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しばらく初めての松葉杖生活を送り、やがて夏休み。
蝉は恒例のように鳴き喚き、夢唯の額には汗がつぅっと流れた。人通りの少ない道で、シルバーの自転車を走らせる。そして生温い追い風が彼女の決意を促した。
夢唯が向かっている先は、長福家。
今まで自分が夢に浸っていたのは、光が死んだショックと、れいから放たれた言葉で傷ついた自分を守るためだった。
無意識的に。そして過剰までに。
長福家が近づくにつれ、夢唯の鼓動は激しく高鳴る。平坦な道なのに次第にペダルがずんっと重くなった。
行きたくない。怖い。帰りたい。せめてれい君は外出していればいいのに。
そんな弱気な自分を叱咤して、重くなったペダルを精一杯漕いだ。
もう何を言われようと、変わると決めた。受け入れると決めたから。
旧覚崎家の前まで到着した。夢唯たちが住んでいた家に人はまだ入居していない。カーテンも無ければ、そこから見える部屋の中には生活に必要な家具も無かった。
光の葬式以来、夢唯とれいの関係が崩れてしまったために、気を使った両親が引っ越しを提案した。もっと自分が強気でいられたら……なんて感傷に浸ってもこの家に戻ることは二度と無いだろう。
旧覚崎家の隣に、長福家がある。
夢唯はごくりと生唾を飲んだ。昔見た長福家と少し雰囲気が異なるような気がした。
自転車を家の前に置いて、三段ほどの白くて低い階段を駆け上がる。庭のプランターには、シチューに蔦を絡ませたピンクと青の朝顔が咲いていた。夢唯はそれを見ながらすぅっと深呼吸をして、黒いインターフォンに手を伸ばす。指先は震えていたが、勢いでそのボタンを押した。
ピンポーン
懐かしい音。だが今はその音さえも怖気付く対象で、段々目頭が熱くなっていくのが分かった。
「はい。どちら様ですか?」
インターフォンから低めの女性の声。光とれいの母親だ。
「突然すみません。覚崎夢唯です」
唇を震わせながら自己紹介をすると、「夢唯ちゃん?」と驚いたように尋ねる声が微かに聞こえた。すぐに扉が開き、光とれいの母親が姿を現す。
「……お久しぶりです」
「まあ、見ないうちに随分お姉さんになったわね。最初見た時は誰か分からなかったわ」
嫌な顔ひとつせず、寧ろ光とれいの母親は夢唯に微笑みをかけた。
「今日はどうしたの?れいに用かしら?」
「それもあるんですが、その……光君に線香をあげたくて。ずっと、会っていなかったから……」
夢唯は咄嗟に目を逸らす。緊張からか、左親指の腹に出来たかさぶたを、右手の爪で掻いていた。
「……ありがとう。あの子もきっと喜ぶわ」
光とれいの母親は切なげな顔をする。
当時あの葬式での光景を見ていたゆえに、引っ越す道を選んだ覚崎家の人間とは金輪際会えないと思っていた。
後悔していた。次男が放った言葉を。そしてその場で叱ることが出来なかった自分を。
だから今日勇気を持って訪ねて来てくれた夢唯を喜んで迎え入れる。
「どうぞ。れいを呼んでくるからそれまでゆっくりしていてね」
蝉は恒例のように鳴き喚き、夢唯の額には汗がつぅっと流れた。人通りの少ない道で、シルバーの自転車を走らせる。そして生温い追い風が彼女の決意を促した。
夢唯が向かっている先は、長福家。
今まで自分が夢に浸っていたのは、光が死んだショックと、れいから放たれた言葉で傷ついた自分を守るためだった。
無意識的に。そして過剰までに。
長福家が近づくにつれ、夢唯の鼓動は激しく高鳴る。平坦な道なのに次第にペダルがずんっと重くなった。
行きたくない。怖い。帰りたい。せめてれい君は外出していればいいのに。
そんな弱気な自分を叱咤して、重くなったペダルを精一杯漕いだ。
もう何を言われようと、変わると決めた。受け入れると決めたから。
旧覚崎家の前まで到着した。夢唯たちが住んでいた家に人はまだ入居していない。カーテンも無ければ、そこから見える部屋の中には生活に必要な家具も無かった。
光の葬式以来、夢唯とれいの関係が崩れてしまったために、気を使った両親が引っ越しを提案した。もっと自分が強気でいられたら……なんて感傷に浸ってもこの家に戻ることは二度と無いだろう。
旧覚崎家の隣に、長福家がある。
夢唯はごくりと生唾を飲んだ。昔見た長福家と少し雰囲気が異なるような気がした。
自転車を家の前に置いて、三段ほどの白くて低い階段を駆け上がる。庭のプランターには、シチューに蔦を絡ませたピンクと青の朝顔が咲いていた。夢唯はそれを見ながらすぅっと深呼吸をして、黒いインターフォンに手を伸ばす。指先は震えていたが、勢いでそのボタンを押した。
ピンポーン
懐かしい音。だが今はその音さえも怖気付く対象で、段々目頭が熱くなっていくのが分かった。
「はい。どちら様ですか?」
インターフォンから低めの女性の声。光とれいの母親だ。
「突然すみません。覚崎夢唯です」
唇を震わせながら自己紹介をすると、「夢唯ちゃん?」と驚いたように尋ねる声が微かに聞こえた。すぐに扉が開き、光とれいの母親が姿を現す。
「……お久しぶりです」
「まあ、見ないうちに随分お姉さんになったわね。最初見た時は誰か分からなかったわ」
嫌な顔ひとつせず、寧ろ光とれいの母親は夢唯に微笑みをかけた。
「今日はどうしたの?れいに用かしら?」
「それもあるんですが、その……光君に線香をあげたくて。ずっと、会っていなかったから……」
夢唯は咄嗟に目を逸らす。緊張からか、左親指の腹に出来たかさぶたを、右手の爪で掻いていた。
「……ありがとう。あの子もきっと喜ぶわ」
光とれいの母親は切なげな顔をする。
当時あの葬式での光景を見ていたゆえに、引っ越す道を選んだ覚崎家の人間とは金輪際会えないと思っていた。
後悔していた。次男が放った言葉を。そしてその場で叱ることが出来なかった自分を。
だから今日勇気を持って訪ねて来てくれた夢唯を喜んで迎え入れる。
「どうぞ。れいを呼んでくるからそれまでゆっくりしていてね」
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