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第三十三話

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 細く美しい白銀に輝くレイピアは、鍔のあたりに風の魔石が埋め込まれている。
 魔石は小さいが、凝縮された魔力が込められている強力なものだった。
 ナックルガードも薄い緑の金属でつくられており、まるで風の精霊が踊っているかのようなデザインだった。

「ほら、セシリア……」
「は、はい」
 ふっと優しい表情のリツが手に取るように促すと、緊張の面持ちをしたセシリアはまるでとても大事な宝物を手に取るかのように優しくレイピアに触れていく。

 ゆっくりとレイピアの自分の身体の前に持ってきたセシリアは、手にした瞬間から剣が手に馴染んでいるのを感じている。

「このレイピア……すごくピッタリな感じです!」
 感動に胸がいっぱいになりながら顔を上げたセシリアは嬉しそうに笑う。
 さすがに店の中で振り回すわけにはいかないため、ゆっくりと動かしているだけだったが、それでもこのレイピアは自分のものだと持っているだけで思わされるだけの力を持っていた。

「それはよかった。頼んだかいがあったよ……あとは、こっちを開けてみよう」
 嬉しそうにしているセシリアに優しく笑いかけたリツは次の武器へと目を向ける。

 もう一つ注文してあった武器――それは弓である。
 リツが提示した条件は『マジックウェポンで、魔力で矢を作れるタイプのが欲しい。もちろんどちらもデザインは綺麗なもの』、そしてその素材として提供したのは世界樹の枝と蔦。

 手にしていたレイピアをいったん置いてからゆっくりと箱の蓋を開けたセシリアは言葉を失う。

 しなやかで美しい世界樹の枝と蔦をふんだんにつかったその弓は、まるで世界樹の精霊を閉じ込めたような荘厳な雰囲気を持っていた。

 先ほどレイピアを見た時に感動に自然と言葉が出ていたが、こちらは感動を超えて感情を一瞬失い、反応できなくなっていた。

「おー、いい細工だ。しかもちゃんと魔力の流れを邪魔しない作りになっているね」
 世界樹を使っているだけあり、マジックウェポンとしての格も高く武器としても並ぶもののないだけの性能を持っているのが、手に取らなくてもリツにはわかっている。

「……こ、これ、持ってもいいのでしょうか?」
 レイピアですら宝物のうように感じているセシリアは、何度も武器とリツの顔を見比べ、世界樹で作られた弓の荘厳さに手を伸ばせずにいる。

「いやいや、セシリアのために作ってもらったんだから……ほら、持って」
 飽きれたような表情になったリツはあえて雑に箱から取り出して、押しつけるようにセシリアへと渡す。

「わわっ、とっとっと、きゅ、急に渡さないで下さい! ビックリするじゃないですか……」
 慌てたように抱えて受け取った彼女はそう言いながら、とても戸惑っていた。
 急に渡されたことよりも、受け取った弓が手に吸いつくかのようになじんでいることに……。

「これは……」
 吸い寄せられるように、弓に見入っているセシリアは無言のまま弓を構える。
 そこには矢はないが、弦を引き絞っていき魔力を流すと、そこには魔力で作られた魔力矢が生み出される。

 もちろん店の中で発射するわけにはいかないため、ゆっくりと手を離していくと矢も自然と消滅する。

「っ……こ、こんな弓、初めてです!」
 彼女が魔力を流した際に滑らかに浸透していき、更には風の魔力が弓を覆っているのを感じ取っていた。

「そ、その弓は、魔力を流すことで矢を作り出す。こめる魔力量によって威力があがる。更に風の魔石を使っているから、命中補正と威力の底上げをしてくれる……ガクッ」
 何とか顔を上げた店主はそれだけ説明すると、再び眠りについてしまう。

「そいつはすごいな。つまりはセシリアが強くなればなるほど、弓の威力も上がるってことだ……しかも素材に世界樹を使っているからそうそう壊れることはない。更に言うと、世界樹には自己修復機能があって、魔力を流す時に壊れた部分が直るはずだ」

 そう説明しながら、この機能があることで、セシリアも素材が高級であることを気にせずに使えるのではなないかと、リツは考えていた。

「すごいです! もう、完璧ですね……これ以上ない武器で……」
 自分には勿体ないと言おうとしたが、セシリアはその言葉を飲み込んだ。

(今の私では確かにこの武器に見合わないかもしれない。でも、リツさんと一緒にいるならそれくらい成長しないとです!)

 以前の彼女とは異なり、自分が成長できていることを実感し、前に進めていると自覚しているからこそ、もっと上を目指す向上心を秘めて胸に熱いものがこみあげてくるのを感じていた。

「あ、そうそう、その弓なんだけどちょっと貸してくれるかな?」
「……えっ? あ、はい、どうぞ」
 リツも弓を試してみたいのかと思い、セシリアが渡すが、リツの行動は思ってもみないものだった。

「ちょっと、待っててくれよ……まずは魔力を流して……」
 ぶつぶつとつぶやくようにリツは世界樹に魔力を流し込んでいく。
 それは、弓を発動させるためではなく、世界樹に声をかけるためだった。

(今の状態を通常モードとして認識、魔力をオフにしたら最小化モードに、魔力を強く込めた場合には風の障壁で彼女を守ってくれ)
 リツは自分の魔力を世界樹に分け与えると、嬉しそうに魔力を震わせた世界樹はその願いに応える。

「よし、これで大丈夫だ。はい、返すよ」
「えっと、ありがとうございます……」
 リツが何をしたかったのかわからず、セシリアは首を傾げる。
 彼女から見た先ほどのリツは、弓を持って目を閉じて魔力を流して目を開いた。
 ただそうしているだけに見えていた。

「セシリア、弓を持ったら魔力を流さずに、流れる魔力をゼロにするようイメージするんだ」
「えっと、こう、ですかね?」
 きょとんとしながらも彼女は言われるままに、魔力を意識的にカットしていく。

 すると、世界樹の弓はサイズを変えて小さい持ち運びやすいものへと変化していく。

「え、ええええええっ!?」
 小弓といわれるような小さなサイズになったことで、セシリアは驚き、弓とリツの顔を何度も交互に見返していた。

「さすがにさっきの状態だと世界樹特有の存在感があって派手だし、かさばるから移動の時はそれのほうがいいだろ? ちなみに、もう一度魔力を流すと通常モードになるはずだよ」
「ほ、本当です! すごい!」
 その説明を受けたセシリアは魔力を込めたり、カットしたりを繰り返して弓の変化を何度も確認している。

 一度に二つの武器を手に入れて、そのどちらもがハイレベルであるため、セシリアは既に語彙力を失ってしまうほどに感動していた……。

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