」

ロックジョーと共に喰われた土が棒状に集まり、イフリートの口を突っ張り棒のように固定した。そしてロックジョーは、素早く飛び降りた。

安堵したゼンジは、駆け寄って声を掛けた。

「ロックジョーさん!すみません!自分のせいで……」

「来るな!俺に触れるな!」

ロックジョーの皮膚はマダラに黒く変色している。

「はぁ。しっかり呪われてますね」

「ガッハッハ。なぁに酒を飲めば治る。大した事じゃない」

しかしその言葉とは裏腹に、ロックジョーは片膝を突き苦悶の表情だ。

『グォォォォ』

イフリートは土の槍を噛み砕くと、再び口を開けロックジョーに接近した。

「ガッハッハ。俺のマッドランスでも、傷1つ付けられんのか」

ロックジョーは睨みつけるだけで、動けはしなかった。誰もが喰われると思ったその時、メロンが悲痛な叫び声を上げた。

『イフリート!目を覚まして!』

イフリートはその声に、ピクリと反応して動きを止めた。

『マスター……ドラゴン様』

そして体を覆っていた黒い炎が消えた。

「ガッハッハ。好機……しかし体が動かぬ」

「自分がやります」

「ガッハッハ。半端な攻撃は逆効果だぞ」

ゼンジは衣のうから、無反動砲を取り出した。

「みなさん耳を塞いでください!」

後方に誰もいない事を確認した後、無反動砲の照準をイフリートに合わせて、引き金を引いた。

HEAT弾はドーナツ状の煙を残し、迷わずイフリートに着弾した。

『グゥォォォ……』

着弾による衝撃波が、川の水を吹き飛ばした。

「その武器が錬金術だと?ガッハッハ。イフリートにダメージを与えおった!」

爆煙が引くと、イフリートの胸が陥没していた。

『グワオオオオオ!!』

しかし、吠えるイフリートの胸に黒い炎が集まると、陥没していた胸が元に戻ってしまった。

「こいつも不死身なのか!」

ダンバールは、身を呈して長老の前に立ってはいるが、足は震え表情は諦めている。

怒りに震えるイフリートは、尻尾を地面に数回叩きつけた。そしてそのまま地面を抉りながら、ゼンジ目掛けて尻尾を振った。

「ゼンジ避けるのじゃ!」

しかし、動く事が出来ないゼンジの眼前に尻尾が迫った。

「くそっ!バレット……」

それは間に合わず、尻尾が直撃して轟音が鳴り響く。

「ロックジョーさん……」

ゼンジに当たる直前で、ロックジョーが受け止めていた。

「ガッハッハ。なかなか重いな。だが、出直して来い!」

ロックジョーは受け止めた尻尾を、ハンマー投げのように回転して、イフリートを崖に数回当てた後、力任せに吹き飛ばした。

「す、凄いのじゃ」

「ロックジョーさん!大丈夫ですか!」

膝を突き、肩で息をするロックジョーは、ゼンジの声にウインクで返した。そうする力しか残っていなかったのだ。

『グオオオォォォ!』

イフリートは、巨大な翼を広げ空中で止まった。目は怒りで満ち溢れている。

「来るぞ!みんな逃げろ!」

ゼンジの叫びを引き金に、イフリートが翼を羽ばたかせ低空で近寄ると、ゼンジたちを右腕で薙ぎ払った。

「ま、間に合わん」

その場から動けない長老の声を聞き、ロックジョーがスキルを発動させる。

「マッドウォール」

ロックジョーのかすれた声の後、ゼンジたちの前に分厚く、巨大な泥の壁が現れた。

しかし、金属がぶつかり合うような音が聞こえた後、泥の壁には、まるで豆腐でも切るかのように、あっさりと切れ目が入った。

「ぐわぁ!」

「きゃぁ!」 

「ああぁぁ!」

ロックジョーの抵抗も虚しく、イフリートの鉤爪による斬撃は、ゼンジたちを切り裂いた。


(女神様、こちら自衛官、
ロックジョーさんが呪われちゃいました!静かになって良いのかも……と、思った時期もありました。呪われても、全く変わらないんですが。どうぞ)
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