ダメ魔女の王子さま探し 〜追放されたので、シスコン銀髪弟と旅に出ます!〜

みみぞう

文字の大きさ
17 / 18

第16話 口づけは罪の味

しおりを挟む
「な、な、な、ななななにを言うの!?」

 と、突然、アルヴィンさまと口づけをしろだなんて……。 
 ルイ、ナイスアシストじゃない!

「……なぜですっ!?」

 驚いたのは、アルヴィンさまも同じらしい。
 ルイは、いたって大真面目な顔で叫び返してくる。

「しなければ、全員ここで死ぬ! ちくしょう、ボクだってこんな頼みをしたいものか!」

 理由は分からない。
 でもこんな状況で、冗談を口にするはずがない。

「口づけを交わしたら、魔女に触れ──!」

 声は途中で途切れた。
 わたしは、悲鳴をあげそうになった。
 ルイが……壁の中へと、取り込まれてしまったのだ。 

「ルイっ!!」
「くっ……レナさん!」

 アルヴィンさまが、真剣な眼差しでわたしの顔を見た。

「ひっゃいあ!?」

 え! そ、それは、す……するってことですかぁ!?
 恥じらいで、わたしは両手で顔を隠す。あ、指の間からアルヴィンさまのお顔はバッチリ見ているけど。

「その……構わないだろうか?」
「えっ!? ええっ!? 嫌っ……! なことないですっ。 ぜんぜんウエルカム! 大歓迎!」

 心臓の鼓動が、ああもう! うるさいっ!
 アルヴィンさまが、わたしの肩を抱いた。

「レナさん、目をつむって」 

 まさか王子さま探しの初日に、口づけできてしまうなんて……夢みたい!
 わたしはぎゅっと目を閉じた。
 アルヴィンさまの息づかいが近づいて、少しだけ背伸びをする。 
 唇が、触れる。

 熱い口づけに、わたしはうっとりとした。
 唇が重なったのは、ほんの短い間だったかもしれない。
 でも、無限のように思えた。
 その時だ。

 ドクリ、と心臓が大きく鼓動した。 
 身体の奥底で、何かがキラリと光った。

「──レナさん?」

 わたしは目を見開いた。
 な……なんだろう!?
 身体が熱い。
 まるでマグマのような熱い力が、湧き上がってきたのだ。

 この感覚──初めてじゃない。きょう二度目だ。
 そう、あれは昼間……偽審問官に、口づけをされそうになった時だわ!

「何をしている!?」

 苛立ったローレルさんの声と共に、わたしたちを影が襲った。
 咄嗟に、わたしはアルヴィンさまを突き飛ばした。両手を広げて庇う。

「レナさんっ!!」

 どす黒い悪意の刃が、わたしを貫いた。
 あまりの衝撃に、悲鳴すら出ない。
 これって……死ぬのかしら?
 なんだか、あっけない最期。
 でも、愛する人を守れたのなら、本望かも。
 最後に口づけもできたし……。
 あたたかな風が吹いて、わたしの頬を撫でた。

 殺伐としたお屋敷には不釣り合いな、春の陽気を思わせる風だ。
 もう天国なのかしら?
 お迎えって、ずいぶん早いものなのね。
 わたしは目を開ける。
 同時に、うす桃色、黄色、赤色……いくつもの色彩が、視界の中に溢れた。

「へ?」

 無数の花びらが、風に舞っていた。
 やっぱり天国なのね。
 ほんと、美しい。
 そして花吹雪の向こう側に立つ、唖然とした顔のローレルさんと目が合う。

「天国に……ローレルさん?」
「小娘! 何をした!?」

 ええ!? ここ、天国じゃないのっ!?
 よく見たら……お屋敷の中だ。
 状況は変わっていない。執事さんとローレルさんの影に包囲されたままだ。
 そしてわたしは、傷一つ負っていない。
 ただ一つ変化していたのは……影が花びらへと形を変え、絶え間なく降り注いでいることだけだ。
 なにが起きているのか……さっぱり分からない! 

 でも今は、戸惑っている時間なんてない。  
 早くルイを助けなきゃ!
 わたしは、ローレルさんへと駆けた。

「ルイを返してくださいっ!」

 彼女へ手を伸ばす。 
 指先が、触れた。
 途端、糸の切れた操り人形のように、ローレルさんは崩れ落ちてしまった。
 ど、どうしてなの!? 
 気絶しちゃったら、ルイを助けられないじゃない!?

「レナさん、屋敷に触れるんだ!」

 わたしに襲いかかろうとした執事さんに体当たりしながら、アルヴィンさまが叫ぶ。 

「お屋敷に!?」
「どこでもいい! それでカタがつくはずだ!」

 執事さんたちは包囲網を狭めると、一斉に飛びかかってくる。
 時間がない。
 わたしは大急ぎでかがんだ。 

 ── ヤメロ! フレルナ! ヤメロ! ヤメロ! ──

 思わず耳を押さえたくなりそうな声が、部屋に反響する。 
 わたしは飛びつくようにして、床に触れた。  
 変化は、瞬きをするよりも早かった。
 まるで手品を見ているかのようだった。 
 パッ、と。

 お屋敷の壁も天井も、床も、全てが、だ。
 黒い塵へと還り、霧散したのだ。
 アーデルハイトの館ほど大きかったお屋敷は……いや、館の魔女は、一瞬で消えてしまった。
 そして──当然のこと、なんだけど。

 わたしたちの身体は、落下する。
 重力の見えざる手に引っ張られて、二階だったはずの場所から、地面へ落ちたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...