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想
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兄さんたちに頭を下げて踵を返そうとした瞬間、僕は那津彦兄さんに抱き寄せられた。
「行くな!」
強く抱き締められてもがく僕は突然、唇を塞がれた。僕は…那津彦兄さんにキスされていた。涙が溢れた。那津彦兄さんは…多分、僕の気持ちを知ってるんだ。僕がいなくなったらきっと神林の両親は兄さんたちを責める。僕を引き留めるには、これが一番良い方法だって思ったんだろう。
「僕は汚いから…そんな事をしないで」
放れて行く唇を見詰めながら僕はそう呟いた。
「お前は汚れてなんかいない」
そう言って今度は幸彦兄さんが僕にキスした。
「葉月…出て行くな…ここにいてくれ」
「大丈夫だよ、お母さんとお父さんにはちゃんと説明しておくから」
涙は止まらない。だけど言葉を懸命に紡いだ。
「奴の所へ行くのか!?」
那津彦兄さんが肩を掴んで言った。
「別に…行きたいわけじゃないから…行かない」
「ここにいろ!」
「どうして…?母さんたちにはちゃんと説明しておくって言ってるのに」
代わる代わる引き止める、兄さんたちの真意がわからない。
「お前を愛しているからに決まってるだろ!」
那津彦兄さんが叫んだ。本当に優しい兄さんたちだ。僕にまだそんな言葉をくれる。でも僕の歪んだ想いを知ったらきっとそれも消える。
ああ、そうか。本当の気持ちを言えば良いんだ。きっと気持ち悪いって思って、僕を引き止めるのをやめてくれる筈。
なんだ、簡単じゃないか。この恋心が兄さんたちに嫌われる方法になる。なんて皮肉何だろう?でも僕にはそれしか、もう方法がわからない。
「幸彦兄さん…那津彦兄さん…僕も…兄さんたちが好きだよ。でもそれは弟としてじゃない。僕は…兄さんたちのどちらにも恋してる。男なのに兄さんたちに欲情するんだ。僕は…一人でする時、いつも兄さんたちに触れられるのを想像するんだ」
「葉月…」
「葉月…」
兄さんたちは茫然としてる。弟にこんな欲望を持たれただけでも普通は気持ち悪い筈だ。それなのに二人一緒に好きだなんて……有り得ないよね?
「ずっと…僕はそんな事を考えて、兄さんたちと一緒に生活してたんだ」
僕を抱き締めてた幸彦兄さんの手も、僕の腕を掴んでいた那津彦兄さんの手も、力なく僕から離れた。
言ってしまった……引き止める兄さんたちを離す為だとはいえ、僕の心は傷口から鮮血が溢れ出していた。もう少し…もう少しの辛抱だ。ここを出てこの身体と一緒に心も終わる。僕という存在が消えれば苦しみも痛みもなくなる筈。
「ごめんなさい…こんな気持ち悪い人間で…」
涙が止まらないのに僕の顔は無表情だと何となくわかる。元から壊れていた僕の心。兄さんたちを恋愛の対象として欲しがる心があの事でもっと壊れた。だから全部壊してしまう。
僕はゆっくりと兄さんたちたちから退いた。
「ごめんなさい……さようなら」
悲しくて痛くて仕方ないのに、僕は涙を流す事しか出来ない。荷物は那津彦兄さんに取り上げられたままだ。あってもなくても良いものだからこのまま行ってしまおう。
「葉月…何処へ行くつもりだ!?」
幸彦兄さんが叫んだ。僕は振り返らずに答えた。
「僕を壊せる場所」
僕はもう人間じゃない。穢らわしい動く人形だ。廃棄こそ相応しい。ドアに向かって一歩踏み出した瞬間、僕は幸彦兄さんに捕まえられていた。
「僕に触ると汚いよ」
「剛山が犯人ならば…お前をあんな目に合わせてしまったのは、俺の責任だ」
「違うよ、幸彦兄さん。あれは天罰なんだ。汚らしい欲望を持ってしまった僕に神さまが下した罰なんだ。だから幸彦兄さんは悪くないよ」
僕が生きているのはきっと最後の審判は、自分で付けなければならないからだ。
「葉月、さっきの話は本当か?」
「どの話?」
振り払えないから答えるしかない。
「俺たちを好きだという話だ」
「嘘を言って何になるの?」
嘘にしてなかった事には出来ない。僕はもう自分の気持ちに嘘を吐いて弟でいるのにも疲れた。
「葉月、聞いてくれ。俺たちがお前に距離を取ったのは、俺たちも同じ気持ちだったからだ」
「何の事?」
僕には幸彦兄さんの言葉の意味がわからない。
「俺も幸彦兄さんも、お前を恋愛感情で愛してるんだ」
那津彦兄さんの声が響いた。
「え?」
僕は振り返って彼の顔を見た。
「兄さんも俺も、お前を傷付けたくないからお互いに話し合った。お前が望み続ける限り兄でいようと」
「だが俺たちも人間だ。お前を抱き締めたい。自分のものにしたい。そんな欲望があった」
「だから必要以上に近付かない…触れないように気をつけた。欲望のままにお前を傷付けないように」
嘘だ…嘘だ…嘘だ…
「嘘だ…兄さんたちは僕が白鷺に進学するのを嫌がったじゃないか!」
「白鷺は…伝統的に同性での性的トラブルが多いんだ。それを俺たちは心配した」
幸彦兄さんの答えに少し心が揺らめいた。でももう一つ僕には疑問がある。
「あの日…僕が帰って来たのは日付が変わる時間だった。携帯は壊されたから繋がらなかったのはわかる。でも兄さんたちは心配もしてなかった」
あの日、玄関を開けて入った時、家の中は静かだった。僕を誰も待ってはいなかった。
「それは…」
「お前からメールがあった」
言い淀んだ幸彦兄さんに代わって、津彦兄さんが言った。
「兄さんの携帯にお前の携帯から、友だちの家に泊まるってメールが来たんだ」
「僕には泊まりに行くような友だちはいない」
でも確か…僕は適当にそれをごまかしてた。
「あの夜、たまたま麦茶を飲みに起きた那津彦がシャワーの音を聞いたんだ」
僕を見付けたのは那津彦兄さんだったのか。
「許してくれ…葉月…」
「誰も悪くない…あれはやっぱり天罰だったんだ」
「違う!そんな風に思うのはやめろ!」
那津彦兄さんはそう言って僕に駆け寄って抱き締めた。
「行くな、葉月…お前がいなくなったら、俺と那津彦はどうやって生きれば良い?」
「お前も同じ気持ちでいてくれるなら、どちらかを選ばなくても良い!」
「俺たちの想いを受け入れてくれ…」
「お前の気持ちは…もう受け入れたから」
「幸彦兄さん…那津彦兄さん…」
僕はどうしたら良いんだろう。望み通りにすれば良いんだろうか?
でも……
「僕はもう汚いから…無理だよ」
あんな事が起こる前に聞きたかった。でも時間は遡れない。
「汚くなんかない!」
「どうしてもそう思えるなら…今から俺と那津彦が清めてやる」
「え?」
次の瞬間、僕は幸彦兄さんに抱き上げられていた。そのまま幸彦兄さんの部屋へ運ばれ、ベッドの上に下ろされた。すぐに幸彦兄さんがキスをして来た。僕の唇を開かせて舌先が入って来た。
「ン…ンン…」
気持ちイイ……キスってこんなにゾクゾクするもんなんだ。その間に幸彦兄さんが僕の衣類を剥ぎ取ってしまった。
「クーラー、強くないか?」
「大丈夫…ひんやりして気持ち良い…」
僕を真ん中にして両側から兄さんたちが髪を優しく撫でてくれる。
「幸彦兄さん…キスして…」
那津彦兄さんがしてくれたような、濃いキスを幸彦兄さんにもして欲しかった。ゆっくりと幸彦兄さんの顔が近付いて来る。僕は少し唇を開いて待った。
「ン…ンン!」
いきなり那津彦兄さんが僕の耳朶を噛んだ。ゾクゾクとした感覚が背中を走り、僕は腰を揺らしてしまう。
兄さんたちは僕があの事件を思い出してしまわないように、優しく身体中に繰り返しキスしていく。
もどかしくて…熱い時間だった。やがて那津彦兄さんの唇が僕の隠れた部分に移動した。両脚を抱えられて白日の元にソコがさらされる。
あの日、あいつらに引き裂かれた部分が。僕のソコは無惨な裂傷を負ったらしい。らしい…というのは聞かされただけで怖くて、確認出来なかったからだ。
あの夜、シャワーの水に混じって流れた鮮血は、ここからの出血だったそうだ。もちろん縫合した傷は完治してる。でもきっと…傷痕は無惨なままだ。
那津彦兄さんと一緒に幸彦兄さんもソコを覗き込んでいた。僕は悲しくて辛くて両手で顔を覆った。
「何て惨い事を…」
「可哀想に…」
兄さんたちは言葉の後、代わる代わるソコにキスした。そのキスに感じてしまい、抱えられた爪先がピクピクと痙攣した。那津彦兄さんがそのままソコを舐めた。
「ヤッ…!」
「怖い?」
僕の頭を抱いて幸彦兄さんが囁く。怖くはない。恥ずかしいだけ……僕は首を振って消え入りそうな声で答えた。
「可愛い…葉月…」
「ン…あン…ヤ…ああ…」
那津彦兄さんの舌先が、僕の傷付いた蕾の中へ入って来た。悲鳴を上げそうになった僕を幸彦兄さんの声が慰撫する。
「葉月…大丈夫だから…俺たちはお前を傷付けるような事はしないから」
僕は嬌声を漏らしながらその言葉に何度も何度も頷いた。
「あッ…やめッ…」
那津彦兄さんの指が僕の体内に入れられ、快感に蜜液を垂らしているモノをゆっくりと舐めあげられた。
「大丈夫だから…葉月をちゃんと愛してあげる為だからね」
幸彦兄さんが僕から離れた。その姿を目で追うと机の引き出しから何かを取り出して来た。
「那津彦、これを使え」
「了解」
「何?」
「ローションだ。お前の身体が傷付かない ようにする」
幸彦兄さんはそう言って僕の上半身を起こした。そのまま僕の後ろに入って抱き締めてくれる。幸彦兄さんと僕のドキドキが重なり合う。
那津彦兄さんの指がローションに濡れて僕の中へ入って来た。
「ン…あ…ンぁ…」
身体が更に熱くなって来た。僕が不安に身を震わせると幸彦兄さんが頭を撫でながら耳に囁いてくれる。
「大丈夫だ…何も怖い事はない。葉月、愛してる」と。
部屋に響く濡れた音が恥ずかしくて僕は顔を覆った。幸彦兄さんがそんな僕の気を散らすように背後から乳首を摘んだ。
「あッ!」
突然の刺激に僕は声をあげて仰け反った。同時に那津彦兄さんの指を締め付けてしまう。すると今度は那津彦兄さんが体内を探りながら僕のモノを口に含んだ。
「や…ああン…それ…ダメぇ…!」
指先が強く感じる部分を探り当て僕は、今まで経験した事がない快感に身を震わせて嬌声を上げ続けた。その間も幸彦兄さんは僕の耳にずっと囁き続けてくれたんだ。
「葉月…愛してる」
「たくさん気持ち良くしてあげるから、怖がらないで」
「感じてる葉月は可愛い」
那津彦兄さんの愛撫が僕の身体を熱くする。幸彦兄さんの言葉が僕の心を震わせる。ずっとずっと……僕が望んでいた事だった。
「好き…好き…」
嬉しくて嬉しくて僕は涙が止まらなかった。
「もう限界だ…」
那津彦兄さんが顔を上げて言う。
「兄さん、俺が先で良いか?」
「ああ」
「サンキュ」
那津彦兄さんは満面の笑顔で立ち上がって服を脱いだ。避妊具を自分のモノに被せローテーションをかけた。
「どうして…?」
男同士なら妊娠はしない。避妊具を必要とする理由が僕にはわからなかった。
「お前の中に不必要な刺激を与えない為だよ。傷は完治している筈だけど用心の為にね」
幸彦兄さんが優しく言ってくれた。僕はしっかりと頷いた。那津彦兄さんは僕の両脚を抱えて、今さっきまで指が入っていた場所に熱いモノをあてがった。
僕の身体を割開いて那津彦兄さんが入って来る。あの日の記憶がフラッシュバックする。身体を引き裂かれた恐怖が蘇る。
「い…や…だ…」
そう呟いた僕を幸彦兄さんが優しく抱き締めた。
「大丈夫だ、那津彦はお前を傷付けたりしない。葉月を愛したいだけだ」
引き裂かれる恐怖に悲鳴を上げて暴れそうになる僕を、幸彦兄さんは抱き締めて囁いてくれる。頭を撫でキスしてくれる。
「葉月、息を吐いて。このままじゃ那津彦が辛いから」
その言葉に顔を上げると那津彦兄さんが、奥歯を噛み締めているのがわかった。
「ごめんなさい…」
僕は自分の事ばかり考えてた。
「葉月が悪いわけじゃないから」
那津彦兄さんが僕にそう言った。
「葉月が我慢出来ないくらいなら、やめるよ?」
ここまで来てやめられる筈がない。僕だって男だからわかる。
「もう…大丈夫…だから続けて…」
僕は両手を那津彦兄さんに差し出した。
「ありがとう、葉月…」
「良い子だ」
兄さんたちの言葉に僕はしっかりと頷いた。
「もう少しだから」
「うん…」
途中まで受け入れた部分はいっぱいいっぱいで、痛みがないと言ったら嘘になる。でも僕が怯えて身体に余計な力を入れると那津彦兄さんが苦しい。僕は幸彦兄さんの手を握って懸命に息を吐く。
「ぅ…あ…」
恐怖が消えたわけじゃない。僕は繰り返し自分に言い聞かせた。僕の中にいるのは那津彦兄さんだ。大好きな兄さんだ。那津彦兄さんは僕を愛してくれてる。これは愛の行為だと。
那津彦兄さんのモノは僕の中を押し開いていく。痛みと圧迫感、でもその熱に僕は確かな喜びを感じていた。
「良い子だ、葉月。よく我慢したな」
幸彦兄さんが僕を強く抱き締めて頬にキスした。それから幸彦兄さんがベッドを降りた。
「那津彦、葉月をたっぷり愛してやれ」
優しい優しい声だった。那津彦兄さんが僕に覆い被さって来た。たっぷりとキスをされた後、那津彦兄さんが動き始めた。
「ン…ああ…ひィ…」
痛みに別の感覚が混じる。
「葉月…葉月…愛してる…」
欲情に掠れた那津彦兄さんの声が僕の奥深くを刺激する。
「あぁ…那津…兄さ…そこ…あン…」
触れ合う肌が温かくて僕は満たされていく。全て失ったと思った絶望はもうどこにもない。
「イイ…ああ…ン…あッ…ダメ…もう…もう…」
「俺もイきそうだ…葉月…」
「那津彦兄さん…イく…ンあッ…ダメぇ…イくゥ…」
全身の熱が集まったような熱と共に僕は激しく吐精していた。那津彦兄さんも同時に達したみたいだった。
那津彦兄さんはしばらく僕の上で脱力した後、僕にキスしてから身体を放した。
「ありがとう、葉月…とってもよかった」
「僕の方こそ…ありがとう…」
那津彦兄さんにそう答えてから、僕はベッドサイドに立っている幸彦兄さんに手を伸ばした。
「幸彦兄さん…僕…幸彦兄さんも欲しい」
二人共欲しい。欲張りだけど僕は幸彦兄さんの熱を体内で感じたいと思った。
「葉月…」
優しい眼差しが迷っている。一度に二人共受け入れて、僕の身体に負担がかかるのを気にしてる。幸彦兄さんはいつもそうやって、僕を大事に大事にしてくれる。僕は少し気怠い身体を起こして、幸彦兄さんのスラックスに手をかけた。
「葉月?」
「幸彦兄さん…大好き…」
そう言って僕は幸彦兄さんのモノを取り出した。僕を後ろから抱き締めてくれてる時から、背中に確かな熱を帯びているのを感じていた。我慢して僕の恐怖を取り除いてくれたのだ。 僕は身を乗り出して、蜜液を溢れさせているそれに口付けた。
「ッ…」
幸彦兄さんが息を呑んだ。さっき那津彦兄さんがしてくれたのを思い出して、口に余るそれを含んで舌を動かす。幸彦兄さんの手が僕の頭を撫でる。
僕は視線だけ動かして、幸彦兄さんの顔を見上げた。眉間にシワを寄せて何かに、耐えているような顔が僕を熱くする。
「葉月…もう放せ…」
呻くように発せられた言葉に僕は首を振った。
「葉月…葉月…くぅ…」
幸彦兄さんが身体を震わせて、僕の口の中に吐精した。僕は懸命にそれを呑んだ。強制された時は思わず吐いてしまったけど…大好きな兄さんたちのなら平気だった。
全部飲み干して僕は幸彦兄さんから離れた。
「飲んだのか…?」
僕は頷きながら思わず本音を口にした。
「不味い…」
兄さんたちが同時に吹き出した。
「自分で始めておいて酷いだろ、葉月」
ベッドの端に座って見ていた、那津彦兄さんが笑いながら言った。
「だって…」
膨れっ面をする僕の頬を、幸彦兄さんが指先でつついた。
「葉月、俺を煽った責任はとれるんだろうな?」
「シて…幸彦兄さんが欲しい…」
二人を受け入れたらきっと僕はもう一度生きる事が出来る。
幸彦兄さんがゆっくりと服を脱いだ。
僕は夜はほとんど動けなくなって…兄さんたちに何でもしてもらった。小さい時のように3人でお風呂に入って一緒にベッドで眠った。僕は幸せいっぱいだった。
次の日の朝、僕は少し発熱していた。でも僕に表情が戻って来た。
自分の部屋のベッドに移されて朝食も昼食も運んでもらう。兄さんたちにベタベタに甘えさせてもらって、気が付いたら僕は笑顔になってた。
午後、幸彦兄さんが部屋に入って来て言った。
「葉月、その…刑事さんが来てるんだ。お前のあれは事件扱いになってて話を聞きたいそうだ」
傷害と言う事で被害届を義母が出したという。今まで僕の精神状態を考慮して、事情聴取を待ってもらっていたんだと兄は言った。剛山 雷太の事を担当の刑事さんに話したら、僕の事情聴取をしたいと言われたみたいだ。
でも僕は今日は少し微熱がある。僕の体調と精神面を考えて刑事さんは、家まで事情聴取に来てくれたそうだ。兄さんたちも側に一緒にいてくれる。だから僕は那津彦兄さんに抱かれて、リビングまで連れて行ってもらった。
事情聴取が始まる前に刑事さんは言った。傷害の被害届だけではなく、集団による性的暴行の被害届を出して欲しいと。その方が犯人たちをより重く罰せられると言うのだ。裁判は未成年だから直接出廷しなくても良いらしい。
僕は兄さんたちの顔を見てから小さく頷いた。
昔は同性間の性的暴行は犯罪として取り上げられなかったそうだ。でも最近はそういう事件が増えて、諸外国の例に合わせて犯罪として扱われるようになった。刑事さんは僕にそう教えてくれた。
出された書類に僕の代わりに、幸彦兄さんが保護者代行で必要事項を書いてくれた。兄さんは春に18歳になっていたから両親の代わりが出来るらしい。
僕はいろいろ尋ねられた。
廃工場が現場だとはわかっていたらしい。僕の無くした靴や血の跡があったそうだ。突き止められたのは僕の血まみれの足跡がずっと続いていたからだ。そう僕が靴下でここまで帰って来たのが、裂傷からの出血で濡れた足跡になっていたのだ。
僕は途中、何度も思い出して恐怖に言葉を詰まらせた。震える僕を兄さんたちが、代わる代わる抱き締めて落ち着かせてくれた。恐怖がピークになったのは幸彦兄さんが持って来た一枚の写真を見た時だった。
「これが剛山 雷太とその仲間です」
チラッと見ただけでわかった。剛山を含めて3人しか写っていなかったけど、そいつらは全員あの時にあそこにいた。それどころかその一人が帰り道で僕に声を掛けて来た奴だ。
僕は写真から逃げるように那津彦兄さんに縋り付いた。兄さんたちに抱き締められて戻って来た感情は、あれが僕にとってどれだけの恐怖だったかを教えていた。写真の3人が中心だった事を僕は、那津彦兄さんの腕の中で震えながら告げた。僕の怯え方が余りに激しかったので、今日の事情聴取はそれで終わりになった。
僕はベッドに戻され那津彦兄さんが側にいてくれた。刑事さんは幸彦兄さんから、剛山の事を聴いてから帰ったらしい。
怖かった。 れなのに昨日、僕はあいつに付いて行こうとしてた。
「大丈夫、二度とあいつらをお前の側に近付かせない」
震える僕の身体を抱き締めて、那津彦兄さんはそう言った。
剛山をリーダーにしたグループは、昨年の秋まで白鷺に在校していた。目に付いた生徒を空き教室や古い用具庫に無理やり連れ込み、僕のように全員で輪姦していたそうだ。昨年の10月に生徒会長を引き継いだ幸彦兄さんは何度も彼を退学にした上で、警察に引き渡すように何度も要請したそうだ。
だがトラブルで学校の評価が落ちるのを気にする学校は、被害者たちが剛山に脅迫されていて事実を話さないのを逆手にとった。知らないふりを決め込んだのだ。
だがその後すぐに脅迫されて再三、呼び出されていた生徒が学校の屋上から飛び降りた。全てを詳細に書き残して。学校は渋々、剛山とその取り巻きグループを退学処分にした。だけど警察沙汰にはしなかったんだ。当時、剛山たちは3年生。もう少しで卒業だった。だから余計に兄さんたちを恨んでいるらしい。
「多分、在校生にあいつらの手下みたいなのがいる」
僕は那津彦兄さんのその言葉に思い出した。僕は兄さんたちとは血の繋がった兄弟じゃない。全然似ていない。だから普通は弟だってわからない筈。あそこにいた誰かが言ってたじゃないか。朝、僕は幸彦兄さんと登校してるって。
午後から僕は兄さんたちに連れられて学校へ向かった。今回の事件がそもそも学校の姿勢にあったという事で、幸彦兄さんから連絡を受けた両親が告訴を考えていると言う。それを受けて兄弟揃って自主退学の手続きをするのだ。
学校側は僕にも自分で届けをするように要請して来た。制服は無茶苦茶になって、未だに新調していない為に私服登校になった。
炎天下に近距離だがタクシーで向かった。兄さんたちに庇われるように校内に踏み入れた僕に、部活動中のみんなの視線が集まる。
怖かった。みんな、僕に何が起こったのか知っているんだ。幸彦兄さんの制服の裾を掴んで僕は俯いて歩いた。那津彦兄さんは何かを掴めなくなった左手を大きな手でしっかり握り締めてくれていた。
職員室に入ると教頭が僕たちの所へ寄って来た。僕はこいつが大嫌いだ。いつも粘着質な目で僕を見るのが不快で仕方なかった。
出された書類の必要事項を埋めて最後に署名捺印した。
「幸彦君、君は卒業まで半年だ。このまま在校した方が良いのではないかね?」
教頭の言葉を幸彦兄さんはきっぱりと拒絶した。
「両親は今回の事で学校側を刑事民事双方で告訴する予定です」
「な…」
絶句する教頭を置いて職員室を出た。
「少し良いか?生徒会室の私物を回収してくる」
「あ、俺も部室のロッカーから私物を回収しないと…」
「僕の教室のは兄さんたちが片付けてくれたんだよね?」
「俺が引き取りに行った」
「じゃあ…中庭のベンチで待ってる」
「中庭のベンチだな?」
「うん」
「そこから動くなよ、葉月」
「わかった」
兄さんたちは僕を中庭のベンチへ連れて行ってから、足早にそれぞれの私物を取りに行ってしまった。
中庭はちょっとした憩いの場所になっている。数本の木がつくる木陰にベンチが置かれているのだ。暑さが幾分緩和されてベンチは涼しかった。
僕はぼんやりと校舎を見上げた。結局、僕は3ヶ月程しか在校出来なかった。憧れて、憧れて入学した学校だったのに。兄さんたちと同じ制服を着て、この学校に通学する事が夢だったのに。
これからどうなるんだろう?今から転校出来る学校なんかあるのだろうか?
そんな事を考えていると目の前に誰かが立った。制服のネクタイの色からすると那津彦兄さんと同じ2年生だ。
「君、よくもまあ平気な顔で学校に来たよね」
その人の顔は怒りに歪んでいた。
僕はこの人を知らない。
「君の事件で真っ先に、幸彦先輩と那津彦さんが疑われたの…聞いてないんだ?」
兄さんたちが疑われた?何故?
「何でもご近所さんにそう騒ぎ立てたおばさんがいて、二人ともずっと取り調べを受けてたんだよ?まあ、君の血まみれの足跡がずっと続いていたのと、君の衣類や体内から明らかに別人の体液が出て来たから、無罪だってわかったらしいけど?」
僕は言葉が出なかった。兄さんたちは僕の見舞いに来なかったんじゃない。来れなかったんだ。
「君が迂闊な所為でお兄さんたちに迷惑かけたのに、よくもまあ平気な顔でいられるよね?ああそうか?自分で犯人たちを誘ったんだ?そのまま死んじゃえば良かったのに」
「僕は…僕は…」
「何?言い訳でもするの?それとも悪いって思ってるわけ?だったら何でここにいるのさ!どこかへ行けよ!消えてしまえ!弟だってだけで何もかも許されるなんて…思ってんな!」
彼はそう言うと力いっぱい僕の頬を打った。
「君は二人の障害でしたかないんだ!」
そう叫びながら去っていった彼に、僕は言葉らしい言葉をとうとう紡げなかった。
そんな事言われなくてもわかってる。僕さえいなければ…なんてあの事件の前からずっと思ってた。兄さんたちに抱き締めてもらえて僕は幸せだった。幸せ過ぎて舞い上がってたんだ。
そうだ。わかっていたじゃないか。たとえ兄さんたちが僕の想いを受け入れてくれても、この気持ちは絶対に許されないものだって。
僕の所為で学校までやめさせてしまった。僕は何も出来ないみそっかすだけど兄さんたちは違う。僕さえいなければ…兄さんたちはきっと……… 結局、そこへ辿り着いてしまう。
僕は溢れる涙を懸命に拭った。こんなところを兄さんたちに見せてはいけない。明るく笑え。そして考えろ。兄さんたちから離れる方法を。
僕はもうどうして良いのかわからなかった。ただわかるのは兄さんたちにこれ以上の迷惑はかけられないと言う事。そんな事をぐるぐる考えて眠った僕は、神林の母の声で目覚めた。
声はリビングの方から聞こえて来る。多分、部屋のドアがちゃんと閉まってないんだ。言葉はわからないけどお義母さんと兄さんたちが言い争っているみたいた。
僕は足を忍ばせてドアに近付いた。
「だから言ってるでしょう!? 葉月は病気なの!山奥の空気の良い所に入院して、ゆっくり治療するのが一番なの!」
「だから言ってるだろ!? 俺たちもその山奥に行くって!」
「那津彦、いい加減にしなさい!あなたや幸彦は葉月とは違うのよ!? 今回の事が後々、あなたたちの汚点として残ったらどうするの!?」
「だからそれはどういう意味だって、さっきから訊いてる」
静かな口調で言うのは幸彦兄さんが怒っているあかしだ。
「この事は新山さんと美月さんも賛成してるのよ?」
美月というのは僕の母親だ。
「本当にわからない子たちね。良い?葉月は男の子なのに寄ってたかって強姦されたの!世間様がそれをどんな目で見てると思うの?ここを引っ越しても、葉月がいる限り噂は付いて来るのよ!? 新山さんと美月さんだって、それは困るって言ってるの!」
僕はその場に座り込んだ。お義母さんの言う通りだ。僕は疫病神でしかない。僕はドアノブに掴まって立ち上がりリビングに踏み込んだ。
「葉月!?」
「葉月!?お前、今の話を…」
「お義母さん、僕をそこへ連れて行ってください」
「葉月!」
「葉月!」
兄さんたちが悲鳴のように僕の名前を呼んだ。
「ご覧なさい、幸彦、那津彦。葉月の方がずっと自分の立場をわかっているわ」
そう言ったお義母さんの顔を見て僕は目を瞬またたかせた。この人はこんな顔をしていただろうか?まるで般若のような顔を。いつも優しくて美しい人だと思っていたのは、僕の勘違いだったのだろうか。
「話は決まったわね。手続きやら準備で一週間ほど必要だけど、同時に引っ越すからそのつもりで、幸彦と那津彦も荷物をまとめなさい」
お義母さんはそう言うとマンションから出て行った。
「自己保身の塊め。あれが親だと思うと胸くそ悪い!」
「行くな!」
強く抱き締められてもがく僕は突然、唇を塞がれた。僕は…那津彦兄さんにキスされていた。涙が溢れた。那津彦兄さんは…多分、僕の気持ちを知ってるんだ。僕がいなくなったらきっと神林の両親は兄さんたちを責める。僕を引き留めるには、これが一番良い方法だって思ったんだろう。
「僕は汚いから…そんな事をしないで」
放れて行く唇を見詰めながら僕はそう呟いた。
「お前は汚れてなんかいない」
そう言って今度は幸彦兄さんが僕にキスした。
「葉月…出て行くな…ここにいてくれ」
「大丈夫だよ、お母さんとお父さんにはちゃんと説明しておくから」
涙は止まらない。だけど言葉を懸命に紡いだ。
「奴の所へ行くのか!?」
那津彦兄さんが肩を掴んで言った。
「別に…行きたいわけじゃないから…行かない」
「ここにいろ!」
「どうして…?母さんたちにはちゃんと説明しておくって言ってるのに」
代わる代わる引き止める、兄さんたちの真意がわからない。
「お前を愛しているからに決まってるだろ!」
那津彦兄さんが叫んだ。本当に優しい兄さんたちだ。僕にまだそんな言葉をくれる。でも僕の歪んだ想いを知ったらきっとそれも消える。
ああ、そうか。本当の気持ちを言えば良いんだ。きっと気持ち悪いって思って、僕を引き止めるのをやめてくれる筈。
なんだ、簡単じゃないか。この恋心が兄さんたちに嫌われる方法になる。なんて皮肉何だろう?でも僕にはそれしか、もう方法がわからない。
「幸彦兄さん…那津彦兄さん…僕も…兄さんたちが好きだよ。でもそれは弟としてじゃない。僕は…兄さんたちのどちらにも恋してる。男なのに兄さんたちに欲情するんだ。僕は…一人でする時、いつも兄さんたちに触れられるのを想像するんだ」
「葉月…」
「葉月…」
兄さんたちは茫然としてる。弟にこんな欲望を持たれただけでも普通は気持ち悪い筈だ。それなのに二人一緒に好きだなんて……有り得ないよね?
「ずっと…僕はそんな事を考えて、兄さんたちと一緒に生活してたんだ」
僕を抱き締めてた幸彦兄さんの手も、僕の腕を掴んでいた那津彦兄さんの手も、力なく僕から離れた。
言ってしまった……引き止める兄さんたちを離す為だとはいえ、僕の心は傷口から鮮血が溢れ出していた。もう少し…もう少しの辛抱だ。ここを出てこの身体と一緒に心も終わる。僕という存在が消えれば苦しみも痛みもなくなる筈。
「ごめんなさい…こんな気持ち悪い人間で…」
涙が止まらないのに僕の顔は無表情だと何となくわかる。元から壊れていた僕の心。兄さんたちを恋愛の対象として欲しがる心があの事でもっと壊れた。だから全部壊してしまう。
僕はゆっくりと兄さんたちたちから退いた。
「ごめんなさい……さようなら」
悲しくて痛くて仕方ないのに、僕は涙を流す事しか出来ない。荷物は那津彦兄さんに取り上げられたままだ。あってもなくても良いものだからこのまま行ってしまおう。
「葉月…何処へ行くつもりだ!?」
幸彦兄さんが叫んだ。僕は振り返らずに答えた。
「僕を壊せる場所」
僕はもう人間じゃない。穢らわしい動く人形だ。廃棄こそ相応しい。ドアに向かって一歩踏み出した瞬間、僕は幸彦兄さんに捕まえられていた。
「僕に触ると汚いよ」
「剛山が犯人ならば…お前をあんな目に合わせてしまったのは、俺の責任だ」
「違うよ、幸彦兄さん。あれは天罰なんだ。汚らしい欲望を持ってしまった僕に神さまが下した罰なんだ。だから幸彦兄さんは悪くないよ」
僕が生きているのはきっと最後の審判は、自分で付けなければならないからだ。
「葉月、さっきの話は本当か?」
「どの話?」
振り払えないから答えるしかない。
「俺たちを好きだという話だ」
「嘘を言って何になるの?」
嘘にしてなかった事には出来ない。僕はもう自分の気持ちに嘘を吐いて弟でいるのにも疲れた。
「葉月、聞いてくれ。俺たちがお前に距離を取ったのは、俺たちも同じ気持ちだったからだ」
「何の事?」
僕には幸彦兄さんの言葉の意味がわからない。
「俺も幸彦兄さんも、お前を恋愛感情で愛してるんだ」
那津彦兄さんの声が響いた。
「え?」
僕は振り返って彼の顔を見た。
「兄さんも俺も、お前を傷付けたくないからお互いに話し合った。お前が望み続ける限り兄でいようと」
「だが俺たちも人間だ。お前を抱き締めたい。自分のものにしたい。そんな欲望があった」
「だから必要以上に近付かない…触れないように気をつけた。欲望のままにお前を傷付けないように」
嘘だ…嘘だ…嘘だ…
「嘘だ…兄さんたちは僕が白鷺に進学するのを嫌がったじゃないか!」
「白鷺は…伝統的に同性での性的トラブルが多いんだ。それを俺たちは心配した」
幸彦兄さんの答えに少し心が揺らめいた。でももう一つ僕には疑問がある。
「あの日…僕が帰って来たのは日付が変わる時間だった。携帯は壊されたから繋がらなかったのはわかる。でも兄さんたちは心配もしてなかった」
あの日、玄関を開けて入った時、家の中は静かだった。僕を誰も待ってはいなかった。
「それは…」
「お前からメールがあった」
言い淀んだ幸彦兄さんに代わって、津彦兄さんが言った。
「兄さんの携帯にお前の携帯から、友だちの家に泊まるってメールが来たんだ」
「僕には泊まりに行くような友だちはいない」
でも確か…僕は適当にそれをごまかしてた。
「あの夜、たまたま麦茶を飲みに起きた那津彦がシャワーの音を聞いたんだ」
僕を見付けたのは那津彦兄さんだったのか。
「許してくれ…葉月…」
「誰も悪くない…あれはやっぱり天罰だったんだ」
「違う!そんな風に思うのはやめろ!」
那津彦兄さんはそう言って僕に駆け寄って抱き締めた。
「行くな、葉月…お前がいなくなったら、俺と那津彦はどうやって生きれば良い?」
「お前も同じ気持ちでいてくれるなら、どちらかを選ばなくても良い!」
「俺たちの想いを受け入れてくれ…」
「お前の気持ちは…もう受け入れたから」
「幸彦兄さん…那津彦兄さん…」
僕はどうしたら良いんだろう。望み通りにすれば良いんだろうか?
でも……
「僕はもう汚いから…無理だよ」
あんな事が起こる前に聞きたかった。でも時間は遡れない。
「汚くなんかない!」
「どうしてもそう思えるなら…今から俺と那津彦が清めてやる」
「え?」
次の瞬間、僕は幸彦兄さんに抱き上げられていた。そのまま幸彦兄さんの部屋へ運ばれ、ベッドの上に下ろされた。すぐに幸彦兄さんがキスをして来た。僕の唇を開かせて舌先が入って来た。
「ン…ンン…」
気持ちイイ……キスってこんなにゾクゾクするもんなんだ。その間に幸彦兄さんが僕の衣類を剥ぎ取ってしまった。
「クーラー、強くないか?」
「大丈夫…ひんやりして気持ち良い…」
僕を真ん中にして両側から兄さんたちが髪を優しく撫でてくれる。
「幸彦兄さん…キスして…」
那津彦兄さんがしてくれたような、濃いキスを幸彦兄さんにもして欲しかった。ゆっくりと幸彦兄さんの顔が近付いて来る。僕は少し唇を開いて待った。
「ン…ンン!」
いきなり那津彦兄さんが僕の耳朶を噛んだ。ゾクゾクとした感覚が背中を走り、僕は腰を揺らしてしまう。
兄さんたちは僕があの事件を思い出してしまわないように、優しく身体中に繰り返しキスしていく。
もどかしくて…熱い時間だった。やがて那津彦兄さんの唇が僕の隠れた部分に移動した。両脚を抱えられて白日の元にソコがさらされる。
あの日、あいつらに引き裂かれた部分が。僕のソコは無惨な裂傷を負ったらしい。らしい…というのは聞かされただけで怖くて、確認出来なかったからだ。
あの夜、シャワーの水に混じって流れた鮮血は、ここからの出血だったそうだ。もちろん縫合した傷は完治してる。でもきっと…傷痕は無惨なままだ。
那津彦兄さんと一緒に幸彦兄さんもソコを覗き込んでいた。僕は悲しくて辛くて両手で顔を覆った。
「何て惨い事を…」
「可哀想に…」
兄さんたちは言葉の後、代わる代わるソコにキスした。そのキスに感じてしまい、抱えられた爪先がピクピクと痙攣した。那津彦兄さんがそのままソコを舐めた。
「ヤッ…!」
「怖い?」
僕の頭を抱いて幸彦兄さんが囁く。怖くはない。恥ずかしいだけ……僕は首を振って消え入りそうな声で答えた。
「可愛い…葉月…」
「ン…あン…ヤ…ああ…」
那津彦兄さんの舌先が、僕の傷付いた蕾の中へ入って来た。悲鳴を上げそうになった僕を幸彦兄さんの声が慰撫する。
「葉月…大丈夫だから…俺たちはお前を傷付けるような事はしないから」
僕は嬌声を漏らしながらその言葉に何度も何度も頷いた。
「あッ…やめッ…」
那津彦兄さんの指が僕の体内に入れられ、快感に蜜液を垂らしているモノをゆっくりと舐めあげられた。
「大丈夫だから…葉月をちゃんと愛してあげる為だからね」
幸彦兄さんが僕から離れた。その姿を目で追うと机の引き出しから何かを取り出して来た。
「那津彦、これを使え」
「了解」
「何?」
「ローションだ。お前の身体が傷付かない ようにする」
幸彦兄さんはそう言って僕の上半身を起こした。そのまま僕の後ろに入って抱き締めてくれる。幸彦兄さんと僕のドキドキが重なり合う。
那津彦兄さんの指がローションに濡れて僕の中へ入って来た。
「ン…あ…ンぁ…」
身体が更に熱くなって来た。僕が不安に身を震わせると幸彦兄さんが頭を撫でながら耳に囁いてくれる。
「大丈夫だ…何も怖い事はない。葉月、愛してる」と。
部屋に響く濡れた音が恥ずかしくて僕は顔を覆った。幸彦兄さんがそんな僕の気を散らすように背後から乳首を摘んだ。
「あッ!」
突然の刺激に僕は声をあげて仰け反った。同時に那津彦兄さんの指を締め付けてしまう。すると今度は那津彦兄さんが体内を探りながら僕のモノを口に含んだ。
「や…ああン…それ…ダメぇ…!」
指先が強く感じる部分を探り当て僕は、今まで経験した事がない快感に身を震わせて嬌声を上げ続けた。その間も幸彦兄さんは僕の耳にずっと囁き続けてくれたんだ。
「葉月…愛してる」
「たくさん気持ち良くしてあげるから、怖がらないで」
「感じてる葉月は可愛い」
那津彦兄さんの愛撫が僕の身体を熱くする。幸彦兄さんの言葉が僕の心を震わせる。ずっとずっと……僕が望んでいた事だった。
「好き…好き…」
嬉しくて嬉しくて僕は涙が止まらなかった。
「もう限界だ…」
那津彦兄さんが顔を上げて言う。
「兄さん、俺が先で良いか?」
「ああ」
「サンキュ」
那津彦兄さんは満面の笑顔で立ち上がって服を脱いだ。避妊具を自分のモノに被せローテーションをかけた。
「どうして…?」
男同士なら妊娠はしない。避妊具を必要とする理由が僕にはわからなかった。
「お前の中に不必要な刺激を与えない為だよ。傷は完治している筈だけど用心の為にね」
幸彦兄さんが優しく言ってくれた。僕はしっかりと頷いた。那津彦兄さんは僕の両脚を抱えて、今さっきまで指が入っていた場所に熱いモノをあてがった。
僕の身体を割開いて那津彦兄さんが入って来る。あの日の記憶がフラッシュバックする。身体を引き裂かれた恐怖が蘇る。
「い…や…だ…」
そう呟いた僕を幸彦兄さんが優しく抱き締めた。
「大丈夫だ、那津彦はお前を傷付けたりしない。葉月を愛したいだけだ」
引き裂かれる恐怖に悲鳴を上げて暴れそうになる僕を、幸彦兄さんは抱き締めて囁いてくれる。頭を撫でキスしてくれる。
「葉月、息を吐いて。このままじゃ那津彦が辛いから」
その言葉に顔を上げると那津彦兄さんが、奥歯を噛み締めているのがわかった。
「ごめんなさい…」
僕は自分の事ばかり考えてた。
「葉月が悪いわけじゃないから」
那津彦兄さんが僕にそう言った。
「葉月が我慢出来ないくらいなら、やめるよ?」
ここまで来てやめられる筈がない。僕だって男だからわかる。
「もう…大丈夫…だから続けて…」
僕は両手を那津彦兄さんに差し出した。
「ありがとう、葉月…」
「良い子だ」
兄さんたちの言葉に僕はしっかりと頷いた。
「もう少しだから」
「うん…」
途中まで受け入れた部分はいっぱいいっぱいで、痛みがないと言ったら嘘になる。でも僕が怯えて身体に余計な力を入れると那津彦兄さんが苦しい。僕は幸彦兄さんの手を握って懸命に息を吐く。
「ぅ…あ…」
恐怖が消えたわけじゃない。僕は繰り返し自分に言い聞かせた。僕の中にいるのは那津彦兄さんだ。大好きな兄さんだ。那津彦兄さんは僕を愛してくれてる。これは愛の行為だと。
那津彦兄さんのモノは僕の中を押し開いていく。痛みと圧迫感、でもその熱に僕は確かな喜びを感じていた。
「良い子だ、葉月。よく我慢したな」
幸彦兄さんが僕を強く抱き締めて頬にキスした。それから幸彦兄さんがベッドを降りた。
「那津彦、葉月をたっぷり愛してやれ」
優しい優しい声だった。那津彦兄さんが僕に覆い被さって来た。たっぷりとキスをされた後、那津彦兄さんが動き始めた。
「ン…ああ…ひィ…」
痛みに別の感覚が混じる。
「葉月…葉月…愛してる…」
欲情に掠れた那津彦兄さんの声が僕の奥深くを刺激する。
「あぁ…那津…兄さ…そこ…あン…」
触れ合う肌が温かくて僕は満たされていく。全て失ったと思った絶望はもうどこにもない。
「イイ…ああ…ン…あッ…ダメ…もう…もう…」
「俺もイきそうだ…葉月…」
「那津彦兄さん…イく…ンあッ…ダメぇ…イくゥ…」
全身の熱が集まったような熱と共に僕は激しく吐精していた。那津彦兄さんも同時に達したみたいだった。
那津彦兄さんはしばらく僕の上で脱力した後、僕にキスしてから身体を放した。
「ありがとう、葉月…とってもよかった」
「僕の方こそ…ありがとう…」
那津彦兄さんにそう答えてから、僕はベッドサイドに立っている幸彦兄さんに手を伸ばした。
「幸彦兄さん…僕…幸彦兄さんも欲しい」
二人共欲しい。欲張りだけど僕は幸彦兄さんの熱を体内で感じたいと思った。
「葉月…」
優しい眼差しが迷っている。一度に二人共受け入れて、僕の身体に負担がかかるのを気にしてる。幸彦兄さんはいつもそうやって、僕を大事に大事にしてくれる。僕は少し気怠い身体を起こして、幸彦兄さんのスラックスに手をかけた。
「葉月?」
「幸彦兄さん…大好き…」
そう言って僕は幸彦兄さんのモノを取り出した。僕を後ろから抱き締めてくれてる時から、背中に確かな熱を帯びているのを感じていた。我慢して僕の恐怖を取り除いてくれたのだ。 僕は身を乗り出して、蜜液を溢れさせているそれに口付けた。
「ッ…」
幸彦兄さんが息を呑んだ。さっき那津彦兄さんがしてくれたのを思い出して、口に余るそれを含んで舌を動かす。幸彦兄さんの手が僕の頭を撫でる。
僕は視線だけ動かして、幸彦兄さんの顔を見上げた。眉間にシワを寄せて何かに、耐えているような顔が僕を熱くする。
「葉月…もう放せ…」
呻くように発せられた言葉に僕は首を振った。
「葉月…葉月…くぅ…」
幸彦兄さんが身体を震わせて、僕の口の中に吐精した。僕は懸命にそれを呑んだ。強制された時は思わず吐いてしまったけど…大好きな兄さんたちのなら平気だった。
全部飲み干して僕は幸彦兄さんから離れた。
「飲んだのか…?」
僕は頷きながら思わず本音を口にした。
「不味い…」
兄さんたちが同時に吹き出した。
「自分で始めておいて酷いだろ、葉月」
ベッドの端に座って見ていた、那津彦兄さんが笑いながら言った。
「だって…」
膨れっ面をする僕の頬を、幸彦兄さんが指先でつついた。
「葉月、俺を煽った責任はとれるんだろうな?」
「シて…幸彦兄さんが欲しい…」
二人を受け入れたらきっと僕はもう一度生きる事が出来る。
幸彦兄さんがゆっくりと服を脱いだ。
僕は夜はほとんど動けなくなって…兄さんたちに何でもしてもらった。小さい時のように3人でお風呂に入って一緒にベッドで眠った。僕は幸せいっぱいだった。
次の日の朝、僕は少し発熱していた。でも僕に表情が戻って来た。
自分の部屋のベッドに移されて朝食も昼食も運んでもらう。兄さんたちにベタベタに甘えさせてもらって、気が付いたら僕は笑顔になってた。
午後、幸彦兄さんが部屋に入って来て言った。
「葉月、その…刑事さんが来てるんだ。お前のあれは事件扱いになってて話を聞きたいそうだ」
傷害と言う事で被害届を義母が出したという。今まで僕の精神状態を考慮して、事情聴取を待ってもらっていたんだと兄は言った。剛山 雷太の事を担当の刑事さんに話したら、僕の事情聴取をしたいと言われたみたいだ。
でも僕は今日は少し微熱がある。僕の体調と精神面を考えて刑事さんは、家まで事情聴取に来てくれたそうだ。兄さんたちも側に一緒にいてくれる。だから僕は那津彦兄さんに抱かれて、リビングまで連れて行ってもらった。
事情聴取が始まる前に刑事さんは言った。傷害の被害届だけではなく、集団による性的暴行の被害届を出して欲しいと。その方が犯人たちをより重く罰せられると言うのだ。裁判は未成年だから直接出廷しなくても良いらしい。
僕は兄さんたちの顔を見てから小さく頷いた。
昔は同性間の性的暴行は犯罪として取り上げられなかったそうだ。でも最近はそういう事件が増えて、諸外国の例に合わせて犯罪として扱われるようになった。刑事さんは僕にそう教えてくれた。
出された書類に僕の代わりに、幸彦兄さんが保護者代行で必要事項を書いてくれた。兄さんは春に18歳になっていたから両親の代わりが出来るらしい。
僕はいろいろ尋ねられた。
廃工場が現場だとはわかっていたらしい。僕の無くした靴や血の跡があったそうだ。突き止められたのは僕の血まみれの足跡がずっと続いていたからだ。そう僕が靴下でここまで帰って来たのが、裂傷からの出血で濡れた足跡になっていたのだ。
僕は途中、何度も思い出して恐怖に言葉を詰まらせた。震える僕を兄さんたちが、代わる代わる抱き締めて落ち着かせてくれた。恐怖がピークになったのは幸彦兄さんが持って来た一枚の写真を見た時だった。
「これが剛山 雷太とその仲間です」
チラッと見ただけでわかった。剛山を含めて3人しか写っていなかったけど、そいつらは全員あの時にあそこにいた。それどころかその一人が帰り道で僕に声を掛けて来た奴だ。
僕は写真から逃げるように那津彦兄さんに縋り付いた。兄さんたちに抱き締められて戻って来た感情は、あれが僕にとってどれだけの恐怖だったかを教えていた。写真の3人が中心だった事を僕は、那津彦兄さんの腕の中で震えながら告げた。僕の怯え方が余りに激しかったので、今日の事情聴取はそれで終わりになった。
僕はベッドに戻され那津彦兄さんが側にいてくれた。刑事さんは幸彦兄さんから、剛山の事を聴いてから帰ったらしい。
怖かった。 れなのに昨日、僕はあいつに付いて行こうとしてた。
「大丈夫、二度とあいつらをお前の側に近付かせない」
震える僕の身体を抱き締めて、那津彦兄さんはそう言った。
剛山をリーダーにしたグループは、昨年の秋まで白鷺に在校していた。目に付いた生徒を空き教室や古い用具庫に無理やり連れ込み、僕のように全員で輪姦していたそうだ。昨年の10月に生徒会長を引き継いだ幸彦兄さんは何度も彼を退学にした上で、警察に引き渡すように何度も要請したそうだ。
だがトラブルで学校の評価が落ちるのを気にする学校は、被害者たちが剛山に脅迫されていて事実を話さないのを逆手にとった。知らないふりを決め込んだのだ。
だがその後すぐに脅迫されて再三、呼び出されていた生徒が学校の屋上から飛び降りた。全てを詳細に書き残して。学校は渋々、剛山とその取り巻きグループを退学処分にした。だけど警察沙汰にはしなかったんだ。当時、剛山たちは3年生。もう少しで卒業だった。だから余計に兄さんたちを恨んでいるらしい。
「多分、在校生にあいつらの手下みたいなのがいる」
僕は那津彦兄さんのその言葉に思い出した。僕は兄さんたちとは血の繋がった兄弟じゃない。全然似ていない。だから普通は弟だってわからない筈。あそこにいた誰かが言ってたじゃないか。朝、僕は幸彦兄さんと登校してるって。
午後から僕は兄さんたちに連れられて学校へ向かった。今回の事件がそもそも学校の姿勢にあったという事で、幸彦兄さんから連絡を受けた両親が告訴を考えていると言う。それを受けて兄弟揃って自主退学の手続きをするのだ。
学校側は僕にも自分で届けをするように要請して来た。制服は無茶苦茶になって、未だに新調していない為に私服登校になった。
炎天下に近距離だがタクシーで向かった。兄さんたちに庇われるように校内に踏み入れた僕に、部活動中のみんなの視線が集まる。
怖かった。みんな、僕に何が起こったのか知っているんだ。幸彦兄さんの制服の裾を掴んで僕は俯いて歩いた。那津彦兄さんは何かを掴めなくなった左手を大きな手でしっかり握り締めてくれていた。
職員室に入ると教頭が僕たちの所へ寄って来た。僕はこいつが大嫌いだ。いつも粘着質な目で僕を見るのが不快で仕方なかった。
出された書類の必要事項を埋めて最後に署名捺印した。
「幸彦君、君は卒業まで半年だ。このまま在校した方が良いのではないかね?」
教頭の言葉を幸彦兄さんはきっぱりと拒絶した。
「両親は今回の事で学校側を刑事民事双方で告訴する予定です」
「な…」
絶句する教頭を置いて職員室を出た。
「少し良いか?生徒会室の私物を回収してくる」
「あ、俺も部室のロッカーから私物を回収しないと…」
「僕の教室のは兄さんたちが片付けてくれたんだよね?」
「俺が引き取りに行った」
「じゃあ…中庭のベンチで待ってる」
「中庭のベンチだな?」
「うん」
「そこから動くなよ、葉月」
「わかった」
兄さんたちは僕を中庭のベンチへ連れて行ってから、足早にそれぞれの私物を取りに行ってしまった。
中庭はちょっとした憩いの場所になっている。数本の木がつくる木陰にベンチが置かれているのだ。暑さが幾分緩和されてベンチは涼しかった。
僕はぼんやりと校舎を見上げた。結局、僕は3ヶ月程しか在校出来なかった。憧れて、憧れて入学した学校だったのに。兄さんたちと同じ制服を着て、この学校に通学する事が夢だったのに。
これからどうなるんだろう?今から転校出来る学校なんかあるのだろうか?
そんな事を考えていると目の前に誰かが立った。制服のネクタイの色からすると那津彦兄さんと同じ2年生だ。
「君、よくもまあ平気な顔で学校に来たよね」
その人の顔は怒りに歪んでいた。
僕はこの人を知らない。
「君の事件で真っ先に、幸彦先輩と那津彦さんが疑われたの…聞いてないんだ?」
兄さんたちが疑われた?何故?
「何でもご近所さんにそう騒ぎ立てたおばさんがいて、二人ともずっと取り調べを受けてたんだよ?まあ、君の血まみれの足跡がずっと続いていたのと、君の衣類や体内から明らかに別人の体液が出て来たから、無罪だってわかったらしいけど?」
僕は言葉が出なかった。兄さんたちは僕の見舞いに来なかったんじゃない。来れなかったんだ。
「君が迂闊な所為でお兄さんたちに迷惑かけたのに、よくもまあ平気な顔でいられるよね?ああそうか?自分で犯人たちを誘ったんだ?そのまま死んじゃえば良かったのに」
「僕は…僕は…」
「何?言い訳でもするの?それとも悪いって思ってるわけ?だったら何でここにいるのさ!どこかへ行けよ!消えてしまえ!弟だってだけで何もかも許されるなんて…思ってんな!」
彼はそう言うと力いっぱい僕の頬を打った。
「君は二人の障害でしたかないんだ!」
そう叫びながら去っていった彼に、僕は言葉らしい言葉をとうとう紡げなかった。
そんな事言われなくてもわかってる。僕さえいなければ…なんてあの事件の前からずっと思ってた。兄さんたちに抱き締めてもらえて僕は幸せだった。幸せ過ぎて舞い上がってたんだ。
そうだ。わかっていたじゃないか。たとえ兄さんたちが僕の想いを受け入れてくれても、この気持ちは絶対に許されないものだって。
僕の所為で学校までやめさせてしまった。僕は何も出来ないみそっかすだけど兄さんたちは違う。僕さえいなければ…兄さんたちはきっと……… 結局、そこへ辿り着いてしまう。
僕は溢れる涙を懸命に拭った。こんなところを兄さんたちに見せてはいけない。明るく笑え。そして考えろ。兄さんたちから離れる方法を。
僕はもうどうして良いのかわからなかった。ただわかるのは兄さんたちにこれ以上の迷惑はかけられないと言う事。そんな事をぐるぐる考えて眠った僕は、神林の母の声で目覚めた。
声はリビングの方から聞こえて来る。多分、部屋のドアがちゃんと閉まってないんだ。言葉はわからないけどお義母さんと兄さんたちが言い争っているみたいた。
僕は足を忍ばせてドアに近付いた。
「だから言ってるでしょう!? 葉月は病気なの!山奥の空気の良い所に入院して、ゆっくり治療するのが一番なの!」
「だから言ってるだろ!? 俺たちもその山奥に行くって!」
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「だからそれはどういう意味だって、さっきから訊いてる」
静かな口調で言うのは幸彦兄さんが怒っているあかしだ。
「この事は新山さんと美月さんも賛成してるのよ?」
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「本当にわからない子たちね。良い?葉月は男の子なのに寄ってたかって強姦されたの!世間様がそれをどんな目で見てると思うの?ここを引っ越しても、葉月がいる限り噂は付いて来るのよ!? 新山さんと美月さんだって、それは困るって言ってるの!」
僕はその場に座り込んだ。お義母さんの言う通りだ。僕は疫病神でしかない。僕はドアノブに掴まって立ち上がりリビングに踏み込んだ。
「葉月!?」
「葉月!?お前、今の話を…」
「お義母さん、僕をそこへ連れて行ってください」
「葉月!」
「葉月!」
兄さんたちが悲鳴のように僕の名前を呼んだ。
「ご覧なさい、幸彦、那津彦。葉月の方がずっと自分の立場をわかっているわ」
そう言ったお義母さんの顔を見て僕は目を瞬またたかせた。この人はこんな顔をしていただろうか?まるで般若のような顔を。いつも優しくて美しい人だと思っていたのは、僕の勘違いだったのだろうか。
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