蓬莱皇国物語 Ⅲ~夕麿編

翡翠

文字の大きさ
3 / 19

   Day-To-Day Of Anguish

しおりを挟む
当面の憂いを晴らして、夕麿は日本へと向かう飛行機に乘った。

 機内で書類に目を通していると指に痛みを感じて、 ふと見ると指輪に巻いていたテープで指に傷が付いていた。 帰国するならアメリカ程結婚指輪に拘らなくて良いだろうと考えた。 指輪を外してスクールリングを通している鎖に通し、そっと口付けてから鎖を首に掛けた。

 書類を鞄に入れるとシートの灯りを消して目を閉じた。



 空港に迎えに来ていた車に乗り1ヶ月ぶりに御園生邸に帰って来た。ホッとして全身から無駄な力が抜けるのがわかった。

「お義母さん、只今帰りました」

「夕麿さん、お帰りなさい…あなた、こんなに痩せて…」

「やっぱり…わかります?」

 夕麿の痩せように小夜子は心配して、あれこれと手料理を出してくれた。 久しぶりの彼女の料理は美味しく、ずっと鉛でも飲み込んだような重さが少し消えた気がした。 心まで満たされやっと普通に食べられた気がする。

 食後のお茶を飲んでいると、携帯の着信音が鳴った。

「はい、夕麿です。

 ……ええ、家にいます……はい、わかりました」

「有人さんから? 今さっき帰って来たばかりなのに、もうお仕事なの?あの人は何を考えているのかしら」

「すみません、お義母さん」

「夕麿さんが悪いんじゃないわ。あまり無理をなさらないでね?」

「はい、ありがとうございます。 明後日の武の迎えには私が参ります」

「あら、だったら内緒にして置きましょ。 あの子、驚くわよ?

 あ、あなたが一時帰国した事は学院には連絡してありますから」

「ありがとうございます。

 では行って参ります」

「行ってらっしゃい」

 再び車に乗って今度は御園生ホールディングス本社に向かう。

 すぐさま有人の部屋へ案内された。

 渡米した御曹司の一人が帰国して出社して来たのだ。しかも同じ貴族でも夕麿は摂関貴族の出身であり、女系皇家の血筋と言う本物の貴公子なのだ。 皆、興味深々…というところなのであろう。

「失礼いたします。 夕麿さまをご案内いたしました」

「ただいま戻りました」

「わざわざご苦労さま、夕麿君」

 さすがに本社の総帥用の部屋は、ずっしりとした重圧感に満ちている。どちらかというと邸では小夜子の尻に敷かれている体の有人も、ここでは別の顔をしているのは当然と言えば当然だろう。
 
 有人は重圧な机の前にあるソファを夕麿に指し示し、自分もその向かい側に移動した。

「帰国早々で悪いね?」

「いえ、データをお渡しに戻って来たのですから」

 そう言うと夕麿は、ポケットの中からCDROMを取り出した。

「これです。 秘書室のボブ…ロバート・ブラウンの協力で、これを入手する事が出来ました。 雅久が詳細にチェックしたところ、間違いなく本物と判明しました。 秘書室の桐原も一枚噛んでいる様子で、私たちに仕切りに探りを入れて来ています」

 夕麿は他に様々な調査の結果を記したデータを鞄から取り出して、 テーブルの上に広げていく。

「こちらは現在の取引状態と営業部の業務状態です」

「ふむ、短期間に良く調べてくれた」

「ありがとうございます」

「これは直ちに検討に入ろう。君は社内を見て行きなさい」

 有人はこの際、夕麿を後継者の一人として、社員に見せておくつもりでいた。 既に夕麿が1ヶ月で結果を持って帰国して来たと社内では広がっていだろう。

 有人は夕麿を伴って、自ら社内を案内して回った。 ここでは後々の後継の為に武との関係は衆知の事実になっている。 アメリカとは別の形で好奇と偏見の眼差しにさらされる事でもあった。けれども武が正式な後継者として入社するまでには、自分たちが夫婦である事を周知の事実にしておかなければならないと夕麿は思っていた。少しでも武へ向けられる偏見の眼差しが少なくなれば良いと。

 結局はどこに行っても仕事場は今の夕麿には、完全な戦いの場所にしかならなかった。気を抜けば足元を掬われる。 未だ学生の立場で御園生財閥の関連企業の内部調査を行い結果を出す、という事はこちらは絶対に付け入られる隙を相手に見せてはならないのだ。 しかも本社の幹部・重役たちは皆、夕麿たち御曹司の力量を計りたがって、それこそ鵜の目鷹の目で動向を窺っている状態であるのは知っている。

 若さや未熟さは言い訳にはならない。 ここで自分たちが失敗すれば、後から加わる武に累が及ぶ。こうして社内を案内されて回っていても、夕麿には気を抜く事はゆるされない。 それぞれの部署へ赴き責任者に紹介される。しかもここでも摂関貴族家出身という肩書きが夕麿にはついて回る。 殊更に彼の出自が取り沙汰されるのは、武の本当の身分を隠す為だと、敢えて夕麿自らが引き受けた立ち位置だった。だがそれ故に当然ではあるが伸し掛かるものは大きい。 神経をすり減らすようにして、夕麿は御園生の後継者としての立場を貫いた。

 学院の生徒会長の責任なぞ比べものにならない。 企業のトップと言う者の肩には御園生系列全ての従事者と、その家族の生活がかかっているのだ。 それに比べたら生徒会長など、子供の遊びに過ぎなかったのだと痛切に感じていた。自分たちは学院という囲いの中で守られていた。 離れてみて初めて、自分がいた場所の真実の姿を見た気がする。 様々なおかしな部分はあったとしてもあれは、揺り籠の中で微睡んでいたに過ぎない。 純粋に真っ直ぐに、綺麗でいる事を許された場所と時間だった。

 友の犠牲で得た成果。 何と自分は汚れてしまっただろう…

 それは夕麿の潔癖ゆえの嫌悪感。 どこまでも澄んだ心ゆえの。 だがそれは夕麿に未だ汚れなき場所の住人である武に対して、ある種の負い目を抱いてしまうには十分であった。

 純粋で真っ直ぐで潔癖な心を持つ者の脆さ儚さ。 気高く美しいからこそ傷付くのは宿命とも言えた。



 学院の表の門を通過して、1ヶ月ぶりに敷地内へ入る。

 不思議な感覚だった。ゲートのエントランスに停めると、窓越しに中から出て来る生徒たちを眺める。

 昨夜、社の状態の報告と共に、武と周の関係が噂になっていると義勝が言って来た。なかには酷い中傷をバラまく者もいるので、ついでに武の潔白を証明してやれと。毎日の電話での対話に曇りはない。昔ならいざ知らず今の周は信用して良いと思っていた。少なくとも武に対して不実な態度を取るようには思えない。第一、武は自分を裏切るような人間ではないと、確信のようなものを抱いていた。

 今は…ただ、会いたい。会って抱き締めたい。側にいてやれなかった時間を埋めるように、触れ合いたい。

 ゲートにいる生徒たちが会話を止めた。一斉に内部へと視線が注がれる。生徒会メンバーに囲まれるようにして武が周と共に姿を現した。すぐ横に御厨 敦紀みくりやあつきがいる事もあって、華やかな集団は他の生徒たちよりも光輝いて見えた。

 それでも彼らを見る生徒たちの眼差しは、明らかに非難と嫉妬の色に染まって冷ややかだった。武と周はものともせず会話している。彼らに従う生徒会メンバーも笑顔だ。

 夕麿は運転手にドアを開けるように指示した。 ドアが開けられるとゆっくりと降りた。

「う…そ…」

 武が驚いて立ち止まる。 この状況での夕麿の登場に生徒たちの眼差しが、好奇と期待に満ちたものへと明らかに変化したのを感じて内心苦笑する。戸惑う武の背を周が笑顔で軽く押し出した。 フラフラとした歩調で武が腕の中に飛び込んで来た。

「…夕麿…夕麿…!」

 やっと実感したのか縋り付いて来た。 腕の中の愛しい人の身体はすっかり、痩せて細くなっていた。

「どうして?」

「全ての手続きは終わりましたので」

 呟いて壊れもののようにそっと抱き締めた。

「こんなに痩せて…」

「これでも体重は増えたんだよ?」

 驚いて周を見ると彼は頷いてから答えた。


「退院された時、体重は元の半分近くになられていた」

「うん、立って歩くのが大変だった…でも、周さんやみんなが、いろいろと食べ物を用意してくれたから…」

 澄んだ眼差しが見上げて来る。 そこには一点の曇りもない。

 夕麿の頬に自然に笑みが浮かんだ。

「周さん、お礼を申します」

 自分の不在をきちんと誠実に、武を守ってくれた周に心底感謝して頭を下げた。

「いや…僕が自分で望んでした事だから。 夕麿、確かに武さまをお返しする」

「周さん、ありがとう」

 武ももう一度改めて礼を言う。

「では、僕はこれで」

 周は自分の役目は終わったとばかりの涼やかで、満ち足りた笑顔を残して自らの迎えの車へと立ち去って行った。

「夕麿さま、武さまのお荷物です」

 下河辺 行長しもかわべゆきながに差し出された荷物を受け取って、彼らの挨拶を受けながら立ち去って行く姿を見送った。

「武、顔を良く見せてください」

「ごめんなさい…いっぱい心配かけて」

 やっと会えた。熱い感情が胸を満たす。頬を両手で挟み、唇を重ねた。武の口から甘い声がくぐもって漏れる。

 当然ながら先ほどまで武と周の事を見ていた、生徒たちの視線を痛い程感じる。わざとたっぷりと味わってから、唇を離していたわるように言った。

「さあ、車に乗ってください。暑さは辛いでしょう?」

「うん、ちょっとクラクラする」

 やはりこの暑さは身体には障りがあるらしい。夕麿は武を乗せてから未だにこちらを見ている生徒たちに、威厳すらたたえた笑顔を向けて乗り込んだ。これでもう愚かな噂で武を傷付ける者はいなくなるだろう。

 ここは平和で呑気な事だと思う自分を夕麿は少し寂しく感じた。

「夕麿…夕麿…会いたかった…」

 武はすぐさま縋るように抱き付いてくる。それだけで如何に彼が心細かったのかを全身で感じてしまう。

「ああ…やっと、あなたをこの腕に抱き締められました…」

「怖かった…もう、夕麿に…会えないのかと思った」

 涙声で言葉を詰まらせる姿に夕麿も、胸が痛くなって抱き締める手に力が籠もる。

「武…」

 愛しくて愛しくて、触れずにはいられない。どちらかともなく唇が重なった。

「ンふッ…ン…」

 武はシャツを握り締めて、より一層縋り付いて来た。

 止まらない……止められない。抱き締める歓喜が欲情を煽り、今すぐに欲しいと思ってしまう。自分がこんなにも渇いていたのを初めて自覚した。こんなにも武を欲していたのだと。

「え!?ちょッ…夕麿、ここ…車の中…」

 シートに押し倒すと、武が慌てふためいて制止する。

「すみません、家まで我慢出来ません。大丈夫です、外からは見えません」

 バカな事を口にした自覚はある。

「運転手さんが…」

「見ないでいてくれます。スピーカーは切ってありますから、声も聞こえません」

 半分は自分に言い聞かせるように口にした。

「や…だからって…あッ…ダメ…あン…」

 着ていたシャツの裾から手を差し入れて、滑らかな肌を撫でまわす。

「夕麿…やめ…あッあッ…そこッ…ヤぁ…」

 探り当てた乳首を指先で押し潰し摘まみあげると、可愛い声をあげて仰け反る。 シャツを捲ると痩せて肋骨の浮き出た胸が剥き出しになる。

「嫌…見るな…みっともなくなってるのに…」

 裾を抑えて夕麿を拒み泣きながら抗う。

「どうしてです? 私が触れるのは嫌なのですか?」

 不安に心が揺れる。こんな場所で求めて、嫌われてしまったのだろうかと。

「違う…!」

「だったら何故です?」

「だって…だって…痩せたから…痩せてるから…醜い…見ないで…」

 武は両手で顔を覆って啜り泣き出した。 武も不安なのだと思うと愛しさが増す。

「あなたが痩せたからといって、私の気持ちが変わると言うのですか? こんなにもあなたを欲しているのに? あなたが愛しくて愛しくて、こんな場所で抱きたいと思うのに? あなたは私の愛を疑うのですか?」

 耳元に語り掛けながらシャツを捲り、痩せた胸を剥き出しにして優しく愛撫する。 何もかもが愛しくてたまらない。

「あッあッ…夕麿…好き…」

 少し安心したように身を快楽に任せ始めた。 泣きながら縋る腕が抱き寄せる。 喘ぐ唇が躊躇うように触れて来た。 応えるように舌を絡め強く吸うと、切なげに腰を押し付けて来る。

「武…私の可愛い人…」

痩せた胸に口付けて、花びらのような跡を幾つも散らして行く。

「ああン…ヤぁ…」

 ぷっくりと膨れ上がった乳首を舌先で舐め転がし、口に含んで甘噛みし吸う。

「ヤぁン…ダメ…ダメぇ…」

「もう、こっちが苦しいのですね?」

 もぐり込ませて握った手の中で、武のモノは吐精寸前になって震えている。 根元を締めてそれを封じると、武は身悶えして啜り泣いて懇願した。

「ヤぁ…イきたい…夕麿ァ…」

「もう少し我慢してください、武。 私を受け入れてイってください」

 欲望が弾けそうなのは夕麿も同じだった。 だからこそ一緒にイきたい。

 夕麿は慌ただしく武のモノを締めたまま、もう一方の手で武のチノパンや下着を剥ぎ取った。 下肢を開かせて固く閉じてしまっている蕾を見て、このままでは無理があるのを感じた。

 とは言ってもまさかこんな事になるとは思ってはいなかったから、何も持ってはいない。 夕麿は慌てて武の荷物を掻き回す。 見付けたのはクリームタイプのリップ。

 夕麿はそれを指にたっぷりと取って、蕾に塗り込めて行く。

「あッ…あン…ああッ…!」

 蕾が綻び始めたのを確認して、傷を付けないように指を挿れて、更にリップクリームを中に塗り付ける。

「ひィあッ…ヤぁ…夕麿ァ…ダメぇ…欲しい…も…挿れて…」

 肉壁が更なる刺激を求めて、夕麿の指に絡んで締め付けて来る。

「もう少し我慢して、武。 あなたを傷付けたくない」

欲しいのは夕麿も同じだ。

「お願い…痛くても…構わないから…挿れて…もう…辛い…!」

 焦れて強請る甘い声が、ギリギリ保っていた夕麿の理性を奪って行く。

「ああ…」

 ぞくりと官能が疼く。 もう耐え切れない! 既に限界まで張り詰めたモノを取り出すと、それでも武の状態を確かめながら、ゆっくりと挿入して行く。

「ひィ…ひィあッ…ああッ…熱い…熱いッ…!」

 締め付けながら受け入れた中は、熱くて灼き尽くされしまいそうだ。

「んあッ…ヤぁ…大っきい…ああッ…」

 圧迫感に武の太腿が痙攣する。

 久しぶりの挿入はどちらにも辛い。 武の身体は奥まですっかり固く狭くなっていた。 それでも全てを受け入れようと、武は懸命に息を吐いて肉壁の収縮を緩めようとする。

「ああッ…武…そんなに締めないで…悦過ぎてイってしまいそうです…」

「だって…だって…」

 感じ過ぎて互いに困惑する。

「許してください…自制出来ません。

 あなたが欲しい…」

「あッあッあッ…ヤ…夕麿…激し…あン…ああン…あッ…あッあッあッ…あン…あふッ…ダメ…も…イく…イちゃう…夕麿…夕麿ァ…ひィああああああッ…!」

 凄まじい締め付けと共に武が吐精した。 夕麿は最後の理性を振り絞って、武の中から自らのモノを引き抜いて吐精した。 中に放出するのは、車内では後始末で武が辛い。

 乱れた息で余韻を味わい、ゆっくりと身を起こした。 備え付けのお絞りで、武の身体を丁寧に拭う。

 ぐったりとした武の顔を見ると、まだ満ち足りないような眼差しが、夕麿を見上げて来る。

「まだ足りなさそうですね、武?」

「だって…」

「私も足りません。 続きは家へ到着してからです」

「うん」

 武の身仕度をし、自分も衣類を直して座り直した。 起き上がった武は片時も離れたくないと言うように、しっかりと夕麿に抱き付いていた。

「少し横になってください。 着いたら起こしますから」

「でも…」

 戸惑う姿に夕麿がここにいるのが、まだ信じられないのだろうと思った。 見上げて来る潤んだ瞳の不安な陰りが気になった。

「大丈夫です、夢ではありませんよ、武。 私は消えてしまったりしませんから」

 病み上がり特有の不安。 生死を彷徨った恐怖が、武を普段よりも不安定にしていた。自ら進んで看病にあたった周と短時間だけ学院へ入る事を許された有人以外は、生徒会執行部の仲間すら集中治療室へ入れなかった。家族の誰かにいて欲しいと思ったに違いない。

 夢ではないと言って安心させるように微笑みかけると、武は小さく頷いて膝に頭を乗せて横になった。 それでも不安なのか、袖口を握り締めて離さない。 少しでも不安を取り除いてやりたいと、もう片方の手で武の頭を撫で指で髪をすいて宥める。するとやっと安心したのか、小さく息を吐いて武は静かに目を閉じた。 すぐに規則正しい呼吸をして、眠ってしまった姿を見て帰国して良かったと思う。 武の為だけに帰国したのではないがそれでも、彼の顔を見て抱き締めて何よりも自分が安心したのを感じていた。

 ここが愛しい人の傍らが安住場所なのだと再確認する。 ささくれ立った心が優しく穏やかに潤いを取り戻していた。


 武を御園生邸に連れ帰ってすぐ再び有人に呼ばれた。昨夜、義勝から受け取った新たなデータを今朝、有人に手渡した。中はちゃんと確認したが、呼び出しはそれについてであろう。

 本当は不安定になっている武を置いて動きたくはなかったが、仕事である限りわがままは通らない。最初の印象がこれからを左右するとわかっているからだ。後ろ髪を引かれる思いで、再び車中の人となる。横領はかなり深刻な状態になっている。余りにも巧妙な工作がなされていて、雅久や義勝が全力でデータの分析にあたってはいるが、未だに全容が掌握仕切れない。帰国してからも、刻々と新しいのが送信されてくるが、夕麿もそれに目を通すので手一杯だ。

 
 有人に与えられた部屋へまずは入って、PCを立ち上げながら小夜子に手渡された昼食を摂る。急こしらえというのにちゃんとお弁当だ。その心遣いに胸が熱くなった。

 そこへ有人が自ら足を運んで来た。

「申し訳なかったね、武君のお迎えの日に」

「いえ、迎えには行けましたから、大丈夫です。

 武…かなり痩せていましたね」

「一時は骨と皮ばかりで、小夜子には見せられないと思ったよ」

「そのようですね。周さんから聞きました」

 夕麿は食事をしながら有人と会話して、PCのメールをチェックしていた。学院にいた時にも生徒会の仕事で、似たような事をしていた為に困る事はなかった。

「ああ、これですね」

 義勝から送られて来るデータは、ハッキングを防ぐ為に複雑な暗号化を施してある。これは彼らが中等部時代に遊びで作ったものだが今のところ、限られた人間しか解読出来ない為に夕麿が帰国した理由でもあった。盗聴や盗撮を当たり前にする彼らは、データのハッキングくらいは平気で行う可能性が高かった。ゆえに一番肝心な部分は夕麿自らが持ち帰り、メールとして送信しなければならないものは暗号化する事にしたのだ。

 夕麿は食事を中断して圧縮されたデータを解凍し、暗号化されたものを読めるように変換して行く。彼にとってピアノの鍵盤もPCのキィボードも大差はない。高速で指がキイの上を舞うように動き続ける。時としてPCの処理が追い付かなくて、仕方なく止める以外は。

 データをファイル毎にSDカードに移して行く。如何に夕麿の入力速度が速くても余りにも膨大な量だった。ボブが全面的な協力を申し出てくれたので、今まで義勝たちに入手出来なかったものが、一気に手元に入って調査に3人がかりでいるらしい。
今日は武の迎えに行くのは知っている筈だが、余程の事があったらしく義勝は直接に有人へ連絡をしたらしい。データは夕麿にしか扱えない。結果、武を御園生邸に送り届けて、出社する事になってしまったのだ。
 
 素早く内容に目を走らせて目を見開いて絶句した。それは横領を事細かく記した帳簿だった。誰にいつ、どれだけの金額を動かしたのかが克明に記述されていた。恐らくは横領に関わらされている人間が、後々の証拠として記載したに違いない。

 背後から肩越しにモニター画面を覗き込んでいた有人も息を呑んで頷いた。目を疑うほど膨大な帳簿の操作が行われている。一部返却された記録もあったが長期に渡って横領が行われていた。アメリカの景気が良い時には、出し入れが盛んに行われていた。

「お義父さん、もしかしたら誰かが株式か、先物取引の為に流用しているのかもしれません。ここ数年のウォール街での値動きと、金額の出し入れが重なっています」

「値動き?」

「はい。こっちの出し入れは間違いなく株式投資ですね。私の記憶に間違いはないとは思いますが……こっちは恐らく先物取引でしょう。ちょうど原油価格が高騰していた時期です」

「君は株式投資をウォール街でやっているのか?」

「東証とニューヨーク、ロンドンなどで分散させています。その方がリスクが低いので」

「先物取引も?」

「いえ、そちらは武が一時的に」

「武君が!?」

「彼は感が鋭いので株式投資でも先物取引でも、きちんと値動きを見ている限り、損失をほとんど出しません」

「義勝君や雅久君も?」

「紫霄の特待生は高等部から、株式投資などが許可されますから、普通に全員がやります。 それで損失を出して破産する者は、特待生資格を失う程です」

 何という子供たちを養子にしたのか…有人は嬉しいような、それでいて末恐ろしいような気がした。

「株式投資などのシミュレーションは、中等部から行います」

「武君は? 彼は高等部編入生だから、わからなかったのではないのかね?」

「私が教えました」

 幾ら夕麿が優秀でも、売買のタイミングまでは教える事は出来ない。 つまりは最終的には、武自身の才能と言えた。

「取り敢えず、双方をグラフにして比べてみます」

「頼めるか?」

「お任せください」

 有人は食べ終えた食事の後片付けをして、早々にPCに集中し始めた。 キィボードの上を凄まじいスピードで指が移動を続けている。 マウスの動きも速い。夕麿はそのまま、夜、見かねた有人が止めに来るまで、秘書室の人間が気を利かせてお茶を運んだ以外、何も口にせずにPCに向き合っていた。

「お帰りなさい、お疲れさま。 お二人ともお食事は?」

「私は済ませたが、夕麿君は何も食べていない」

「まあ…ひょっとして、お昼に渡したお弁当以外は何も?」

「すみません、夢中だったので」

「以前に武が言っていた通りね?」

「え!?」

「夕麿さんは夢中になると、何もかもを忘れてしまわれるって、言ってた事があるの。 本当だったみたいね?」

「武がそんな事を…?」

 思い出すのは学祭の時の事。忙しさと中等部の生徒たちの対応に追われて、食事はおろか飲み物すら十分に摂取出来ずにいた。あの時に武は麻痺の残る手で懸命に、お弁当や飲み物を用意して、僅かな時間を見ては夕麿に摂るようにすすめてくれた。

「有人さん、お願いですからご自分のお食事と一緒に、夕麿さんの分もご用意してくださいませね」

 夫に言う小夜子の目は笑っていない。夕麿を忘れて自分だけ食事をしたのを、彼女は怒っているのだ。こういう表情は武とそっくりだと夕麿は苦笑した。有人は引きつって平謝りしている。それを尻目に小夜子は、自らの手で夕麿の食事を用意した。

「ごめんなさい、あり合わせで」

「いえ、ありがとうございます」

 夕麿は嬉しそうに箸を動かして次々と料理を口に運ぶ。小夜子の手料理なら何でも美味しいと思う。

「お義母さん、武はどうしていました?」

 こんなに遅くに起きている筈がないのはわかってはいるが、ここへ連れ帰ってそのままで気になる。

「それが、疲れたみたいで…昼食の後に部屋でずっと休んでるわ」

「そうですか…」

 車の中で押し倒した夕麿としてはかなり後ろめたい。

「やっぱり、暑いのがダメみたいね?」

「そのようですね。迎えに行った時も、暑さが辛いような事を口にしていましたから。寮からゲートまで、20分ほどかかりますし…」

「まあ…広いとは聞いてるけど、本当に広いのねぇ?」

「高等部の敷地が一番広いんです」

 あれ程に学院から出たいと望んだ時もあったのに、今はあの静かな場所が懐かしく恋しい。

「ごちそうさまでした」

 食後のお茶も飲み終えて夕麿は席を立った。ずっとPCを使っていたので、首から肩にかけて強張って痛い。肩を気にしながら自分たちの部屋へ戻り、出来るだけ音をたてないように、そっとドアを開けて身を滑り込ませた。

「う…ん…?」

 武がベッドの上に身を起こした。

「起こしてしまいましたか?」

 ぼんやりと夕麿を見る武に、声をひそめて言葉を紡いだ。

「夕麿…? お帰りなさい」

 薄明かりの中で夕麿の姿を見付けた武が笑顔になった。
 
「ただいま、遅くなってしまいました」

 病み上がりの彼を一人にしてしまった事が辛い。

「そんな事を気にするなよ? 疲れただろ? 早く休めよ?」

 それでも優しく優しく気遣ってくれる。

「軽くシャワーを浴びてから休みます」

 薄明かりの中でそう答えて、部屋を横切って上着を脱ぎネクタイを引き抜く。 それらを途中のソファに置いて、バスルームの灯りを点けた。 中へ入り衣類を脱ぎ捨てるとホッと息を吐く。ドッと押し寄せて来た疲れを自覚する。 一晩眠ればすっきりする筈だが、心の中の重い塊は消えないままだ。

 いつもより高めの温度にしてシャワーを浴びる。首から肩に集中的に湯を当ててマッサージをする。高等部で生徒会長だった時、やはり一日中PCと向き合っていて目頭を押さえていると、武がよくマッサージをしてくれたのを思い出す。多分…今でも頼むと喜んでやってくれるだろう。思わず夕麿の口に笑みが浮かんだ。

 武が側にいる…それだけでこんなに心が温かい。愛しい……愛しい……と心が叫ぶ。込み上げて来る激情は嵐のように心を掻き乱す。

 簡単に身体を洗って出ると、武は先程より端に移動して、背を向けて横になっていた。眠っているのだろうか…?夕麿はそっとベッドに腰をおろした。激情のままに抱いてしまいたくなる。だが武は病み上がりだ。………それに…と、夕麿は天を仰ぐ。こんなに汚れてしまった自分はまだ、武に愛してもらえる資格があるのだろうか…高貴なその身体に触れる事は許されるのだろうか……激情のままに求めてしまった昼間の事を思い出すと、胸が痛む。

 この苦しみの出口はあるのだろうか…武を愛しいと想えば想う程、自分の罪深さに怖れおののく。自分自身に対する強い嫌悪感がわく。

 夕麿は深々と溜息吐いて、そっと浮かんだ涙を指先で拭った。 もう一度武を見やって、彼が身じろぎ一つしないのを見て無言でベッドに入った。微かに武の匂いがする。 激情にかられそうになって躊躇う。 逃げるように目を閉じたが、望むような眠りは訪れてはくれない。渇望と嫌悪感の間で揺れ動く自分を持て余しながら、夕麿は何度も寝返りを打って苦しんだ。 いつ自分が眠ったのか…それすらも自覚がないまま目覚めた。 未だ眠りの中にある武を起こさぬように、そっとベッドを抜けて着替えて部屋を出た。

 まだ、仕事が残っていた。 今日も武の側にいてやれない。 いや…本当はいない方が良いのかもしれない。 渇望よりも嫌悪感の方が勝ってしまっていた。 ダイニングに入って席に着くと、速やかに朝食が整えられる。

 ダイニングに未だ有人と小夜子の姿はない。 夕麿は早々に出社する旨を告げて、文月に車の用意を命じた。仕事にでも逃げ込まなければ、心が壊れてしまいそうだ。 朝食を無理やり胃に流し込んで、上着をと鞄を手に席を立つ。 玄関に横付けされた車に乗り込み、御園生ホールディングス本社ビルへと向かう。 表口は未だ開いていない為、裏口へ回って警備員から鍵を受け取って入室した。 まだビルの空調もこの時刻には動いていない。断熱をしっかり施工してあるのでさほど室温は高くはない。

 PCを立ち上げ、デスクの引き出しの鍵を開けて中から、昨日データを書き込んだSDカードを取り出して、PCに差し込んだ。

 そこへ義勝から着信が来る。

〔今、家か?〕

「いや、出社してる」

〔はあ!? 確かそっちはまだ7時頃だよな? 夕麿、お前なあ……今からworkaholicワーキングホリックになってどうするんだ。

 武の側にいてやれ〕

「私は仕事で帰国したのですよ、義勝?」

〔……夕麿…やっぱりお前…〕

「それで要件は?」

 義勝の言葉を遮って要件を促す。

〔…送ったデータは見たな?〕

「ええ。 今、それをいろいろと解析しているところです」

〔株式と先物だと気付いたな?〕

「もちろんです」

〔社長の大田だがな、不相応な車に乗って愛人を何人も囲ってる。 どう計算しても単身赴任で、日本へ仕送りしている男の生活じゃない〕

「なる程、一番の犯人は彼と言うわけですか」

〔今、大田の株式投資などの情報を収集している〕

「待ってください、義勝。それは危険ではありませんか?」

〔……心配するな…〕

「そうは行きません。 義勝、また貴之任せですか? これ以上はダメだと、私は彼に念を押した筈です」

〔お前の気持ちはわかる。 しかしな……〕

「言い訳は聞きたくありません。 すぐに止めさせてください」

〔……わかった〕

「もし聞き分けない場合は、今回の仕事からは外してください」

〔わかった〕

 これ以上はダメだ。 今でも武に顔向け出来ない行為なのだ。

〔夕麿、余り思い悩むな? 今回の事は貴之が自分で選んだんだ〕

「許可してしまった私に非があります。 予測できた筈なのに…」

〔お前は武の病気でいっぱい一杯だったんだ〕

「言い訳にはなりません。第一、言い訳して何が変わるというのです、あなたは?」

 潔癖過ぎる夕麿を義勝が危惧しているのはわかっている。 しかし今の夕麿は余りにも思い詰め、神経をギリギリまで張り詰めて、それを受け入れる余裕がなかった。

 
 小夜子の苦言が功をそうして昼食の時間には有人が誘いに来た。 地下にある社員食堂へと誘われる。 ゆったりとした空間を演出してあり、メニューも豊富な良い食堂だった。ただ食券を購入する…というシステムは夕麿には経験がない。 券売機で戸惑ってしまう。 見かねた有人が使い方を教える。後ろに並んだ社員たちが興味津々に眺めている中を、夕麿は有人と共に定食を受け取って、奥まった一角に座った。

「すみません…」

「いや、紫霄はカード一枚で全てが賄えるのだったね?」

「はい。 実は現金を使用するの自体に、まだ戸惑いがあります」

 学院の外に出ても支払いは全部カードを使用していた。だから夕麿と義勝は現金を使い慣れない。雅久や貴之、麗は困った様子は見せないが、やはり夕麿と義勝は学院生活が長過ぎた。互いに世間からズレ過ぎているのはわかってはいる。今は貴族である…という立場が、そのズレを上手く隠してくれてはいるが、そうでなかったらただのバカである。特に夕麿は武が編入するまでは一番身分が高い者として、常に周囲から様々な気遣いを受けていた。誰かが全てをしてくれるのが当たり前だった。今も雅久が細やかな気配りをしてくれている。

「自分がどれだけ何も知らないのか、身にしみているところです…」

「追々なれて行けば良い事だし、君の場合はそんなに慣れなくても構わないと思うよ」

「そうでしょうか?」

「君は君のままで良い」

 有人の言葉を噛み締めながら、その日は一日中、PCに向かっていた。夜、時間を忘れていた夕麿を有人が、昨夜よりかなり早く迎えに来た。

 武が熱を出したと言うのだ。慌てて帰宅すると武は別の部屋へ移ったと聞かされた。武もまだと聞いて自分も一緒に食べる伏せっている部屋へと急いだ。

 だが…どこか武の様子がおかしい。 何がどうなのか、と聞かれると明確に言葉には出来ない。 ただ何かが違う気がするのだ。 愛する人が自分の手の届かぬ所へ行ってしまうようで、不安が胸を満たして行く。

 もしかしたら彼は汚れた自分を感じてしまったのかもしれない。 感が良い武ならあり得る。 自分の部屋へと戻りながら、夕麿は絶望に眩暈めまいがしそうだった。

「夕麿さま」

 文月が部屋の前で待っていた。

「武さまのご様子がおかしく思うのですが…奥さまも気にされております」

 その言葉に無言で頷いた。

「文月…明日、武から目を離さないで欲しいのです。 何か異変があるようでしたらすぐに連絡をください」

「承知致しました。 おやすみなさいませ」

 その言葉に頷いて部屋へ入った。

 今は不安だけが心の中で渦巻いていた。 大切なものが全て指から零れ落ちて行く気がした。


 次の日の昼過ぎに文月から連絡が来た。 武が身の回りを片付けて何かを書いていたと言う。 思い詰めた、それでいて覚悟を決めたような表情が、逆に痛々しく見えると伝えて来た。

 夕麿は急いで帰り支度をして、有人の部屋へ行って事情を話す。 彼も武の様子を小夜子から聞いていた。

 帰宅すると青ざめた顔で、小夜子が待っていた。

「夕麿さん、あの子…学院へ戻るつもりではないかしら?だとしたら大変だわ。夕麿さん、止めてください、武を」

 学院へ帰る…それが何を意味するのか、わからない夕麿ではない。心の中で何かが壊れるような音がした。夕麿は小夜子に頷き返すのがやっとだった。部屋のドアの前に立って躊躇いながら開けると、武は既に外出するような服装へと着替えていた。

「武…起きて大丈夫なのですか?」

「あ…うん…」

 声をかけると戸惑ったように視線をそらして後退る。

「何かあったのですか?文月があなたの様子がおかしいと、心配して連絡をくれたのです。何かあったのならば、私には話してください、武」

 武の方へ踏み出しながら、なおも問い掛けると更に後退する。

「武…何故逃げるのです…?」

 武は怯えた顔でなおも下がって、とうとうベッドまで行き着いてしまった。もう、逃げる場所がない。そのベッドの上に大きめの封筒が置かれているのに気付いて夕麿は手に取った。

「これは…何です?」

 中は手紙と六条家の土地建物の権利書。

 夕麿は手紙を開いて中を読んだ。 そこには武の今の心情が書き連ねてあった。 自分は役目を終えて、去って行くべきなのだと。 夕麿は自分に縛られずに、自由に生きて欲しいと。

 それは夕麿への別れの手紙だった。目の前が真っ暗になった。

「これはどういう意味ですか?」

 恐怖が怒りとなって声がいつもより更に低く響いた。

「…書いた通りだよ…俺は学院に帰る……」

「あなたは自分が何をしようとしているのか、わかっているのですか、武!?」

「痛ッぅ!」

 武の肩を力任せに掴んだ。

「何故です…何故急にそんな事を…!?」

 恐怖が理性を呑み込む。自分でも制御出来ない闇が夕麿を包み込んだ。

「あなたまで…あなたまで、私を捨てるのですか!? あなたまで……」

 また暴走する……と感じながらも、もう自分ではどうにもできない。感情の爆発が夕麿を支配した。力任せに武の頬を打ちその衝撃で細い身体がベッドに倒れた。その上に馬乗りになる。

「夕…麿…」

 武の顔が戸惑いと恐怖に揺れる。

「許しません、武!」

 再び頬を打ち、着ていたシャツを引き裂いて肌を露わにする。

「嫌…嫌だ…こんなの…」

 ベッドの上を逃げようとする武の腕を乱暴に掴んで押さえ付ける。

「痛い、離して!」
 
 悲鳴を上げて身を捩り、懸命に抗う武の両手首を掴んだ。

 夕麿の心を支配するのは愛する者を失い続けた恐怖。ある筈の幸福が乾いた砂のように、指の間から零れ落ちていく、肌の水分を奪いながら。 大切な誰かに愛する人に捨てられるのは、もう絶対に嫌だと自分の中の幼い子供の感情が泣き叫ぶ。

 それは夕麿がずっと封じ込めて来た心の叫びであった。誰にも受け止めてもらう事ははおろか、聞いてももらえないと抑圧し続けた想い。幼い時期に失い続けた幸せを求め続けて来た本当の感情だった。

 産んでくれた母はまだ幼かった夕麿を置いて死んだ。

 義理の母詠美は、最初から夕麿を嫌った。

 そして乳母が六条家を自分を捨てて出て行った。

 就学年齢になると学院小等部の寄宿舎へ捨てるように入れられた。

 それでも父か乳母がいつかは迎えに来てくれると、幼い夕麿は信じてひたすらに待ち続けた。

 中等部になって親しく可愛がってくれる教師がいた。 それが多々良 正恒だった。 訳のわからない内に犯され、それでも愛しているから…と告げられて縋った。 だが…それも嘘だった。

 もう誰も信じない。 誰も愛さない。 そう思って逃げ込んだ自分の殻。 冷たく凍えて行く心に怯えながら、より一層、他者を拒絶した。

 自分がとるに足らない汚れた存在に感じられて嫌悪感だけが募った。

 本当は自分を消してしまいたかった。 この世の自分の存在を知っている人の記憶ごと、自分を全て消してしまいたかった。

 誰かに触れられるだけで吐き気がした。 眩暈がして息が苦しくなった。

 そうすると本当に誰とも触れ合えなくなった。 もう誰かと愛し合う事は出来なくなったのだと思った。 ただ絶望の中で生き続けていた。

 そして……あの春の日に武と出会った。 自分とは違う意味で心を閉ざしている彼を、突き放そうとして突き放せなかった。

 不安に揺れる眼差しが、声をかけると綺羅綺羅とする。 その煌めきや笑顔に、どれだけ救われただろう。 涸れ果てた心がゆっくりと潤い満たされた。

 もう…失っては生きて行けない。 やっと見付けた愛しい人。 何もかも捨てても、夕麿だけを愛してくれる存在。

 それなのに………

「痛い、離して!」

「まだ抵抗するのですか!?」

 激しく抗う姿が夕麿を拒絶しているように見えた。 首から絹のネクタイを引き抜いて、細い手首を縛り上げ、ベッドヘッドの鉄の飾りに繋ぎ止める。

「ヤダ! やめッ…夕麿…」

「あなたは私のものです」

 だからどこにもやらない。 どこにも行かせない。 逃げると言うなら、縛り付けてでも行かせない。

 下半身の衣類を剥ぎ取り、武が身に付けているのは最早、引き裂かれたシャツだけになった。

「夕麿…ヤダ…」

 夕麿がこれから何をしようとしているのかわかって武が恐怖に震える。 もう夕麿は止まらなかった。

 両脚を無理やり開かせて、固く閉じている蕾を引き裂くように貫いた。

「イヤあああああ!!」

 泣き叫ぶ声すら既に夕麿の耳には届かない。 自分が誰に何をしているのかも、わからなくなっていた。

 固く閉ざされていた中を突き、抉り、かき混ぜる。 その度に武の身体が痛みに痙攣《けいれん》し、口から悲鳴混じりの嗚咽が漏れる。

「うくッ…あッ…ひィ…ああッ…痛ッ…夕麿…ごめん…ごめん…あぅ…ああああ…」

 既に抵抗する力も気力も失って、武は泣きながら揺らされていた。

「夕麿…ごめんね…愛してる…」

 激痛を味合わされている筈なのに、武は繰り返して夕麿に謝り続けていた。 互いに想うが故のスレ違いが、相手を傷付け合ってしまう。

 それは哀しい現実だった。




 どれほど時間過ぎただろう。 響いているのは、濡れた音と身体がぶつけられる音だけ。 最早、武は意識を失って力なく、横たわっていた。

「…くぅ…」

 武の中に放出するのは、もう何度目だっただろう?

 夕麿はようやく我に返った。

「…私は…」

 茫然と自分と周囲を見回した。

「!?」

 自分が何をしたのか…夕麿はその状況に声すら上げられなかった。 慌てて身を放し、武の手首を戒めているネクタイを解いた。

 無惨な状態だった。 幾ら呼んでも武は微かに呻くだけで意識を取り戻さない。無理やりに開かされ貫かれた蕾からは、夕麿が放った精が鮮血の色に染まって流れ出ていた。 シーツも朱に染まっている。

 夕麿の全身が震え出した。 自分の行為の余りの状態に、為す術を失ってしまった。 震える指で携帯を手にして、縋るような気持ちで高辻に電話した。

〔夕麿さま、如何なさいました?〕

 響いて来た彼の声に縋るように夕麿は、未だ激しく動揺している状態で口を開いた。

「武が…武が…」

 涙が溢れて言葉が上手く紡げない。 何を言わなくてはいけないのか、わかっているのに言葉に繋がらないのだ。電話の向こうの高辻は何かを悟ったのか、まず夕麿に落ち着くように言った。 それから武の今の状態をゆっくりと夕麿に説明させた。しどろもどろで脈絡がない言葉が飛び出すのを辛抱強く聞き、取り敢えずは今やるべき事を指示した。それに従って武の身体を拭って、パジャマを着せたのを確認して次を口にした。

〔夕麿さま、どなたかをお呼びください。 それからその方に電話を代わってください〕

 夕麿はよろめきながらドアを開けると、小夜子と文月が心配そうな顔でそこにいた。 二人の顔を見て夕麿は崩れ落ちた。 震えが激しくなる。 携帯を持っていられなくて、手から落ちそうになるのを小夜子が取り上げた。

 文月が部屋へ入る。

 小夜子は高辻の話に耳を傾けていた。

 夕麿はドアに寄りかかって泣きじゃくっていた。

 直ちに文月が御園生家の主治医に連絡し、その間に武をソファに移してベッドメイキングをする。

 小夜子は主治医が来たら再度連絡する約束をして、高辻との電話を一旦切った。

「夕麿さん……」

 小夜子は夕麿を抱き締めた。

「お義母さん…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 大切な息子に酷い事をした自分は、もう許されないのではないか。新たに沸き起こって来た恐怖におののく。

「大丈夫よ、夕麿さん。高辻先生からお話を伺ったわ。武はやっぱり、ここから出て行こうとしたのね?」

 小夜子の問い掛けに言葉では応えられず、ガクガクと首を動かして頷くのがやっとだった。彼女はそんな夕麿の状態を優しく抱き締め、ソファへと移動させた。

「大丈夫よ、夕麿さん。辛かったのね?怖かったのでしょう?武が私やあなたを捨てて、出て行こうとしたのですものね」

 小夜子はちゃんと高辻の説明を聞いて、自分の息子たちの精神状態を理解していた。どのような事態も現実も冷静に高辻の言葉を受け入れていたのである。

 そこへ主治医が駆け付けた。小夜子は高辻に電話をかけ主治医に手渡した。御園生系列の病院から派遣された、主治医は高辻と面識がある。彼は仕切りに話し込んでいたが、小夜子に携帯を返してまず武を診察し始めた。

 パジャマを脱がせ、体内にまで傷が及んでいないかを確認する。夕麿は直視出来なくて顔を背けて腕を抱くようにして震えていた。

「内部は傷付いてはおられないようです。外側の傷も僅かですし…縫合も必要ないでしょう。この程度でしたら、3~4日で完治すると思われます」

 その言葉に安堵した夕麿の身体が、ゆらりと揺れて崩れるようにソファから落ちるように倒れた。

「夕麿さん!?」

 小夜子の呼ぶ声が聞こえる。返事をしなければ…と思いながら意識が途切れた。



 微かな物音と声、それにベッドの軋みに意識が浮上した。

「武……?」

 身を起こして振り返って声をかけると、武の背中が強張るのがわかった。自分がどんなに酷い事をしたのかわかっている。きっと今度こそ嫌われたに違いない。

 それなのに…武の口からは予想外の言葉が出た。

「夕麿…ごめん…ごめんね…俺…バカだ…」

 上げ続けた悲鳴の所為で、嗄れた声で武は言って啜り泣く。こんな自分を許すと言うのか。 まだ受け入れてくれるのか。 胸がいっぱいになって、ベッドの反対側にいる武を背後から抱き締めた。

「あなたはいつも…そうやって、私が酷い事をしても責めないのですね…」

 武は首を振って答えた。

「俺の方が酷い事した。 夕麿を傷付けるヤツを許さないって…誓ったのに、俺が一番酷い事をしようとした」

 武は一層声をあげて泣きだした。 愛しくて愛しくて夕麿も涙が溢れて来た。武の手が抱き締める腕に、そっと添えられた。

「夕麿…痩せたね?俺が痩せたのは、病気の所為だけど…」

「たいした事はありません、これくらい…向こうの食事が口に合わないだけですから」

「嘘…俺に心配させないようにって…思ってるんだろ?

 そうだよな、俺には会社とか仕事の事はわからないものな…話したって意味ないよな…ごめん…役立たずで…」

 言い繕ってもすぐに見破られ、逆に武を傷付けてしまう。

「武…違うのです…私は自分の不甲斐なさが情けなくて、あなたに話す事が出来なかったのです」

 そう言って武を抱き締める腕に力を込めて、反対側にある水差しの水をグラスに注ぐ。ベッドの中央に戻って武を抱き寄せて、グラスを武の口に当てて飲ませる。

「もっと必要ですか?」

「ううん、もういらない。ありがとう」

 笑顔で答える姿が愛しい。

 グラスを置いて、武を再び抱き締めた。座るのですら辛そうなのに武は夕麿に微笑む。

「痛むでしょう?傷を付けてしまいました…」

 胸が痛くて笑顔を真っ直ぐに見れない。

「これくらい大丈夫だよ…俺が悪いんだから…」

「何故あなたは、私を責めないのです?」

 どこまでも武は優しい。

「夕麿がこんな風に…見境がなくなるのは、いつも俺が悪い事をした時じゃないか…そうだろう?」

「武…」

「俺…自分のしようとしてるのが、夕麿の為だって思い込んでたんだ。でも違った。俺さ……夕麿に『いらない』って、言われるのが怖かったんだと思う」

「私がそんな事を言う筈がないでしょう?こんなにもあなたを愛しているのに……私はあなたを失ったら、誰を愛して…誰を抱き締めれば良いのです?あなた以外…愛する事も抱き締める事も…出来ないというのに…」

 自分の胸を引き裂いてこの想いを見せる事が、出来るならば武に見て欲しいと思った。

「そうだね…俺…俺…夕麿にもう…身体しか、あげられないのに…逃げたらそれすら…」

「それは違います! 私が抱き締めるのは…身体だけじゃありません。 あなたの優しくて温かい心も一緒にです。

 ああ…この胸を引き裂いてでも、あなたに見せて証明したい。 私がどれだけあなたを必要としているのかを。 どれだけ愛しているかを。

 武…武…愛しています」

 今、武を苦しめているのは自分の迷う心だと、夕麿にも自覚はある。それでも未だに話す勇気が持てなかった。

 ただ想いの丈を込めて、唇を重ねて武の口腔内を舌先で愛撫する。

「ン…ぁふ…ンン…」

 嚥下仕切れない唾液が、武の顎を伝って滴り落ちる。

 武の指がシャツを掴み掛けて、ハッとしたように止まった。 だがすぐに指先は半ば開かれていたシャツの中に入り込んで、鎖に通して掛けていた指輪を探り出した。

「これ……」

「痩せて少し緩くなって…無くしたくないので首に掛けています。 ロサンゼルスにいる時は結婚指輪をしていないと、煩いのが寄って来ますから、テープを巻いて何とか付けていたのですが…指を傷付けてしまうので」

「あはは…俺と同じ事してたんだ…」

 武の不安の原因が指輪が指にない事だった、という事実にようやく思い当たった。 鎖の事を早く話しておけば良かったのだ。

「後で指を傷付けないテープの巻き方を教えてあげるよ」

 憂いを吹っ切ったような笑顔が眩しい。

「お願いします」

 自分の事にばかりとらわれていないで、心配させない配慮を考えるべきだったと今更後悔する。

「夕麿……」

 潤んだ武の瞳が見上げて来た。

「何、武?」

「抱いて欲しい…」

 そう言われて息を呑んだ。

「……今は無理です、武。 動くだけで痛むでしょう? 傷を付けてしまいましたから…」

「痛くても構わないから…抱いて」

「出来ません」

「抱いて…夕麿を感じたい…今、欲しい」

 欲しているのは夕麿も同じだった。 けれどこれ以上、武を辛い目に合わせなくない。

「お願い…」

 縋り付いて来る瞳に逆らえなかった。

「武…辛かったら言ってください…」

 再び傷付けるのを恐れながら、夕麿は武をそっと横たえた。


 朝、案の定、無理をした武の熱が上がっていた。 夕麿は朝食を運んで来た文月に、もう一度主治医を呼んでもらった。 主治医は武を診察してその肌に、昨日はなかった口付けの跡を見て溜息を吐いた。 夕麿は恥ずかしさといたたまれなさに、身の置き場なくうなだれていた。

「先生、夕麿は悪くないよ? 俺が無理に強請ったんだから」

 武に庇われて一層、身の置き場がなくなる。

「武さま、本日は絶対に安静になさってください。 さもないと夏休み中、ベッドの中にいなくてはならなくなりますよ?」

「…う…それは困る」

 本気で困った顔をした彼に、主治医はやれやれと言う顔をした。 彼は武に点滴を打つと今度は夕麿を診察した。

「かなり疲れが溜まっておられるようですね? あまりご自分の丈夫さを過信なさってはいけません。高辻先生から指示が出ています。 あなたにも点滴を打たせていただきます。安静までは必要ではありませんが、本日はゆっくりとお身体とお心をお休めになってください」

「わかりました」

 主治医の言葉を神妙な面持ちで聞いて、夕麿は武と並んで点滴を受ける。すると様子を見に来た小夜子が言った。

「本当に二人は仲良しねぇ。 痩せたり倒れたりも、一緒なんて…まさに夫唱婦随ふしょうふずいねぇ」

 などと言う。

「母さん…頼むからその頭が腐ったみたいな考え方はやめろよ~」

「もう、武、照れなくても良いのよ?」

「照れてないって! あ…夕麿、笑うな!」

 小夜子のこの調子は、素なのかわざとなのか…実の息子である武にも時々わからないらしい。しかし責められて当然の状況で彼女のピントのズレた言葉は癒しに近かった。

 点滴が終わって起きようとすると武が袖を掴んでベッドに引き戻す。

「寝てろよ、夕麿も。 俺だけ安静なんて、つまんない…」

「そうは言いますが…」

「仕事しようって思ってるだろ? ダメ、おとなしくしなきゃ」

「動き回るわけではないのですから、大丈夫です」

 データをフラッシュメモリーに落として持ち帰って来ていた。 武の側で看病しながら、仕事をするつもりだったのだ。

「今日くらい休んでも、会社は潰れないよ、夕麿?

 ねぇ、母さん?」

「そうですよ、夕麿さん。 有人さんにも言っておきましたから、今日はゆっくりなさいな」

 そう言われても、気になるものは気になる。

「夕麿、たった1ヶ月で仕事中毒か? そんなの学校を全部卒業してからなれよ~それに……夕麿が横にいてくれた方が、安心する…からさ」

 赤くなって口ごもる武がいつもより更に可愛く見える。

「夕麿さん、この子のわがままを聞いてあげてくださいな」

 そうまで言われると仕事をするわけにはいかなくなってしまった。

「わかりました、降参します」

 諦めてベッドに横になると、武が嬉しそうに抱き付いて来た。

「母さん、いつまでいるの? 邪魔なんだけど?」

「はいはい、馬に蹴られるのも、お豆腐の角に頭ぶつけるのも御免だから、退散するわよ~」

 小夜子は笑いながら部屋を出て行った。

「武、豆腐の角に頭をぶつけるのは、難しくはありませんか?」

「はあ? ああ、あれね…真に受けなくて良いから」

「そう…なのですか?」

「そうなの!」

 夕麿は今一つわからなくて首を傾げると、武は困ったように肩を竦めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...