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Sexual Minority
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ロサンゼルスに到着してから、あっという間に10日が過ぎた。
武は1週間の昏睡の後、ようやく目覚めた。その間の夕麿は心配の余りに鎮静剤を使用して強制的にしか眠る事が出来ず、栄養も点滴に頼る程の憔悴だった。目覚めた武の声にようやく安堵して表情も明るくなった。
会社の方はというと貴之が社内ハッキングしたデータを、4人で徹底的に調査した結果、使途不明な金の流れがあった。 最初は賄賂などに使用されている可能性も考えられたので、その方面で調べたが形跡はないと判断した。 つまり誰かが会社の金を横領しているという事になる。 かなり巧妙にデータの偽造が行われていたが、雅久の目がそれらの虚偽を全て暴いた。 誰が何の為に横領しているのか…まではまだわからない。 ただ損失額は大きく業績不振の一番の原因と思われた。
「かなり、上層部の複数が関わっているようですね?」
「どこから突く?」
「もう少し、社内の情報を集めてみましょう」
夕麿の言葉に全員が頷いた。
「すみません、夕麿さま。 ランチの約束をしているので」
貴之はシンプソンの魅力に堕ちたふりを続けている。 彼女が振って来る会話の内容から、間違いなく社長たちのスパイだとわかっていた。
「ああ、もうそんな時間ですね。 どうぞ、貴之」
「ありがとうございます」
貴之を見送ってか、夕麿たちも昼食に出ようと、エレベーターホールで待っていると、桐原がすり寄って来た。
「ランチですか?」
「ええ、桐原さんもですか?」
義勝が笑顔で答える。 彼は貴之の次くらいに、人当たりの良い性格を演出していた。
「皆さまは少し変わった私立校のご出身ですね」
そう来たかと雅久と夕麿が目配せをする。
「特殊と言えば特殊です。 入学には家柄や資産状態が考慮されますし、途中編入には高い偏差値や素行の調査も行われますから」
「ああ、なる程。 確か小等部からエスカレーター式と伺いましたが?」
「俺と夕麿は小等部からです。 雅久と貴之は中等部、まだ在校している義弟の武は高等部編入です」
紫霄学院は生徒の一般公募は行っていない。 推薦や紹介があって初めて、入試資格の調査や資料提出が認められる。 故に知名度はないと言っても過言ではない。 当然ながら内部の情報も外部には、わからないようになっていた。
「その…ある習慣のようなものを、耳にしたのですが…」
再び雅久と夕麿が目配せした瞬間、夕麿の携帯の着信音が鳴り響いた。曲は『紫雲英』、武からである。
「失礼」
夕麿は躊躇いなく携帯に出た。
「おはよう、武。そちらはまだ早朝でしょう?どうかしたのですか?………クスクス、いくら退屈だからって、病人なんですよ、今のあなたは?」
みんなに背を向けて話し出した夕麿を、桐原は探るように見つめている。
「義弟ですよ。俺たちがこっちに来たころ、病気で倒れまして…入院中なんです。寂しがりなので、こちらからも電話するのですが…」
「武さんはまだ、紫霄に在校されているのですよね?」
「ええ」
「それで…先程の話なのですが…」
「同性愛の事ですね?」
「桐原さん、あなたはあの学院の何をご存知でしょうか?」
雅久が不快感を剥き出しに問い返した。
「いや、ご気分を害したのでしたら申し訳ありません」
「学院には家庭的事情を抱えた者が数多く在校しています」
「やめるんだ、雅久。 桐原さん、人はそれぞれに様々な事情を抱えているものではありませんか? あなただってご自分の様々な事情を他人に、根掘り葉掘りされたらあまり良い気分ではない筈です」
「それはまあ…そうですが…」
「俺たちはそういう恋愛をたくさん見て来ました。Sexual Minorityだからと言って、偏見を持たれ差別されるのはおかしくはないですか? 少なくともアメリカでは、そのような考え方は歓迎されない筈です」
理詰めで言われると桐原は言葉を失った。 義勝は自分たちの事について嘘も隠しもしてはいない。 ただ正論を並べて相手を黙らせた。
「雅久、武が話をしたいそうです」
「はい。
もしもし、武君? ダメですよ、ちゃんとおとなしくしていないと」
先程とは打って変わって、雅久の明るい声がエレベーター内に響く。
「武は元気になったようだな?」
「周さんの話によると、目覚めてすぐに空腹を訴えたそうですから」
「クックックッ…それは武らしいな」
義勝が苦笑する。
「武さんはどのような方ですか?」
機嫌をとるように桐原が武の事を聞いて来る。 彼らが武を可愛がっていると判断したらしい。
「可愛い方ですよ? 素直で純粋で懸命で」
夕麿が目を細めて言う。
「ですが、彼は自分が大切にするものを傷付ける存在を決して許しません」
「容赦ないからなあ、武のやり方は。 相手を叩き潰すか、破滅させるまで手を緩めない」
「そうですね。 それをまたお義父さんが、お認めになられるし力をお貸しになられる」
「俺たちには甘えん坊の可愛い弟だがな?」
「それ、本人が聞いたら拗ねますよ、義勝?」
親友同士が笑い声を上げる。 武に対する愛情の種類は違っても、彼を想う事は同じであり一点の曇りもなかった。
「義勝、今度はあなたに変わって欲しいそうですよ?」
雅久が笑いながら携帯を差し出した。
エレベーターは一階に到着し、彼らはそのままレストランへ向かう。
「武め、よっぽど退屈してるな?」
雅久の手から携帯を受け取って義勝が呟く。
「おい、武。 病人はおとなしく寝るのが仕事だろうが? ……もう飽きただと? わがままな奴だな?ならば下河辺に言って、副会長執務室の23のファイルをプリントアウトしてもらえ。
ふん、中身は見ればわかる。 当分退屈しないぞ?」
「義勝、あれは未認可要請のファイルですよ?」
夕麿が慌てた。
「また、そっちの夕方に電話してやるから、おとなしくしてろ」
義勝はそう言って夕麿に携帯を返した。
「武、23ファイルはあくまでも参考資料ですから。 ……考えすぎて、また熱を出して周さんを困らせるのではありませんよ?
彼は好意であなたの看病をしてくださっているのですから、それを忘れてはなりません。 わがままはほどほどにして、今は病気を治す事を一番になさい。
よろしいですね? ……ではこれから昼食に行きますから……ええ、そちらの夕方くらいにはかけれると思います。
では」
携帯を切って上着のポケットに入れると夕麿は義勝に声をかけた。
「あれを見せたら間違いなく、武はひとつずつ申請の検討を始めます」
「俺たちが出来なかった事を見せてやれば、武も頑張り場所がわかるだろう?」
「あなたという人は…」
「お前は武を甘やかし過ぎだ」
この二人のやり取りを、桐原は興味深げに聞いていた。
「桐原さん、ランチ、ご一緒に如何です?」
いきなり義勝が桐原に振った。
「え、よろしいのですか?」
「お近付きのしるしにご馳走いたします」
探りを入れて来るからこそ、わざと近付けさせる。 だがそれは綱渡りでもある。
夕麿たちは最近お気に入りの和食レストランへと入る。 他のレストランよりはかなり割高になるのだが、アメリカの濃い味付けが今ひとつ合わない彼らにはここが一番落ち着く。平均的アメリカ人の昼食としては、金額的にはかなり贅沢である。
座って『本日のお任せランチ』というのを3人分注文し、雅久は天ぷら蕎麦を注文した。
「あの、その…根掘り葉掘りではないのですが…庶民の私としては興味がありまして」
「お話し出来る事と出来ない事があります。 秘事がたくさんありますから」
義勝の言葉に桐原はもっともらしく頷く。
「それで…先程電話で申されていた、周さんとはどなたですか?」
根掘り葉掘りはしないんじゃないのか…と言いたいところをぐっと抑えて義勝は笑顔で答えた。
「夕麿の従兄で、紫霄の医学部の学生です。 俺たちの2年先輩になります」
「ああ、なる程…」
頷くがどうせ、同性愛云々を考えているのだろう。
「それで夕麿さまの奥方さまどのようなお方なのでしょう? ご身分の高い方と伺いましたが?」
そっちへ行くかと…義勝は内心苦笑する。
「さる宮家の直系の方です。 夕麿さまのご母堂さまがやはり宮家の御血筋ですので、御釣り合いがとれると言う事で」
雅久が勿体をつけて説明する。
「ご一緒にこちらには来られなかったのですか?」
「まだ学生であられますので、国外へのお出ましの許可が下りないのです」
「それではお寂しいでしょう?」
誰か適当な女をあてがう気満々の態度を見せた。
「別に。 どの道私は妻以外には触れられませんから」
あっさりと切り捨てる。
「今度は桐原さんの事を教えてください。
ご家族は?」
「妻と娘が二人おります」
「皆さんこちらに?」
義勝が上手く話を進めて行く。 実は桐原の家族の事など既に詳しく知っている。
「それが…高等学校までは皇国が良いと…」
「単身赴任ですか? それじゃあ、夕麿と変わりませんね」
「ですが、私どもよりご新婚の夕麿さまの方がお寂しいでしょう?」
「そうですね。 たくさんの持ち物を交換して、互いに持っています」
そう答えると夕麿は、武と交換したペンを見せた。美しい蓮華の花の蒔絵で飾られた、黒と銀がベースのペンは一見、女性の持ち物にも見える。
「これは見事な…蓮華の花は、奥方さまの御印ですか?」
「ええ」
夕麿が大事そうにペンをしまう。伴侶と呼ぶのをやめて、夕麿と義勝はそれぞれの相手を『妻』と呼ぶ事にした。
ひとつには雅久がそれを、嬉しそうにするからだ。武は真っ赤になっていたが、満更でもない様子だった。言葉ひとつで相手は、真実を見ないままに勝手に解釈をする。
そこへ店に入って来た男が一人、彼らのテーブルに近付いて来た。
「桐原室長、こちらでしたか?」
桐原に声をかけながら、夕麿たちを舐めるような目付きで見る。
義勝は彼が第二の罠だと思った。そう彼は真性のゲイだろう。Sexual Minorityは、女でも男でも同類はわかる…と言われている。つまり夕麿たちを見分ける為にわざと彼にここへ来させたのだろう。
金髪碧眼。ヨーロッパの貴族を思わせるような、整って気品さえたたえた顔付きを見て、コイツはモテるだろうな…と義勝は思う。
「ああ、ブラウン君、どうかしたのかね?」
わざとらしい桐原の言葉に義勝はうんざりした。
「昼飯を奢ってくれる約束だった筈です」
「え?あ…ああ、そう言えば…」
「忘れてたのですか、酷いなあ…」
桐原の戸惑いは懐事情だろう。 義勝がご馳走する…と言ったからここで高価なランチを食べているのだ。 幾ら円高の昨今でもたかが昼食にここのランチは高い。
義勝は夕麿に目で問い掛ける。 夕麿はあまり愉快ではない表情で頷いた。
「良かったらどうぞ」
義勝の言葉を受けて、目配せをした桐原と金髪の男の目が光った。
「ありがとう。
俺はロバート・ブラウン、ボブと呼んでくれ」
「俺は御園生 義勝だ」
「御園生…? なる程、君が噂の御曹司のひとりか」
「留学した3人とも揃ってる」
義勝が軽口を叩く。 自分のSexual Minorityはばらしても今のところ夕麿程には害はない。
「えっと……蓬莱皇国の貴族だったけ?」
「そうだ。俺たちの中でも夕麿が最も身分が貴い」
「ああ、なる程。 あれ…3人って言ったけどまだいるの、御曹司は?」
知っている筈だが、義勝も気が付かない顔をする。
「義弟がひとり日本に残っている。 それに義母のお腹にあとひとり」
「すると…男ばかり5人?」
「と言う事になるな」
「ふうん……で、蓬莱の貴族ってみんな君たちみたいに美人揃いなの? 特にこっちの彼はオリエンタル美人…と言うよりとってもミステリアスな美人だね?」
「彼は今上陛下の御前で舞楽を演じる者です。 そのように指差して物申すは礼を欠いた行為だとわからぬのですか」
夕麿の声が低く冷たく響く。 レストラン中の人間が呼吸を忘れる程の強い威圧感を放ち、その存在の高貴さを解放した。 これには桐原もボブも半分腰を浮かせて後退る。ふんぞり返って自分の権力や富を誇張する人間には絶対に真似が出来ない、長き歳月によって磨かれた高貴なる血がもたらす輝きは他者を圧倒して君臨する。彼らは本物とこうして身近に接するのは初めてであったのだろう。
無論、義勝や雅久はこれには慣れてはいる。 内心、夕麿を怒らせた愚か者たちに苛立ちを感じた。桐原も皇国の出身の筈なのだが、長くアメリカに居すぎているのかもしれない。もっとも本国でも貴族と関わらない人間は多い。義勝と雅久はそれを憐れだと思う。
事態を憂う二人の前でフッと威圧感が消えた。 夕麿が普段の顔に戻っていた。彼は自分のそういう部分を自在に操れる。 相変わらず見事なものだと、庇われた雅久は感心する。
「夕麿さま、ありがとうございます。 お心遣い心より感謝致します」
雅久は身体をずらして椅子に手をついて、深々と頭を下げて言った。
「頭を上げなさい、雅久。 私は当たり前の事を申したまで」
雅久にそう告げると、夕麿はボブに対してはもう興味はない…と言いたげな態度をした。
「…その…失礼を致しました」
ボブの言葉に夕麿はチラリと視線をやり直ぐに食事に戻った。
ボブは決まりが悪いのか、黙って運ばれて来た料理を食べ始めた。
「夕麿、まだ食欲が落ちたままだな」
「奥方さまとお義母さまの手料理が、恋しく想われていらっしゃるのでしょう?」
「お二人の料理は絶品だからな」
「私がつくったものが、もう少しお二人に近ければよろしいのですが…」
「良いのです、雅久。私のわがままに過ぎませんから。 そのうちに慣れて今少しは食べられるようになるでしょう」
卒業式の朝まで武の手料理を食べていた。 渡米までの3日間は小夜子の手料理だった。 それに比べたらレストランの食事は何と味気ないものか。 今住む家のコックは皇国から呼んだ者だが、やはり……二人の手料理が恋しい。
「奥方さまはお料理をなされるのですか?」
「大変お料理がお好きな方です」
義勝が当然のように言う。 義勝も雅久もよく夕食は夕麿たちの部屋に呼ばれて武の手料理を食べていた。 今から思えば武は料理をつくる事もだが、誰かに食べさせるのが好きだったように思う。何故なら彼は自分ひとりになると、かなりおざなりな食事しかしないのだ。 ヘタをすればオレンジ・ジュースだけか食べないで済ませてしまう。 それは在学中に彼の護衛をしていた貴之が、途中で気が付いて夕麿に知らせた事実だった。
まだ入院中の武。 ちゃんと出された食事を食べているのだろうか…? 心配で胸が塞がる思いがする。 夕麿は深々と憂いの籠もった溜息を吐いた。
「夕麿さま、ダメですよ。 溜息は幸せを吐き出すものです」
「そうですね…気を付けましょう」
優しく穏やかに微笑むのが、どこか儚げで美しく感じる。 本物の貴公子の気高き美しさは常に周囲の者を魅了する。
義勝はボブがそれを見て、欲望に喉を鳴らすのを聞いた。
「俺までご馳走になってすみません」
レストランを出てボブがそう言いながら夕麿の腕をいきなり掴んだ。
「!?」
声なき悲鳴をあげた夕麿の顔色から、みるみるうちに血の気が引いて蒼白になる。
「僭越者が!」
低い怒声と共にボブの腕が取られ、瞬時にねじ上げられた。
「Ouch!」
ボブが悲鳴を上げた。 貴之がどこからか駆け付けて来たのだ。
夕麿はハンカチで口許を覆って喉元に手をやっている。雅久が慌てて夕麿の背を撫でた。
「無理に抑えようとするな、夕麿!」
過呼吸の発作を起こしかけていた。
「桐原さん、これはどういう事ですか!? 夕麿さまに無闇に触れないように申し上げた筈です!
何故、他の者に通達していないのです!」
雅久が静かに静かに、しかし凍て付くような怒声を放つ。 それはどんな怒鳴り声よりも桐原の心を震撼させた。
「も、申し訳…ごさいません」
「貴之、もう結構です。 その者を放しなさい」
「承知」
貴之と一緒だったシンプソンも、青い顔でこの様子を見ていた。
「すみません、義勝。 もう大丈夫です」
夕麿の言葉に全員がホッとする。
「何かの病気か?」
腕を撫でながらボブが呟いた。
「PTSDによる発作です」
義勝が夕麿を連れて行ったのを確認して貴之が答えた。
「母校の学院で昨年秋にある事件がありました。 それに武さまが巻き込まれ、夕麿さまが救いに行かれのですが、犯人に重傷を負わされたのです。 武さまも酷い怪我をなされて…ご自身の苦痛と相まって、夕麿さまのお心に傷が残られたのです」
雅久が哀しげに言うとその玲瓏さゆえに聴く者の心を揺さぶった。
「もとから夕麿さまは、お心を許さない方に触れられるのがお嫌いで…それが一層激しくなられたのです」
「何故、カウンセリングを受けない?」
ボブが肩を竦めて言う。
「ちゃんと主治医が一緒に来て治療してる。 あんた、PTSDが簡単に治癒すると思っているのか? もし発作が強く出た場合、俺たちでは触れる事も出来なくなるんだぞ?」
軽くで済んで良かったと貴之は本気で思っていた。
「どういう意味だ?」
「発作が酷くなると親友の義勝でも受け付けなくなられる。 その場合、触れられる人間がここにはいないんだ。 そんな事態になったらもう、気を失わせるしかない…」
それは夕麿にある意味で害をなす事である。いくら緊急の措置だと言っても、彼を守るようにと言った武に顔向けが出来ない。
「I'm Sorry.」
さすがに申し訳ないと思ったのか、滅多に「ごめんなさい」を言わないアメリカ人のボブが謝った。
「社に戻りましょう、貴之」
「そうだな」
歩き出した貴之をボブが引き止めた。
「待ってくれ、自己紹介くらいさせて欲しい」
その言葉に貴之が立ち止まった。
「秘書室のロバート・ブラウンだ、ボブと呼んでくれ」
「良岑 貴之だ。 俺も貴之で良い」
「貴之、行きますよ?」
雅久が呼ぶ。 ボブのような人間は貴之から一番遠ざけたい。 どうやら夕麿に興味を持ったようだが、発作が逆に彼を守ったように思う。となれば貴之に近付こうとするだろう。
雅久は振り返って念を押すように桐原に言った。
「桐原さん、もっと強い発作を起こされた場合、夕麿さまに触れて発作を緩和出来るのは奥方さまただ一人です。 ここにいらっしゃらない方の手は借りれません。 そこをよくご了承なさって、今度は徹底させてください」
発作の事は夕麿の弱点と言えば弱点である。 だがこうなったら仕方がない。 逆手を取って利用する方法を考えなければならない。不埒な人間が近付いて来て無闇に無体を働こうとするのを防ぐ方向へ向かわせるしかないだろう。今はそれをよしとするしかなかった。
「君は御園生じゃないんだな?」
エレベーターの中でボブが貴之に問い掛けた。
「ああ。夕麿さまとは同級生になる」
「今は?」
「同じ学校に留学して来た。武道の心得があるから、奥方さまから夕麿さまの護衛を依頼されてはいる」
「ふうん…シンプソンと付き合ってるの?」
「まだその段階じゃない…ねぇ?」
貴之が話題を振ると彼女は笑顔で答えた。
「そうね…でも今夜辺り誘おうかしら?」
「それは光栄だね」
笑顔で返すとシンプソンは頬を赤らめた。 わざとらしく恥じらう彼女に鼻白んだが、貴之は素知らぬ顔で立っていた。
「ついでに俺とも付き合わない? 君、男もいけるだろ?」
「まあね、否定はしない」
「やっぱり?」
「だが、二股はしない」
「それは残念!」
「不実な事をしたくはないだけだ」
「真面目だね~東洋人ははみんな、そんな風に真面目なわけ?」
「そうじゃない人もいますよ?」
「ふうん…」
「ロブ! 貴之を誘惑しないで! あなたはすぐに、見目の良い男を私たちから奪ってしまうのだから…今度は許さないわよ?」
「はいはい、おお~怖い」
本気なのか冗談なのか、よくわからない言葉を残して、ボブは秘書室へと入って行った。 それを見届けてから、シンプソンは貴之に婉然と微笑みかけて言った。
「あのタラシにとられない内に、あなたを私のものにしたいわ」
「お望みならば今夜にでも」
「約束よ?」
シンプソンは指で貴之の唇をなぞってから秘書室へと消えた。 人影のない廊下で貴之は、汚いものを拭うかのように唇を手の甲で擦った。
………その夜、日付が変わる少し前に帰宅した貴之は、バスルームからしばらく出て来なかった。
同性も異性も抱ける。 だからといって貴之は女性が好きなわけではない。 執拗に身体にまとわり付いて消えない、女の匂いが耐え切れない程不快だった。
シンプソンとベッドを共にした日から貴之は極力、夕麿の側から離れた位置にいるようになった。 どんなに洗っても彼女の匂いがする気がして、夕麿の側に寄れなくなってしまったのだ。
貴之のそんな憂いも知らず、シンプソンは執拗に彼にまとわり付く。 何度か関係を持ったが気が滅入るばかりで近頃は吐き気までする。 結局彼女は重要な事は何も知らず、社についての情報をある程度聞き出すと完全に用済みになってしまった。そろそろ限界だと感じていた時、貴之の心中を読んだかのようにボブが近付いて来た。
「体調悪そうだな?」
「食傷気味なだけだ」
「あの女にか? あれはただの尻軽に過ぎんぞ?」
「そのようだな」
「女何ぞに手を出すから、うんざりするんだ」
「これでも一応、許婚者がいた身なんだが?」
「今はいないんだろ? なあ、俺にしておけよ?」
馴れ馴れしく触れてくるボブの手を振り払い、貴之は鋭い視線を浴びせながら尋ねた。
「で、お前はどっち側だ?」
「挿れる方が好きだな。お前は?」
「挿れられた経験しか、今のところはない」
「それは益々好みだ」
「……お前は俺に何を求める? 夕麿さまたちの事を探りたいなら断るぞ? 俺は殺されてもあの方を裏切らない……裏切れない。 皇国貴族の一人として、皇家の貴種を裏切るのは死ねと言うのと同じだ」
「何もいらない。 俺は貴之、お前が欲しいだけだ」
「信じられないな」
「嘘は嫌いだ。 信じるかどうかは、お前次第だろう?」
「ふん。 ならば身体はやろう。 だが俺は心まではやらない」
「それでも良い…必ず振り向かせてみせるさ」
「好きにしろ。 だがその前にあの女との関係を解消しなければならない。それまで待て」
「了解」
武と夕麿の為ならば何でも差し出す。 身体だけの繋がりなど泡のようなものだ。
その夜、貴之はシンプソンとの情事の後で別れ話を切り出した。
「NO!Why?」
「あなたは俺に何を望んでた?」
「あなたは私と結婚してくれないの?」
「最初からその気はない。 俺たち皇国の貴族は、外国人との婚姻は許可されていない」
「結婚に誰の許可がいると言うの!?」
「俺たちの血筋は皇家との婚姻を結ぶものがいる。外国人の血が皇家に入る事は絶対に許されない。だから俺たちは外国人とは結婚出来ない」
「身分なんかナンセンスだわ」
「俺は良岑家の一人息子だ。 身分や家を捨てる事は出来ない」
「私はただの遊び相手だったと言うの!?」
「軽く誘って来るし、こちらの誘いにも簡単に乗ったのは、あなたもそのつもりだったからだろう?」
「それは…」
「何? 手切れに慰謝料でも欲しいのか? 100万$までなら用意出来るが?
口座番号を教えてくれれば、明日には振り込む。」
「NO!お金じゃないわ…」
「じゃあ何? 夕麿さまの事なら言わない、殺されても」
「確かに…室長に命じられたわ…でも」
「知ってるよ。 知ってて誘いに乗ったんだから。 互いの手の内を明かしたわけだ、これで終わりにしよう。
金が欲しいなら口座番号をメールしてくれ」
貴之は身支度を済ませて早々に彼女の部屋を後にした。 後は帰って夕麿に報告するだけだ。
先程連絡を入れたので屋敷から迎えの車が来た。 貴之はそれに乗りビバリーヒルズの屋敷へ帰宅した。
そして…すぐに貴之とボブの関係が、社内で噂されるようになった。
夕麿はこの事態に平気だったわけではない。 自分と距離を取る貴之に彼は苦悩した。 そんな汚れ仕事を望んだ事は一度もない。 貴之は大切な友人なのだ。 こんな事をさせる為に、この仕事に協力を依頼したわけではない。貴之が昨年の秋から続いて起こった学院での事件で、武と夕麿を守れなかったのを未だに悔やんでいるのは知ってはいた。 卒業前に武が夕麿の事を頼んだのも知っている。 けれど武にしてもこんな事を望んではいない筈だ。あのボブという男が最初に興味を持ったのは、多分自分だと夕麿は感じていた。 だからこそ心苦しい。 友人を犠牲にしてまで、行う必要があるのだろうか、この仕事を。 確かになかなか尻尾を出さない。
出来れば25日頃には、何だかの報告書をまとめて帰国したい。 そうしなければ夏休み中、武は学院に閉じ込められてしまう。
御園生邸に連れ帰って療養させてやりたい。
側にいてやりたい。
……会いたい
……抱き締めたい
まだ半月しか過ぎていないのに…卒業式の日に、学院のゲートで別れたのが遠い日のような気がする。 涙を懸命に我慢していた姿が愛しくて、さらって行きたかった。
「武…武…」
彼の身代わりに持って来たイルカのぬいぐるみを抱き締めて、愛しい人を請い求めても互いの間には太平洋が広がる。 飛行機でおよそ10時間。 近いようで遠い。
責任を背負った限り、捨てて帰る事は出来ない。
武の病気への心配と異国でのストレスの双方で痩せた夕麿の指から、結婚指輪も紫霄の学生証である指輪も抜け落ちるようになってしまった。 僅か2週間という短期間でだ。既婚者である事をきちんと証明する為に、アメリカでは結婚指輪を付けているのは常識である。 いらぬ混乱を呼ばぬ為にも彼らには指輪は必要だった。見兼ねた雅久が手のひら側にテープを巻いて、サイズを調節するのを教えてくれた。 武のスクールリングは鎖に通してペンダントにした。
周からの知らせでは武はやっと退院したという。電話して頼み込んだが…ちゃんと食べているだろうか。 手が届かない…というのが、こんなにもどかしく寂しいものだと今まで知らなかった。夜毎に電話をかける。 こちらの夕方は蓬莱皇国ではちょうど昼頃になる。 帰宅する車の中で電話する。 次第に元気な響きへと声が変化して来ているのが嬉しい。
武が昏睡状態になっていた時、学院では生徒たちが皆、肉類を一切断って精進潔斎して祈り続けていたと聞いて胸がいっぱいになった。 武はちゃんと皆に慕われ大切に思われている。 だが嬉しい反面、彼が自分の手から離れてしまったようで寂しくも感じていた。
こんな執着や依存はやめなければならない。武を支えて御園生を盛り立てていけるように。そう願うのに 最初の仕事でこんなに手間取ってしまっている。
隙あらば足を引っ張り、蹴落とそうとする大人たち。 大人の悪意はよく知っている筈なのに、自分を取り巻く悪意の渦に、呑み込まれそうで恐怖すら感じる。 今更ながら自分の無力さと未熟さを思い知って夕麿は愕然としていた。正しい事が正しいと認められない。 道理が通らず、無理難題ばかりを押し付けられる。
貴之がボブと付き合う、それが彼らの同性愛に対する偏見を露わにする。 それでなくても一部の原理主義キリスト教徒は、同性愛を神への冒涜、悪魔の所業として露骨に嫌悪する。目の当たりにすると深い悲しみが胸を覆う。 ただ愛した相手が同性だったというだけ。 異性を愛する人々と自分たちの愛にどんな違いがあるというのか。 あるとしたらただ一つ。子を、新たな生命を生み出す事が出来ないだけ。
それがそんなに罪なのだろうか?傷付いた魂が寄り集まって互いに癒し合う事が、罪だというならば自分たちは生きては行けない。 寄り添って歩いて行く事を望んでいるだけ。だが偏見と差別は容赦がない。 カリフォルニアは人種差別に比べると同性愛への差別は幾分少ない方なのだという。でも差別や偏見の眼差しには時折、挫けてしまいそうなくらいに傷付いた。
当然ながら貴之に集中する。彼だけにこのような苦痛は与えられないと、カミングアウトしようとするが義勝たちに止められた。 せめてこの内部調査が終わるまでは待てと。
武を女性扱いするのは裏切っているようで苦しい。 恥じる事はない筈なのに。 愛しい者を愛しいと言う事が、安易でない事実に苦悩する。
貴之だけではなく、周囲の眼差しは義勝と雅久にも向けられ始めた。 どのような態度をとられても二人は平然としている。 いや、むしろ毅然とした態度でいた。 二人でいる強味もあるだろう。
しかしただ一人で彼らに庇われて偽りの自分でいるのは、今の夕麿には最早『針の筵』の上に座っているのも同じだった。思うように食物が喉を通過しない。 ストレスをためては吐いていた、武の気持ちや苦しみを思い知る。孤独だった。 街には人々が溢れているのに、身近に友人たちがいるのに、夕麿の心は虚しさと孤独でいっぱいだった。 それでも泣き言は許されない。 倒れる事も許されない。 拳を握り締め歯を食いしばって、自分の役目を果たす為に立ち続けていた。
そして……ようやく横領の真実が見え始めて来た。
きっかけはボブだった。 彼もまた偏見と差別に苦しみながら生きている人間の一人だった。 夕麿たちを蹴落とす為に自分の性癖が利用されるのが、本当は我慢ならないとこっそりと秘書室の奥に隠されていた、社長たちの使い込みのデータをコピーして貴之に手渡してくれた。貴之の一途で真摯な忠義心にうたれた…というのもあったらしい。 最初は夕麿や義勝も疑った。 こちらを油断させる罠ではないのかと。 だが彼が持って来たデータを雅久が照らし合わせた結果、寸分のズレも間違いもなく本物である事が証明された。
このデータを証拠として更にコピーして、夕麿が帰国に踏み切ったのが7月27日だった。 日付変更線を越えて武を学院から出せる31日には間に合った。
帰国の前に一つだけ、どうしてもしておきたい事があった。夕麿はこっそりとボブを呼び出した。
「あなたからのお誘いとは光栄ですねぇ」
義勝たちを社に残して帰国準備の為に、ビバリーヒルズの屋敷に戻っているのを利用したのだ。
「私があなたを呼んだ理由はおわかりですね?」
「貴之の事だろう? 彼に汚れ役をさせて、やっと良心が咎めたわけ?」
「私は言い訳はしません。 ただ、彼は私の大切の友人です…」
苦汁に満ちた顔で視線をそらした夕麿に、ボブは彼の潔癖なまでに真っ直ぐな性格を見た。 そして貴之たちが執拗なまでに彼を庇う訳を理解した。
「俺は遊びのつもりではない」
「それが困るのです」
「え?」
「私たちは外国人とのそのような関係を持つ事を、許されてはいないのです。シンプソンの事もあなたの事も、彼の日本での立場を悪くするのです」
「あなたが言っている意味が、俺にはわからない!」
「大変時代錯誤な考え方ですが、私たちの階級は未だに外国人との結び付きを、穢れのように考える傾向があるのです」
「はあ!? 同性愛は認めるのに、外国人はダメって…矛盾してないか、それ!?」
ボブの反応は至極当たり前である。 夕麿が世間知らずでもそれくらいはわかる。
「同性愛も私たちの階級では本来は認められてはいません。 認めれば血が絶えてしまいますから。 許されるのは特別な理由がある場合だけです……私のように」
自分の事を隠して相手に頼み事をするのは、卑怯だとそう思ってしまうのが真っ直ぐな夕麿らしい。
「…認めるんだ、自分の事を」
「気付いていたでしょう?」
「まあね…いろいろと」
「いろいろ…?」
「そう、いろいろ。 貴之たちが話してた事件とやらで、あなたがどんな目にあったのか」
「!?」
夕麿は息を呑んだ。
「事件の詳細はわからない。 でも…あなたが同性間のレイプの被害者だってのはわかる」
「…わかりますか…でしょうね…」
目を伏せて微かに震える姿は弱々しくて、社での姿とは余りにも違う。 ボブはこっちが本当の姿だと感じていた。
「俺も…経験者だと言ったら、信じる?」
「え…?」
「俺の場合、自分の性癖に早くから気が付いていてさ…でも、自分で言うのは何だけどモテたんだ、男女構わず。 で…振った女に逆恨みされて、マッチョなゲイたちに輪姦された、ハイスクールの時だ」
ボブの告白に夕麿は目を見開いた。
「俺も今でも受ける側は…難しい」
「そう…だったのですか」
「あなたのように発作を起こしたりはしないけどな」
「私は…同じ人間に二度…最初はまだ13歳の誕生日を迎える前でした」
夕麿はボブに自分の身に起こった事を掻い摘んで語った。
「俺にそんな事まで話して良いのか? もし社長たちに話したらどうする? 貴之の努力が無駄になるぞ?」
「どうぞ。 もう…庇われるのに疲れました…」
夕麿は本当に憔悴仕切っていた。 元々、不安定な精神を抱えたまま、様々なものに向かっているのだ。
「貴之や義勝たちを置いて、一時とはいえ帰国するのは心苦しいのですが…」
「心配するな、言わないよ。 俺はあいつら大嫌いだからさ」
「感謝します」
「で、もう一つ気付いている事があったりする」
「…怖い人ですね」
「俺は周囲の視線を気にして生きて来たからな。 他人の表情とかを読めるんだ」
「それで、何に気付いたと?」
「あなたの相手…って、御園生 武だろう?」
夕麿の顔が強張った。
「大丈夫だ、桐原は顔色見る癖に小心者で気が付いてはいないさ」
「何故…わかったのです」
「みんなの表情かな? あなたの奥方の話をする時と、武って人の話をする時の顔が同じだった。 まるで大切な姫君を守る騎士のようだ」
「ある意味、そうだからです。 私たちは皆、彼によって救われ、ここにいられるのですから」
「つまり、巷で流れている噂は真実ではない…という訳か」
その言葉には夕麿はただ、微笑みを返しただけだった。 外国人である彼に武の身分や立場を話す事は出来ない。 ボブも貴之が口にしていた事で、何となく想像はしてはいるが、夕麿が口にしない限り聞いてはならないと理解している。
「限界はありますが、今回のデータの事も含めて、出来うる限りの礼はします。 もう一度お願いします。 貴之とこれ以上、関わらないでください」
夕麿は深々と頭を下げた。
「何でも…? では代わりにあなたの身体を要求したら?」
「…それは…無理です… 私は武以外は受け付けません。 それに…私の浮気は武に害を及ぼす事になります。 彼の自由をこれ以上失わせる訳には… …それだけは無理です。武だけではなく、たくさんの方への裏切り行為なのです」
完全に顔色を失って今にも倒れそうな夕麿を見て、ボブは彼が決して保身の為ではないのを知った。
誇りある高貴なる存在。その立場を維持して生きる事を求められた人間。それは痛ましくもあった。まだ18歳。これから大学へ進学する彼に、意地悪く隙あらばずたずたに引き裂いてやろうとする、欲に穢れ切った社長たち。
「ジョークだ。そんな事を要求したら、貴之に何をされるか…」
「本当に怖いのは多分、武だと思います。普段の彼はとても可愛くて優しいのですが…彼を怒らせると、二度と立ち上がれないくらいに叩き潰されますよ」
「それは…聞いてる。実感がないけどな」
「そうですね…私も彼の手の内を全部知ってはいませんが…」
夕麿は少し肩を竦めてみせた。
「知りたくない…かな?もっと確証は必要だろう?貴之は繋ぎとしてもう少し俺に貸してくれ。あなたが戻って来る頃には、白黒付けておいてやる。状況も随時、そちらに行くようにする。
……また、失恋か…東洋人は難しいな」
「礼を言います」
「全部終わったら、仲間に入れてくれよ?なかなかSexual Minorityは集団になりにくいんだ。一つのグループを作れば、その手の組織に応援を頼める。この先、偏見や差別に対抗しやすくなる」
「それは…考えておきます。友人としてなら歓迎しますよ、ボブ」
アメリカ人の最初の友人。夕麿は少しだけ、光が見えた気がした。
武は1週間の昏睡の後、ようやく目覚めた。その間の夕麿は心配の余りに鎮静剤を使用して強制的にしか眠る事が出来ず、栄養も点滴に頼る程の憔悴だった。目覚めた武の声にようやく安堵して表情も明るくなった。
会社の方はというと貴之が社内ハッキングしたデータを、4人で徹底的に調査した結果、使途不明な金の流れがあった。 最初は賄賂などに使用されている可能性も考えられたので、その方面で調べたが形跡はないと判断した。 つまり誰かが会社の金を横領しているという事になる。 かなり巧妙にデータの偽造が行われていたが、雅久の目がそれらの虚偽を全て暴いた。 誰が何の為に横領しているのか…まではまだわからない。 ただ損失額は大きく業績不振の一番の原因と思われた。
「かなり、上層部の複数が関わっているようですね?」
「どこから突く?」
「もう少し、社内の情報を集めてみましょう」
夕麿の言葉に全員が頷いた。
「すみません、夕麿さま。 ランチの約束をしているので」
貴之はシンプソンの魅力に堕ちたふりを続けている。 彼女が振って来る会話の内容から、間違いなく社長たちのスパイだとわかっていた。
「ああ、もうそんな時間ですね。 どうぞ、貴之」
「ありがとうございます」
貴之を見送ってか、夕麿たちも昼食に出ようと、エレベーターホールで待っていると、桐原がすり寄って来た。
「ランチですか?」
「ええ、桐原さんもですか?」
義勝が笑顔で答える。 彼は貴之の次くらいに、人当たりの良い性格を演出していた。
「皆さまは少し変わった私立校のご出身ですね」
そう来たかと雅久と夕麿が目配せをする。
「特殊と言えば特殊です。 入学には家柄や資産状態が考慮されますし、途中編入には高い偏差値や素行の調査も行われますから」
「ああ、なる程。 確か小等部からエスカレーター式と伺いましたが?」
「俺と夕麿は小等部からです。 雅久と貴之は中等部、まだ在校している義弟の武は高等部編入です」
紫霄学院は生徒の一般公募は行っていない。 推薦や紹介があって初めて、入試資格の調査や資料提出が認められる。 故に知名度はないと言っても過言ではない。 当然ながら内部の情報も外部には、わからないようになっていた。
「その…ある習慣のようなものを、耳にしたのですが…」
再び雅久と夕麿が目配せした瞬間、夕麿の携帯の着信音が鳴り響いた。曲は『紫雲英』、武からである。
「失礼」
夕麿は躊躇いなく携帯に出た。
「おはよう、武。そちらはまだ早朝でしょう?どうかしたのですか?………クスクス、いくら退屈だからって、病人なんですよ、今のあなたは?」
みんなに背を向けて話し出した夕麿を、桐原は探るように見つめている。
「義弟ですよ。俺たちがこっちに来たころ、病気で倒れまして…入院中なんです。寂しがりなので、こちらからも電話するのですが…」
「武さんはまだ、紫霄に在校されているのですよね?」
「ええ」
「それで…先程の話なのですが…」
「同性愛の事ですね?」
「桐原さん、あなたはあの学院の何をご存知でしょうか?」
雅久が不快感を剥き出しに問い返した。
「いや、ご気分を害したのでしたら申し訳ありません」
「学院には家庭的事情を抱えた者が数多く在校しています」
「やめるんだ、雅久。 桐原さん、人はそれぞれに様々な事情を抱えているものではありませんか? あなただってご自分の様々な事情を他人に、根掘り葉掘りされたらあまり良い気分ではない筈です」
「それはまあ…そうですが…」
「俺たちはそういう恋愛をたくさん見て来ました。Sexual Minorityだからと言って、偏見を持たれ差別されるのはおかしくはないですか? 少なくともアメリカでは、そのような考え方は歓迎されない筈です」
理詰めで言われると桐原は言葉を失った。 義勝は自分たちの事について嘘も隠しもしてはいない。 ただ正論を並べて相手を黙らせた。
「雅久、武が話をしたいそうです」
「はい。
もしもし、武君? ダメですよ、ちゃんとおとなしくしていないと」
先程とは打って変わって、雅久の明るい声がエレベーター内に響く。
「武は元気になったようだな?」
「周さんの話によると、目覚めてすぐに空腹を訴えたそうですから」
「クックックッ…それは武らしいな」
義勝が苦笑する。
「武さんはどのような方ですか?」
機嫌をとるように桐原が武の事を聞いて来る。 彼らが武を可愛がっていると判断したらしい。
「可愛い方ですよ? 素直で純粋で懸命で」
夕麿が目を細めて言う。
「ですが、彼は自分が大切にするものを傷付ける存在を決して許しません」
「容赦ないからなあ、武のやり方は。 相手を叩き潰すか、破滅させるまで手を緩めない」
「そうですね。 それをまたお義父さんが、お認めになられるし力をお貸しになられる」
「俺たちには甘えん坊の可愛い弟だがな?」
「それ、本人が聞いたら拗ねますよ、義勝?」
親友同士が笑い声を上げる。 武に対する愛情の種類は違っても、彼を想う事は同じであり一点の曇りもなかった。
「義勝、今度はあなたに変わって欲しいそうですよ?」
雅久が笑いながら携帯を差し出した。
エレベーターは一階に到着し、彼らはそのままレストランへ向かう。
「武め、よっぽど退屈してるな?」
雅久の手から携帯を受け取って義勝が呟く。
「おい、武。 病人はおとなしく寝るのが仕事だろうが? ……もう飽きただと? わがままな奴だな?ならば下河辺に言って、副会長執務室の23のファイルをプリントアウトしてもらえ。
ふん、中身は見ればわかる。 当分退屈しないぞ?」
「義勝、あれは未認可要請のファイルですよ?」
夕麿が慌てた。
「また、そっちの夕方に電話してやるから、おとなしくしてろ」
義勝はそう言って夕麿に携帯を返した。
「武、23ファイルはあくまでも参考資料ですから。 ……考えすぎて、また熱を出して周さんを困らせるのではありませんよ?
彼は好意であなたの看病をしてくださっているのですから、それを忘れてはなりません。 わがままはほどほどにして、今は病気を治す事を一番になさい。
よろしいですね? ……ではこれから昼食に行きますから……ええ、そちらの夕方くらいにはかけれると思います。
では」
携帯を切って上着のポケットに入れると夕麿は義勝に声をかけた。
「あれを見せたら間違いなく、武はひとつずつ申請の検討を始めます」
「俺たちが出来なかった事を見せてやれば、武も頑張り場所がわかるだろう?」
「あなたという人は…」
「お前は武を甘やかし過ぎだ」
この二人のやり取りを、桐原は興味深げに聞いていた。
「桐原さん、ランチ、ご一緒に如何です?」
いきなり義勝が桐原に振った。
「え、よろしいのですか?」
「お近付きのしるしにご馳走いたします」
探りを入れて来るからこそ、わざと近付けさせる。 だがそれは綱渡りでもある。
夕麿たちは最近お気に入りの和食レストランへと入る。 他のレストランよりはかなり割高になるのだが、アメリカの濃い味付けが今ひとつ合わない彼らにはここが一番落ち着く。平均的アメリカ人の昼食としては、金額的にはかなり贅沢である。
座って『本日のお任せランチ』というのを3人分注文し、雅久は天ぷら蕎麦を注文した。
「あの、その…根掘り葉掘りではないのですが…庶民の私としては興味がありまして」
「お話し出来る事と出来ない事があります。 秘事がたくさんありますから」
義勝の言葉に桐原はもっともらしく頷く。
「それで…先程電話で申されていた、周さんとはどなたですか?」
根掘り葉掘りはしないんじゃないのか…と言いたいところをぐっと抑えて義勝は笑顔で答えた。
「夕麿の従兄で、紫霄の医学部の学生です。 俺たちの2年先輩になります」
「ああ、なる程…」
頷くがどうせ、同性愛云々を考えているのだろう。
「それで夕麿さまの奥方さまどのようなお方なのでしょう? ご身分の高い方と伺いましたが?」
そっちへ行くかと…義勝は内心苦笑する。
「さる宮家の直系の方です。 夕麿さまのご母堂さまがやはり宮家の御血筋ですので、御釣り合いがとれると言う事で」
雅久が勿体をつけて説明する。
「ご一緒にこちらには来られなかったのですか?」
「まだ学生であられますので、国外へのお出ましの許可が下りないのです」
「それではお寂しいでしょう?」
誰か適当な女をあてがう気満々の態度を見せた。
「別に。 どの道私は妻以外には触れられませんから」
あっさりと切り捨てる。
「今度は桐原さんの事を教えてください。
ご家族は?」
「妻と娘が二人おります」
「皆さんこちらに?」
義勝が上手く話を進めて行く。 実は桐原の家族の事など既に詳しく知っている。
「それが…高等学校までは皇国が良いと…」
「単身赴任ですか? それじゃあ、夕麿と変わりませんね」
「ですが、私どもよりご新婚の夕麿さまの方がお寂しいでしょう?」
「そうですね。 たくさんの持ち物を交換して、互いに持っています」
そう答えると夕麿は、武と交換したペンを見せた。美しい蓮華の花の蒔絵で飾られた、黒と銀がベースのペンは一見、女性の持ち物にも見える。
「これは見事な…蓮華の花は、奥方さまの御印ですか?」
「ええ」
夕麿が大事そうにペンをしまう。伴侶と呼ぶのをやめて、夕麿と義勝はそれぞれの相手を『妻』と呼ぶ事にした。
ひとつには雅久がそれを、嬉しそうにするからだ。武は真っ赤になっていたが、満更でもない様子だった。言葉ひとつで相手は、真実を見ないままに勝手に解釈をする。
そこへ店に入って来た男が一人、彼らのテーブルに近付いて来た。
「桐原室長、こちらでしたか?」
桐原に声をかけながら、夕麿たちを舐めるような目付きで見る。
義勝は彼が第二の罠だと思った。そう彼は真性のゲイだろう。Sexual Minorityは、女でも男でも同類はわかる…と言われている。つまり夕麿たちを見分ける為にわざと彼にここへ来させたのだろう。
金髪碧眼。ヨーロッパの貴族を思わせるような、整って気品さえたたえた顔付きを見て、コイツはモテるだろうな…と義勝は思う。
「ああ、ブラウン君、どうかしたのかね?」
わざとらしい桐原の言葉に義勝はうんざりした。
「昼飯を奢ってくれる約束だった筈です」
「え?あ…ああ、そう言えば…」
「忘れてたのですか、酷いなあ…」
桐原の戸惑いは懐事情だろう。 義勝がご馳走する…と言ったからここで高価なランチを食べているのだ。 幾ら円高の昨今でもたかが昼食にここのランチは高い。
義勝は夕麿に目で問い掛ける。 夕麿はあまり愉快ではない表情で頷いた。
「良かったらどうぞ」
義勝の言葉を受けて、目配せをした桐原と金髪の男の目が光った。
「ありがとう。
俺はロバート・ブラウン、ボブと呼んでくれ」
「俺は御園生 義勝だ」
「御園生…? なる程、君が噂の御曹司のひとりか」
「留学した3人とも揃ってる」
義勝が軽口を叩く。 自分のSexual Minorityはばらしても今のところ夕麿程には害はない。
「えっと……蓬莱皇国の貴族だったけ?」
「そうだ。俺たちの中でも夕麿が最も身分が貴い」
「ああ、なる程。 あれ…3人って言ったけどまだいるの、御曹司は?」
知っている筈だが、義勝も気が付かない顔をする。
「義弟がひとり日本に残っている。 それに義母のお腹にあとひとり」
「すると…男ばかり5人?」
「と言う事になるな」
「ふうん……で、蓬莱の貴族ってみんな君たちみたいに美人揃いなの? 特にこっちの彼はオリエンタル美人…と言うよりとってもミステリアスな美人だね?」
「彼は今上陛下の御前で舞楽を演じる者です。 そのように指差して物申すは礼を欠いた行為だとわからぬのですか」
夕麿の声が低く冷たく響く。 レストラン中の人間が呼吸を忘れる程の強い威圧感を放ち、その存在の高貴さを解放した。 これには桐原もボブも半分腰を浮かせて後退る。ふんぞり返って自分の権力や富を誇張する人間には絶対に真似が出来ない、長き歳月によって磨かれた高貴なる血がもたらす輝きは他者を圧倒して君臨する。彼らは本物とこうして身近に接するのは初めてであったのだろう。
無論、義勝や雅久はこれには慣れてはいる。 内心、夕麿を怒らせた愚か者たちに苛立ちを感じた。桐原も皇国の出身の筈なのだが、長くアメリカに居すぎているのかもしれない。もっとも本国でも貴族と関わらない人間は多い。義勝と雅久はそれを憐れだと思う。
事態を憂う二人の前でフッと威圧感が消えた。 夕麿が普段の顔に戻っていた。彼は自分のそういう部分を自在に操れる。 相変わらず見事なものだと、庇われた雅久は感心する。
「夕麿さま、ありがとうございます。 お心遣い心より感謝致します」
雅久は身体をずらして椅子に手をついて、深々と頭を下げて言った。
「頭を上げなさい、雅久。 私は当たり前の事を申したまで」
雅久にそう告げると、夕麿はボブに対してはもう興味はない…と言いたげな態度をした。
「…その…失礼を致しました」
ボブの言葉に夕麿はチラリと視線をやり直ぐに食事に戻った。
ボブは決まりが悪いのか、黙って運ばれて来た料理を食べ始めた。
「夕麿、まだ食欲が落ちたままだな」
「奥方さまとお義母さまの手料理が、恋しく想われていらっしゃるのでしょう?」
「お二人の料理は絶品だからな」
「私がつくったものが、もう少しお二人に近ければよろしいのですが…」
「良いのです、雅久。私のわがままに過ぎませんから。 そのうちに慣れて今少しは食べられるようになるでしょう」
卒業式の朝まで武の手料理を食べていた。 渡米までの3日間は小夜子の手料理だった。 それに比べたらレストランの食事は何と味気ないものか。 今住む家のコックは皇国から呼んだ者だが、やはり……二人の手料理が恋しい。
「奥方さまはお料理をなされるのですか?」
「大変お料理がお好きな方です」
義勝が当然のように言う。 義勝も雅久もよく夕食は夕麿たちの部屋に呼ばれて武の手料理を食べていた。 今から思えば武は料理をつくる事もだが、誰かに食べさせるのが好きだったように思う。何故なら彼は自分ひとりになると、かなりおざなりな食事しかしないのだ。 ヘタをすればオレンジ・ジュースだけか食べないで済ませてしまう。 それは在学中に彼の護衛をしていた貴之が、途中で気が付いて夕麿に知らせた事実だった。
まだ入院中の武。 ちゃんと出された食事を食べているのだろうか…? 心配で胸が塞がる思いがする。 夕麿は深々と憂いの籠もった溜息を吐いた。
「夕麿さま、ダメですよ。 溜息は幸せを吐き出すものです」
「そうですね…気を付けましょう」
優しく穏やかに微笑むのが、どこか儚げで美しく感じる。 本物の貴公子の気高き美しさは常に周囲の者を魅了する。
義勝はボブがそれを見て、欲望に喉を鳴らすのを聞いた。
「俺までご馳走になってすみません」
レストランを出てボブがそう言いながら夕麿の腕をいきなり掴んだ。
「!?」
声なき悲鳴をあげた夕麿の顔色から、みるみるうちに血の気が引いて蒼白になる。
「僭越者が!」
低い怒声と共にボブの腕が取られ、瞬時にねじ上げられた。
「Ouch!」
ボブが悲鳴を上げた。 貴之がどこからか駆け付けて来たのだ。
夕麿はハンカチで口許を覆って喉元に手をやっている。雅久が慌てて夕麿の背を撫でた。
「無理に抑えようとするな、夕麿!」
過呼吸の発作を起こしかけていた。
「桐原さん、これはどういう事ですか!? 夕麿さまに無闇に触れないように申し上げた筈です!
何故、他の者に通達していないのです!」
雅久が静かに静かに、しかし凍て付くような怒声を放つ。 それはどんな怒鳴り声よりも桐原の心を震撼させた。
「も、申し訳…ごさいません」
「貴之、もう結構です。 その者を放しなさい」
「承知」
貴之と一緒だったシンプソンも、青い顔でこの様子を見ていた。
「すみません、義勝。 もう大丈夫です」
夕麿の言葉に全員がホッとする。
「何かの病気か?」
腕を撫でながらボブが呟いた。
「PTSDによる発作です」
義勝が夕麿を連れて行ったのを確認して貴之が答えた。
「母校の学院で昨年秋にある事件がありました。 それに武さまが巻き込まれ、夕麿さまが救いに行かれのですが、犯人に重傷を負わされたのです。 武さまも酷い怪我をなされて…ご自身の苦痛と相まって、夕麿さまのお心に傷が残られたのです」
雅久が哀しげに言うとその玲瓏さゆえに聴く者の心を揺さぶった。
「もとから夕麿さまは、お心を許さない方に触れられるのがお嫌いで…それが一層激しくなられたのです」
「何故、カウンセリングを受けない?」
ボブが肩を竦めて言う。
「ちゃんと主治医が一緒に来て治療してる。 あんた、PTSDが簡単に治癒すると思っているのか? もし発作が強く出た場合、俺たちでは触れる事も出来なくなるんだぞ?」
軽くで済んで良かったと貴之は本気で思っていた。
「どういう意味だ?」
「発作が酷くなると親友の義勝でも受け付けなくなられる。 その場合、触れられる人間がここにはいないんだ。 そんな事態になったらもう、気を失わせるしかない…」
それは夕麿にある意味で害をなす事である。いくら緊急の措置だと言っても、彼を守るようにと言った武に顔向けが出来ない。
「I'm Sorry.」
さすがに申し訳ないと思ったのか、滅多に「ごめんなさい」を言わないアメリカ人のボブが謝った。
「社に戻りましょう、貴之」
「そうだな」
歩き出した貴之をボブが引き止めた。
「待ってくれ、自己紹介くらいさせて欲しい」
その言葉に貴之が立ち止まった。
「秘書室のロバート・ブラウンだ、ボブと呼んでくれ」
「良岑 貴之だ。 俺も貴之で良い」
「貴之、行きますよ?」
雅久が呼ぶ。 ボブのような人間は貴之から一番遠ざけたい。 どうやら夕麿に興味を持ったようだが、発作が逆に彼を守ったように思う。となれば貴之に近付こうとするだろう。
雅久は振り返って念を押すように桐原に言った。
「桐原さん、もっと強い発作を起こされた場合、夕麿さまに触れて発作を緩和出来るのは奥方さまただ一人です。 ここにいらっしゃらない方の手は借りれません。 そこをよくご了承なさって、今度は徹底させてください」
発作の事は夕麿の弱点と言えば弱点である。 だがこうなったら仕方がない。 逆手を取って利用する方法を考えなければならない。不埒な人間が近付いて来て無闇に無体を働こうとするのを防ぐ方向へ向かわせるしかないだろう。今はそれをよしとするしかなかった。
「君は御園生じゃないんだな?」
エレベーターの中でボブが貴之に問い掛けた。
「ああ。夕麿さまとは同級生になる」
「今は?」
「同じ学校に留学して来た。武道の心得があるから、奥方さまから夕麿さまの護衛を依頼されてはいる」
「ふうん…シンプソンと付き合ってるの?」
「まだその段階じゃない…ねぇ?」
貴之が話題を振ると彼女は笑顔で答えた。
「そうね…でも今夜辺り誘おうかしら?」
「それは光栄だね」
笑顔で返すとシンプソンは頬を赤らめた。 わざとらしく恥じらう彼女に鼻白んだが、貴之は素知らぬ顔で立っていた。
「ついでに俺とも付き合わない? 君、男もいけるだろ?」
「まあね、否定はしない」
「やっぱり?」
「だが、二股はしない」
「それは残念!」
「不実な事をしたくはないだけだ」
「真面目だね~東洋人ははみんな、そんな風に真面目なわけ?」
「そうじゃない人もいますよ?」
「ふうん…」
「ロブ! 貴之を誘惑しないで! あなたはすぐに、見目の良い男を私たちから奪ってしまうのだから…今度は許さないわよ?」
「はいはい、おお~怖い」
本気なのか冗談なのか、よくわからない言葉を残して、ボブは秘書室へと入って行った。 それを見届けてから、シンプソンは貴之に婉然と微笑みかけて言った。
「あのタラシにとられない内に、あなたを私のものにしたいわ」
「お望みならば今夜にでも」
「約束よ?」
シンプソンは指で貴之の唇をなぞってから秘書室へと消えた。 人影のない廊下で貴之は、汚いものを拭うかのように唇を手の甲で擦った。
………その夜、日付が変わる少し前に帰宅した貴之は、バスルームからしばらく出て来なかった。
同性も異性も抱ける。 だからといって貴之は女性が好きなわけではない。 執拗に身体にまとわり付いて消えない、女の匂いが耐え切れない程不快だった。
シンプソンとベッドを共にした日から貴之は極力、夕麿の側から離れた位置にいるようになった。 どんなに洗っても彼女の匂いがする気がして、夕麿の側に寄れなくなってしまったのだ。
貴之のそんな憂いも知らず、シンプソンは執拗に彼にまとわり付く。 何度か関係を持ったが気が滅入るばかりで近頃は吐き気までする。 結局彼女は重要な事は何も知らず、社についての情報をある程度聞き出すと完全に用済みになってしまった。そろそろ限界だと感じていた時、貴之の心中を読んだかのようにボブが近付いて来た。
「体調悪そうだな?」
「食傷気味なだけだ」
「あの女にか? あれはただの尻軽に過ぎんぞ?」
「そのようだな」
「女何ぞに手を出すから、うんざりするんだ」
「これでも一応、許婚者がいた身なんだが?」
「今はいないんだろ? なあ、俺にしておけよ?」
馴れ馴れしく触れてくるボブの手を振り払い、貴之は鋭い視線を浴びせながら尋ねた。
「で、お前はどっち側だ?」
「挿れる方が好きだな。お前は?」
「挿れられた経験しか、今のところはない」
「それは益々好みだ」
「……お前は俺に何を求める? 夕麿さまたちの事を探りたいなら断るぞ? 俺は殺されてもあの方を裏切らない……裏切れない。 皇国貴族の一人として、皇家の貴種を裏切るのは死ねと言うのと同じだ」
「何もいらない。 俺は貴之、お前が欲しいだけだ」
「信じられないな」
「嘘は嫌いだ。 信じるかどうかは、お前次第だろう?」
「ふん。 ならば身体はやろう。 だが俺は心まではやらない」
「それでも良い…必ず振り向かせてみせるさ」
「好きにしろ。 だがその前にあの女との関係を解消しなければならない。それまで待て」
「了解」
武と夕麿の為ならば何でも差し出す。 身体だけの繋がりなど泡のようなものだ。
その夜、貴之はシンプソンとの情事の後で別れ話を切り出した。
「NO!Why?」
「あなたは俺に何を望んでた?」
「あなたは私と結婚してくれないの?」
「最初からその気はない。 俺たち皇国の貴族は、外国人との婚姻は許可されていない」
「結婚に誰の許可がいると言うの!?」
「俺たちの血筋は皇家との婚姻を結ぶものがいる。外国人の血が皇家に入る事は絶対に許されない。だから俺たちは外国人とは結婚出来ない」
「身分なんかナンセンスだわ」
「俺は良岑家の一人息子だ。 身分や家を捨てる事は出来ない」
「私はただの遊び相手だったと言うの!?」
「軽く誘って来るし、こちらの誘いにも簡単に乗ったのは、あなたもそのつもりだったからだろう?」
「それは…」
「何? 手切れに慰謝料でも欲しいのか? 100万$までなら用意出来るが?
口座番号を教えてくれれば、明日には振り込む。」
「NO!お金じゃないわ…」
「じゃあ何? 夕麿さまの事なら言わない、殺されても」
「確かに…室長に命じられたわ…でも」
「知ってるよ。 知ってて誘いに乗ったんだから。 互いの手の内を明かしたわけだ、これで終わりにしよう。
金が欲しいなら口座番号をメールしてくれ」
貴之は身支度を済ませて早々に彼女の部屋を後にした。 後は帰って夕麿に報告するだけだ。
先程連絡を入れたので屋敷から迎えの車が来た。 貴之はそれに乗りビバリーヒルズの屋敷へ帰宅した。
そして…すぐに貴之とボブの関係が、社内で噂されるようになった。
夕麿はこの事態に平気だったわけではない。 自分と距離を取る貴之に彼は苦悩した。 そんな汚れ仕事を望んだ事は一度もない。 貴之は大切な友人なのだ。 こんな事をさせる為に、この仕事に協力を依頼したわけではない。貴之が昨年の秋から続いて起こった学院での事件で、武と夕麿を守れなかったのを未だに悔やんでいるのは知ってはいた。 卒業前に武が夕麿の事を頼んだのも知っている。 けれど武にしてもこんな事を望んではいない筈だ。あのボブという男が最初に興味を持ったのは、多分自分だと夕麿は感じていた。 だからこそ心苦しい。 友人を犠牲にしてまで、行う必要があるのだろうか、この仕事を。 確かになかなか尻尾を出さない。
出来れば25日頃には、何だかの報告書をまとめて帰国したい。 そうしなければ夏休み中、武は学院に閉じ込められてしまう。
御園生邸に連れ帰って療養させてやりたい。
側にいてやりたい。
……会いたい
……抱き締めたい
まだ半月しか過ぎていないのに…卒業式の日に、学院のゲートで別れたのが遠い日のような気がする。 涙を懸命に我慢していた姿が愛しくて、さらって行きたかった。
「武…武…」
彼の身代わりに持って来たイルカのぬいぐるみを抱き締めて、愛しい人を請い求めても互いの間には太平洋が広がる。 飛行機でおよそ10時間。 近いようで遠い。
責任を背負った限り、捨てて帰る事は出来ない。
武の病気への心配と異国でのストレスの双方で痩せた夕麿の指から、結婚指輪も紫霄の学生証である指輪も抜け落ちるようになってしまった。 僅か2週間という短期間でだ。既婚者である事をきちんと証明する為に、アメリカでは結婚指輪を付けているのは常識である。 いらぬ混乱を呼ばぬ為にも彼らには指輪は必要だった。見兼ねた雅久が手のひら側にテープを巻いて、サイズを調節するのを教えてくれた。 武のスクールリングは鎖に通してペンダントにした。
周からの知らせでは武はやっと退院したという。電話して頼み込んだが…ちゃんと食べているだろうか。 手が届かない…というのが、こんなにもどかしく寂しいものだと今まで知らなかった。夜毎に電話をかける。 こちらの夕方は蓬莱皇国ではちょうど昼頃になる。 帰宅する車の中で電話する。 次第に元気な響きへと声が変化して来ているのが嬉しい。
武が昏睡状態になっていた時、学院では生徒たちが皆、肉類を一切断って精進潔斎して祈り続けていたと聞いて胸がいっぱいになった。 武はちゃんと皆に慕われ大切に思われている。 だが嬉しい反面、彼が自分の手から離れてしまったようで寂しくも感じていた。
こんな執着や依存はやめなければならない。武を支えて御園生を盛り立てていけるように。そう願うのに 最初の仕事でこんなに手間取ってしまっている。
隙あらば足を引っ張り、蹴落とそうとする大人たち。 大人の悪意はよく知っている筈なのに、自分を取り巻く悪意の渦に、呑み込まれそうで恐怖すら感じる。 今更ながら自分の無力さと未熟さを思い知って夕麿は愕然としていた。正しい事が正しいと認められない。 道理が通らず、無理難題ばかりを押し付けられる。
貴之がボブと付き合う、それが彼らの同性愛に対する偏見を露わにする。 それでなくても一部の原理主義キリスト教徒は、同性愛を神への冒涜、悪魔の所業として露骨に嫌悪する。目の当たりにすると深い悲しみが胸を覆う。 ただ愛した相手が同性だったというだけ。 異性を愛する人々と自分たちの愛にどんな違いがあるというのか。 あるとしたらただ一つ。子を、新たな生命を生み出す事が出来ないだけ。
それがそんなに罪なのだろうか?傷付いた魂が寄り集まって互いに癒し合う事が、罪だというならば自分たちは生きては行けない。 寄り添って歩いて行く事を望んでいるだけ。だが偏見と差別は容赦がない。 カリフォルニアは人種差別に比べると同性愛への差別は幾分少ない方なのだという。でも差別や偏見の眼差しには時折、挫けてしまいそうなくらいに傷付いた。
当然ながら貴之に集中する。彼だけにこのような苦痛は与えられないと、カミングアウトしようとするが義勝たちに止められた。 せめてこの内部調査が終わるまでは待てと。
武を女性扱いするのは裏切っているようで苦しい。 恥じる事はない筈なのに。 愛しい者を愛しいと言う事が、安易でない事実に苦悩する。
貴之だけではなく、周囲の眼差しは義勝と雅久にも向けられ始めた。 どのような態度をとられても二人は平然としている。 いや、むしろ毅然とした態度でいた。 二人でいる強味もあるだろう。
しかしただ一人で彼らに庇われて偽りの自分でいるのは、今の夕麿には最早『針の筵』の上に座っているのも同じだった。思うように食物が喉を通過しない。 ストレスをためては吐いていた、武の気持ちや苦しみを思い知る。孤独だった。 街には人々が溢れているのに、身近に友人たちがいるのに、夕麿の心は虚しさと孤独でいっぱいだった。 それでも泣き言は許されない。 倒れる事も許されない。 拳を握り締め歯を食いしばって、自分の役目を果たす為に立ち続けていた。
そして……ようやく横領の真実が見え始めて来た。
きっかけはボブだった。 彼もまた偏見と差別に苦しみながら生きている人間の一人だった。 夕麿たちを蹴落とす為に自分の性癖が利用されるのが、本当は我慢ならないとこっそりと秘書室の奥に隠されていた、社長たちの使い込みのデータをコピーして貴之に手渡してくれた。貴之の一途で真摯な忠義心にうたれた…というのもあったらしい。 最初は夕麿や義勝も疑った。 こちらを油断させる罠ではないのかと。 だが彼が持って来たデータを雅久が照らし合わせた結果、寸分のズレも間違いもなく本物である事が証明された。
このデータを証拠として更にコピーして、夕麿が帰国に踏み切ったのが7月27日だった。 日付変更線を越えて武を学院から出せる31日には間に合った。
帰国の前に一つだけ、どうしてもしておきたい事があった。夕麿はこっそりとボブを呼び出した。
「あなたからのお誘いとは光栄ですねぇ」
義勝たちを社に残して帰国準備の為に、ビバリーヒルズの屋敷に戻っているのを利用したのだ。
「私があなたを呼んだ理由はおわかりですね?」
「貴之の事だろう? 彼に汚れ役をさせて、やっと良心が咎めたわけ?」
「私は言い訳はしません。 ただ、彼は私の大切の友人です…」
苦汁に満ちた顔で視線をそらした夕麿に、ボブは彼の潔癖なまでに真っ直ぐな性格を見た。 そして貴之たちが執拗なまでに彼を庇う訳を理解した。
「俺は遊びのつもりではない」
「それが困るのです」
「え?」
「私たちは外国人とのそのような関係を持つ事を、許されてはいないのです。シンプソンの事もあなたの事も、彼の日本での立場を悪くするのです」
「あなたが言っている意味が、俺にはわからない!」
「大変時代錯誤な考え方ですが、私たちの階級は未だに外国人との結び付きを、穢れのように考える傾向があるのです」
「はあ!? 同性愛は認めるのに、外国人はダメって…矛盾してないか、それ!?」
ボブの反応は至極当たり前である。 夕麿が世間知らずでもそれくらいはわかる。
「同性愛も私たちの階級では本来は認められてはいません。 認めれば血が絶えてしまいますから。 許されるのは特別な理由がある場合だけです……私のように」
自分の事を隠して相手に頼み事をするのは、卑怯だとそう思ってしまうのが真っ直ぐな夕麿らしい。
「…認めるんだ、自分の事を」
「気付いていたでしょう?」
「まあね…いろいろと」
「いろいろ…?」
「そう、いろいろ。 貴之たちが話してた事件とやらで、あなたがどんな目にあったのか」
「!?」
夕麿は息を呑んだ。
「事件の詳細はわからない。 でも…あなたが同性間のレイプの被害者だってのはわかる」
「…わかりますか…でしょうね…」
目を伏せて微かに震える姿は弱々しくて、社での姿とは余りにも違う。 ボブはこっちが本当の姿だと感じていた。
「俺も…経験者だと言ったら、信じる?」
「え…?」
「俺の場合、自分の性癖に早くから気が付いていてさ…でも、自分で言うのは何だけどモテたんだ、男女構わず。 で…振った女に逆恨みされて、マッチョなゲイたちに輪姦された、ハイスクールの時だ」
ボブの告白に夕麿は目を見開いた。
「俺も今でも受ける側は…難しい」
「そう…だったのですか」
「あなたのように発作を起こしたりはしないけどな」
「私は…同じ人間に二度…最初はまだ13歳の誕生日を迎える前でした」
夕麿はボブに自分の身に起こった事を掻い摘んで語った。
「俺にそんな事まで話して良いのか? もし社長たちに話したらどうする? 貴之の努力が無駄になるぞ?」
「どうぞ。 もう…庇われるのに疲れました…」
夕麿は本当に憔悴仕切っていた。 元々、不安定な精神を抱えたまま、様々なものに向かっているのだ。
「貴之や義勝たちを置いて、一時とはいえ帰国するのは心苦しいのですが…」
「心配するな、言わないよ。 俺はあいつら大嫌いだからさ」
「感謝します」
「で、もう一つ気付いている事があったりする」
「…怖い人ですね」
「俺は周囲の視線を気にして生きて来たからな。 他人の表情とかを読めるんだ」
「それで、何に気付いたと?」
「あなたの相手…って、御園生 武だろう?」
夕麿の顔が強張った。
「大丈夫だ、桐原は顔色見る癖に小心者で気が付いてはいないさ」
「何故…わかったのです」
「みんなの表情かな? あなたの奥方の話をする時と、武って人の話をする時の顔が同じだった。 まるで大切な姫君を守る騎士のようだ」
「ある意味、そうだからです。 私たちは皆、彼によって救われ、ここにいられるのですから」
「つまり、巷で流れている噂は真実ではない…という訳か」
その言葉には夕麿はただ、微笑みを返しただけだった。 外国人である彼に武の身分や立場を話す事は出来ない。 ボブも貴之が口にしていた事で、何となく想像はしてはいるが、夕麿が口にしない限り聞いてはならないと理解している。
「限界はありますが、今回のデータの事も含めて、出来うる限りの礼はします。 もう一度お願いします。 貴之とこれ以上、関わらないでください」
夕麿は深々と頭を下げた。
「何でも…? では代わりにあなたの身体を要求したら?」
「…それは…無理です… 私は武以外は受け付けません。 それに…私の浮気は武に害を及ぼす事になります。 彼の自由をこれ以上失わせる訳には… …それだけは無理です。武だけではなく、たくさんの方への裏切り行為なのです」
完全に顔色を失って今にも倒れそうな夕麿を見て、ボブは彼が決して保身の為ではないのを知った。
誇りある高貴なる存在。その立場を維持して生きる事を求められた人間。それは痛ましくもあった。まだ18歳。これから大学へ進学する彼に、意地悪く隙あらばずたずたに引き裂いてやろうとする、欲に穢れ切った社長たち。
「ジョークだ。そんな事を要求したら、貴之に何をされるか…」
「本当に怖いのは多分、武だと思います。普段の彼はとても可愛くて優しいのですが…彼を怒らせると、二度と立ち上がれないくらいに叩き潰されますよ」
「それは…聞いてる。実感がないけどな」
「そうですね…私も彼の手の内を全部知ってはいませんが…」
夕麿は少し肩を竦めてみせた。
「知りたくない…かな?もっと確証は必要だろう?貴之は繋ぎとしてもう少し俺に貸してくれ。あなたが戻って来る頃には、白黒付けておいてやる。状況も随時、そちらに行くようにする。
……また、失恋か…東洋人は難しいな」
「礼を言います」
「全部終わったら、仲間に入れてくれよ?なかなかSexual Minorityは集団になりにくいんだ。一つのグループを作れば、その手の組織に応援を頼める。この先、偏見や差別に対抗しやすくなる」
「それは…考えておきます。友人としてなら歓迎しますよ、ボブ」
アメリカ人の最初の友人。夕麿は少しだけ、光が見えた気がした。
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