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第11話 不品行な老婆
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「了解っす」と言って、山田が続けた。
「それで人形好きのサークルの方なんすけど、多分、こっちが当たりっすね」
堤はまだ黙って聞く。
「代官山に、ヨーロッパのアンティーク家具や雑貨を扱うエトワールという店があるんすけど、そこの代表の横山貴美子が、三千代と同じくアンティークドール好きだったんすよ。人形に興味を持った客を誘って、自慢の人形を見せ合うサークルを作ったらしく、これが曲者で」
山田が少し勿体ぶって三人の顔を見回したので、すかさず石田が尻を蹴飛ばす。
「痛っ」と言いながらも、山田は石田にペコペコと謝っている。
「あ、すみません。その代表の横山から紹介されたサークルの会員を、立川と一緒に当たったんすけど、横山とトラブって辞めていった会員が結構いたみたいっす」
「じゃあ、私の方から」と、立川が話を引き継いだ。
「もともとエトワールの店の客自体が、三千代みたいな、割と金持ちの六十代とか七十代の女性が多いらしいんですが、中には普通の主婦とかバリキャリとかもいるみたいです」
「バリ――なんだ?」
堤が聞き返した。
「あ、バリバリ働くキャリアウーマンです」
石田は三十一なので、まだ二十代の連中とそれほどかけ離れてはいない。堤はスマホの機能や流行語を部下に聞くたびに老化を実感する。
「まあ、女性は結構ああいう店が好きで、買わないまでもウインドウショッピングなんか、割としていますよね」
「お前の彼女の話か?」
今度は、山田が立川を小突いた。
「あ、すみません」
立川は顔を赤らめて真面目に謝った。
「――で、ですね。そんなに裕福でない一般人も、中には横山の口車に乗せられてサークルに入会することがあるそうなんです。更にその中の何人かは、変な対抗心から人形やその服を借金してまで購入するようになるらしいんです」
「人形の服を借金してまで買うのか」
石田が思わず聞き返した。
「はい。そこが横山の上手いところで。横山は金持ちたちの人形を露骨に褒めた後で、一般人会員たちの人形の足りないところを、わざとらしくアドバイスするそうなんです。『人形は可愛いのに、ドレスのせいで地味になっているわね』とか。あと、同じ人形ばかり持ってくる客には、『鑑賞主体のサークルなので活動できないならお辞めいただけないかしら?』と追い込んで、自分の店の人形を買わせたりだとか。まあ、金のないメンバーが無理している様子は、他のメンバーからすると痛々しかったようで、『そういう方が辞めてくれるとホッとしました』って、言っていました。それで、『そういう方』たちの連絡先を粘って何人か聞き出したんです」
「その借金をしている会員と、肝心の三千代とはどう繋がるんだ?」
イライラし始めた石田が立川に詰め寄る。
「あ、すみません。ここからです。その、『そういう方』たちの話を要約すると、横山がうまいこと煽って、次から次へとローンを組ませて商品を買わせるらしいんですが、ローン残高が増えて返済が滞り始めると途端に鬼のように返済を迫ったり、人格攻撃を始めるそうなんです。鬱病になった主婦もいました。そんな横山の貧乏人をいたぶる様子が、三千代の大好物だったらしいです。横山と三千代が二人で、貧乏人が転落していく様子を笑っているのを目撃したという証言もあります。ま、そんなだからか、最近ではめっきりサークル活動が減ってしまったらしいですけど。そりゃあ、まともな獣人なら、そういう連中とは距離を置きますよね。あと、借金していた会員の中には、家族に相談して返済するなり自己破産するなりして、横山たちとは縁を切った者もいるようです。ですが、家族に打ち明けられない会員も何人かいて、そういう獣人相手に三千代が個人的に金を貸していたっていう話です」
「それだと、犯人は女ってことになるぞ」
たまりかねた石田が異議を唱える。庭の大木を女が登るとは考えにくいので、普通に考えて犯人は男だと堤たちは睨んでいた。
「ああ、いや、実際のところ、三千代は返済にはほとんど興味がなかったらしいです。金が返ってこなくても、相手をいたぶって遊べたらいいらしくて。落ちぶれた相手を罵倒したり、無理な返済を要求して精神的に追い詰めたりと、まあいいとこの――「元」が着きますけど――お嬢さんのやることじゃありませんけどね」
早く犯人が女でない理由を話せと、石田と山田の眼光が鋭さを増して立川に刺さる。
「おっと。その三千代に借金をしていた連中の一人に、島田明子っていうのがいるんですが、明子が両親に泣きついたときに、明子の兄の佐藤洋太が三千代の存在を知ったらしいんです」
やっと男が出てきたか、と石山二人は安堵の表情を見せた。
「この洋太っていうのが、ほんと、ろくでなしで。勤め先を転々としながら、いく先々で揉め事を起こすような奴でして。留置場に入ったこともあるみたいですね。まあ軽い暴行のようですけど。ギャンブルもやるので、もちろん借金もあります。両親が二度ほど消費者金融の借り入れを完済したそうですが、それでも懲りずに借金をするので、もうそれからは相手にしていないそうです。そんな男がポンと金を貸してくれる獣人を見つけたら――」
「会いにいくだろうな」
石田が美味しいところを決めた。
「で、その佐藤洋太はガイシャから金を借りていたのか?」
堤のストレートな質問に立川が顔を曇らせる。
「すみません。今日はそこまでは分かりませんでした。ただ念の為、佐藤の写真を何枚かSSBCに回しましたんで、明朝の捜査会議で何か上がってくるかもしれません」
捜査支援分析センター、通称SSBCでは、既に高木邸周辺から最寄の神楽坂駅や牛込神楽坂駅などの防犯カメラ映像を収集しているはずだ。
最近は二十四時間録画するドラレコもある。どこかで怪しい人物が浮かべば、その足取りを辿ることができるだろう。
「それで人形好きのサークルの方なんすけど、多分、こっちが当たりっすね」
堤はまだ黙って聞く。
「代官山に、ヨーロッパのアンティーク家具や雑貨を扱うエトワールという店があるんすけど、そこの代表の横山貴美子が、三千代と同じくアンティークドール好きだったんすよ。人形に興味を持った客を誘って、自慢の人形を見せ合うサークルを作ったらしく、これが曲者で」
山田が少し勿体ぶって三人の顔を見回したので、すかさず石田が尻を蹴飛ばす。
「痛っ」と言いながらも、山田は石田にペコペコと謝っている。
「あ、すみません。その代表の横山から紹介されたサークルの会員を、立川と一緒に当たったんすけど、横山とトラブって辞めていった会員が結構いたみたいっす」
「じゃあ、私の方から」と、立川が話を引き継いだ。
「もともとエトワールの店の客自体が、三千代みたいな、割と金持ちの六十代とか七十代の女性が多いらしいんですが、中には普通の主婦とかバリキャリとかもいるみたいです」
「バリ――なんだ?」
堤が聞き返した。
「あ、バリバリ働くキャリアウーマンです」
石田は三十一なので、まだ二十代の連中とそれほどかけ離れてはいない。堤はスマホの機能や流行語を部下に聞くたびに老化を実感する。
「まあ、女性は結構ああいう店が好きで、買わないまでもウインドウショッピングなんか、割としていますよね」
「お前の彼女の話か?」
今度は、山田が立川を小突いた。
「あ、すみません」
立川は顔を赤らめて真面目に謝った。
「――で、ですね。そんなに裕福でない一般人も、中には横山の口車に乗せられてサークルに入会することがあるそうなんです。更にその中の何人かは、変な対抗心から人形やその服を借金してまで購入するようになるらしいんです」
「人形の服を借金してまで買うのか」
石田が思わず聞き返した。
「はい。そこが横山の上手いところで。横山は金持ちたちの人形を露骨に褒めた後で、一般人会員たちの人形の足りないところを、わざとらしくアドバイスするそうなんです。『人形は可愛いのに、ドレスのせいで地味になっているわね』とか。あと、同じ人形ばかり持ってくる客には、『鑑賞主体のサークルなので活動できないならお辞めいただけないかしら?』と追い込んで、自分の店の人形を買わせたりだとか。まあ、金のないメンバーが無理している様子は、他のメンバーからすると痛々しかったようで、『そういう方が辞めてくれるとホッとしました』って、言っていました。それで、『そういう方』たちの連絡先を粘って何人か聞き出したんです」
「その借金をしている会員と、肝心の三千代とはどう繋がるんだ?」
イライラし始めた石田が立川に詰め寄る。
「あ、すみません。ここからです。その、『そういう方』たちの話を要約すると、横山がうまいこと煽って、次から次へとローンを組ませて商品を買わせるらしいんですが、ローン残高が増えて返済が滞り始めると途端に鬼のように返済を迫ったり、人格攻撃を始めるそうなんです。鬱病になった主婦もいました。そんな横山の貧乏人をいたぶる様子が、三千代の大好物だったらしいです。横山と三千代が二人で、貧乏人が転落していく様子を笑っているのを目撃したという証言もあります。ま、そんなだからか、最近ではめっきりサークル活動が減ってしまったらしいですけど。そりゃあ、まともな獣人なら、そういう連中とは距離を置きますよね。あと、借金していた会員の中には、家族に相談して返済するなり自己破産するなりして、横山たちとは縁を切った者もいるようです。ですが、家族に打ち明けられない会員も何人かいて、そういう獣人相手に三千代が個人的に金を貸していたっていう話です」
「それだと、犯人は女ってことになるぞ」
たまりかねた石田が異議を唱える。庭の大木を女が登るとは考えにくいので、普通に考えて犯人は男だと堤たちは睨んでいた。
「ああ、いや、実際のところ、三千代は返済にはほとんど興味がなかったらしいです。金が返ってこなくても、相手をいたぶって遊べたらいいらしくて。落ちぶれた相手を罵倒したり、無理な返済を要求して精神的に追い詰めたりと、まあいいとこの――「元」が着きますけど――お嬢さんのやることじゃありませんけどね」
早く犯人が女でない理由を話せと、石田と山田の眼光が鋭さを増して立川に刺さる。
「おっと。その三千代に借金をしていた連中の一人に、島田明子っていうのがいるんですが、明子が両親に泣きついたときに、明子の兄の佐藤洋太が三千代の存在を知ったらしいんです」
やっと男が出てきたか、と石山二人は安堵の表情を見せた。
「この洋太っていうのが、ほんと、ろくでなしで。勤め先を転々としながら、いく先々で揉め事を起こすような奴でして。留置場に入ったこともあるみたいですね。まあ軽い暴行のようですけど。ギャンブルもやるので、もちろん借金もあります。両親が二度ほど消費者金融の借り入れを完済したそうですが、それでも懲りずに借金をするので、もうそれからは相手にしていないそうです。そんな男がポンと金を貸してくれる獣人を見つけたら――」
「会いにいくだろうな」
石田が美味しいところを決めた。
「で、その佐藤洋太はガイシャから金を借りていたのか?」
堤のストレートな質問に立川が顔を曇らせる。
「すみません。今日はそこまでは分かりませんでした。ただ念の為、佐藤の写真を何枚かSSBCに回しましたんで、明朝の捜査会議で何か上がってくるかもしれません」
捜査支援分析センター、通称SSBCでは、既に高木邸周辺から最寄の神楽坂駅や牛込神楽坂駅などの防犯カメラ映像を収集しているはずだ。
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