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第7章
第1話
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聖騎士団の立派な馬車に揺られ、俺たちはグレティウスへ向かっている。
「あははは! 聖騎士団の馬車に乗るのは、これで二回目だよなぁ、なぁナバロ!」
ディータは上機嫌で、俺の背中をバシバシと叩く。
フィノーラは初めてなのか、少し緊張気味だ。
「あんたは何度も乗ってんじゃないの?」
「ディータ! 君は聖騎士団の関係者だったのか?」
驚くイバンに、フィノーラは腹を抱えて笑い出す。
「関係者もなにも、連行されてく専門だけどねぇ!」
昨日まで乗っていた、木箱同様の駅馬車とは大違いだ。
革張りのベンチに、車体にはクッションがついている。
車内における荷物置き場もあれば、小物入れまであって、個別に仕切れるカーテンもついていた。
しかも乗客は俺たち四人だけときたもんだから、やりたい放題だ。
「俺は捕まりたくて、捕まってたんじゃねぇよ!」
フィノーラは笑い転げ、イバンは頭を抱えて、ため息をつく。
「ルーベンを出てから、君たちは一体、何をやっていたんだ……」
「ま、とにかくあんたがいま、休暇中で助かったぜ」
「職場復帰したら、驚くかもよ~」
イバンはもう、色々と考えることを諦めたらしい。
「少し眠ろう。明日の昼前には、グレティウスに到着するはずだ」
石畳の、とても丁寧に整備された街道を進む。
イバンの言った通り、車内がムッと暖まってくる頃には、窓の風景が変わり果てていた。
「起きろ、ナバロ。これがグレティウスだ」
その街の大きさに、俺は目を見張った。
急斜面いっぱいに、ぎゅうぎゅうと細い三角屋根の、赤や青、色とりどりの塔が建ち並ぶ。
みんな魔道士特有の家の作りだ。
かまどで煮立った薬草スープが、あちこちで煙を上げている。
壁や路上を問わず、そこかしこに魔方陣が描かれ、俺と同じくらいの子供が、魔法の練習をしていた。
火を吹き、水を泳がせ、風に乗り空を飛んでいる。
あちこちから魔法の匂いがした。
これでは気配もなにも、まるで分からない。
高価なはずの魔法石の結晶が、飾り物のように彫刻され、それはまるで生きているかのように動いていた。
「あんな魔法、どうやって仕掛けたんだ?」
「ここが、かつて恐怖と死の大地だった、大魔王の王城跡だとは思えないだろ? 大魔道士エルグリムの残した魔力の結晶が、あちこちに残っているんだ」
ディータはその目を輝かせていた。
「それを掘り出して、加工している。ヤツの犯した罪は大きいが、残した功績もでかい」
「そんなことを言ってる魔道士は、お前ぐらいじゃないのか。ディータ」
イバンの目が光った。
「ここではその名を口にするな。禁句だ」
「関係ないね。死んだヤツに、なにが出来る」
「まだ中央議会は、死んだと認めていない。正式な処刑発表が出るまで、ヤツは生きている」
「フン。だから再びこの地に現れる前に、見つけ出して先に奪っちまおうっていうんだろ? エルグリムの悪夢、大魔王の力の結晶を!」
ごちゃごちゃとしたカラフルな街並みの向こうに、真っ黒な巨城がそびえ立つ。
「それって、盗賊のやってることと、同じじゃねぇのか?」
「グレティウス産の魔法石は、とても質がいいもの」
フィノーラはため息をつく。
「人間だったエルグリムが、魔法石から魔力に変化させたものだもの。そりゃ他の魔道士たちにとっても、使いやすいし馴染みもいいわ。めちゃくちゃ高いけど」
「しかもエルグリム本人の力で、磨き上げられている。精製される精度が違うんだ。未だにそれを越えることは、誰も出来ない。その遺産を掘り出して売った金で、この街がこれだけ発展したんだ。しかもその売り上げの一部は、中央議会の懐に入り込む」
「結局、やってることは、魔王とほとんど変わらないじゃない」
「それは違う。それは違うぞ、フィノーラ」
イバンはゆっくりと口を開いた。
「俺たちはもう二度と、魔王の復活を望まない。だからこうして分け合い、助け合うんだ」
「ユファがそうなる可能性は?」
フィノーラの言葉に、イバンは彼女をギロリとにらみつけた。
慌てたディータが間に入る。
「まぁまぁ落ち着けって。俺たちは悪夢を探しに来た。それだけだ。な、そうだろ?」
「世界の平和と安全のために」
「そんなもの、ぶち壊してやるわ。もう誰にも世界を、好き勝手させない」
「だってさ、ナバロ」
ディータは俺を抱き寄せる。
「まぁ見とけって。もう二度と、お目にかかれない光景かもしれないぞ」
気分が悪くなるほど、平和な光景だ。
ここにはこんな、のどかな風景は似合わない。
俺の居た場所だ。
街に入ってから、あらゆるところにかけられている魔除けの結界が強い。
このままでは俺の身が溶けそうだ。
身を守る魔法をかける。
馬車が止まった。
聖騎士団本部は、魔王城入り口の、すぐ脇に建てられていた。
実に不愉快かつ皮肉なものだな。
こんなものが、あの美しかった庭園を破壊し、その後に建てられたのか。
俺たちは手続きを済ますと、本部奥にある宿舎に案内された。
「今夜はここで、ゆっくり休んでくれ。明日は早朝からガイダンスがある。その後、携帯品と武器の支給を受けたら、さっそく探索の始まりだ」
朝になり、大会議室に集められた俺たちは、悪夢捜索に当たっての、丁寧な説明と注意事項を受けた。
エルグリム復活の兆を受けた中央議会の方針により、エルグリム本人の捜索と、悪夢の安全確保が最優先課題となっているらしい。
「フン。ここじゃ『悪夢』じゃなくて、『残余』と言わせるんだな」
ディータは鼻で笑った。
「間違った表現ではないだろう。ある意味、それは奴の片割れであり体の一部だ」
「つまり、それが残っている限り、魔王の復活はあり得るってことなんでしょ。だったら活用だとか何とか言ってる前に、さっさと壊せばいいのよ」
「金になるって分かったからね。この街の発展を見てみろよ。魔王の残した金塊で、大もうけだ。この残余って、後で復活した大王に、返せとか訴えられねぇのかな」
「魔物たちに能力を分け与えていた方法が、これに近いものだったようだ。他者に能力を分け与え、支配する。最低なやり方だな」
「別にいいじゃねぇか。能力だろうがカネだろうが、やってることは俺たちと変わりねぇ。それでイイ思いしてる人間がいるってだけだろう。今も昔も」
そう言ったディータを、イバンはギロリとにらむ。
「それは、中央議会への批判か?」
「イんや! 俺は自分が楽しけりゃ、後はどうだっていいんだ。常に強い方、勝ってる方につく。それだけだ」
「行くぞ。ナバロ」
イバンは立ち上がった。
俺の肩に一度手を置いてから、先に歩き出す。
いつの間にかガイダンスは終了し、支給武器の受け取りのために、人が流れ始めていた。
「あははは! 聖騎士団の馬車に乗るのは、これで二回目だよなぁ、なぁナバロ!」
ディータは上機嫌で、俺の背中をバシバシと叩く。
フィノーラは初めてなのか、少し緊張気味だ。
「あんたは何度も乗ってんじゃないの?」
「ディータ! 君は聖騎士団の関係者だったのか?」
驚くイバンに、フィノーラは腹を抱えて笑い出す。
「関係者もなにも、連行されてく専門だけどねぇ!」
昨日まで乗っていた、木箱同様の駅馬車とは大違いだ。
革張りのベンチに、車体にはクッションがついている。
車内における荷物置き場もあれば、小物入れまであって、個別に仕切れるカーテンもついていた。
しかも乗客は俺たち四人だけときたもんだから、やりたい放題だ。
「俺は捕まりたくて、捕まってたんじゃねぇよ!」
フィノーラは笑い転げ、イバンは頭を抱えて、ため息をつく。
「ルーベンを出てから、君たちは一体、何をやっていたんだ……」
「ま、とにかくあんたがいま、休暇中で助かったぜ」
「職場復帰したら、驚くかもよ~」
イバンはもう、色々と考えることを諦めたらしい。
「少し眠ろう。明日の昼前には、グレティウスに到着するはずだ」
石畳の、とても丁寧に整備された街道を進む。
イバンの言った通り、車内がムッと暖まってくる頃には、窓の風景が変わり果てていた。
「起きろ、ナバロ。これがグレティウスだ」
その街の大きさに、俺は目を見張った。
急斜面いっぱいに、ぎゅうぎゅうと細い三角屋根の、赤や青、色とりどりの塔が建ち並ぶ。
みんな魔道士特有の家の作りだ。
かまどで煮立った薬草スープが、あちこちで煙を上げている。
壁や路上を問わず、そこかしこに魔方陣が描かれ、俺と同じくらいの子供が、魔法の練習をしていた。
火を吹き、水を泳がせ、風に乗り空を飛んでいる。
あちこちから魔法の匂いがした。
これでは気配もなにも、まるで分からない。
高価なはずの魔法石の結晶が、飾り物のように彫刻され、それはまるで生きているかのように動いていた。
「あんな魔法、どうやって仕掛けたんだ?」
「ここが、かつて恐怖と死の大地だった、大魔王の王城跡だとは思えないだろ? 大魔道士エルグリムの残した魔力の結晶が、あちこちに残っているんだ」
ディータはその目を輝かせていた。
「それを掘り出して、加工している。ヤツの犯した罪は大きいが、残した功績もでかい」
「そんなことを言ってる魔道士は、お前ぐらいじゃないのか。ディータ」
イバンの目が光った。
「ここではその名を口にするな。禁句だ」
「関係ないね。死んだヤツに、なにが出来る」
「まだ中央議会は、死んだと認めていない。正式な処刑発表が出るまで、ヤツは生きている」
「フン。だから再びこの地に現れる前に、見つけ出して先に奪っちまおうっていうんだろ? エルグリムの悪夢、大魔王の力の結晶を!」
ごちゃごちゃとしたカラフルな街並みの向こうに、真っ黒な巨城がそびえ立つ。
「それって、盗賊のやってることと、同じじゃねぇのか?」
「グレティウス産の魔法石は、とても質がいいもの」
フィノーラはため息をつく。
「人間だったエルグリムが、魔法石から魔力に変化させたものだもの。そりゃ他の魔道士たちにとっても、使いやすいし馴染みもいいわ。めちゃくちゃ高いけど」
「しかもエルグリム本人の力で、磨き上げられている。精製される精度が違うんだ。未だにそれを越えることは、誰も出来ない。その遺産を掘り出して売った金で、この街がこれだけ発展したんだ。しかもその売り上げの一部は、中央議会の懐に入り込む」
「結局、やってることは、魔王とほとんど変わらないじゃない」
「それは違う。それは違うぞ、フィノーラ」
イバンはゆっくりと口を開いた。
「俺たちはもう二度と、魔王の復活を望まない。だからこうして分け合い、助け合うんだ」
「ユファがそうなる可能性は?」
フィノーラの言葉に、イバンは彼女をギロリとにらみつけた。
慌てたディータが間に入る。
「まぁまぁ落ち着けって。俺たちは悪夢を探しに来た。それだけだ。な、そうだろ?」
「世界の平和と安全のために」
「そんなもの、ぶち壊してやるわ。もう誰にも世界を、好き勝手させない」
「だってさ、ナバロ」
ディータは俺を抱き寄せる。
「まぁ見とけって。もう二度と、お目にかかれない光景かもしれないぞ」
気分が悪くなるほど、平和な光景だ。
ここにはこんな、のどかな風景は似合わない。
俺の居た場所だ。
街に入ってから、あらゆるところにかけられている魔除けの結界が強い。
このままでは俺の身が溶けそうだ。
身を守る魔法をかける。
馬車が止まった。
聖騎士団本部は、魔王城入り口の、すぐ脇に建てられていた。
実に不愉快かつ皮肉なものだな。
こんなものが、あの美しかった庭園を破壊し、その後に建てられたのか。
俺たちは手続きを済ますと、本部奥にある宿舎に案内された。
「今夜はここで、ゆっくり休んでくれ。明日は早朝からガイダンスがある。その後、携帯品と武器の支給を受けたら、さっそく探索の始まりだ」
朝になり、大会議室に集められた俺たちは、悪夢捜索に当たっての、丁寧な説明と注意事項を受けた。
エルグリム復活の兆を受けた中央議会の方針により、エルグリム本人の捜索と、悪夢の安全確保が最優先課題となっているらしい。
「フン。ここじゃ『悪夢』じゃなくて、『残余』と言わせるんだな」
ディータは鼻で笑った。
「間違った表現ではないだろう。ある意味、それは奴の片割れであり体の一部だ」
「つまり、それが残っている限り、魔王の復活はあり得るってことなんでしょ。だったら活用だとか何とか言ってる前に、さっさと壊せばいいのよ」
「金になるって分かったからね。この街の発展を見てみろよ。魔王の残した金塊で、大もうけだ。この残余って、後で復活した大王に、返せとか訴えられねぇのかな」
「魔物たちに能力を分け与えていた方法が、これに近いものだったようだ。他者に能力を分け与え、支配する。最低なやり方だな」
「別にいいじゃねぇか。能力だろうがカネだろうが、やってることは俺たちと変わりねぇ。それでイイ思いしてる人間がいるってだけだろう。今も昔も」
そう言ったディータを、イバンはギロリとにらむ。
「それは、中央議会への批判か?」
「イんや! 俺は自分が楽しけりゃ、後はどうだっていいんだ。常に強い方、勝ってる方につく。それだけだ」
「行くぞ。ナバロ」
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