いえ、魔術師ではなくドローンを連れた迷子のアンドロイドです。男になるのも女になるのも容易いですが異世界の紛争解決に武器を使うのは……

もーりんもも

文字の大きさ
22 / 48

22 舞踏会開催の裏で

しおりを挟む
 ニクラウス王は倒れてから七日後の午後、閣議の間に姿を現した。
 痩せ衰えた体に窪んだ目だけがギラギラと光り、異様な雰囲気を醸し出している。
 心配そうな貴族たちを前に、不安を一蹴するかのように弁舌をふるった。

「皆の気遣いに感謝する。だが、もう何も心配いらぬ。見よ。このように元通り、いや、前よりも壮健であるぞ!」


 あの日と同じ顔ぶれが、同じ席に座っている。
 お伽話に出てくる怪物に精気を吸われてしまったかのように、ボリュームのあるベルベッドのローブからのぞく手は皺だらけだ。
 そんなニクラウスが声を張り上げれば張り上げるほど、テーブルを囲む者たちは冷めていく。

 テーブルの上には、さすがに紅茶もワインも置かれていない。
 いつも人の話の腰を折るジャスティンでさえも黙り込み、ストレスのせいか十本の指を常に動かし続けている。

 前回と唯一違うのはスペンサーが臨席していることだ。

「父上。話を戻しますが、舞踏会は本当にこのまま進めるおつもりですか?」
「ふん。犯人がわからぬなら捨ておけ。王宮に暗殺はつきものよ」

 王は以前にも増して尊大になっている。スペンサーはそれが気掛かりだった。

「王宮に易々と忍び込み、卑劣なまねをしでかした犯人が見つかっていないのですよ。逃げおおせたのも謎ですし――。もし舞踏会に忍び込むようなことがあれば――」
「そんなことはさせん!」

 王は激昂して口から唾を飛ばしながら叫んだ。

「のう。デレク」
「はっ!」

 デレクはいったん立ち上がってから膝をついて首をたれた。

「此度の失態は全て師団長の私の責任でございます。どのような沙汰でもお受けする所存にございます。ですが、お許しいただけるのでしたら、今一度、陛下のお側に――なにとぞお側に。身命を賭す覚悟で護衛の任を全ういたします」

「うむ。許す。許してつかわす。もうよいのだ。それより舞踏会だ。舞踏会だけは誰にも邪魔させるでないぞ」
「はっ!」

 満足そうなニクラウスと悲壮なデレクを尻目に、モーリンはデレクを挑発した。

「国中の貴族方が王都に集まられるのですからな。舞踏会という伝統行事で何かあっては国の威信に関わります。大勢が見ている中で誰かが暴漢に襲われるようなことがあれば、ゆゆしき問題ですぞ」

 デレクが憮然とした態度で答えた。

「承知しております。陛下のみならず、参加者の皆様を近衛師団が万全の体制で警護いたします」
「それでも万が一ということはあり得ますからな。舞踏会の主役はスペンサー第一王子殿下です。それ相応のお覚悟をお持ちいただかなくてはなりますまいな」

 モーリンの不吉で不適切極まりない発言は、慶事を前に本来ならば叱責されるべきものだが、ニクラウスは気に留める素振りもない。
 それどころか、けしかけるようなことを言う。

「当たり前だ。王族たるもの、覚悟ができていないとは言わせんぞ。スペンサー」

 スペンサーはテーブルの真向かいで息巻くニクラウスと、その横で不敵な笑みを浮かべるモーリンを睨み返した。

「無論、覚悟ならとっくにできております」
「ならば問題なかろう」

 モーリンはなおも執拗に絡む。

「磐石な体制を築くことこそ次期国王としてのお勤め。必ずやお妃をお決めになり、私ども――いえ、国民を安心させてくれましょうぞ」
「この私が第一王子としての勤めを分かっていないとでも? 妃一人決めるのに決断できないとでも?」

 モーリンはスペンサーの射殺さんばかりの威圧感をものともせず、口先だけで詫びた。

「まさかまさか。ご気分を害されたのなら謝罪いたします。なにとぞご容赦を。明君の器と誉高きスペンサー第一王子殿下に向かって誰がそのようなことを。いやはやまったく」

 両手を組んで大袈裟に振り、慌てて申し開きを述べるが、まるで心がこもっていない。

(やれやれ。王はもう使い物にならぬので、そろそろ代替わりさせようかという時に。若造め。思っていた以上に堅物じゃのう。まあ効きが悪くてこちらの思うようにならぬのなら、あの能天気な次男の方にしてもよいしな――)

 ニクラウスは二人が火花を散らしている様子にも無頓着で、同じ言葉を繰り返す。

「それより舞踏会の準備だ。皆の者、急げよ」
「はい。滞りなく準備を始めますゆえ、ご安心ください。会場の準備につきましては我が一族にお任せを」

 ジャスティンは、国の予算を使って好き勝手に調達できることを思うと、愉快でたまらなかった。

「よかろう! では頼んだぞ!」

 流れに乗り遅れまいとジョーも慌てて口を開く。

「私どもも、ご令嬢のお支度に一役買わせていただきとうございます」
「ああ、しかと頼む!」

 ジョーも予定通りの開催に胸を撫で下ろした。


 最後にモーリンが閉めくくる。

「それでは皆様。舞踏会の一連の儀式が滞りなく執り行われますよう。クーレイニー国に幸あれ!」




 所変わって、ブーロン城のマルクの部屋では、鬱々とした空気の中、マルクとミッチェルが壁の映像に厳しい視線を向けていた。

「どうあっても、やるのかいの」

 ニクラウスの尋常ならざる雰囲気が映像からも伝わってくる。
 ロイドが舞踏会の開催が決定したと報告すると、二人は落胆しミッチェルは頭を抱えた。

「延期もありうるとふんでいたのですがね。甘かったみたいですね」
「あの様子じゃと、陛下が床に臥したままでも開催が決まっておったかもしれぬの」
「陛下のご様子が気がかりですが……。ライアンが反対意見を言う隙もなかったのでしょうね」

 ロイドは質問されたのだと捉え、答えた。

「はい。王様は最初から最後まで『舞踏会を開催する』の一点張りで、誰にも口を挟ませませんでした」

(そこも一分ほどのショートムービー仕立てでお見せできると言ったのに)

「犯人が逃げている間は、安全が担保されないといって参加を見送ることも可能かと考えていたのですが。事件はどうやら隠蔽されたようですね。これでは出席しない訳にはいきません」
「仕方あるまいの」

 ロイドは宮殿内の様子も付け加えた。

「既に城の使用人たちは、招待状の作成に取り掛かっています」

 ロイドは招待状の宛名書きの現場にドローンを派遣して情報収集をしたかったが、ドローンが足りず断念した。

(百機とは言わないまでも、五十機はほしかったですね)

「じきにここにも招待状が届くのですね」

 ミッチェルは目を閉じて長いため息をついた。
 モーリンに目新しい動きはないとロイドが報告したところで、この日の定例会はお開きとなった。




 宮殿が闇に包まれ、人の気配が消えた頃。夜のしじまの中をモーリンが静々と歩いていた。
 従者を伴わず自らトレイを持って王の寝室に向かっている。

「陛下。薬湯をお持ちしました」

 モーリンがわざとらしく部屋の外から声をかける。もはや王には届いてなどいないと分かっていながら。
 ドアを警護する近衛兵も目の焦点が合っていない。どこかぼんやりとして正気を失っている。

「失礼いたします」

 寝室に入ると、ニクラウスは子どもの身長ほどもあるヘッドボードにもたれかかっていた。
 目を見開いてはいるが、モーリンの入室に気付いた様子はない。

「さあ陛下。もう必要なさそうですが念の為」

 モーリンはニクラウスの顎を掴み、無理矢理口を開けさせると秘薬を流し込んだ。
 ニクラウスはだらしなく口を開けて、むせながらも喉仏を動かして流し込んでいく。
 口元からこぼれた薬をニクラウスが身につけている薄手の絹の袖口で拭うと、モーリンは乱暴にニクラウスの足を引っ張りベッドに横たわらせた。

「ふう。もう目覚めて頂かなくてもよいのですがね」

 歴代の王の側で時を刻み続けてきた柱時計が、モーリンの不遜な態度を責めるかのように、零時ちょうどを鳴らした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...