27 / 40
第8章
第2話
しおりを挟む
「無理無理、絶対無理」
どう考えたって、自分の居場所はあそこにない。
どうやったら彼の横に入り込める?
話しかけられる?
「古文の宿題って、何ページだったっけ」とか言って、白々しいセリフで「なんだコイツ」って目で見られながら、それでも話しかけに行く勇気と努力と苦労と疲労感と恥さらしを引き換えにしても、報われる保証がないのなら……。
館山さんのつやつやした黒髪が、細い肩の上をサラリと流れた。
あぁ。やっぱり無理。
どう考えたって無理。
あんな美人でかわいい子といつも一緒にいる人の隣なんて、絶対無理。
勝ち目皆無。
私が混ざりに行ったって、完璧な引き立て役にしかならない。
それ以上の存在になれないと最初から分かっていて、あえてそんなとこに自分から飛び込む必要なくない?
坂下くんだって、人生で二度とありえないような事件を一緒に経験したからこそ、きっと私に話しかけてきたんであって、そうじゃなかったら一生関わることもなかっただろう。
「よし。決めた」
そうだ。
うじうじ悩むなんて、私らしくなかった。
もう答えはとっくにあったのに、それに気づかなかっただけ。
両方、諦める。
全部、やめる。
坂下くんへの思いは、自分の中で消化して、消し去ればいいんだ。
そのために好きでもない他の人で埋め合わせしようとか忘れようってのも、間違ってる気がする。
自分の本当の気持ちに正直になるなら、坂下くんは諦める。
最初からなかった。
快斗のことはまだ始まってもないし、好きかと聞かれたら正直「好き」ではないから、もし告ってきたらお断りする。
てか、せっかく出来た友達との友好関係を壊したくないから、告られない程度の距離を確実に保って「友達」を継続する。
コレだ。
完璧。
自分の行動方針が決まったら、スッキリした。
これでもう悩みは解決、問題なし。
久しぶりに晴れやかな気分で、放課後の席を立つ。
帰ろうと思った瞬間、館山さんと目が合った。
「あ、あのね、持田さん。ちょっとお願いがあるんだけど……」
クラスイチの美少女にお願いされて、誰が断れるっていうんだろう。
彼女から声をかけてくるなんて珍しいと思ったけど、私は素直に応えた。
「なに? どうしたの? 館山さんのお願いなら、なんでも聞いちゃう」
「本当? あ、あのね……」
彼女の白い頬が、鮮やかなピンク色に染まる。
黒く潤んだ瞳で見つめられると、私だってメロメロになっちゃうのは、もう仕方ないでしょ。
「い、一緒に、カラオケ行ってくれるかな!」
「カラオケ? 今から二人で?」
「二人が無理なら、坂下くんと三人でなんてどう?」
いや、それはもっと無理ですけど?
「あ、じゃあ私、坂下くん呼んでくるね」
ピュアな笑顔でそう言われて、断る隙もなかった。
いや、何でも聞くって言ったけど、さすがにそれはちょっと無理。
「うわ。館山さん、本当に持田さん誘ったの?」
久しぶりに目があった。
直接声を聞くのも久しぶり。
ほんの数日前によく分からない別れ方をして以来、たまに送られて来ていたメッセージもスタンプだけの挨拶も、一切のやりとりはなくなってしまった。
それなのにこんな形で顔を合わすなんて、なんだか気まずい。
「そりゃ、俺と館山さんの二人よりかはマシだけど……」
「だから、誰がいいかなって」
「だったら、古山さんか橋本たちでよくない?」
そうだよ。
そのメンバーだったら、いつもの優等生仲良し軍団だし。
私が入る必要ないよね。
「あ。じゃあそっちで行ってもらうってことで。私はまた……」
「ダメ!」
彼女の細い手が、ぎゅっと私の腕にしがみついた。
「持田さんが一緒じゃなきゃ、ダメなの!」
「え? なんで?」
「持田さんお願い!」
「あ……。はい。分かりました」
そんな必死なお願い、断れるワケがない。
坂下くんも困った顔してるけど、これは他でもない館山さんのお願いなんだから、仕方がない。
「あのさ、カラオケはまた今度にしない? 私、いまちょっと喉の調子がおかしくて、風邪気味なんだよね。どっかでお茶くらいなら出来ると思うけど」
ウソだけど。
純粋で疑うことを知らない館山さんは、私の言葉を素直に受けいれて考え始めた。
「じゃあ、ドーナツ屋さんでいい? 私、時々あそこになら行くの。あんまり長居はしないようにするから」
「うん。そっちにしようか」
その方が助かる。
坂下くんをチラリと見上げたら、彼も同意したようにうなずいた。
「ありがとう。カラオケは、また今度にしよう」
「う、うん」
館山さんだけが、すごく残念そうだ。
駅前のそのドーナツ屋さんなら、近くにある駐輪場が空いてることが多いんだって。
一時間100円の、ここら辺じゃ一番安いやつなんだって。
自転車を取ってくるという館山さんを、坂下くんと二人校門の前で待つ。
どうしようとかやだなーとか、帰りたいとか思いつつ、彼の隣に居られることをどこかで喜んでいる自分がいる。
館山さんありがとう。
ズルいよね。
でも彼女のおかげで話せてうれしかったし、またこうして一緒に帰るきっかけが出来て、ちょっぴり感謝してる。
「お待たせ」
自転車を押してきた彼女は、息を切らせながらスッと私の隣に並んだ。
急いで戻って来たのかな。
だけど彼女が並ぶべきなのは、坂下くんの隣じゃない?
チラリと彼の様子が気になってその横顔をうかがってみたけど、全く気にしてないみたい。
二人は歩き出す。
おかげで私は、この二人に挟まれることになってしまった。
なにこの状況。
どうして私が真ん中?
ここは坂下くんの役目でしょ。
両手に花的な?
あ、片方は花でもないってこと?
優等生真面目コンビニ挟まれた私は、歩いて15分足らずの道のりを、二年になって最初の期末試験の話題でやり過ごした。
どう考えたって、自分の居場所はあそこにない。
どうやったら彼の横に入り込める?
話しかけられる?
「古文の宿題って、何ページだったっけ」とか言って、白々しいセリフで「なんだコイツ」って目で見られながら、それでも話しかけに行く勇気と努力と苦労と疲労感と恥さらしを引き換えにしても、報われる保証がないのなら……。
館山さんのつやつやした黒髪が、細い肩の上をサラリと流れた。
あぁ。やっぱり無理。
どう考えたって無理。
あんな美人でかわいい子といつも一緒にいる人の隣なんて、絶対無理。
勝ち目皆無。
私が混ざりに行ったって、完璧な引き立て役にしかならない。
それ以上の存在になれないと最初から分かっていて、あえてそんなとこに自分から飛び込む必要なくない?
坂下くんだって、人生で二度とありえないような事件を一緒に経験したからこそ、きっと私に話しかけてきたんであって、そうじゃなかったら一生関わることもなかっただろう。
「よし。決めた」
そうだ。
うじうじ悩むなんて、私らしくなかった。
もう答えはとっくにあったのに、それに気づかなかっただけ。
両方、諦める。
全部、やめる。
坂下くんへの思いは、自分の中で消化して、消し去ればいいんだ。
そのために好きでもない他の人で埋め合わせしようとか忘れようってのも、間違ってる気がする。
自分の本当の気持ちに正直になるなら、坂下くんは諦める。
最初からなかった。
快斗のことはまだ始まってもないし、好きかと聞かれたら正直「好き」ではないから、もし告ってきたらお断りする。
てか、せっかく出来た友達との友好関係を壊したくないから、告られない程度の距離を確実に保って「友達」を継続する。
コレだ。
完璧。
自分の行動方針が決まったら、スッキリした。
これでもう悩みは解決、問題なし。
久しぶりに晴れやかな気分で、放課後の席を立つ。
帰ろうと思った瞬間、館山さんと目が合った。
「あ、あのね、持田さん。ちょっとお願いがあるんだけど……」
クラスイチの美少女にお願いされて、誰が断れるっていうんだろう。
彼女から声をかけてくるなんて珍しいと思ったけど、私は素直に応えた。
「なに? どうしたの? 館山さんのお願いなら、なんでも聞いちゃう」
「本当? あ、あのね……」
彼女の白い頬が、鮮やかなピンク色に染まる。
黒く潤んだ瞳で見つめられると、私だってメロメロになっちゃうのは、もう仕方ないでしょ。
「い、一緒に、カラオケ行ってくれるかな!」
「カラオケ? 今から二人で?」
「二人が無理なら、坂下くんと三人でなんてどう?」
いや、それはもっと無理ですけど?
「あ、じゃあ私、坂下くん呼んでくるね」
ピュアな笑顔でそう言われて、断る隙もなかった。
いや、何でも聞くって言ったけど、さすがにそれはちょっと無理。
「うわ。館山さん、本当に持田さん誘ったの?」
久しぶりに目があった。
直接声を聞くのも久しぶり。
ほんの数日前によく分からない別れ方をして以来、たまに送られて来ていたメッセージもスタンプだけの挨拶も、一切のやりとりはなくなってしまった。
それなのにこんな形で顔を合わすなんて、なんだか気まずい。
「そりゃ、俺と館山さんの二人よりかはマシだけど……」
「だから、誰がいいかなって」
「だったら、古山さんか橋本たちでよくない?」
そうだよ。
そのメンバーだったら、いつもの優等生仲良し軍団だし。
私が入る必要ないよね。
「あ。じゃあそっちで行ってもらうってことで。私はまた……」
「ダメ!」
彼女の細い手が、ぎゅっと私の腕にしがみついた。
「持田さんが一緒じゃなきゃ、ダメなの!」
「え? なんで?」
「持田さんお願い!」
「あ……。はい。分かりました」
そんな必死なお願い、断れるワケがない。
坂下くんも困った顔してるけど、これは他でもない館山さんのお願いなんだから、仕方がない。
「あのさ、カラオケはまた今度にしない? 私、いまちょっと喉の調子がおかしくて、風邪気味なんだよね。どっかでお茶くらいなら出来ると思うけど」
ウソだけど。
純粋で疑うことを知らない館山さんは、私の言葉を素直に受けいれて考え始めた。
「じゃあ、ドーナツ屋さんでいい? 私、時々あそこになら行くの。あんまり長居はしないようにするから」
「うん。そっちにしようか」
その方が助かる。
坂下くんをチラリと見上げたら、彼も同意したようにうなずいた。
「ありがとう。カラオケは、また今度にしよう」
「う、うん」
館山さんだけが、すごく残念そうだ。
駅前のそのドーナツ屋さんなら、近くにある駐輪場が空いてることが多いんだって。
一時間100円の、ここら辺じゃ一番安いやつなんだって。
自転車を取ってくるという館山さんを、坂下くんと二人校門の前で待つ。
どうしようとかやだなーとか、帰りたいとか思いつつ、彼の隣に居られることをどこかで喜んでいる自分がいる。
館山さんありがとう。
ズルいよね。
でも彼女のおかげで話せてうれしかったし、またこうして一緒に帰るきっかけが出来て、ちょっぴり感謝してる。
「お待たせ」
自転車を押してきた彼女は、息を切らせながらスッと私の隣に並んだ。
急いで戻って来たのかな。
だけど彼女が並ぶべきなのは、坂下くんの隣じゃない?
チラリと彼の様子が気になってその横顔をうかがってみたけど、全く気にしてないみたい。
二人は歩き出す。
おかげで私は、この二人に挟まれることになってしまった。
なにこの状況。
どうして私が真ん中?
ここは坂下くんの役目でしょ。
両手に花的な?
あ、片方は花でもないってこと?
優等生真面目コンビニ挟まれた私は、歩いて15分足らずの道のりを、二年になって最初の期末試験の話題でやり過ごした。
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる