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7話 逃走
しおりを挟む「……朝」
優しい日差しを顔に浴び、目を覚ました私。最初こそ意識はうっすらとしていたが、いつもとは異なる部屋の風景が飛び込んで来るや否や、一気に目が覚める。
――そうだ…… 私……
ルシファーレンの家を離れ、二日目。ベッドでは、私をここに連れてきてくれたフォースが心地よさそうに寝息を立てながら眠っている。思えば、家族以外の男の人と、同じ部屋で一晩を明かしたコトなんて初めての経験。そう考えると、急になんだか恥ずかしくなってくる。
――お兄様は…… 今頃なにをされているのかしら?
私がルシファーレンの家から逃げ出したとき、兄のアルフレッドは『まだやらなければならないことがある』と言っていた。おそらくは私が居なくなってしまった後始末と言う事なのだろうが……
お兄様のコトだから、心配は無いと思うけど……
とはいえだ。気にならないと言えば大きな嘘になる。何せ、お兄様が私のために一人家に残ってくれていると言うことは間違いない事実。
――離れろとは言われたけど…… 少しくらい様子を見ても大丈夫よね? ちょっとだけ……
フォースさんは、まだベッドの上でぐっすりと寝ているし、少し抜け出すくらいなら気付かれないだろう。そして、私は彼にばれないよう、物音を立てないように、静かに部屋を抜け出したのだ。
自慢ではないけど、今まで私は、家族にとって『良い子』だったという自覚はある。駄々をこねたこともなければ、真面目にここまで生きてきた。こんな『家出』なんて、考えたこともなかった。家の様子を見に行く道中、家に近づくにつれてどんどんと胸の鼓動が早まっていく。
なにせ、今自分は悪いことをしているという自覚がある。父や母に内緒で家を抜け出したということ、私にとってはそれがすごく罪深いことに感じられていたのだ。
正体がばれないように、こそこそと隠れながら、家へと近づいた私。路地裏から、家の方の様子を伺おうと、少し顔を覗かせたとき、私は家の前に止まっていた数台の馬車を発見したのだ。
――あれって…… お迎えの馬車かしら? でも、到着は明日の予定だったはず……
なおも、様子を伺った私。兵士達はばたばたと慌てたような様子で走り回っており、時折何かを叫んでいる様な声が聞こえてくる。が、何を話しているのかまではよくわからない。
――もう少し……
何を話しているのか、聞いてみよう。家へと近づこうとしたその時だった。不意に私の腕に、力強く掴まれた感触が走る。
――!?
もしかしてばれた!? 振り返った私の目に映ったのは、真剣な眼差しで私を見つめていたフォースの姿だった。
「……勝手に抜け出して、どこへ行ったかと思えば……」
「フォースさん…… これは……」
「まあ、いいです。油断していた僕にも落ち度はありましたから…… でもシャリオットさん、約束して下さい。今後もう、勝手なことはしないと…… あなたに何かがあったら…… 僕はあなたのお兄さんに合わせる顔がありませんからね」
苦笑いを浮かべながら、フォースは優しい口調でそう囁いた。
「ごめんなさい。どうしても気になってしまって」
「さあ、こうなったら早く戻りましょう。ここに居ては……」
「居たぞ! 隠れていたぞ!」
その時だった。ふと、私達の背後から、男の声が響き渡る。背後を振り向けば、数人の王宮の魔道士達がこちらを指さして立っていた。
「男もいる! 捕まえろ!」
声を上げながら、一気に戦闘態勢に入った魔道士達。流石普段から鍛えていると言うだけあり、私達はあっという間に彼らに包囲されたのだ。
すっかり袋の鼠となってしまった私達。相手が王宮の魔道士達ともなれば、そう簡単にこの窮地を抜けられるわけがないのだ。
「フォースさん……」
「……やっちゃいましたね…… はあ…… あとでアルフレッドさんにドヤされる」
私の隣にいたフォースさんは、大きなため息をつきながら頭を抱えていた。不思議だったのは、彼に焦るような素振りが一切見られなかったと言うことである。確かにフォースは頭を抱えては居たが、決して冷静さを失っていたわけではなかった。普通に考えれば、絶体絶命のピンチ。だけど、彼からは不思議と余裕のような雰囲気が伝わってきたのだ。
「フォースさん?」
「仕方ないです。シャリオットさん。こうなったら正面突破しましょう。僕に着いてきて下さい! 今度は居なくならないで下さいね!」
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