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第6章
第6話
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あの人はとても明るくて活発で、私以上にお転婆で侍女たちの手を煩わすような人だった。
自分の感情に真っ直ぐで、気に入らない野菜のスープが出てくれば、皿ごと床に投げつけていたし、王女という立場を利用して、世界中を見て回るのが夢だとも話していた。
将来は魔物を狩るハンターズギルドを自分で作り、全てを狩り尽くしてやるとまで言っていた。
好き勝手に振る舞うミレイアお姉さまに、エマお姉さまはいつも困っていたし、私はただ呆然と見ているだけしか出来なかった。
「エマさま以上の、魔力の持ち主だったらしいね」
「そうよ。お姉さまが樹液の欠片に触れるのを初めて見た時の、あの光景が忘れられませんの。真昼だったのに周囲が暗く感じるほど光ったのよ」
部屋の中に、もう一つ別の太陽が現れたようだった。
凶暴なほど強い光が、周囲の人間の目まで眩ませてしまった。
「おかげで誰も、彼女のわがままを止められなかったんだろ?」
エマお姉さまは、今も悔やんでおいでなのだ。
あの自由闊達だったお姉さまのことを。
「聖堂の、多くの聖女たちからも心配されていました。世界樹の管理を司る神官たちからもです。その頃はまだ聖女見習いとしてこの聖堂で学んでいたエマお姉さまも、止めたのだけれど……」
たった一度。
たった一度だけのことだった。
自分も祈ると言って、まだ11歳のミレイアお姉さまが、世界樹の前にひざまずいた。
聖女たちに混ざり、普通に祈り終えたかと思った瞬間、彼女の体は砂の山が崩れ落ちるようにその場に倒れたそうだ。
「……。時折、報告される内容だ。強すぎる魔力を持つ者は、一瞬にして生気を奪われると」
祈っていた時間は、5分もなかったという。
世界樹の前にひざまずく数分前まで、王城の庭で泥だらけになって走り回っていたお姉さまが、もう息をしていなかった。
怒った父は、城内にあった世界樹を守る神官たちを全て追い払い、エマお姉さまのいた聖堂だけが残った。
「日頃の振る舞いが……。それほどよくはなかったから、神の怒りに触れたとまで言われたのよ。だけど、そんなことがあるわけない」
ミレイアお姉さまの死は、城内での事故死とされた。
エマお姉さま以上に、聖女としての役割を期待されていたのに。
いつも優しいお姉さまが、父である王に食ってかかり、一時期は王命で自室に幽閉までされていた。
誰も何も悪くない。
それはみんな分かっているのに……。
「エマさまは、『本当は私もルディも、世界樹のことが嫌いなの』とおっしゃっていたよ」
「そうね。本当は大嫌いよ」
忘れていた涙が滲み出す。
それでも私は、自由なミレイアお姉さまに、心の底では憧れていたのだ。
あんな風に振る舞えたら、どれだけいいだろうかと。
「私には、どうあがいたって聖女にはなれない。だからその代わりに、数多くの聖女を送り出すことに決めたの。あの可哀想なお姉さまみたいな人を、もう見たくはないの」
エマお姉さまは、お父さまの反対を押し切って聖女となる道を選んだ。
自分の進むべき道を、自分で選んだんだ。
自分の妹を守れなかったことを、救えなかったことを抱え込んだまま。
「エマお姉さまは私におっしゃったの。ルディが聖女じゃなくてよかったって。だけど私は、そのことをありがたいと思ったことなんて、一度もないわ」
だからこの灰色の制服に誓う。
聖女でなくとも、聖女であれと。
「君たちは、とても強いんだね」
リシャールの手が伸び、私の頬に触れようとして、動きを止めた。
代わりに耳元に挿したロネの花を指先で撫でる。
「なぁ、少し歩かないか」
「どこへ?」
「散歩だよ」
窓の外には、すっかり午後の日差しとなった緩やかな光りがさしていた。
「結局俺は、君に城内を案内してもらっていないのだが?」
「そんなお約束、いつしましたっけ」
「とぼけるなんて、君らしくないじゃないか」
そんなふうにフッと斜めに構えて煽られたら、行かないわけにはいかない。
「まぁ、少しだけならよろしくてよ」
書斎を出る。
すれ違う灰色のワンピースの乙女たちはスカートの裾を持ち上げると、片膝を曲げて私たちに礼をした。
それににこやかに応えながら、聖堂を後にする。
「どこを案内すればよろしくて?」
「そうだな。いつも君が通る道とか?」
「そんな所が知りたいのですか?」
「別に。君と歩くなら、どこだっていいんだ」
そんなことを言われても、城内をただ並んで歩いて、なにが楽しいのだろう。
聖堂から続く緩やかな芝生の小道を渡りきり、城の中に入った。
石造りの回廊を、彼はゆったりとした歩調のまま私の隣を歩いている。
「城内は、全てよく知った場所ですわ」
高い城壁に囲まれた一つの街のような城で、私は生まれ育った。
城の中のことなら、知らない場所はない。
「この廊下は、城でも1、2番に広い廊下なの」
「あぁ」
話しかけてもろくに返事もせず、本当に私について来るだけだ。
案内しようにも、どこをどう案内していいのか分からない。
「ねぇ、どこか行きたいところや、見たいところはないの?」
「だったら、ぐるりと城内を一周しよう。君の行きたいところでかまわない」
だから、私の行きたいところなんてないのに。
困ってしまい立ち止まると、彼も一緒に立ち止まった。
穏やかな表情を変えることなく、じっと私を見下ろす。
どうしようかとチラリと見上げたら、彼は私にしか分からないほど微かな笑みを浮かべた。
自分の感情に真っ直ぐで、気に入らない野菜のスープが出てくれば、皿ごと床に投げつけていたし、王女という立場を利用して、世界中を見て回るのが夢だとも話していた。
将来は魔物を狩るハンターズギルドを自分で作り、全てを狩り尽くしてやるとまで言っていた。
好き勝手に振る舞うミレイアお姉さまに、エマお姉さまはいつも困っていたし、私はただ呆然と見ているだけしか出来なかった。
「エマさま以上の、魔力の持ち主だったらしいね」
「そうよ。お姉さまが樹液の欠片に触れるのを初めて見た時の、あの光景が忘れられませんの。真昼だったのに周囲が暗く感じるほど光ったのよ」
部屋の中に、もう一つ別の太陽が現れたようだった。
凶暴なほど強い光が、周囲の人間の目まで眩ませてしまった。
「おかげで誰も、彼女のわがままを止められなかったんだろ?」
エマお姉さまは、今も悔やんでおいでなのだ。
あの自由闊達だったお姉さまのことを。
「聖堂の、多くの聖女たちからも心配されていました。世界樹の管理を司る神官たちからもです。その頃はまだ聖女見習いとしてこの聖堂で学んでいたエマお姉さまも、止めたのだけれど……」
たった一度。
たった一度だけのことだった。
自分も祈ると言って、まだ11歳のミレイアお姉さまが、世界樹の前にひざまずいた。
聖女たちに混ざり、普通に祈り終えたかと思った瞬間、彼女の体は砂の山が崩れ落ちるようにその場に倒れたそうだ。
「……。時折、報告される内容だ。強すぎる魔力を持つ者は、一瞬にして生気を奪われると」
祈っていた時間は、5分もなかったという。
世界樹の前にひざまずく数分前まで、王城の庭で泥だらけになって走り回っていたお姉さまが、もう息をしていなかった。
怒った父は、城内にあった世界樹を守る神官たちを全て追い払い、エマお姉さまのいた聖堂だけが残った。
「日頃の振る舞いが……。それほどよくはなかったから、神の怒りに触れたとまで言われたのよ。だけど、そんなことがあるわけない」
ミレイアお姉さまの死は、城内での事故死とされた。
エマお姉さま以上に、聖女としての役割を期待されていたのに。
いつも優しいお姉さまが、父である王に食ってかかり、一時期は王命で自室に幽閉までされていた。
誰も何も悪くない。
それはみんな分かっているのに……。
「エマさまは、『本当は私もルディも、世界樹のことが嫌いなの』とおっしゃっていたよ」
「そうね。本当は大嫌いよ」
忘れていた涙が滲み出す。
それでも私は、自由なミレイアお姉さまに、心の底では憧れていたのだ。
あんな風に振る舞えたら、どれだけいいだろうかと。
「私には、どうあがいたって聖女にはなれない。だからその代わりに、数多くの聖女を送り出すことに決めたの。あの可哀想なお姉さまみたいな人を、もう見たくはないの」
エマお姉さまは、お父さまの反対を押し切って聖女となる道を選んだ。
自分の進むべき道を、自分で選んだんだ。
自分の妹を守れなかったことを、救えなかったことを抱え込んだまま。
「エマお姉さまは私におっしゃったの。ルディが聖女じゃなくてよかったって。だけど私は、そのことをありがたいと思ったことなんて、一度もないわ」
だからこの灰色の制服に誓う。
聖女でなくとも、聖女であれと。
「君たちは、とても強いんだね」
リシャールの手が伸び、私の頬に触れようとして、動きを止めた。
代わりに耳元に挿したロネの花を指先で撫でる。
「なぁ、少し歩かないか」
「どこへ?」
「散歩だよ」
窓の外には、すっかり午後の日差しとなった緩やかな光りがさしていた。
「結局俺は、君に城内を案内してもらっていないのだが?」
「そんなお約束、いつしましたっけ」
「とぼけるなんて、君らしくないじゃないか」
そんなふうにフッと斜めに構えて煽られたら、行かないわけにはいかない。
「まぁ、少しだけならよろしくてよ」
書斎を出る。
すれ違う灰色のワンピースの乙女たちはスカートの裾を持ち上げると、片膝を曲げて私たちに礼をした。
それににこやかに応えながら、聖堂を後にする。
「どこを案内すればよろしくて?」
「そうだな。いつも君が通る道とか?」
「そんな所が知りたいのですか?」
「別に。君と歩くなら、どこだっていいんだ」
そんなことを言われても、城内をただ並んで歩いて、なにが楽しいのだろう。
聖堂から続く緩やかな芝生の小道を渡りきり、城の中に入った。
石造りの回廊を、彼はゆったりとした歩調のまま私の隣を歩いている。
「城内は、全てよく知った場所ですわ」
高い城壁に囲まれた一つの街のような城で、私は生まれ育った。
城の中のことなら、知らない場所はない。
「この廊下は、城でも1、2番に広い廊下なの」
「あぁ」
話しかけてもろくに返事もせず、本当に私について来るだけだ。
案内しようにも、どこをどう案内していいのか分からない。
「ねぇ、どこか行きたいところや、見たいところはないの?」
「だったら、ぐるりと城内を一周しよう。君の行きたいところでかまわない」
だから、私の行きたいところなんてないのに。
困ってしまい立ち止まると、彼も一緒に立ち止まった。
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