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今から約十年前。
「ここに引っ越してきました。長福と申します。ほら二人とも、覚崎さんにご挨拶して」
新しく隣に引っ越してきたおばさんの手を握る男の子と、その後ろに隠れる男の子。私は二人を交互に見ながら彼らの自己紹介を待った。
「な、長福光です。よろしくお願いします」
逆だった髪の男の子はカチコチになりながらお辞儀をする。光君の後ろにいたストレート髪の男の子は、私と目が合うとぷいっと目を逸らして光君の影に隠れていた。
「こっちは弟のれい。俺たち双子なんです」
「まあ、そうなの。道理でよく似ているのね」
そしてお母さんは、私の背中をぽんっと叩き、挨拶をするよう合図する。
「覚崎夢唯です。もうすぐ一年生になります」
昨日同じくらいの子が来るって聞いていたから、お母さんと秘密の特訓をしていた。
だいいちいんしょうが大切なんだって。
「おっ、俺とれいも一年生になるんだ!一緒だな!」
「じゃあ同じ学校?」
「多分な」
近所に同級生がほとんどいなかった私にとって、光君とれい君は初めての友達。隣だったこともあってか、挨拶以来よく互いの家に遊びに行くようになった。
時には遊園地、時には水族館を家族ぐるみで出掛けるほどの仲良し。
特に兄の光君とは仲が良かった。
光君は明るくて面白くて、私が転んだ時は「痛いの痛いの飛んでいけ」って泣き止むまで言い続けたり、とてもお兄さんらしくて頼りになった。
反対に弟のれい君とはあまり話したことがない。一緒に遊んだりはするけど、生まれつき肌が弱いらしく大体は家の中で本を読んでいた。
似ているのに、性格は全く違う二人。小学校に入学したときには、双子だということを面白がってわざと二人の名前を反対に呼ぶ子なんかもいた。でも、流石にそれはどうかと思うんだよね。
だって光君は光君だし、れい君はれい君だもん。
「じゃじゃーん!」
待ちに待った夏休み。
家から少し離れたところにある公園で鉄棒して遊んだあと、汗をかいたから涼しい木陰で休んでいると、光君がポケットから和紙の折り紙に『おやしきいき』と書いた紙を渡してきた。
「これなぁに?」
「この公園の先に大きなお屋敷があるだろ?あそこ、誰もいないらしいぜ。だから、そこへ行くための招待券ってやつ!」
光君は腰を手に当てて自慢げに話していた。
私たちがいる公園の近くには山があり、そこの麓にボロボロのお屋敷があった。昔お金持ちの人がそこに住んでいたらしいけど、もう使わなくなってお屋敷だけが残ってるってお父さんが言っていたような気がする。
「でも、危ないんじゃ……」
「大丈夫だって。それに室内だったられいも一緒に遊べるし、あいつ実は探検とか結構好きなんだよな」
探検、という言葉に私の好奇心をそそられた。
「おじさんとおばさんには内緒だからな。俺と夢唯とれいだけの秘密!」
「うん!」
指切りをして、明日もこの公園に集合ということで解散した。でも家に帰るとお父さんが見ていたテレビで明日から明後日にかけて曇り時々雨という予報が出ていた。
どうにか探検をしたい私は、自分の部屋でてるてる坊主を三つ作った。
光君と、れい君、それに私。明日晴れることを願いながら、私は眠りについた。
翌日。
てるてる坊主の効果があったのか、天気は少し曇っているだけで雨は降っていない。しかし天気が大丈夫でも、私の体が大丈夫じゃなかった。
「……熱があるわね。今日はゆっくり休んでいなさい」
「やだ!光君と遊ぶ!」
「我儘言わないの。もし光君に熱が移ったら大変でしょ。今日はダメ」
「やだやだやだー!」
駄々をこねる私の頭を片手で上げて、お母さんはいつも使っている枕と氷枕を取り変えた。
「じゃ、光君には連絡しておいてあげるから大人しくしているのよ」
私はお母さんが部屋を出て行ったあともぶすっと頬を膨らませて拗ねていた。今なら忍者のように抜け出して公園に行けるかもしれないと思ったけど、体が思うように動かない。
「……探検、したかったなぁ」
冷たくて気持ちいい氷枕を人差し指でつんつんと触りながら、私は光君たちと水族館へ行った時に買ってもらったピンクのイルカのぬいぐるみを抱えて、夢の中に落ちていく。外は、遊べなかった悲しみがそのまま具現化されたように雨が降り注いでいた。
熱が下がったのは夜遅く。部屋を出て私がトイレに向かおうとしていると、お父さんとお母さんの声が聞こえてきた。
「……もっと私が早く電話していればっ」
「今更そんなことを言っても仕方が無いだろう。夢唯が起きたら事情を話して、明日すぐに向かわないと……」
私の足は、トイレではなくリビングへ向かっていた。お母さんはソファーに座って泣いていて、お父さんもその隣に座って悲しげな顔をしている。
「お父さん、お母さんはどうして泣いているの?」
「夢唯……」
私に気がついたお父さんは、私の目の前に屈んで大きな手で私の肩を掴んだ。
「夢唯、落ち着いて聞いてくれ。さっき長福さんのところから連絡があってな。
……光君、車にはねられて亡くなったんだ」
「え?」
小学校初めての夏休み。
お父さんの言葉を聞いた瞬間、光君たちと学校で計画していた遊びが、音を立てて全部崩れていくような気がした。
「ここに引っ越してきました。長福と申します。ほら二人とも、覚崎さんにご挨拶して」
新しく隣に引っ越してきたおばさんの手を握る男の子と、その後ろに隠れる男の子。私は二人を交互に見ながら彼らの自己紹介を待った。
「な、長福光です。よろしくお願いします」
逆だった髪の男の子はカチコチになりながらお辞儀をする。光君の後ろにいたストレート髪の男の子は、私と目が合うとぷいっと目を逸らして光君の影に隠れていた。
「こっちは弟のれい。俺たち双子なんです」
「まあ、そうなの。道理でよく似ているのね」
そしてお母さんは、私の背中をぽんっと叩き、挨拶をするよう合図する。
「覚崎夢唯です。もうすぐ一年生になります」
昨日同じくらいの子が来るって聞いていたから、お母さんと秘密の特訓をしていた。
だいいちいんしょうが大切なんだって。
「おっ、俺とれいも一年生になるんだ!一緒だな!」
「じゃあ同じ学校?」
「多分な」
近所に同級生がほとんどいなかった私にとって、光君とれい君は初めての友達。隣だったこともあってか、挨拶以来よく互いの家に遊びに行くようになった。
時には遊園地、時には水族館を家族ぐるみで出掛けるほどの仲良し。
特に兄の光君とは仲が良かった。
光君は明るくて面白くて、私が転んだ時は「痛いの痛いの飛んでいけ」って泣き止むまで言い続けたり、とてもお兄さんらしくて頼りになった。
反対に弟のれい君とはあまり話したことがない。一緒に遊んだりはするけど、生まれつき肌が弱いらしく大体は家の中で本を読んでいた。
似ているのに、性格は全く違う二人。小学校に入学したときには、双子だということを面白がってわざと二人の名前を反対に呼ぶ子なんかもいた。でも、流石にそれはどうかと思うんだよね。
だって光君は光君だし、れい君はれい君だもん。
「じゃじゃーん!」
待ちに待った夏休み。
家から少し離れたところにある公園で鉄棒して遊んだあと、汗をかいたから涼しい木陰で休んでいると、光君がポケットから和紙の折り紙に『おやしきいき』と書いた紙を渡してきた。
「これなぁに?」
「この公園の先に大きなお屋敷があるだろ?あそこ、誰もいないらしいぜ。だから、そこへ行くための招待券ってやつ!」
光君は腰を手に当てて自慢げに話していた。
私たちがいる公園の近くには山があり、そこの麓にボロボロのお屋敷があった。昔お金持ちの人がそこに住んでいたらしいけど、もう使わなくなってお屋敷だけが残ってるってお父さんが言っていたような気がする。
「でも、危ないんじゃ……」
「大丈夫だって。それに室内だったられいも一緒に遊べるし、あいつ実は探検とか結構好きなんだよな」
探検、という言葉に私の好奇心をそそられた。
「おじさんとおばさんには内緒だからな。俺と夢唯とれいだけの秘密!」
「うん!」
指切りをして、明日もこの公園に集合ということで解散した。でも家に帰るとお父さんが見ていたテレビで明日から明後日にかけて曇り時々雨という予報が出ていた。
どうにか探検をしたい私は、自分の部屋でてるてる坊主を三つ作った。
光君と、れい君、それに私。明日晴れることを願いながら、私は眠りについた。
翌日。
てるてる坊主の効果があったのか、天気は少し曇っているだけで雨は降っていない。しかし天気が大丈夫でも、私の体が大丈夫じゃなかった。
「……熱があるわね。今日はゆっくり休んでいなさい」
「やだ!光君と遊ぶ!」
「我儘言わないの。もし光君に熱が移ったら大変でしょ。今日はダメ」
「やだやだやだー!」
駄々をこねる私の頭を片手で上げて、お母さんはいつも使っている枕と氷枕を取り変えた。
「じゃ、光君には連絡しておいてあげるから大人しくしているのよ」
私はお母さんが部屋を出て行ったあともぶすっと頬を膨らませて拗ねていた。今なら忍者のように抜け出して公園に行けるかもしれないと思ったけど、体が思うように動かない。
「……探検、したかったなぁ」
冷たくて気持ちいい氷枕を人差し指でつんつんと触りながら、私は光君たちと水族館へ行った時に買ってもらったピンクのイルカのぬいぐるみを抱えて、夢の中に落ちていく。外は、遊べなかった悲しみがそのまま具現化されたように雨が降り注いでいた。
熱が下がったのは夜遅く。部屋を出て私がトイレに向かおうとしていると、お父さんとお母さんの声が聞こえてきた。
「……もっと私が早く電話していればっ」
「今更そんなことを言っても仕方が無いだろう。夢唯が起きたら事情を話して、明日すぐに向かわないと……」
私の足は、トイレではなくリビングへ向かっていた。お母さんはソファーに座って泣いていて、お父さんもその隣に座って悲しげな顔をしている。
「お父さん、お母さんはどうして泣いているの?」
「夢唯……」
私に気がついたお父さんは、私の目の前に屈んで大きな手で私の肩を掴んだ。
「夢唯、落ち着いて聞いてくれ。さっき長福さんのところから連絡があってな。
……光君、車にはねられて亡くなったんだ」
「え?」
小学校初めての夏休み。
お父さんの言葉を聞いた瞬間、光君たちと学校で計画していた遊びが、音を立てて全部崩れていくような気がした。
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