いばりんぼうとおこりんぼう 〜殺人現場でボーイ・ミーツ・ガール〜

もーりんもも

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第27話 紛糾する捜査会議

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「佐藤は、『クズにはクズの金の作り方がある。全額返してやる』と啖呵を切ったそうです。すると、三千代は、『利息をもらうからビニールシートとタオルを持参しろ』と言い返したそうです。いやあ、冗談にしてもブラック過ぎですよね。あんなお婆さんが――」
「近藤!」

 とうとう係長がキレた。呼ばれた近藤が中野を座らせ、代わりに若手の向井を立たせた。シュッとしたヤマアラシだ。
 この男もよく、女性たちから、「可愛い格好いい」と言われている。最近の若い奴は何の動物でも可愛いらしい。

「続けます。先程の電話のやりとりは、四月十日の十一時二十一分のもので、佐藤の携帯電話の通話履歴に、三千代の部屋の固定電話の番号が残っています。佐藤は電話中に三千代を殺すことを決意し、電話を切って量販店で果物ナイフを買っています。明日、量販店に確認をとりますが」

 さすがにこの時間では店は閉まっている。

「佐藤は三回とも十五時に三千代を訪問していることから、平日の十五時なら部屋にいると考えたそうです。それで翌日十一日、十四時半頃に高木邸へ行き、庭から三千代の部屋の窓が開いているのを見て犯行に及びました。過去三回の訪問時に、屋敷の周りをぐるっと見ていたそうで、二階の窓が開いている三千代の部屋の当たりはついていたと言っています」

 何人かが手を挙げたが、質問内容は分かっているとばかりに向井が問題の部分に触れた。

「庭の大きな木の枝が、三千代の部屋の窓のすぐ横の壁にぶつかるように伸びており、それを伝っていけば部屋に入れそうに見えたと言っています。実際、佐藤は身長百六十センチくらいの痩せ型ですから、木を伝って窓から侵入することは可能だと思われます」

 「窓は開いていたんだな?」後ろの方から大きな声が響いた。

「防犯カメラ映像と、駅から高木邸までの距離を勘案すると、佐藤は十四時二十分前後に高木邸に到着していると思われます。その時、窓は開いていたと言っています。様子を伺い、人目を避けて木に登るまで五分から十分くらいかかったと言っていますので、部屋に侵入したのは十四時三十分前後だと思われます。佐藤自身も驚くほど簡単に部屋に入れたと言っています。木の枝から窓枠に飛び移り、そのまま部屋に入ったそうです」
「おい足跡係!」

 糾弾するような大声を出したのは、定年間近の赤石だ。凶暴な風貌はサイそのものだ。

「窓枠には一切、下足痕は残っていませんでした」
「ちゃんと仕事してんのか! 指紋係よぉ!」

 若い巡査長の丁寧な受け答えに、赤石はまたしても威嚇するような大声を上げる。

「お前らの都合に合わせて、どうこう出来るもんじゃねえんだよ」

 たまりかねた鑑識課の主任が割って入った。

「チッ」

 向井から聞いた供述だと、どこかしらに痕跡が残っているはずだ。会場は騒然となった。

「静かに!」

 係長が怒鳴る。

「最後まで聞け」

 不承不承黙るも、下火はチロチロと燃えたままで、捜査員同士がガンを飛ばし合っている。

「佐藤は、窓から部屋に侵入すると、その勢いで三千代を刺したそうです。三千代は、突然窓から男が入ってきたことに相当驚いたらしく、口をパクパクさせるだけで叫ばなかったそうです。佐藤は窓から部屋の床に降りて、二歩か三歩、歩く間に、ポケットからナイフを取り出し、右手で三千代の腹を刺したと言っています。なお、鞘はポケットに入れたままだったため先程回収しました」
「手袋はぁ?」

 誰かが叫んだ。

「していません。素手でナイフを握ったと言っています」

 向井が言い終わらないうちに、またしても再燃した。

「おい! コラッ! 指紋係!」
「ねえっつってんだろ!」

 主任も声を張る。そんなことは言われなくても分かっている。だがなかったものを有ったとはいえないのだ。
 向井も更に声を大きくして報告する。

「佐藤は、刺した手応えに満足したそうですが、三千代は相当驚いたみたいで、口をパクパクしたままだったと言っています。そのまま踵を返して、また窓から木を伝って逃げたそうです。窓は開けたままで、特に閉めようとか、そんなことは頭に浮かばなかったそうです。ナイフの指紋なども一切考えなかったそうです。もともと自暴自棄の生活を送っていたので、ヤケクソで刺したあと、どうこうするつもりもなかったようで。あと、部屋の中の様子はあまり記憶にないそうですが、いつもと変わらず綺麗だったと言っています」

「どうなってんだよ」
「じゃあ、誰が拭いたってんだよ」
「なんで窓は閉まって、ご丁寧にロックまでされたんだ?」

 近藤が立ち上がったが、如何せん背が低いので目立たない。だがその分をカバーできるほど、彼の声量はでかい。

「今のところぉー、供述に不自然な点はなくぅー、信用できるものと思われます。不自然なのは現場の方です」
「発見者が細工したっていいたいのか? 何のために?」
「うちに聴取させてくれ!」

 また荒れ始めたが、係長は難しい顔をしたままだった。
 確かに近藤の言う通りだ。佐藤の言い分は筋が通っている。
 これで窓枠やナイフに指紋が残っていれば万々歳なのだ。佐藤自身も、指紋や下足痕が一致したと考えて観念しているのだろう。

 現場の方がよっぽどおかしい――。

 そうだ。そもそも密室で人が殺されているなんて、おかしいではないか。
 誰だ? 発見した家族がそんなことをしたとは思えない。だいたい五人もいたら、誰かが見ていたはずだ。
 堤は現場にいた五人の顔を、代わる代わる思い浮かべたが、そんなことをしそうな者は思い当たらなかった。

(俺は何か見落としているのか?)

「ちなみにぃー」

 またしても近藤が声を張り上げる。

「足跡係ぃ! ちなみに佐藤の履いていたスニーカーは?」
「そちらは庭と木から採取した下足痕と一致しました」

 またしても勝手に発言する者たちで室内がざわついた。

「なんだよ」
「決まりじゃねえか」
「けど、こんな状態じゃ送致できねえだろ」
「自白してんのに、なんてザマだ」

 果たして、こんな状態で公判を維持できるのだろうか? 矛盾点をつかれたらどうする? 陪審員はどう思う?
 堤も、入室時の近藤と同じ表情で悶々と考え込んでしまった。
 一通りヤジや罵声が出尽くして静かになったところで、係長が思い出したように付け足した。

「あと矢崎。佐藤洋太の周辺を洗っていたな。何かあるか?」

 係長に指名され、会議室の前方に座っていた小柄なカエルが立ち上がった。

「はい、じゃあ一応。佐藤の家族ですが、五年前に別れた妻とはそれっきりで、佐藤の両親によると、その後の消息は知らないみたいです。それから――」

 堤は矢崎の報告をぼんやりと聞きながらも、三千代の部屋の様子を思い出していた。自分が見落としているものを必死に探っていると、係長から締めのゲキが飛んだ。

「佐藤の逮捕はマスコミも嗅ぎ付けている。なんとしても全容を解明するぞ!」
「はいっ!」

 全員が同時に返事をして解散となった。
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