いえ、魔術師ではなくドローンを連れた迷子のアンドロイドです。男になるのも女になるのも容易いですが異世界の紛争解決に武器を使うのは……

もーりんもも

文字の大きさ
28 / 48

28 解毒薬

しおりを挟む
 薬草を保管している倉庫には、ロイドの方が先に着いた。
 大きなテーブルが整然と並んでおり、その上には採れたての薬草が種類ごとに置かれている。
 壁に沿って設置されている棚は細かく仕切られており、その大半に乾燥させた薬草が納められている。

 すれ違う使用人たちが何事かと振り返る中を、マルクたち一行が歩いてやってきた。

「すみません。時間がもったいないので勝手に始めさせてもらいました」

 ロイドはテーブルに並べられている薬草を、端から順番に頬張っていた。
 呼びつけておいて何の説明もなく、ひたすら薬草を食べまくるロイドを、五人は半ば呆れた顔で見ていた。

(液体だろうと固形物だろうと、体内に入れたくないのに変わりありませんが、仕方がありません)

 片っ端から口に入れては体内器官で粉砕し圧縮する。そして抽出した成分を分析し記録していく。
 テーブルの上の薬草を全て口に入れ終わると、次は棚の上段から順に乾燥させた薬草に手をつけた。

(私のデータにない植物がこれほど存在しているとは驚きです。植物学の研究者にとって、ここの土地は垂涎の的なのではないでしょうか。目的の成分のうち三つは既に摂取しました。この調子なら残りの一つもありそうですね)

 ロイドは棚の半分ほどを残して口に入れるのを止めた。
 四種類の植物の成分を配合して、ある物が完成したのだ。

「少々お待ちください」

 ロイドはそれだけ言うと、手近にあった小さな乳鉢を手に取り、へその下辺りに持ってきた。
 皆に背を向けて少し背中を丸める。
 シャッと音がした。
 振り返ったロイドが持っている乳鉢には薄い緑色の液体が入っていた。

 デレクが最初に声をかけた。

「なんだ? お前、今、それを吐き出したのか?」

(人間は口から入れたものを口から出すことに抵抗があるのですよね。だから私は腹の方から出したのですが、口から出したように見えたのでしょうか)

「口から吐き出した訳ではありませんので、ご安心ください」
「ロイド。どこから吐き出したかが問題ではないのです」

 やれやれとミッチェルが諭す。
 ロイドは、「では何が問題なのですか?」と目で訴えてから言った。

「皆さんにお見せしたいのはこれです」


 テーブルの上には、あらかじめ毒入りの水を注いだ別の乳鉢を置いてある。
 ロイドは自信満々に発表した。

「これは私が飲まされた毒入りの水です。ここに先程作ったこの液体を入れます」

 ロイドは手に持った乳鉢を傾けて、緑色の液体を数滴ずつ水に垂らし始めた。
 透明な水に緑色の液体がポタポタと垂れる。
 水滴が水に触れた瞬間、ぱっと青色に染まった。

「なんと!」

 ライアンが食い気味に乳鉢に顔を近付けた。
 ロイドが乳鉢を揺らすと全体がほんのりとした青色に色づいた。

「この毒が入っていると、青色に変わるのです」

(いい実験になりました。少し配合比率を変えたデータでリライトしておきます。次はもっと濃い色に変化させることができそうです)

「ちなみに、普通の水に入れても緑色が薄まるだけです」

 ロイドは対照実験用に持ってきていたコップにも垂らしてみせた。
 緑色の雫はそのまま色が薄まっていく。
 コップを揺らすと何事もなかったかのように透明の水が揺れた。

「で、では、陛下のワイングラスにも水を入れて、その緑色の液体を垂らせば、同じ毒が入っているとわかる訳ですね」

 ライアンが興奮した様子で言った。

「よし。あの使用人とモーリンを捕らえた後に、皆の前で見せてやるとしよう」

 デレクが腕組みをしながら宣言した。

「ライアン、ロイドの緑色の液体を入れる容器はありますか」

 ミッチェルが大切そうに、ロイドから乳鉢を両手で受け取った。

「ああ、いくらでも」


 ライアンは空の小瓶を取ってきた。

「あ、私にも一つください。少々お待ちを」

 ロイドはそう言うと、またも背を向けて対照実験用の水を口に含んだ。

(人間が飲むのですから水で濃度を調整した方がいいですよね。胃や腸を洗浄した方が良い場合はなんと進言すればいいのか悩みますが、まあ今はこれがあればよいでしょう)

 空の小瓶をヘソに当てる。そして振り返ると告げた。

「こちらが解毒薬になります」

 黄色い液体の入った小瓶を自慢気に差し出すロイドに、その場にいた全員が呆気に取られて言葉を失った。

「犯人が確保されるまでは、どなたかに同じ毒が使われる可能性がありますので。私はいくら盛られても平気ですが、皆さんはそうはいきません。特に舞踏会に出席するイースには持っておいてほしいのです」
「ロイド、君は――」

 ミッチェルが唸るのをロイドは遮った。

「すみません。失礼して、貯めておいた薬草のカスを全部出してもいいでしょうか?」

(さすがに体内に残しておきたくはありません。一刻も早く排出したいのです)

「お見苦しい点は、どうかご容赦を」

 ロイドはそう言うと、シュポッという音と共に、へその下辺りから緑色の塊を吐き出した。

「ひいい」

 イースが顔を歪めて後ずさる。

「あ、今のは魔術です。人間の便とは異なりますのでご安心ください」

「ロイド。君って奴は――」

 ミッチェルはなんと言ってこの場を収めればよいのか分からなかった。
 ライアンが黙って使用人にロイドの排出物を片付けさせた。


「イースに持たせたい――といっても、スペンサーとダンスをする際に怪しい小瓶など持てないでしょう。ドレスに隠すこともできませんし……」

 ミッチェルが言い淀むと、ライアンがマルクに伺いをたてた。

「その緑色の水の小瓶は、モーリンを断罪する時まで私が持っておきましょう。黄色の解毒薬はいざという時に使えなければなりませんから、イースの近くで素早く動ける者がよいのでは?」

「そうじゃのう。デレクやライアンは役目があるからのう。皆の目があるうちは動けぬこともあろうての」
「ではこの中で、一番自由に動けるのは私ですね」

 ミッチェルが黄色の液体の入った小瓶を手に取った。

「それがよいの。ロイド。お前に毒を盛った男がモーリンに近付いた時は、即刻人を呼ぶのじゃぞ。ミッチェルがおらなんだら、ワシでもライアンでもよいからの」
「はい。承知しました」

「ふう。よろしく頼むとするかの。ライアン。デレク。いよいよ明日から一連の行事が始まるでの。皆の警護をしっかりの」
「はい」
「はっ!」
「ロイド。イースの護衛はお前に任せたからの」
「はい」

 ライアンとデレクに続き、ロイドがかしこまって返事をしたタイミングで、イースはミッチェルの袖口を軽く引っ張った。
 ミッチェルはイースの顔を見るまでもなく、ピンときた。
 街を見て回りたいのだ。

 ロイドが毒を飲まされる事件が発生したからには、王都見学など中止すべきだ。
 今、「遊びに出かけたい」と言いだすなど、ブーロン領の跡取りとしても、お妃候補としても、自覚が足りないと自分から白状するようなものだ。
 そうだと分かった上で、なおもイースはミッチェルの裾をちぎれそうなほど強く引っ張っている。
 ミッチェルが観念して、やんわりとマルクに切り出す。

「あの――。マルク様」
「ほう? なにかの?」

 ミッチェルが言葉を詰まらせると、イースが思いきって懇願した。

「お祖父様。色々と危険が迫っているのは承知しています。ですが自由に動けるのは今日だけなのです。少しだけ、一時間だけでもいいので、ロイドと二人で出かけさせてくれませんか」
「ううむ……」

 マルクはイースとロイドの顔を代わる代わる見た。
 本来ならば両親の庇護の元、自由に好きなことをしているはずの子どもたちだ。

「ふうむ。まあよかろう。ロイドが一緒なら安心だしの」

(イース。ありがとうございます。ドローンの作成したマップの評価をしておきたいと思っていたところです)

 ロイドは初めて自然と笑みが溢れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

死んだ土を最強の畑に変える「土壌神の恵み」〜元農家、異世界の食糧難を救い、やがて伝説の開拓領主になる〜

黒崎隼人
ファンタジー
土を愛し、土に愛された男、アロン。 日本の農家として過労死した彼は、不作と飢饉に喘ぐ異世界の貧しい村の少年として転生する。 そこは、栄養を失い、死に絶えた土が広がる絶望の土地だった。 だが、アロンには前世の知識と、土の状態を見抜き活性化させる異能『土壌神の恵み』があった! 「この死んだ土地を、世界で一番豊かな畑に変えてみせる」 一本のスコップと規格外の農業スキルで、アロンは大地を蘇らせていく。 生み出されるのは、異世界人がかつて味わったことのない絶品野菜と料理の数々。 飢えた村人を救い、病弱な公爵令嬢を元気にし、やがてその評判は国をも動かすことに――。 食で人々を繋ぎ、戦わずして国を救う。 最強の農家による、痛快異世界農業ファンタジー、ここに開幕!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

処理中です...