『転生モブと魔獣の相棒ごはん屋 秘密を抱えた常連様に惹かれて』

miigumi

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1章

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◆第26話 「ここで、立ち続けるために」

「今日も、包み飯ふたつと……ラテプレート、三つお願い!」

リデルがいつもより大きな声で注文をしてくれた。
それに続いて、エルダが大声で笑いながら言う。

「ミレイアちゃん、スープは多めにしてくれる? いつものあんたの味、今のうちに食べとかなきゃね!」

「今のうち……って」

ミレイアが苦笑すると、エルダはウィンクを返した。

「なーに、店が燃やされても、スープさえあれば立て直せるってことでしょ?」

「それは……嬉しいけど、ちょっと物騒!」

ラテがカウンターの下から「もふ」と鳴く。
まるで「それくらいの覚悟が要る」と言いたげに。

広場では、町の若者たちが店の周囲に細工をしていた。
物陰にさりげなく置かれた木箱、土嚢、警告用の鳩笛。

「これは……」

「もし、誰かが“無理やり”君を連れ出そうとした時のためだよ」
背後で声をかけてきたのは、木工職人のトミーだった。

「ミレイアちゃん、君が残るって言ってくれて、みんなホッとしてるんだ。……だから、俺たちもできることをするよ」

“残る”。その言葉を、自分の口から出したとき。
ミレイアの中に、怖さよりも先に“あたたかさ”が広がった。

たぶん、これが――守られてきたっていう証。

「……ありがとう。ほんとに」

* * *

同じ頃、町の外れ、木々の奥で。
ディアボロスとシュヴァルツを囲むように、数人の魔族たちが集っていた。

「彼女が残ると決めた以上、“人間の手”が届く前に守りの準備を完了させねばならん」

「王よ、暴けばすぐに戦になる。露骨な力の行使は――」

「わかっている。あくまでこれは“店を守るための細工”だ。
バリアは拡張。転移陣は裏口に設置。感知式の封魔結界も仕込む」

「人間の中に“共犯者”は?」

「もう育っている。……それに、“彼女自身が選んだ”という事実が最大の盾だ」

ディアボロスの目は、冷静にして鋭い。

「人間の世界に居続けたいなら、今度は“意思”が必要になる。……その時に、我々は支える側でなくてはならん」

* * *

次の日の昼。

「モフのしっぽ亭」に、王都の騎士団の制服を着た男たちが姿を現した。

扉の前に立つカリスは、無表情にして完璧な所作で、
手にした羊皮紙を扉へ掲げる。

「――ミレイア・ユリア・ローゼン。
“王都直轄の調査対象”として正式に拘束する。
魔族との関与、魔力保有の疑いにより、連行命令が下された」

扉の中では、スープの香りが漂っていた。

そしてカウンターの奥。
シュヴァルツが、椅子から静かに立ち上がる。

ついに、日常と“戦い”の境目が、扉一枚を隔てて訪れた。
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