『妹に婚約者を奪われた令嬢、今は魔剣と共にギルド最強です』

miigumi

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3章

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第33話《“特別”だと言う男》

街の喧騒の中、依頼帰りのエアたちはギルドへの報告を済ませ、いつものように軽食を取るため近くの店へと向かっていた。

「アル、リル。先に行ってて。ちょっとだけ、本屋に寄ってくる」

「ひとりで平気か?」
アデルが目を細めて問う。

「うん、大丈夫。人も多いし、すぐ戻るよ」

そう言って小さく笑ったエアは、軽やかな足取りで通りの角を曲がっていった。

――それは、ほんの数分の出来事だった。



古びた書店の前。ふと、エアの後ろに影が落ちる。

「……やっぱり、君だったんだね」

柔らかくもどこか艶めいた声。振り向いた先に立っていたのは、ギルドの名簿にはなかったはずの男。漆黒の髪、透き通るような灰色の瞳。高身長で整った顔立ちだが、その目には“濁り”があった。

「……どなた、ですか?」

「初対面だけどね。君の噂はずっと前から聞いてた。魔剣を従え、追放されながらも生き残った――特別な力を持つ君のことを」

言いながら、彼は距離を詰めてくる。

「その力、無駄にしてないかい? この街のギルドに埋もれてるなんて、勿体ないと思うんだよ。君には、もっと上に行く素質がある」

「……何が言いたいの?」

エアは自然と足を引いた。魔剣が微かに警戒の波を送ってくる。

「君には、“君を正しく評価できる存在”が必要だ。……たとえば、僕みたいな」

男の目が笑う。それは善意の仮面を被った、選民思想のにおい。

「君が誰と組もうと、結局はその力を活かしきれない。だって誰も……君の本当の価値を知らないから」

「わたしは、今の仲間と……ちゃんと前に進めてます」

「ふふ……それが、どこまで続くか。見届けてあげるよ、エア」

名前を呼ばれた瞬間、ゾクリと背中に走る寒気。男はそれ以上追ってはこなかったが、静かに立ち去っていった。



ギルド近くの小道に戻ると、アデルが壁にもたれて待っていた。

「……遅かったな。道、迷ったか?」

「ううん、ちょっと変な人に話しかけられて」

アデルの目が鋭くなる。

「見た目は? 何か言われたこと、覚えてるか?」

「魔剣の話……それと、わたしを“特別”だって。……名前も、言ってた」

エアの声がわずかに震えていた。

「……わかった。お前の中でまだ混乱してるなら、それはそれでいい。でも、覚えておけ。お前を“道具”扱いする奴には、俺が何よりも厳しいからな」

そう言って、アデルはいつもの優しい笑顔ではなく、仲間を守る“男の顔”でエアを見つめていた。

胸の奥にぽっと灯る、小さな火。
――あの人がいるなら、大丈夫。
エアはそう思いながら、歩き出した。
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