『転生モブと魔獣の相棒ごはん屋 秘密を抱えた常連様に惹かれて』

miigumi

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2章

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◆第47話 「想いの味に気づいた日」

昼の営業が終わり、店内には静けさが戻っていた。

ラテが陽だまりでくるりと丸くなっているその横で、
ミレイアはふた付きの小さな器を両手に持って立っていた。

「……ヴァルさん、よかったら、これ。ちょっと遅いけど、お昼の分」

そう言って差し出されたのは、
ほかほかと湯気を立てる、陶器の茶碗蒸し。

器の縁には、小さな銀杏の模様が描かれていて、
どこか“ひと手間”かけた温もりがあった。

「……今日のは、特別バージョンなんだ」

「特別?」

「うん。……その、味は変わらないけど。
具がちょっとだけ、ヴァルさん好みにしてある、かも」

その言葉に、ヴァルは目を伏せてから、
静かに蓋を開けた。

ふわりと広がる、優しい出汁の香り。
透き通った卵の層の中に、小さなしいたけの飾り切りと、
鮮やかな銀杏が控えめに並んでいた。

一口すくって、口に運ぶ。

――やさしい。

舌に乗せた瞬間、出汁がじんわりと広がり、
あとからほんの少しだけ、芯のある味が追いかけてくる。

(……伝わってくる)

言葉にされていない。
でも、これはただの“ごはん”じゃない。

たとえば、誰かの顔を思い浮かべながら作られた味。
その人が笑ってくれたら嬉しいと、願いながら仕込まれた温度。

「……うまい」

ぽつりと呟いた声は、想像以上に掠れていた。

「よかった……!」

ミレイアがぱっと笑う。
その笑顔が、ただの“店主”ではなかった。

(君は……俺のために、作ってくれた)

それがわかってしまったから、
スプーンを動かすたびに胸が少しずつ苦しくなる。

(だから俺も、ちゃんと……)

「これは、“誰かに渡したいと思って作ったごはん”だな」

ヴァルは、スプーンを置いて静かに言った。

「……えっ?」

ミレイアが一瞬、きょとんとしてから、
耳まで真っ赤に染まる。

「……そ、それって、気づいてたってこと?」

「気づいた。君は優しいから、誰にでも作ると思ってた。
でもこれは……君の“誰かひとりのための味”だ」

その“誰か”が誰かなんて、言う必要もなかった。

「……ばれたかぁ……」

ミレイアが、ごまかすように笑う。
でも、その笑顔はどこか照れていて、
ほんの少しだけ、恋の色が混ざっていた。

ヴァルは、茶碗蒸しの最後のひと口を口に運びながら思った。

(いつか、“ありがとう”じゃなくて――)

(“好きだ”って言える日が、来るだろうか)
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