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13 手加減は難しい
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部屋から出たところで、ミッチェルがマクシミリアンを呼び止めた。
「殿下。お待ちを」
「なんだ?」
ロイドは部屋のドアから離れたところに立っていた。盗み聞きなどしていないと言わんばかりに。
「ロイド。こちらへ」
全員の視線が注がれる中、ロイドは素早くミッチェルの背後に立った。
そして促される前にイースを見習って挨拶をした。
「お初にお目にかかります。ロイドと申します」
「これがイースの護衛です。まずはこの者が殿下のお相手をいたします」
マクシミリアンは意表を突かれた。
屈強な大男でも用意するのかと思っていたのだ。
それがどうだ。紹介された試合相手は、ドレスを着ていれば、イースの姉と言われても信じてしまいそうなくらい、華奢で美しい者だった。
日がな一日、窓辺でレース編みでもしていそうに見える。
「こいつが護衛? おいおい。冗談だろ。お前、歳は?」
「十五です」
(ミッチェルが決めておいてくれて助かりました)
「へえ。俺と同じか」
そう言って、マクシミリアンはロイドの全身を舐めるように見た。
貧弱な体つき。筋肉はかけらもない。闘志も感じられない。
「日に当たったことがないんじゃないか? なまっちろいな」
(値踏みされているようですが、こちらもしていますので、おあいこです)
「ロイドに準備させますので、申し訳ありませんが、少々お時間をいただけませんか」
「時間? 鎧でも身につけるのか? 今さら何をしたって無駄だろうに」
「すぐに参りますから」
「わかった。すぐ来いよ」
そう言うと、マクシミリアンは踵をかえしてスタスタと歩き出した。
訓練場に向かう一行の姿が視界から消えると、ミッチェルは恨めしそうに言った。
「はあ。こちらの準備ができて呼びにいくまで、部屋でゆっくりしてくれればいいものを」
(ミッチェルはぼやいてばかりですね)
「お二人は随分仲がいいのですね」
「嫌味ですか? 君はそんなことも言うのですね。私はマクシミリアンの兄のスペンサーの学友なのです。王都の学園に通っていた二年間は、彼ら兄弟とは、ちょくちょく顔を合わせていたものですから」
「そうだったのですか」
(それだけですか? ――バイタルサインに乱れなし。嘘ではないようですね)
「それより、君にはマクシミリアンと剣術の試合をしてもらうことになりました」
「はあ。試合――ですか」
(参りました。参照できるデータがありません。模擬的なものだとは推測できますが、剣を使うということはやはり――)
「どれくらいのダメージなら許容されるのですか? 第二王子というからには、傷跡が残るような攻撃をしてはいけませんよね?」
「なっ! 当たり前です! 十分気を付けてくださいよ」
ミッチェルはしばらく絶句したあと、ため息をついてロイドを見た。
「いいですか。そもそも試合というのは――いえ、今は時間がありません。相手の剣を地面に落とすか、相手が負けを認めれば試合は終了です。言うまでもありませんが、今回、負けを認めるのは君ですよ」
「それなら簡単ですね。汚れなくて何よりです」
(人間は水分を蓄えすぎだと思います。血液は本当に気持ちが悪いです)
「またおかしな言い回しを……。それより、上手に負けてもらわなければなりません。とりあえず、君は剣を持って急いで訓練場に来てください。私は先に行っていますから」
ミッチェルは訓練場の手前にある小部屋で、ロイドに手加減を練習させることにした。
だが少し打ち合っただけでミッチェルは頭を抱えてしまった。
「また魔術を使いましたね。絶対に使わないと約束してください。今の剣さばきだと、まるでそこに打ち込んで来ることが分かっていたみたいに見えます。いいですか。相手が剣を振った後に、君が剣を動かすのですよ。絶対に君が後ですからね」
ミッチェルがゆっくりと上から剣を振り下ろす。彼の剣が動き出したのを見て、ロイドが右からそれを払う。
「まだ早すぎます。動かし始めるのも、剣を振るうスピードも、まだまだ早すぎます。もういっそのこと、切られてもいいくらいの気持ちで動かしてください」
ミッチェルのイライラが伝わってきて、ロイドは嫌な気分になった。
(「ゆっくり」のスピードを、明確な数字で定義してほしいものです)
一連の動作を二人で何度も繰り返す。
「まあ、こんなものですかね。他の相手なら気取られて、侮辱されたように感じるかもしれませんが。マクシミリアンは単純ですから、その点、心配はいらないでしょう」
(おや。あの王子殿下はそんなに鈍いのですか)
「じゃあ、一通り攻撃の型をやりますので、君はギリギリのところで受け止める間合いを覚えてください。間違ってもマクシミリアンの剣を吹っ飛ばしたりしないでくださいよ」
ロイドは一度見ただけで全ての型を記憶した。
「さすがですね。時間もないので復習は抜きです。あと最後に。剣を重たそうに受けて、悔しそうな表情をしてください。勝ちたいのに敵わない、という君の表情を見ればマクシミリアンは満足するでしょうから」
「悔しい? こうですか?」
ロイドは表情筋を動かして悔しそうな表情を作ってみた。
「なんですか、それは……。絶対にやめてください。君はいつも見ているでしょう。側にイースがいるのですから。ああ、頬を膨らませるのはなしですよ」
(なんだ。あれのことですか)
ロイドはイースのおなじみの表情を思い出して真似た。
真似ることは得意だ。一から探り探り表情を作るのは正解がないだけに難しい。
「そうそう。それです。では、そんな感じで頼みますよ。何度かギリギリで受け止めたら、『参りました』と言ってください。それでおしまいです。ほら急ぎましょう」
二人はマクシミリアンの待つ訓練場へ向かった。
「殿下。お待ちを」
「なんだ?」
ロイドは部屋のドアから離れたところに立っていた。盗み聞きなどしていないと言わんばかりに。
「ロイド。こちらへ」
全員の視線が注がれる中、ロイドは素早くミッチェルの背後に立った。
そして促される前にイースを見習って挨拶をした。
「お初にお目にかかります。ロイドと申します」
「これがイースの護衛です。まずはこの者が殿下のお相手をいたします」
マクシミリアンは意表を突かれた。
屈強な大男でも用意するのかと思っていたのだ。
それがどうだ。紹介された試合相手は、ドレスを着ていれば、イースの姉と言われても信じてしまいそうなくらい、華奢で美しい者だった。
日がな一日、窓辺でレース編みでもしていそうに見える。
「こいつが護衛? おいおい。冗談だろ。お前、歳は?」
「十五です」
(ミッチェルが決めておいてくれて助かりました)
「へえ。俺と同じか」
そう言って、マクシミリアンはロイドの全身を舐めるように見た。
貧弱な体つき。筋肉はかけらもない。闘志も感じられない。
「日に当たったことがないんじゃないか? なまっちろいな」
(値踏みされているようですが、こちらもしていますので、おあいこです)
「ロイドに準備させますので、申し訳ありませんが、少々お時間をいただけませんか」
「時間? 鎧でも身につけるのか? 今さら何をしたって無駄だろうに」
「すぐに参りますから」
「わかった。すぐ来いよ」
そう言うと、マクシミリアンは踵をかえしてスタスタと歩き出した。
訓練場に向かう一行の姿が視界から消えると、ミッチェルは恨めしそうに言った。
「はあ。こちらの準備ができて呼びにいくまで、部屋でゆっくりしてくれればいいものを」
(ミッチェルはぼやいてばかりですね)
「お二人は随分仲がいいのですね」
「嫌味ですか? 君はそんなことも言うのですね。私はマクシミリアンの兄のスペンサーの学友なのです。王都の学園に通っていた二年間は、彼ら兄弟とは、ちょくちょく顔を合わせていたものですから」
「そうだったのですか」
(それだけですか? ――バイタルサインに乱れなし。嘘ではないようですね)
「それより、君にはマクシミリアンと剣術の試合をしてもらうことになりました」
「はあ。試合――ですか」
(参りました。参照できるデータがありません。模擬的なものだとは推測できますが、剣を使うということはやはり――)
「どれくらいのダメージなら許容されるのですか? 第二王子というからには、傷跡が残るような攻撃をしてはいけませんよね?」
「なっ! 当たり前です! 十分気を付けてくださいよ」
ミッチェルはしばらく絶句したあと、ため息をついてロイドを見た。
「いいですか。そもそも試合というのは――いえ、今は時間がありません。相手の剣を地面に落とすか、相手が負けを認めれば試合は終了です。言うまでもありませんが、今回、負けを認めるのは君ですよ」
「それなら簡単ですね。汚れなくて何よりです」
(人間は水分を蓄えすぎだと思います。血液は本当に気持ちが悪いです)
「またおかしな言い回しを……。それより、上手に負けてもらわなければなりません。とりあえず、君は剣を持って急いで訓練場に来てください。私は先に行っていますから」
ミッチェルは訓練場の手前にある小部屋で、ロイドに手加減を練習させることにした。
だが少し打ち合っただけでミッチェルは頭を抱えてしまった。
「また魔術を使いましたね。絶対に使わないと約束してください。今の剣さばきだと、まるでそこに打ち込んで来ることが分かっていたみたいに見えます。いいですか。相手が剣を振った後に、君が剣を動かすのですよ。絶対に君が後ですからね」
ミッチェルがゆっくりと上から剣を振り下ろす。彼の剣が動き出したのを見て、ロイドが右からそれを払う。
「まだ早すぎます。動かし始めるのも、剣を振るうスピードも、まだまだ早すぎます。もういっそのこと、切られてもいいくらいの気持ちで動かしてください」
ミッチェルのイライラが伝わってきて、ロイドは嫌な気分になった。
(「ゆっくり」のスピードを、明確な数字で定義してほしいものです)
一連の動作を二人で何度も繰り返す。
「まあ、こんなものですかね。他の相手なら気取られて、侮辱されたように感じるかもしれませんが。マクシミリアンは単純ですから、その点、心配はいらないでしょう」
(おや。あの王子殿下はそんなに鈍いのですか)
「じゃあ、一通り攻撃の型をやりますので、君はギリギリのところで受け止める間合いを覚えてください。間違ってもマクシミリアンの剣を吹っ飛ばしたりしないでくださいよ」
ロイドは一度見ただけで全ての型を記憶した。
「さすがですね。時間もないので復習は抜きです。あと最後に。剣を重たそうに受けて、悔しそうな表情をしてください。勝ちたいのに敵わない、という君の表情を見ればマクシミリアンは満足するでしょうから」
「悔しい? こうですか?」
ロイドは表情筋を動かして悔しそうな表情を作ってみた。
「なんですか、それは……。絶対にやめてください。君はいつも見ているでしょう。側にイースがいるのですから。ああ、頬を膨らませるのはなしですよ」
(なんだ。あれのことですか)
ロイドはイースのおなじみの表情を思い出して真似た。
真似ることは得意だ。一から探り探り表情を作るのは正解がないだけに難しい。
「そうそう。それです。では、そんな感じで頼みますよ。何度かギリギリで受け止めたら、『参りました』と言ってください。それでおしまいです。ほら急ぎましょう」
二人はマクシミリアンの待つ訓練場へ向かった。
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