追放された春の令嬢、氷の将軍と世界を救う

月見 こよね

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1章

偽りの涙

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リシェルがロランを説得しようとしているその時、セレナがか細い声で口を開いた。

「お姉様は……わたくしの髪を引き、言葉で責め、魔法の訓練では無理をさせて……っ。きっと私の加護の力が強いから嫉妬して……。ロラン様にさえ相談できず、長い間……耐えてきましたの。」

セレナは声を震わせながら、ロランの胸元へ顔を埋める。
その肩は小刻みに震えており、柔らかな嗚咽が響く。
しかしその横顔――ロランの肩越しにわずかに覗いた表情には、ほのかに弧を描く笑みがあった。
リシェルはその表情を見て、息を呑む。
(なぜ……どうして、そんな目を私に向けるの?)

「……それは、事実ではありません。そのような行為を行った記憶はありませんし、そもそも、証拠があるのでしょうか。」

声を震わせずに返した自分を、どこか他人のように感じながらも、リシェルは口を開く。
けれどロランは鼻を鳴らし、嘲るように言った。

「そんなもの今セレナが証言したではないか!お前は、いつも屁理屈ばかりで人をねじ伏せる。それに俺にもいつも公務だの責任だの、冷たい言葉ばかりかけて、どれだけ傲慢で、人を見下しているんだ!そんな態度を、セレナにもしていたんだろう!」

その言葉は、リシェルの胸を焼くように刺さった。
(……違う。私は――私は、ただ……)
確かに、真面目に公務をしないことに注意をしたり、間違っていることを指摘したりもした。
けれどそれは、ロランが国の未来を担う王子として、相応しい姿であってほしいと願ったから。
言葉が冷たかったのなら、それは不器用だったからで――見下していたわけじゃない。
(私は、国のためを思っていただけだった。ロラン様が、より良き王になってくださると信じていたから。)
だが、そんな想いは一言も汲まれず、理解されることもなく、ただ「傲慢」の一言で斬り捨てられる。

「俺はセレナを守りたい。彼女は、お前と違って素直で、優しくて……誰かを傷つけたりしない。」

リシェルは全身から血の気が引くのを感じた。
ロランの目は、もはやセレナしか映していない。
ロランの言葉は、“お前はもう必要ない”という宣告にも等しかった。
その眼差しには、もはや幼いころからの信頼も、優しさもない。
ただ恋に盲目な男の愚かさだけが、リシェルの前に突きつけられていた。

(セレナが私を裏切ったなんて、最初は信じられなかった。
けれど――この状況、この言葉、そしてあの微笑み……)

事実は、目の前にある。
唐突な裏切りにリシェルは静かに、声も涙も出せず、ただ黙ってその場に立ち尽くすしかなかった。
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