ダイキライ

ジャム

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「黙ってんじゃねえよ。質問に答えろっオレだって暇じゃねえんだ・・」

顔を上向きにさせられて、ジロジロと無遠慮に顔を見つめられる。

と、「アンタ・・意外といい顔してんな?まさか・・ホントに関係者?」

一瞬、男は訝しんだが、再び「まさかな」と言うと、オレから手を離す。

「オレ、ホントに渋木さんに・・用が」

「だーかーら。アポも無しで会える人じゃねえっつってんだろ?・・それとも、取引してやろうか?」

ドアの前に寄り掛かった男の顔が意地の悪いものに変わる。

ニヤリと口元を歪め、腕を組んでオレを見下ろしている。

「取引・・?」

「どうせ、ゲーノー界に入りたくて、渋木さんに会いに来た口だろ?ここがどんなとこか教えてやるよ」

言いながら男が自分のベルトをガチャガチャと外し、制服のズボンから抜き取る。

「なに・・すんの・・?」

「お前みたいのが来たって、ただ追い返されるだけだっての。オレがこっそり繋ぎ入れてやる。オラ、跪け」

まさか・・だろ?

男が自分のズボンの前を寛げる。

そこから、躊躇いも無く男が自分の一物を取り出した。

肌色を通り越した黒に近い色、男の手に握られた長物に、唖然としていると、男が伸ばした手に髪を掴まれていた。

「イタッなにすん」

「しゃぶれ」

「ヤッヤダッ絶対やだ!」

男の両手に髪を掴まれて引っ張られて、男の前に屈まされそうになる。

「言うこと聞けって。悪いようにしねえから。上手く出来たらご褒美だってやるからよ」

下卑た笑いが男の口元を歪ませる。

「ヤダっヤメろッ絶対ヤダ・・!」

力づくで押さえつけられて、男のモノが眼前に迫る。

両手を突っ張って顔を背けようと思っても、髪を掴まれて引っ張られて無理やりに跪かされてしまう。

ヤダ・・っオレ、ホントに何しに来たんだよっこんな・・こんな事しに来たんじゃ・・っ

「渋木さん!!渋木さん!!渋木さん!!渋木さんーーーーーーっ」

「このヤロッ」

大声で、オレは渋木さんの名前を叫んでた。

「助けてっ渋木さん!!オレここにいるよ!!渋木さ」

男に口を塞がれて、床に無理やり押し倒された。

「テメエよくも・・!」

「何をしている!」

床の上に押さえつけられたオレの目に、ダークスーツ姿の渋木さんの姿が映った。

渋木さん・・っ

渋木さんが男をオレから引き剥がし、男の腹を蹴り上げた。

男の体が壁際へすっ飛ぶ。

男は打ち付けた頭を押えて渋木さんの方を見上げて顔を青くして慌てて自分のズボンを引き上げた。

「ワカ・・っとにお前は!」

渋木さんがオレの体を引き起こして、オレを強く抱き締めてくれる。

渋木さんの胸の中に抱き込まれて、思わず涙が込み上げてきて、目の裏が熱くなった。

ああ・・オレ、この人のとこに・・帰りたかったんだ・・。

「渋木さん・・っオレ」

泣き出すオレの顔を渋木さんが上向かせる。

「良かった・・何もされてないな?オレが上から、お前がこのビルに入って来るのを見てなかったら・・大変な事になってたぞ・・!来るなら来るで電話の一本くらい入れろっ業界ってのは頭のイカレた奴ばっかりだって教えただろうが!」

「だって・・っ渋木さんが・・!オレに会いに来たから・・っだからオレッもう、なんかわかんなくなっちゃって・・!どうしたらいいのかとか、なんか毎日・・っ体も変だしっ」

「何!?・・体?どこか悪いのか?」

心配する渋木さんに強く抱き締められた。

それだけで胸がいっぱいになる。


オレ、こんなに欲してたんだ・・渋木さんを。

渋木さんに促され、オレは渋木さんの車で事務所を出た。

車の中で、渋木さんは無言のままだった。

車は、10分も走った頃、何度か小さな交差点を曲がり高層マンションの駐車場の中へと入った。

「オレの家だ。ここがどこだかわかるか?」

車を降りて、渋木さんの質問に首を横に振ると、渋木さんは困ったように笑った。

「お前の家からそう離れていない。駅二つくらいだ。お前に会いに行ったのは今回が初めてじゃなかった。ずっと・・お前に会いたくて近所をウロついたり・・これじゃストーカーだな。でも、ずっと声を掛けられなかった」

前を向いたまま笑う渋木さんに、心臓がギュっと絞られるように痛くなる。

渋木さんもオレを求めててくれたんだ・・?

そう思うだけで、涙が込み上げてくる。

「オレ・・」

言い掛けて、言葉が出ない。

なんでだろう?

どうして好きって素直に言えないんだろう?


この人が好きだって。


今なら力さんの言ってた事がわかる気がする。


ただ好きなだけじゃダメだって。


それって・・お互いにって意味だよね?今ならオレ、わかるよ。


オレだけ好きじゃダメなんだ・・っ


体を繋げるには、お互いが好きでなきゃ虚しいんだ。


だからオレは躊躇してる。好きだって言えないでいる。






渋木さんの部屋は落ち着きのあるベージュと白を基調とした作りだった。


作り付けの棚もテーブルも、温かみのある柔らかな色合いの木目調で、それに合わせたようなソファーはオフホワイト。


「体は大丈夫か?どこも痛くないか?」


目の前に出されたホットココアに、思わず口元が緩んでしまう。


「大丈夫・・髪の毛掴まれたのは痛かったけど・・今はどこも痛くないよ」


「アイツはクビだ。何度かこういう噂が立った事があったんだが、どうやら常習犯だったようだな。腐りきった男だ。あんな奴を玄関に立たせていたかと思うと会社の汚点だ」


コーヒーを片手に、オレの隣に座った渋木さんは、カップをテーブルに置くと、自分の膝の上に肘をついて前屈みに指を組んだ。


そのまま、黙り込んでしまう。


手持ち無沙汰にオレも、チビチビとカップのココアを啜っていたけれど、間が持たず、カップをテーブルに置いてしまった。


だけど、それを待っていたみたいに、渋木さんが体を起こした。


それから、渋木さんの腕が伸びてきて、渋木さんの顔がオレの顔に近づいてくる。


渋木さんの切れ長の目が、至近距離から真っすぐオレの目を見つめた。


ゆっくりと近づく唇が、躊躇い勝ちに重ねられる。


そっと触れた唇同士が震える。


まるで初めてキスするみたいに、オレ達は緊張してたと思う。


一度触れただけのキスの後、渋木さんはオレの目を見た。


オレも渋木さんの目を見つめた。


「ワカ」


名前を呼ばれたオレは、渋木さんの胸元のシャツを引き寄せて自分から口を開いた。


渋木さんの舌が応えるように自分の中へと入り、二人の舌が躊躇い勝ちに触れ合い、それから絡み付く。


まるで、一つずつ確認してるみたいだった。




『触れていいか?』




『キスしていいか?』




『この腕に抱いていいのか?』




『お前を』




『オレのものにしてもいいのか?』




そう言われてるみたいで、上半身を剥かれた時には、羞恥心にオレは顔を背けた。

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