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1章
身代わりの縁談
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ロランはそんなリシェルの様子に満足したのか、続けざまに言い放った。
「お前のような女、最初から俺には釣り合っていなかったんだ。だが、お前のような女にも利用価値はある。セレナに冬の国の将軍から縁談が届いていたのは知っているよな? 彼女の代わりに嫁いでもらうことにしよう。」
(冬の将軍ですって⁉)
場内にざわめきが走る。
「なんてこと……!」「冬の国の将軍だなんて……」
「冬の国の辺境で起きた反乱を、たった一晩で鎮圧した際、村を丸ごと氷漬けにしたらしいぞ!」
「人ではなく、怪物の姿をしているとか……」
貴族たちの間からは、驚きと憐れみが交じった声が漏れた。
冬の国――雪と氷に閉ざされ、戦の絶えない地。
華やかな春の宮廷とは真逆の、過酷で冷たい世界。
その上、恐ろしい統治者がいるという噂がある。
そこへ、公爵家の令嬢を送り出すというのだ。
(冬の国の将軍に嫁ぐなんて……)
(でも、ここで妹を告発しても、騒ぎは大きくなるだけ。王宮内の内紛が外に漏れれば、民の信頼も、国の名誉も傷つけてしまう。――それだけは、避けなければ)
これ以上、この場で抗っても彼らに自分の真意は届かない。
けれどそれでも、妹を憎む気持ちは湧かなかった。
むしろ、愛していたからこそ、ここで醜い争いを晒すことだけは、したくなかったのだ。
「お姉様、どうぞ……お幸せに。」
セレナが、まるで捨て猫でも憐れむような口調でそう告げた。
その声音には、勝者の優越感がにじみでていた。
その言葉に決心し、リシェルは顔を上げる。
「もう何を言っても信じてくださらないのですね……そのお言葉、しかと受け止めました。愛しておりましたわ、皇子殿下。セレナも」
静かな声だった。
感情を殺し、表情を崩すことなく、ただ淡々と告げる。
けれどその胸の奥では、愛していた者たちに裏切られた痛みが、ずっと奥深くで軋んでいた。
(どうして、こんな結末になってしまったのでしょう。私が気持ちを汲み取れていたらこんなことにはならなかったのかしら――)
それでも、涙は流さなかった。
ここで泣いたなら、まるで彼らに心を砕かれた証になってしまう。
それだけは、絶対に許せなかった。
「ご決定、確かに承りました。春の未来が、どうか明るいものでありますように」
そう言って、リシェルは頭を下げる。
その所作は、王妃候補として教育を受けた者の、完璧な一礼だった。
その瞬間、場内の空気が変わる。
一部の貴族たち――特に年長の貴族たちや、かつてリシェルと共に政務を行っていた者たちが、どよめき始めた。
「待ってくれ、リシェル殿……!」
「公爵令嬢を、あのような地へ送り出すなど――」
「セレナ殿を虐げるなど……!リシェル殿がそんなことするはずがない!」
「このような処遇は、国家の損失だ。彼女の知識と判断力を、我々は手放してよいのか……!」
中には前に出ようとする者もいたが、ロランが冷ややかな目で彼らを制した。
「今さら遅い。彼女は承諾したのだ。王命に逆らう気か?」
口を噤むしかない貴族たち。
しかしその目には、失われていく宝を惜しむような、深い悔恨と敬意があった。
―――“春の象徴”と呼ばれた賢姫は、王宮を去る。
だが、新たな地で――彼女はやがて、本当の力を取り戻すことになる。
「お前のような女、最初から俺には釣り合っていなかったんだ。だが、お前のような女にも利用価値はある。セレナに冬の国の将軍から縁談が届いていたのは知っているよな? 彼女の代わりに嫁いでもらうことにしよう。」
(冬の将軍ですって⁉)
場内にざわめきが走る。
「なんてこと……!」「冬の国の将軍だなんて……」
「冬の国の辺境で起きた反乱を、たった一晩で鎮圧した際、村を丸ごと氷漬けにしたらしいぞ!」
「人ではなく、怪物の姿をしているとか……」
貴族たちの間からは、驚きと憐れみが交じった声が漏れた。
冬の国――雪と氷に閉ざされ、戦の絶えない地。
華やかな春の宮廷とは真逆の、過酷で冷たい世界。
その上、恐ろしい統治者がいるという噂がある。
そこへ、公爵家の令嬢を送り出すというのだ。
(冬の国の将軍に嫁ぐなんて……)
(でも、ここで妹を告発しても、騒ぎは大きくなるだけ。王宮内の内紛が外に漏れれば、民の信頼も、国の名誉も傷つけてしまう。――それだけは、避けなければ)
これ以上、この場で抗っても彼らに自分の真意は届かない。
けれどそれでも、妹を憎む気持ちは湧かなかった。
むしろ、愛していたからこそ、ここで醜い争いを晒すことだけは、したくなかったのだ。
「お姉様、どうぞ……お幸せに。」
セレナが、まるで捨て猫でも憐れむような口調でそう告げた。
その声音には、勝者の優越感がにじみでていた。
その言葉に決心し、リシェルは顔を上げる。
「もう何を言っても信じてくださらないのですね……そのお言葉、しかと受け止めました。愛しておりましたわ、皇子殿下。セレナも」
静かな声だった。
感情を殺し、表情を崩すことなく、ただ淡々と告げる。
けれどその胸の奥では、愛していた者たちに裏切られた痛みが、ずっと奥深くで軋んでいた。
(どうして、こんな結末になってしまったのでしょう。私が気持ちを汲み取れていたらこんなことにはならなかったのかしら――)
それでも、涙は流さなかった。
ここで泣いたなら、まるで彼らに心を砕かれた証になってしまう。
それだけは、絶対に許せなかった。
「ご決定、確かに承りました。春の未来が、どうか明るいものでありますように」
そう言って、リシェルは頭を下げる。
その所作は、王妃候補として教育を受けた者の、完璧な一礼だった。
その瞬間、場内の空気が変わる。
一部の貴族たち――特に年長の貴族たちや、かつてリシェルと共に政務を行っていた者たちが、どよめき始めた。
「待ってくれ、リシェル殿……!」
「公爵令嬢を、あのような地へ送り出すなど――」
「セレナ殿を虐げるなど……!リシェル殿がそんなことするはずがない!」
「このような処遇は、国家の損失だ。彼女の知識と判断力を、我々は手放してよいのか……!」
中には前に出ようとする者もいたが、ロランが冷ややかな目で彼らを制した。
「今さら遅い。彼女は承諾したのだ。王命に逆らう気か?」
口を噤むしかない貴族たち。
しかしその目には、失われていく宝を惜しむような、深い悔恨と敬意があった。
―――“春の象徴”と呼ばれた賢姫は、王宮を去る。
だが、新たな地で――彼女はやがて、本当の力を取り戻すことになる。
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