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「え?」
いや、今話してるし。何を言っているんだろうともう一度用件を尋ねてみる。
「どうしたの?」
「ねぇ、どうして僕とお話してくれないの?」
彼は同じ言葉しか繰り返さない。
変化のない彼にちょっとムカついたから、私は無視して再びハンバーグを食べ始めた。
「ねぇ、どうして僕とお話してくれないの?」
「ねぇ、どうして僕とお話してくれないの?」
「ねぇ、ねぇ、ねぇ」
「うるさい!今食事してるでしょ!静かにしてよ!」
机にばんっと手をついて、私はその勢いで立ち上がる。ハンバーグの付け合せであるさやえんどうが、皿の外へと飛び出してしまったけれど、今はどうでもいい。
私に怒鳴られた子どもは、そのページに書かれていた平仮名の文字をわなわなと震わせ、足元にそれらを落としていく。
涙、のつもりなのだろうか。
「ご、ごめん。言いすぎたね」
そんなこと微塵も思ってないのに私は咄嗟に謝った。
大体、この子がしつこいから悪いんだ。
私はまた全部忘れようと食事に夢中になっていたのに、邪魔をするからいけないんだ。
すると絵本の顔の子どもとは別の子どもがこちらへやって来る。
絵本の子の隣に立った別の子どもは、人間に近い顔立ちだが、肝心の顔のパーツが黒いペンのようなものでぐちゃぐちゃに塗りつぶされていた。
「ねぇ、どうして俺に会いに来てくれないの?」
また問いかけられる。
「会いに?今会っているじゃん。君たちは私に何を求めているの?」
「会ってない。俺は何年も、夢唯と会っていない」
この子はどうして私の名前を知っているの。
「お話していない。僕は何年も、夢唯とちゃんとお話していない」
この子たちはどうして、私を責めるの。
お願い、忘れさせて。
私は、わたし、は……
普通に暮らしたいだけなのに!
椅子に腰を下ろして、耳を塞いで、目を閉じて、全てを遮断しようとしたその時、ふと私の目の前の席に小さな女の子がいた。
宝物のピンクのイルカと、それぞれ個性的な顔を持つ三つのてるてる坊主を抱えた女の子は私ににっこりと微笑む。
「明日、晴れるといいね。晴れたらきっと……光君やれい君たちに会えるよね?」
……会えないよ。もう、絶対に会えないんだよ。
「ううん、きっと会えるよ。私から向こうへ会いに行くもの。だから光君とれい君に会いに行こう?大丈夫、喧嘩しても三人の誰かが仲直り出来るよう導いてくれる」
女の子はそう言って、私にてるてる坊主を差し出した。
晴れるよう祈った、三つのてるてる坊主。
ねぇ、私は……光君に許してもらえるかな?
れい君と、仲直り出来るかな?
いや、今話してるし。何を言っているんだろうともう一度用件を尋ねてみる。
「どうしたの?」
「ねぇ、どうして僕とお話してくれないの?」
彼は同じ言葉しか繰り返さない。
変化のない彼にちょっとムカついたから、私は無視して再びハンバーグを食べ始めた。
「ねぇ、どうして僕とお話してくれないの?」
「ねぇ、どうして僕とお話してくれないの?」
「ねぇ、ねぇ、ねぇ」
「うるさい!今食事してるでしょ!静かにしてよ!」
机にばんっと手をついて、私はその勢いで立ち上がる。ハンバーグの付け合せであるさやえんどうが、皿の外へと飛び出してしまったけれど、今はどうでもいい。
私に怒鳴られた子どもは、そのページに書かれていた平仮名の文字をわなわなと震わせ、足元にそれらを落としていく。
涙、のつもりなのだろうか。
「ご、ごめん。言いすぎたね」
そんなこと微塵も思ってないのに私は咄嗟に謝った。
大体、この子がしつこいから悪いんだ。
私はまた全部忘れようと食事に夢中になっていたのに、邪魔をするからいけないんだ。
すると絵本の顔の子どもとは別の子どもがこちらへやって来る。
絵本の子の隣に立った別の子どもは、人間に近い顔立ちだが、肝心の顔のパーツが黒いペンのようなものでぐちゃぐちゃに塗りつぶされていた。
「ねぇ、どうして俺に会いに来てくれないの?」
また問いかけられる。
「会いに?今会っているじゃん。君たちは私に何を求めているの?」
「会ってない。俺は何年も、夢唯と会っていない」
この子はどうして私の名前を知っているの。
「お話していない。僕は何年も、夢唯とちゃんとお話していない」
この子たちはどうして、私を責めるの。
お願い、忘れさせて。
私は、わたし、は……
普通に暮らしたいだけなのに!
椅子に腰を下ろして、耳を塞いで、目を閉じて、全てを遮断しようとしたその時、ふと私の目の前の席に小さな女の子がいた。
宝物のピンクのイルカと、それぞれ個性的な顔を持つ三つのてるてる坊主を抱えた女の子は私ににっこりと微笑む。
「明日、晴れるといいね。晴れたらきっと……光君やれい君たちに会えるよね?」
……会えないよ。もう、絶対に会えないんだよ。
「ううん、きっと会えるよ。私から向こうへ会いに行くもの。だから光君とれい君に会いに行こう?大丈夫、喧嘩しても三人の誰かが仲直り出来るよう導いてくれる」
女の子はそう言って、私にてるてる坊主を差し出した。
晴れるよう祈った、三つのてるてる坊主。
ねぇ、私は……光君に許してもらえるかな?
れい君と、仲直り出来るかな?
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