いばりんぼうとおこりんぼう 〜殺人現場でボーイ・ミーツ・ガール〜

もーりんもも

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第6話 ボーイ・ミーツ・ガール

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 自宅まで送るという道長の申し出を断って、優里は高木家を辞することにした。一刻も早く一人になりたかったのだ。
 高木邸の玄関を出ると、パトカーを含めて数台の警察車両と救急車が停まっているのが見えた。何事かと、かなりの数の野次馬も集まっている。
 屋敷の庭先では、腕章を付けた見るからに強面の男たちが捜査をしているので、誰の目にも事件が発生したことは明らかだった。

(あの野次馬を突っ切って、無事に駅まで行けるかな……)
 優里が踏み出せないでいると、玄関のドアが開いた。振り向くとしずかが話しかけてきた。いつの間に来たのだろう。

「裏から出た方がいいかもしれないわね」

 そう言うと黙って歩き出した。ついて来いということなのだろう。
 ロビーに戻り、メインダイニングとは違う方向へ進む。二人はレストランの厨房のような場所に辿り着いた。

「ここは昔、出入りの業者が使っていた入り口なの。ちょうど玄関の反対側になるわ。外に出てそのまま壁伝いに歩けば、駅に続く道に出られるの」

 しずかからは、相変わらず氷のような冷たさを感じる。側にいても体温が感じられないのだ。

「ありがとうございます。皆さんにはきちんとご挨拶もできなくて、本当に申し訳ありません」
「仕方ないわ」

 いいのか、悪いのか、怒っているのか、何とも思っていないのか。感情が本当に読み取れない。
(まあ別に、私に人を見る目があるとも思っていないけど)

「それでは、失礼します」

 ゆっくり三秒くらいかけてお辞儀をして、優里は外に出た。ドアを閉めた途端、足が動かなくなった。仕方なく項垂れて壁にもたれる。

「ふう」

 緊張の糸が切れてしまったらしい。
 それでも意を決して左右を見回す。恐る恐る忍び歩く様子は不審者そのものだが、優里を怪しむ者はいなかった。表側へ近づくと人々の会話が聞こえてきた。

「え? ちょっと! もう、見えないんだけど」
「あれ、何か探してんのかな」
「ちょっ、押すなよ!」
「あ、あそこ写真撮ってる」
「どこ? どこ?」

 優里も野次馬に混ざり覗き込むと、庭に植わっている巨木を捜査員が取り囲んでいた。

「あ、なんか付いている……」
「足跡じゃない?」
「いや、ただの土っぽいけど」

 優里は我慢できず、邪魔な人を押しのけて前の方へ出ていった。「何すんのよ」「痛えな」と言われようと、確かめずにはいられなかった。
 遠くからでもその大きさの分かる巨木は、神社などでよく見る木だった。欅とか楡とか、確かそんな名前。
 三年前までは視力2.0を誇った――就職してパソコンを一日中見るようになり、1.5に下がってしまったが――自慢のまなこで観察したが、誰かが言った通り、幹に庭の土が付いているだけのように見えた。

「うーん、靴の跡が一部残ってんのかなあ」

(何だと! この私に見えないものが見える奴がいるのかー!)

 生意気にも自信たっぷりに、自身の観察眼を披露した男の顔を見上げてやると、四時間前に見咎めたイーグルだった。

「うわああ! あんた、私のストーカーなの?」

 ホテルで道長と会食していたとき、隣のテーブルからチラチラと優里を盗み見ていた男が、今、自分の目の前にいるイーグルだ。間違いない。

「ストーカー?」
「今、誰かストーカーって言った?」
「あそこの警察呼べばいいんじゃね?」

 ストーカー男が、優里の腕を掴んで群衆から連れ出そうとしたので、優里は恐怖のあまり悲鳴を上げた。

「やべえ。マジなやつだ」
「刑事さん! こっちに来てください」
「女の人が襲われています!」

 警察を呼んでくれる人もいれば、男を振り解こうと手を貸してくれる人もいた。

「お前、何やってんだよ」
「手え離せ、コラッ!」

 優里は参戦してきた男たちの間で、もみくちゃにされた。

「誤解です。違いますよ」

 ストーカー男は敵わないとふんだのか、優里から手を離して釈明を始めた。

「知り合いなんです」
「はあっ?」

 開き直りもいいとこだ。知り合いだから俺たちの間に入ってくるなと牽制しているのか? どういう理屈なのだ。妄想か? 妄想なのか? 「ストーカーあるある」な思考なのか?
 男は絶句している優里の名前を呼んだ。

「ね、畑野優里さん」

 群がっていた人々は途端に、「なんだよ、人騒がせだな」「大声で喚きやがって」と、優里を非難しながら去っていった。

(いやいや、待ちなさいよっ!)

 この男はいったいどうやって優里の個人情報を入手したのだろう。いや、そもそもいつから優里に付き纏っていたのだろうか。今日まで全く気がつかなかった。
 パニックに陥っている優里に、男は、やれやれとため息まじりに告げた。

「同じ中学だっただろ。吉岡たすくだよ」

(な、なんだとおっー!)

「よ、し、お、か、た、す、く」という音波が優里の鼓膜を揺らし、その情報を聴神経が脳に伝えると、側頭葉から屈辱の記憶が溢れ出てきた。
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