いえ、魔術師ではなくドローンを連れた迷子のアンドロイドです。男になるのも女になるのも容易いですが異世界の紛争解決に武器を使うのは……

もーりんもも

文字の大きさ
14 / 48

14 お股をなでなで

しおりを挟む
 訓練場に入るとマクシミリアンは既に中央で待ち構えていた。

「遅いじゃないか。早くしろ!」

 ミッチェルとロイドの姿を捉えると、マクシミリアンが剣を抜いて、切っ先をロイドに向けた。

「殿下。まだ開始の合図の前ですよ」
「ふっ。すまん。気が早ってしまった」

 ロイドがマクシミリアンの前に立つと、マルクが軽く頷いた。
 それを見たミッチェルが二人の間に立ち、軽く肘を曲げて両手を広げた。
 二人は剣を抜き斜め上にかかげる。

「おいおい。なんだその剣は。ミッチェル。こいつは本当に俺とやりあえるのか?」
「殿下。ロイドはあの剣を持った時が一番力を発揮できるのです」
「ふーん。じゃ、手加減なしでいかせてもらうぞ」

 マクシミリアンとロイドが互いに剣を向ける。
 ミッチェルはそれぞれの剣の切っ先を指で軽くつまむと、開始を宣言した。

「それでは練習試合を始めます。正々堂々、剣を交えよ!」

 ミッチェルが手を離し下がると、すかさずマクシミリアンが右横からロイドの脇腹を狙ってきた。

(0.七秒。はい)

 ロイドは対応がやや遅れたように見せかけて、両手で握り直した剣で受け止める。そして、ついでによろけたフリをする。

「おっと。お前には衝撃が強すぎたかな」

 マクシミリアンが嬉々として連続で剣を打ち込む。

 ガン! ガガン! ガガン!

 重たいマクシミリアンの剣がロイドの剣を泣かせる。
 その刹那、城内に放っているドローンからアラートが発出された。

(おや? 不審人物ですね。未詳Xとして登録)


 ロイドは剣を振りながら未詳Xが城に侵入する様子を見た。
 城壁の側に、さも落としたかのように木材を山積みにし、その上に頑丈なしょいこを乗せている。

(へえ。それは私がピックアップした三十八通りの中の一つですよ)

 ロイドの予想通り、未詳Xはしょいこの上を勢いよく駆け上がり、そのまま城壁を超えて侵入した。



 マクシミリアンは思うように決定打を与えられず焦れた。

「ふん。護衛っていうだけのことはあるんだな。じゃ、これはどうだっ!」

 マクシミリアンも両手で剣を持つと、いったん頭上高く振り上げてから、思いっきりロイドめがけて振り下ろした。
 ロイドは未詳Xがあと十六秒で訓練場に入ってくると分かり、マクシミリアンの剣をうっかり反射で受けてしまった。

 片手で軽く持った剣を、目にも止まらぬ速さで頭の上に持ってきてしまったのだ。
 誰の目にもロイドが構えたところにマクシミリアンが当てにいったように見えた。


「あれ? 今のって――」

 イースは隣で見守っているマルクに、ロイドが構える方が早くなかったか聞きたかったが、マルクは二人から視線を逸らさない。

「うう。何をやっているのです。ロイド……。まさか打ち負かす気じゃないですよね」

 ミッチェルもロイドの失態に気付き慌てたが、試合を中断する訳にはいかない。
 試合の中断は双方にとって不名誉なことなのだ。


 ロイドはいち早く挽回すべく、剣を受け止めた状態で片膝をつき、練習通りの悔しそうな表情を浮かべた。

 マクシミリアンは一瞬だけ、「あれ? なんで先に頭の上で剣を構えているんだ?」と疑問がよぎったが、目の前のロイドの苦悶に満ちた表情を見た途端、愉悦が全身を駆け巡った。

「あっはっはっ! 受けてばかりでどうする! かかってこいよ! ほら!」

 そう言うとマクシミリアンは剣を下ろして胸を突き出した。

(ええと。相手の剣を苦しそうに何度か受けて、最後に「参りました」のはずですが)

 ロイドは聞いていた話と違うと、ミッチェルを見た。ミッチェルも呆気に取られている。

(もうちょっと念入りに打ち合わせをしておくのでしたね。声に出さずとも、唇だけ動かしてくれれば指示を読み取れるのですが)

 マクシミリアンは戸惑うロイドのすぐ目の前まで迫ってきた。呼気が顔にかかるほどの近さだ。


(兵士の皆さんも訓練場が気になるのですね。近くに来てくれたお陰で、未詳Xは方向転換してくれました)


「試合中にどこ見てんだ? 助けでも呼びたいのか?」

 マクシミリアンは剣を鞘に収め、右手を大きく開くと、ロイドの股間の下から手を入れた。

「そんなに縮こまってちゃあ、かかってこれないよな。ここもぎゅーっと縮こまって――」

 マクシミリアンは、握るつもりのモノがなくて焦った。

「ぎゅーっと――」

 どんなに探っても、何もない。
 あるはずのモノが、目の前の男にはないのだ。
 マクシミリアンの右手は、何もないロイドの股間を右へ左へとなで回しただけだった。


 マクシミリアンはロイドから離れると、よろよろと後ずさった。
 しばらく顔を真っ赤に染めた後、今度は血の気が引いたように青ざめて、ブルブルと震えだした。
 その場にいた誰もが何事かと心配している中、マクシミリアンが絶叫して膝から崩れ落ちた。

「ひ、ひいーーっ!」

 そのまま両手で頭を掻きむしり天を仰ぐと、鼻血を噴いてばったり前のめりに倒れてしまった。
 辺りが騒然とする中、マクシミリアンに駆け寄る従者たちの顔面も蒼白だ。
 ミッチェルはいち早くマクシミリアンを抱き起した。

「なぜだ。どうして。あいつ……。ミッチェル。どうなってんだ? お、俺は――。なんてことを――。あいつのまたぐらを、いや、あの方――の、おま、お股をなで――、なで――、なで――」

 マクシミリアンは言いながら白目をむいた。泡を吹いて失神しかけている。
 ブーロン訪問中に王子が失神するなど、断じてあってはならない。
 ミッチェルはマクシミリアンの体を揺らした。正気を保ってもらわなければ困る。

「落ち着いてください。私を見て!」

 ミッチェルがマクシミリアンの頬をパンパンと強く叩いた。

「殿下! お気を確かに!」
「あ、ああ――」
「いいですか。このことは誰にも言わないでください。お互いのためですよ。いいですね。あなたの従者たちにも、きちんと口止めしておいてください」

 マクシミリアンは黙ったままブンブンと首を縦に振った。
 ミッチェルは従者たちにマクシミリアンの介抱を譲ったが、彼らはマクシミリアンにすがりついて泣かんばかりだ。

「長旅でお疲れのご様子。取り急ぎお休みいただきましょう」

 従者たちがマクシミリアンの両肩を支えて連れていく。
 マクシミリアンの薄れゆく意識の中では、ドレスを着たロイドが微笑みかけていた。
 ダークブロンドのサラサラの髪が風にそよいでいる。

(か、可愛い! 可愛いではないかっ! なんだあの可愛さはっ! ぐふっ)

 マクシミリアンはそのまま幸せいっぱいの夢の中に落ちていった。
 その場にいた者たちは大騒ぎだった。
 何しろ王子殿下がぶっ倒れるところを目撃したのだ。さすがのマルクも慌ててミッチェルに駆け寄った。

「ミッチェル。どうなっておる? 何が起こったのかの」
「さ、さあ。何かうわごとを口走っておられたようですが。朝、何か悪いものでも食べられたのかもしれません。とりあえず部屋で休んでいただきますので。後は私が」
「うーむ。まあ、お前に任せるとするかの」

 その場はミッチェルがなんとか収め、王子の従者たちには、「旅先での王子の失態が知れたなら責任を負わされることになるぞ」と脅しておいた。


 ブーロン城では、王子殿下との試合そのものがなかったこととされた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

死んだ土を最強の畑に変える「土壌神の恵み」〜元農家、異世界の食糧難を救い、やがて伝説の開拓領主になる〜

黒崎隼人
ファンタジー
土を愛し、土に愛された男、アロン。 日本の農家として過労死した彼は、不作と飢饉に喘ぐ異世界の貧しい村の少年として転生する。 そこは、栄養を失い、死に絶えた土が広がる絶望の土地だった。 だが、アロンには前世の知識と、土の状態を見抜き活性化させる異能『土壌神の恵み』があった! 「この死んだ土地を、世界で一番豊かな畑に変えてみせる」 一本のスコップと規格外の農業スキルで、アロンは大地を蘇らせていく。 生み出されるのは、異世界人がかつて味わったことのない絶品野菜と料理の数々。 飢えた村人を救い、病弱な公爵令嬢を元気にし、やがてその評判は国をも動かすことに――。 食で人々を繋ぎ、戦わずして国を救う。 最強の農家による、痛快異世界農業ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...