R18 咎人は死なずの騎士姫に恋をした

薊野ざわり

文字の大きさ
26 / 122

#24 アンデル 前線からの手紙

しおりを挟む
 ――親愛なるアンデル

 先日はちゃんと挨拶もせずに、すまなかったな。もう元気になっただろうか。もしまだ疲れが残っているなら、無理をせず、しっかり養生してほしい。体が一番大事だから。私が言うと説得力がないね。

 色々と話したい事はあったけれど、あまり長く部隊を離れていると、抜け目ない副隊長に指揮権を奪われかねないのだ。彼は目端の利く有能なやつなのだが、軍部でのしあがるためならなんでもするとしれっという男だ。私の部隊に配属になったのも、他のユーバシャールの部隊より、隊長が馬鹿そう――サイネルの言葉を借りると、提案がしやすく通りやすそう――だから希望したのだというのだ、図太い男だろう?

 本当だったら君がヨルク・メイズから褒賞を賜ったという論文についても、話を聞きたかったのだ。それは次の機会にとっておこう。次の帰省のとき君は成人しているかもしれない。もう、酒もたしなんでいるのかな。だとしたら、私のコレクションから一本、贈りたいものがある。楽しみにしていて。

 ハイリー・ユーバシャール――



 ――親愛なるアンデル
  
 またも返事が遅くなってしまって、すまなかった。半年も開いてしまったか。このところバタバタしていて、ペンを執る時間がないんだ。

 さて、お誕生日おめでとう。まさかあの小さかった君が、もう成人してしまうとは。つくづく、時の流れは早いなあ。先日会ったときも思ったが、君はもうすっかり立派な紳士だ。いささか寂しい気もするけれど、誇らしいよ。

 君が、ヨルク・メイズに命じられ、クラウシフとともに貿易用資源の確保に乗り出すことになったとは聞いている。特別措置で、学舎も飛び級扱いで卒業になるとか。
 素晴らしいことだ。クラウシフも誇らしいだろう、まだまだ若い自分の弟が、すでに国になくてはならないものだということが。その資源が何かは詳しくは聞いてないが……秘密にされると好奇心が強まってしまうね。いつか公表されたとき、きっと私は驚くことになるのだろう、その日が楽しみだ。

 これからも君らしく職務を遂行してほしい。忙しいだろうから、無理して私に手紙を書かなくていいよ。もちろん、いただける分には嬉しいんだ、とってもね。
 くれぐれも、身体には気をつけて。

 ハイリー・ユーバシャール――



 ――親愛なるアンデル

 筆不精ですまない、前回の手紙から半年も経ってしまうとは。君たち兄弟の活躍は、前線でも聞き及んでいるよ。

 まずはマルート鋼の輸入量制限の緩和条約の締結、おめでとう。それから、ありがとうとも言わせてくれ。クラウシフが手がけてくれたそれのおかげで、前線のあらゆる不便が驚くほど軽くなった。
 このままでは切り込み部隊である我がユーバシャール東軍はお払い箱か? というくらい、今、前線は士気があがっている。後方支援にかかる労力が格段に圧縮されて、今までの三割の人数で亡霊騎士の部隊と互角に戦えるのだ、本当に素晴らしい。君たち文官(君も最早立派な文官だな)に我々は助けられている。

 それから、星霊花の採集部隊の編成の件も、おめでとう。君が発見した花が、まさかマルート鋼の精製に触媒になるとは。魔力の腐食を魔力にさらされ変質した花で抑制するなんて、まるで血清のようだな。それのおかげでマルートとの交渉が有利に進んだとも聞いたぞ。この先、我が国の重要な資源になるのは確実だな。
 兄を助け国を助け、本当に素晴らしいよ、アンデル。クラウシフも鼻が高いだろう。

 実は、星霊花の採集部隊に編成してほしいと、我が部隊も名乗りを上げたのだが、残念ながら却下されてしまった。がさつな者たちにそんな作業は任せられないと。あんまりな言い草だろう?

 代わりに、その採集部隊の護衛ということで、久々に一番槍を任された。部下たちは喜んでいたな、なにせ、星霊花の群生地は魔族共の縄張りのど真ん中だ。切り込むのは実力が認められたからだと。……単に命知らずで扱いやすいからでしょう、なんてサイネルはぶつくさ言っていたが、私も嬉しく思う。役目はしっかり果たせたから、今後また同じような任務があったときも、声をかけてもらえるだろう。国の発展と防衛に役立てたと思うと、素直に嬉しい。君の活躍にも報いることができたかな?

 ところで、君が婚約したという話を聞いた。おめでとう。もうイェシュカの喪も明けるな。そして、君もそういう年頃なのだね。成人したのだから、当然か。
 ピリオア家のアリーナ嬢。名門ピリオア家のご息女とあれば、きっと君とも話もあうし素敵な家庭を築けるだろう。実は、彼女の兄が軍の同期でね、先日、彼からその話を聞いたよ。君の婚約は、我が事のように嬉しいが、同時に寂しくもあるな。

 婚約のことも仕事のこともあって忙しいことと思う。返信は不要だ。

 ハイリー・ユーバシャール――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる

狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。 しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で……… こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。

最後の女

蒲公英
恋愛
若すぎる妻を娶ったおっさんと、おっさんに嫁いだ若すぎる妻。夫婦らしくなるまでを、あれこれと。

処理中です...