蓬莱皇国物語 Ⅲ~夕麿編

翡翠

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 アメリカ人は厚かましく傲慢な所がある。 チャレンジ精神や積極的な部分を素晴らしいとは思うが、負けず嫌いで一番になりたがる。 その癖に建国から250年足らず故に、古いもの、伝統あるものに憧れる。

 夕麿たちと懸命に近付きたがる者。
 
 人種差別を露わにする者。

  Sexual Minorityだからと、偏見を剥き出しにする者。

 一通り何でも優秀にこなす彼らに、嫉妬心を剥き出しにする者。

 それぞれの姿に最初は戸惑った。 紫霄という揺り籠の中で安寧に暮らしていた彼らには、ある意味でカルチャーショックではあった。 だが予め企業で対面していた部分もあり、すぐに見慣れた風景となった。

 日本古典の研究者は未だ執拗に、夕麿を質問責めにし雅久はモデルの依頼が来る。

 貴之は諦めて週一で武道を教えている。

 今のところ免れているのは義勝だがそれもいつまでももつか……

 義勝本人に言わせれば殆どのものが、夕麿が一番であるから二番の自分は楽だと。

 アメリカははっきりとした競争社会である。 昨今は貧しき者への配慮を試みてはいるが、『貧しさは自分の責任』という考え方が根強く残っている事実がある。 この国では特権階級もかつて移民して来た者の中から興った人々から構成されている。

 千年以上に渡って存在して来た蓬莱皇国の貴族とは別物であり、そこに夕麿たちが抱く矜持は存在してはいない。欧州ヨーロッパの騎士道精神さえ、彼らの心には存在してはいない。徹底した個人主義を教育されて育つ。むろんそれが悪いわけではない。それでも古き伝統を守って誇り高く生きる夕麿たちに対して、彼らは強い羨望と嫉妬を抱いているのはわかっていた。

 始まりはカフェテラスでの会話だった。

Highnessハイネス、あなた方は何か得意な楽器はあるか?」

 そう尋ねて来たのはブラスバンドのクラブの青年だった。

「ありますよ? 俺たち貴族は教養のひとつとして何か楽器を学ぶのが普通ですから」

 貴之が答える。

「へぇ…それって東洋の楽器?」

「雅久はそうだけど…夕麿さまと義勝はピアノ。 俺はヴァイオリン。 高辻先生はギター。

 そんなところかな?」

 貴之の言葉に過敏に反応した人物がいた。 ピアノ科の生徒だった。

「ピアノって、趣味何だろ?」

 半ば嘲るような口調で言われて義勝が不快な顔で答えた。

「俺は単なる趣味だが、夕麿は違うぞ? 何故ピアノ科に進学しないのかと、レッスンに派遣されてた教授が泣いてたからな」

「義勝、やめてください」

 挑発に乗るなと雅久が窘めたがその時には遅かった。

「じゃあ弾いてみてくれよ?」

 雅久が代わって断ろうとした時、保が歩み寄って来た。

「ごきげんよう、夕麿さま」

「保さん、ごきげんよう」

 『Marquis』の登場にカフェテラス全体がざわめいた。

「全く…この国の者は礼儀知らずが多いですね、夕麿さまと競おうなどと…」

「保さん、ここは皇国ではありません。 彼らを非難しても仕方がないでしょう。

 ピアノはどこにありますか。あなたのご希望にお応えしましょう」

「弾かれるのですか?」

 驚く周囲に夕麿はおっとりと微笑んだ。

「かなわなくても恥ずかしいはもじい訳ではありませんから。 ピアノ科の生徒に負けるのは普通でしょう?」

「え…!?」

 義勝はもっと驚いた。 負けず嫌いの夕麿の言葉とは思えなかったからだ。

「気分転換にはちょうど良いでしょう?」

 夕麿は義勝に婉然と笑った。


 指慣らしをして振り返るとピアノ室は一杯になっていた。

 やれやれ物好きな…と内心想ったが、気を取り直して青年に尋ねた。

「それで何を弾くのですか?」

「そうだな…ここは、ショパンだろう? 『幻想即興曲』なんざどうだ、Highness?」

「ではそれで。 あなたからどうぞ」

 曲名を聞いて義勝は隣にいる雅久と貴之に日本語で言った。

「バカだな…よりにもよって、夕麿の一番得意な曲だぞ?」

「夕麿さまの見た目に騙されたのでしょう」

「見た目はおっとりして穏やかに見えるから」

「本性はかなりの激情家なんだがな…」

 三人が笑い高辻が興味深く人間観察を始めた。

「彼は少し自分の実力を過信しているようですね。 逆に夕麿さまは面白がってリラックスしていらっしゃる」

 青年が鍵盤を叩き始めた。

「ほぉ…勝負したがるだけはあるな」

「私にはショパンの気持ちを汲まない、乱雑で暴力的な色彩しか見えません」

 音を色で見る雅久ははっきりとした嫌悪を示した。

 それでも指使いが奏でる流れるように、しかもキレの良く力強い演奏に、集まった人々から割れんばかりの拍手が与えられた。

 夕麿はそれが静まるのを待ってから呼吸を整えて奏で始めた。

「ああ…何て優しい色。 激しいのに…ピアノとショパンへの愛情に満ちているような…」

 雅久が室内を満たす色彩に感嘆の呟きをもらした。

「スタンウェイだと少し不利だな?」

「繊細な音は望めない。 でもさすがは夕麿さまだ、素晴らしいの一言に尽きる」

 周囲の思惑とは別に夕麿は去年、寮の部屋で武に初めて弾いて聴かせた時を想い出していた。後に一昨年の演奏の録音を耳にした武が、寮で聴いた音を優しいと言った事を。その優しい音が好きだと。そして今…周囲が口を揃えて、一層優しくなったと言う。ならば今の演奏を聴いたら、武は何と言ってくれるだろうか。この音が太平洋を越えて、武の元にこの音と想いが届けば良いのに…と、願わずにはいられない。届く筈はないのはわかっていても、武を想い、愛しさが募る。

 奏でる音全てを、愛する人に捧げたい。競う相手も興味津々に集まった人々も、もう夕麿の心は映してはいなかった。

「夕麿の勝ちだな」

「皆さんを完全に魅了されましたね」

 演奏が終わっても、誰も身動きひとつしなかった。穏やかに笑みを湛えた夕麿の横顔は、幸せに満ち溢れて美しかった。

 突然、室内に響き渡るような拍手が鳴り、それにつられるように、集まった人々が一斉に歓声と拍手で、夕麿の素晴らしい演奏を讃えた。

 夕麿は優雅に立ち上がり、胸に手を置いて深々と頭を下げた。

 彼に勝負を挑んだ青年は茫然と立ち尽くしていた。
 
 そこへ一人の壮年の男が、夕麿の前に進み出た。

「Ich werde jetzt Spiel loben.(今のあなたの演奏を賞賛します)」

 男の口から出たのはドイツ語だった。 彼はドイツ人のピアノ科の教授だった。 興奮のあまり母国語になってしまっていた。

「Es ist eine Ehre zu bieten Komplimente.(お誉めいただけて光栄です)」

 夕麿もドイツ語で答えた。 そこでやっと教授は自分がドイツ語で話し掛けた事に気付いた。

「ほぉ、ドイツ語も話せるのか、あなたは」

「はい」

「君は新入生だね? 日本人?」

「いえ、蓬莱皇国より留学して参りました」

「名前は?」

「Fur mich gibt es eine Situation,did Sie nicht leicht Nanore.(事情がありまして、ここでは口に出来ないのです)」

 夕麿はそう言ってポケットから取り出したパスポートを開いて見せた。

「君が…なる程。 生徒たちがHighnessと呼ぶ方か。

 2年後はピアノ科へ?」

「いえ、経営学部へ進む予定です」

 夕麿の言葉にざわめきが起こった。 ピアノ科の教授が英語を忘れる程の素晴らしい演奏を奏でたと言うのに、当の演奏者である夕麿は別の学部への進学を希望している。

 普通ならば有り得ない事だった。

「才能を無駄にする気かね?」

「私にはやらなければならない事があります。 それに…ピアノよりも素晴らしいものに、出会ってしまいましたから」

 武と生きる事。 それ以上のものは存在しない。

「ありがとう」

 夕麿は茫然としている青年に礼を言って、義勝たちの所へと歩いて来た。

「そろそろ午後の講義の時間ですね、行きましょう」

 気負いもなく当たり前の顔で友人たちと去って行く。

 その日、キャンパス内ではこの話で持ち切りになってしまった。 紫霄では夕麿たちは有名だった。 衆目を集めても当たり前過ぎて気にもならなかった。 だからここでも目立ってしまう事を余り気にはしていない。わざとしている訳ではない。 いちいち、絡んで来る側がいるだけだ。 絡む者が増えれば、今回のような勝負を望む者が出現する。

 正直、鬱陶しい。 同じ皇国人の中にも、彼らに近付きたがる者が出始めた。 このUCLAに在学中の皇国人は20名程。 紫霄からの留学生は夕麿たち四人以外には二人いた。 彼らは夕麿たちが歓迎すれば寄っては来る。一年上の卒業生たちだった。 彼らは夕麿たちを知っている。 保を通じてどうやら夕麿の身分が変化したのも知っていた。 故に節度と礼儀を弁えて夕麿たちと交流する。 彼らは夕麿たちに国際色豊かなカフェテラスの食事を、どうすれば紫霄風の薄味に出来るかを伝えたりした。 お陰で弁当の分量が足らなかった時に、何とかここの食事が食べられるようになった。

 だが紫霄の存在自体を知らない他の皇国人留学生は、彼らの御園生という姓に寄って来る。 どこもかしこも不況で就職難な時代である。 彼らはコネが欲しいのだ。 いちいちそれに取り合ってはいられない。第一、御園生系企業はそれこそ紫霄学院出身の優秀な生徒を採用出来る立場にある。 数カ国語を操り徹底した礼儀と優雅さを身に付けた優秀な人材を。

 露骨にコネを求める彼らに夕麿たちは最低限の条件として、UCLAのビジネスロースクールでMBAの取得と、5ヶ国語以上の言語能力を告げる事にした。それくらいの能力がないと、紫霄の卒業生の足元にも及ばないからだ。 5ヶ国語と聞いて信じない者もいたが、夕麿たちがヨーロッパの言語をほとんど使えるのを目の当たりにしてもう何も言わなくなった。何しろ様々な国からの留学生と、彼らの国の言語で話すのだから、疑いの余地などどこにも存在しない。 しかも彼らはまだ新たなる言語を学び続けていた。

 カフェテラスでの昼食はいつの間にか人数が増えていた。保や紫霄の卒業生も夕麿たちと昼食を摂るようになっていた。

 日曜日にはビバリーヒルズの御園生邸で、サロンやパーティーが開かれるようになった。パーティーには企業関係の人間も顔を出すが、サロンは本当に仲の良い者だけの集まりだった。ボブも時々顔を出し保たちとすっかり顔見知りになった。

 UCLAでも会社でもパーティーよりもサロンに、呼ばれる事に懸命になる者が出て来た。だがそういう輩こそ夕麿が最も嫌う人間でもあった。

 午後のティータイムを心置きなく談笑する。とりとめのない話に笑い香り高いお茶を楽しむ。ゆったりと流れる時間が心を満たしていく。社会でも学校でも人間関係のストレスは付いて回る。だからこそこうして少しでも潤滑になるように努力をしているのだ。

 その日は特別な物がテーブルに並べられた。雅久からサロンの話を聞いた武が、大量のクッキーを焼いて送って来たのである。これが他の物と共に並べられた。

「お一人で焼かれたのだとしたら、凄まじい分量ですね、夕麿さま」

「恐らくはあまり眠れない状態ではないかと思われるのです。周さんのお陰で一時よりは落ち着いた様子ですなのですが」

「さっきメールが来てたみたいだが?」

 義勝の問い掛けに夕麿は不快げに答えた。

「会長の裁定が必要でない些細なものまで、書類として武の手元に来るらしいのです」

「なんだ、それは?誰かの嫌がらせか妨害工作だな」

「そんな事をして何の益があるのでしょう?」

 雅久が首を傾げる。

「武を無能な生徒会長に仕立てたい人間がいるようだな?」

「そうなりますと一番可能性があるのは、中等部生徒会長の戸沢 美禰ですね。下河辺の報告によりますと会議でも、妨害としか言えない質問を繰り返したらしいですから」

「ですが…夕麿さま。いくら生徒会長とは言っても中等部。そこまでの事が出来ますでしょうか?」

「確かに。雅久の言葉には一理あると思います。誰か、高等部側か大学部側に、戸沢 美禰の協力者がいると考えると納得出来ませんか?」

「高等部に!?まさか、この期に及んで武に害を為す者がいるのか?」

「わかりません。一年の中になら可能性があります。大学部は…あまり理由が見えて来ないですね。

 貴之、恐らくは下河辺君たちも調べるでしょうけれど、こちらでも把握しておきたいと思います」

「承知いたしました」

「さあ、この話は終わりにしましょう。皆さま、武さまお手製のクッキーです」

 武自らが焼いたクッキー。 紫霄の卒業生や保には特別なもの。 武の正体を薄々知っているボブにも、おっかなびっくりなもの。

 だがそれがわからぬ者にはただのクッキーだ。 だから夕麿は事情がわかっている者しか、お茶会には呼びたくないのだ。

 確かに眠れない事の反動で作ったものかもしれない。 けれどこのお茶会の事を知っているからこそ、武は大量に焼いて送ってくれたのだ。

 シナモンやジンジャー、ナッツやチョコレート。 彩り豊かなジャムをのせたもの。 紅茶葉やインスタントコーヒーを練り込んだもの。

 どれも武の細やかな気遣いと、深い愛情を感じられるものだった。

「御手ずからお作りにならしゃられるのですか?」

 保がクッキーを手にとり、驚いたように尋ねた。

「お料理をなさるのがご趣味なのです」

 笑みをたたえて答える夕麿は幸せそうで美しかった。

「お羨ましい。 伴侶を得るならば、健気に尽くしてくださる方が一番ですね」

 紫霄出身のひとりが、感嘆を漏らしながら言う。

「武さまをお見受けするお姿のままで、お考えなさらぬ方がよろしいでしょう」

 雅久が皆のカップに、お代わりの紅茶を注ぎながら口にした。

「武さまは殿方としての御心もしっかりとお持ちであらしゃいます」

 続いた雅久の言葉に夕麿が穏やかに微笑み返し、ジャムののせられたクッキーを手にとった。

「!?」

 一口食べて慌ててお茶を飲んだ。 そして手にしているクッキーをしみじみと眺め、武の悪戯に深々と溜息を吐いた。

 不思議に思った義勝が同じものを手にしてじっくりと眺める。 ふと何かに気付いて、ジャムの匂いを嗅いだ。 思わず吹き出してしまう。そのジャムからは人参の匂いがしたのだ。 どうやら人参のジャムらしい。武の悪戯に笑いが止まらない。 夕麿と視線が合うと思いっ切り、睨み付けられて一層笑いが止まらない。

 不思議に思った貴之が同じものの食べて吹き出した。 雅久もつられて食べる。 目を見開いて義勝と貴之の爆笑の原因を知りやっぱり笑い出した。

 夕麿は残りを手にしたまま、真っ赤になって拗ねていた。 事情がわからない保たちは目を白黒させている。 だがすぐに保も、そのクッキーを食べてみた。

「これは…人参ですね? 夕麿さま、もしかして苦手であらしゃいますか?」

 夕麿はますます赤くなって俯いた。

「初めてうかがいました。私たちにとって夕麿さまは完全完璧な方。意外なお姿を拝見させていただけて大変光栄に思います」

 完全完璧よりも人参のジャムに慌てる夕麿の方が、親しみやすくて嬉しいと彼らは口にする。夕麿は驚きそれから頬を染めた含羞はにかんだ顔で、彼らに向かって軽く会釈して感謝の気持ちを表した。

 本当の本当に『難攻不落の氷壁』と呼ばれた頃の面影は、今の夕麿にはどこにも存在していなかった。親しい者たちが心を痛めて心配した、孤高の美しき貴公子はもういなかった。18歳の年齢らしさで、大人への階段を上がり始めた優しい姿だった。むろん全ての傷が癒えたわけではない。それでも夕麿は本当の意味で、自らと向き合い始めていた。彼自身の本来の姿を取り戻す為に。

 高辻はその様子を無言で見つめていた。夕麿の完全完璧なスタイルは他者への鎧だった。ボロボロに傷付いた心の避難場所でもあった。死んだ慈園院 司がひびを入れ、武が少しずつ取り除いた。中から姿を現した心は、傷だらけで鮮血を常に滴らせ続けていた。 傷付く事を恐れ、それ以上に誰かを傷付ける事に恐怖を抱いていた。

 そして……傷だらけの心が最も恐れた事。 それは愛する者に捨てられる事だった。再び奈落の底である『孤独』という闇に投げ棄てられる事。 武の愛を得た事により失う事の恐怖で、夕麿の心はバランスを失い度々暴走した。失う恐怖ゆえに相手を傷付けてしまう事実が、新たなる恐怖を呼び夕麿を苦しめた。 自己嫌悪を募らせ、他者との接触に対するパニック発作が悪化した。

 求めるのは武ただ一人。 夏休みに帰国して武が思い詰めて学院へ去ろうとした行為が、恐らくは夕麿の恐怖のピークだった筈… …

 高辻はそう判断していた。

 愛する人、愛してくれる人に棄てられる恐怖。 幼児期の実母の死から、夕麿が抱いてしまった喪失感。 失うのは自分が悪いからだ。 刷り込まれた想いが、成長過程で似たような喪失感を味わう度に、強く深く心に刻まれて行く。 武に出会わなければ、武と愛し合う事がなければ、詠美の策略も相まって、夕麿の心は崩壊してしまっていただろう。

 まさに紙一重。 危機一髪。 そんなギリギリでの出会いだったのだ。

 夕麿はここまで自分の心を回復させた。 残る問題は武である。 武の不安定さは夕麿のものとは対称的である。 彼は小夜子の深い愛情に包まれて育った。だが若く美しい小夜子を周囲が捨てておかなかった。 カウンセリングの一環として、小夜子からも話を聞いた高辻は、武の内面に巣くう闇が見えた。 小夜子に近付く男のほとんどが、武を手懐けようとしながら、本心では彼の存在を邪魔と思っていた。

 武の皇家の霊感は幼少時にはかなり顕著だったという。 ならば小夜子に言い寄る男たちや、彼女に縁談をすすめる周囲の本心が武には全て視えていたに違いない。 私生児である武を露骨に、小夜子の傷と表現する年配者もいたという。 そんな状況の中に置かれれば、必然的に自分自身の存在価値を失う。 存在している理由を見失う。 その状態で小学校へ進めば、意味をちゃんと理解もしていない同級生が、大人の噂を丸呑みにして虐めに向かう。

 蓬莱人は並んで平らに同じを『平等』だと勘違いしている。 それぞれの個性を見極めて、個々に対応するのを差別だと信じる人がいる。 そんな社会では私生児は異質なのだ。 しかも武の持つ皇家の霊感はもっと異質であったろう。

 夕麿と結ばれてから再び発動し始めるまでは、幼い武自らがそれの異質性を感じて封印してしまっていた。一度『異質』と判断された者には、子供たちは容赦なく残酷になる。 ましてや今より遥かに虚弱だった武は彼らには餌食そのものだった。

 誰にも受け入れられないから心を閉ざした。 感情を顕にすれば更に標的にされる為、喜怒哀楽という感情を消した。

 愛を求めて裏切られ人を信じられなくなり自分を嫌悪した夕麿。

 母の愛を受けながら自分の存在を価値のないものとして人の想いを拒否した武。

 もし司の荒療治がなかったら、互いに相手への想いを抱きながら、すれ違い続けてしまっただろう。

 夕麿は武に愛される事で愛する喜びも理解した。 自分を犠牲にしてでもひたすらに、夕麿を愛する武の姿に求めて止まなかった渇愛が潤され満たされた。

 だから今、穏やかな安定を見せている。

 だが…武には、『友』という存在が今ひとつ理解出来ていないと判断出来た。 生まれて初めて『友』になりかけた板倉 正己に、あのような形で裏切られてしまったゆえに、元々わからない『友』という存在を、作り上げる事に不安を抱いてしまっているのだ。

 他者と競い合う事すら知らない。 切磋琢磨せっさたくまして自らを成長させる事も知らない。 武の成績の良さはIQの高さもあるが、ただひたすらに母を守る為だった。 誰かと競った結果ではなくただ自分の内側へ、沈み込むように勉強に没頭していただけ。 本好きなのもそこが武にとっての唯一の逃げ場所だったからだ。

 高辻は思う。

 小夜子が夕麿を選んだ理由。 雫と夕麿の大きな違い。 雫は既に社会人として、立派に独り立ちしている。 高等部生徒会長だった頃の親友とは、今も交流があるようではあるが、互いに社会人であり立場も違う為に、かつてのように共に在るのは難しい。
 
 だが夕麿は紫霄を卒業した今でも義勝たちと共にいる。 義勝と雅久は御園生の人間になって、武を支えるかなえの一つになった。 それぞれがきちんと役割を担っている。貴之のように情報網を駆使して武を守る者もいる。 周のように新たな人員を呼び寄せる者もいる。 夕麿を中心にして武を守り支える、グループが整って来ている。こういう事は雫には不可能だと、その性格や職業から考えてわかってしまう。

 武が武として窒息しない環境を形成する人間関係。 それは夕麿自身が持つ魅力が、引き寄せたものである。 同時に夕麿は武の為に頭を下げて、彼らに助力を乞う度量ももっている。

 小夜子という女性の聡明さを改めて実感する。前の東宮が急逝せずに彼女を正妃としたならば、次代の皇国をどの様に変えたであろうか……と思う。 普段ののほほんとした様子は、天然なのかフェイクなのかは高辻にもわからなかった。

 取り敢えず今は周と連携して武を、治療するのに専念しなくてはならない。 代わりの精神科医を手配はしたが、学院内部には適任と思える者がいない。せっかく手配した者は夏の肺炎騒動で武から完全に離された。 もっとも新しい医師を武が受け入れられる状況ではないように思う。

 夕麿のアドバイスで周が行う事も、恐らくは一時しのぎにしかならないだろう。 夕麿が取り除いた武の引きこもりの殻は、再び武の心に形成されつつある。 だから電話でも夕麿にすら弱音を言わない。 もし完全に殻が出来上がってしまったら、今度は夕麿も入れない可能性があった。

 再び自分の本当の姿を封印して、今度は『紫霞宮』の顔で生きようとするだろう。 それは自らの寿命を縮める行為だ。

 競い合うのもまた人間には必要な事だ。 そこからしか生まれないものがある。


 お茶会は夕麿が人参が苦手という話から、互いの苦手なものについての話題に花開いた。

 保の言葉から死んだ司が蒟蒻が、苦手だったと知り夕麿たちが驚いた。 学院の食堂で一年間、同じ生徒会用のテーブルに着いていたが、そんな感じは微塵もなかった。 どうやら事前に清治が綺麗に取り除いていたらしい。 その清治はピーマンがダメだったという。

「武さまは如何なのですか?」

「基本的に嫌いなものはおありではないのですが…冷たい料理を口になさいません」

 夕麿は学院の食堂での出来事を保に話した。

「なる程。 夏でも温かいものを召し上がるのは、医学的には間違ってはおりません。 ですが一度精密検査を受けられた方がよろしいかと」

「問題がありますか、やはり?」

「皇家は残念ながら、癌の血筋なのです。 お身体が余り丈夫ではあらしゃらないご様子から鑑みて、用心に越した事はございません。

 今上も御幼少から、御身おんみが弱くあらしゃったと伺っております。 癌も発見されていますが、早期治療で完治なされています。

 もしもの為にも、定期的な検査をお勧めいたすべきです」

 確かに保の言葉は考えてみる必要を感じた。

「わかりました。 義母にご相談いたします。 御園生は総合病院も傘下に保有しております。 そこでならば、武さまの御身分に障る事もないでしょう。

 ありがとうございます、保さん。 そこまでの配慮を思い付きませんでした」

「私は医者の卵ですから、気が付いただけです」

 保はそう言うが確かにその必要に今まで気が付かなかった。 武の側にいる周は現状で手一杯で、そこへ思いが至らないのだろう。

 夕麿は素直に保に感謝した。


 携帯を閉じた夕麿はまだ笑い続けていた。最初は酷く思い詰めた顔で話していた。それが一変して声をあげて笑っている。側で見ていた義勝が苦笑しているのに気付いて夕麿は頬を染めた。

「珍しいな、お前が携帯持って笑い転げてるのは」

「ふふ、武たちが笑わせてくれたので」

「学祭は生徒会活動の折り返しだが、どうやら武も上手くやっているみたいだな?」

「そのようです。一時はどうなるかと思いました。私には何も言ってくれませんし…でも、無理に明るくしているのがわかるので、状況を問いかけるのも難しくて」

「武は周囲の変化に過敏に反応するからなあ……」

 少し天井を仰ぐようにして義勝が呟いた。

「紫霞宮の名前を賜った事は、武には過分の負担を与えましたから。私が狙われなければ来年の卒業に合わせて賜った筈のものです。不安に思っているのを残して、こちらに戻るのは気掛かりでした。正直、後ろ髪を引かれる気分を振り切るのが辛いとさえ感じました」

「それだがな、夕麿」

「何でしょう?」

「俺は武の為にはかえって良かったんじゃないかと思う」

「…どういう事ですか?」

 夕麿の心配性と過保護は、結局は武への依存の裏返し。安定はしたが武の愛情の強さと深さを目の当たりにして、どっぷりと浸かってしまったに過ぎない。

「いつもお前や俺たちが手を出すから、武はいつまで経っても自分の足場が造れないんだ」

「……」

「自覚はあるようだな?」

 言葉を失った夕麿は項垂うなだれてしまう。

「武が女ならばそれでも構わない。 だが彼は見た目は可愛いが中身はしっかりと男だ。お前が一番よく知っているだろう?」

 義勝の言葉に夕麿は無言で頷いた。

「今だから言うがな…お前と付き合い始めた頃、学院での武への風当たりはピークになった。 相当な嫌がらせを受けていたんだ」

「そんな…! 何故、教えてくれなかったのです!」

「言えばお前は、武を庇うのに必死になるからだ」

「当たり前でしょう!」

 激昂する夕麿に義勝は深々と溜息を吐いてから口を開いた。

「逆効果だとわかってないのか?」

「え!?」

 本気で驚いた夕麿に義勝は、やってられないとばかりにもう一度溜息を吐いた。

「最初に気が付いたのは麗だ。 だがアイツは敢えて見て見ないふりをした。 俺たちが庇えば、それだけエスカレートする。 そういうのを麗は一番知っていたんだ。アイツは老舗とはいえ庶民の出身だからな。中等部で虐めにあったらしい。だから必死に勉強して、特待生になったんだそうだ。

 それでも今度は俺たちと一緒にいるだけで、嫌がらせがあったと笑ってた」

「知りませんでした」

 麗はいつも屈託のない笑顔をふりまいて、ムードメーカー的な存在だった。そういえば最初に武の事を一番心配していたのは麗だった。

「武が階段から落ちた時、お前が常になく怒っただろう? あれだけで武への嫌がらせが増加したんだ。

 お前との事が噂になった上に、武しか見えなくなったお前が庇えば、武は取り返しのつかない状態に追い込まれてた筈だ」

 義勝は携帯を握り締めて言葉を探す夕麿に、真っ直ぐに言葉を向け続けた。

「なあ、夕麿。

 お前、本当に恋に落ちたのは武が初めてだって、自覚してるか?」

 その言葉に夕麿は、困ったような戸惑うような表情をした。

「多々良との事は、恋じゃなかっただろう? あんな事実が判明して、お前は…自分に嘘をついた。

 違うか? 恋にして悪夢のようなダメージから、自分を守ろうとしただけだろう?」

 夕麿は認めたくないのか、それともまだ癒えない傷が辛いのか、拒絶するように激しく首を振った。

「武が最初に学院に来た日から、お前は少しずつ変わっていった。 一目惚れだと言っていたが、それは間違いなく本当だとは思う。

 だから敢えて言う。 多々良との事は恋じゃなかったと。 奴はお前の弱味を突いただけだ。 誰かに愛されたいという、お前の願望を利用したんだ。

 そうだろう?」

 夕麿の手から携帯が滑り落ちた。 両手で頭を抱えて激しく首を振る。 顔からは完全に血の気が引いて蒼白になっていた。

「もう逃げるな!」

 義勝は立ち上がって、夕麿の肩を掴んでその身体を揺すった。 武の愛情に逃げ込んでいる限り、一つを乗り越えてもまた何かで行き詰まる。 発作が起きないからと言って、回復したわけではない。 落ち着いている今だからこそ、本当の事に向き合って欲しかった。

 中等部2年生の初夏。 誕生日前だったから夕麿はまだ13歳だった。 ただ愛情に飢えている子供だったのだ。 手懐けられ騙されて、陵辱された上に快楽だけを教え込まされた。 一途で健気で誇り高い彼の心を、ズタズタに引き裂くだけの目的で。 恋愛感情などもとから存在していない、ただ相手に縋っただけ、依存しただけの関係。

 当初は義勝もあれはそれなりに恋だったのだろうと信じていた。 だが、武への恋心を持った夕麿と比較すると、余りにも違いが在りすぎる。 今ならば別物だと、はっきりわかるのだ。だが肝心の夕麿自身がそれを認めない。 だから彼は前に踏み出せないでいるのだと義勝は思っていた。

「何をなさっているのです、義勝君…夕麿さま!?」

 高辻が顔色を変えて、夕麿の肩にある義勝の手を払いのけた。すると蒼白な顔で夕麿は首に手を当てた。口を開けて喘ぐ。

「夕麿さま!?息をなさってください!」

 高辻が慌てて胸元を緩めるが、夕麿は吸うのも吐くのも出来ず、喉元を押さえたまま口を開閉する。

「非常時です、お許しを!」

 高辻は叫ぶと夕麿の顎を抑えて唇を重ねた。強く息を吹き込む。唇を離してもう一度息を吸い込み、夕麿の口に吹き込んだ。すると今度は夕麿の喉が鳴り、続いて激しく咳き込んだ。

 高辻は夕麿の身体を支えながら、背をゆっくりと撫でさすった。

「大丈夫です。落ち着いてください。嫌な事を無理に思い出さなくて良いんです。

 ゆっくり息をしてください」

 夕麿は高辻の腕の中でかすかに身を震わせていた。

「義勝君、夕麿さまをお部屋にお連れします。手伝ってください」

 既に夕麿は半ば意識を失いかけていた。 さすがに自分の間違いを悟ったのか、義勝が夕麿を抱え上げた。 急いで部屋へ運び、ベッドへ横たえた。まだ呼吸は浅く荒い。 高辻は脈を確認して安堵する。

「夕麿さま、大丈夫です。 誰もあなたを責めたりいたしません。 さあ、少し御眠りください」

 清方の穏やかな言葉にかすかに頷くと、夕麿はゆっくり目蓋を閉じた。 その瞬間、一滴、涙が零れ落ちた。 だがすぐに眠ってしまう。

 それを確認すると高辻は、義勝の腕を掴んでリビングに戻った。

「何をなさいました? せっかく安定されていたのに! パニック発作を甘くみないでください。 生命にかかわる事もあるのですよ?」

 先程の夕麿の状態は尋常ではなかった。 自分で呼吸する方法を見失っていたのだから。 たまたま高辻がリビングに入り、異変に気が付いたから大事に至らなかっただけだ。

 義勝はつっかえながら、先程の事を説明した。

「何という事を…!? 中等部の出来事については、記憶に多少のすり替えが存在しているのです」

「記憶の…すり替え…?」

「そうです。 事実はあなたが感じている通りでしょう。 けれど夕麿さまの心は真実を受け入れられなかったのです。 受け入れれば崩壊してしまう。 だから恋だったと、誤った記憶にすり替える事で、それを防いだのだと予測されます」

「崩壊していたらどうなっていたと?」

「雅久君のように記憶を封印するか…完全に狂うか…それとも、人格障害を起こすか…私にも判断がつかないのです。治療を続けて行けばその過程で、必ず事実を認識する時が来ます。 だから私は敢えて触れずにいたのです。

 義勝君、あなたの気持ちはわかります。 しかし逆に私が続けている治療も、武さまの努力も台無しにする行為です」

「武の努力?」

 自分が常日頃見ている武の姿とは、違うニュアンスがあった。

「武さまは、夕麿さまから多々良の影を追い出そうとなさっていると…思えるのです。 ねやの事までは踏み込めませんが、カウンセリングで夕麿さまが口にされた言葉の断片を繋ぎ合わせると、そのような気配があります」

「閨の事? 武が夕麿を抱く方の?」

「雅久君がパートナーのあなたならわかるでしょう? 人間は男女の区別なく、最初の相手の性癖に染まってしまう生き物です。 それを拭い去るのは並大抵な事ではない。

 雅久君のように記憶をなくしても拭い去る事は出来なかった。

 そうでしょう?」

 義勝は血の気が引いて強張った顔で頷いた。

「それがどのような状態なのかは、私にもわかりかねます。 けれど武さまが何とかしたくお思いになられる程なのでしょう。 どのようなお気持ちを御抱きになられたのか、それまで知る事ははばかれます。

 ただ、そこにあの方の夕麿さまへの強く深い愛情は、はっきりと感じられるのです。 それは夕麿さまも同じ。 だから安定されていたのです」

 義勝にすれば夕麿の為だった。 安定しているからこそ…そう思ったのだ。

「あなたが夕麿さまを大切にされているのはわかっています。 しかし自分が独断的に動いてしまう傾向があると、もっと自覚をしてください。これはあなたが私と同じ道を望むならば、必要になる事です」

 義勝は高辻の言葉を噛み締めた。 確かに何かを思い詰め、相手を思ってしたつもりで逆に、困らせたり傷付けてしまう。

「大丈夫ですよ? これから学んで行けば良いのですから。 そうですね…もう少し、あなたは視野を広げなさい。 見ていなかったものが見えてくるまで。2年後の専門科目選択までの私の宿題です」

 高辻の言葉に義勝はしっかりと頷いた。

「さて、私はレポートを片付けなければなりませんので」

 高辻は笑顔で義勝の手を軽く叩いて、自室へと去って行った。


 次の朝、朝食に起きて来た夕麿は、昨日の事を謝ろうとした義勝にこう答えた。

「何の話ですか、義勝?」

 夕麿は義勝の行為を覚えていなかった。 頷く高辻を見て慌ててごまかしたが、雅久の記憶喪失を見ているだけに、義勝は恐怖感を与えた。

 安定は安定であり、回復とは違うのだという事実を、義勝はやっと認識したのだ。 何事もなかったかのように、いつもと変わらず朝食を摂る夕麿に、義勝は複雑な気持ちになった。

 と…突然、携帯の着信音が響いた。 夕麿がテーブルに置いていたそれを取った。

「何事ですか、周さん? そちらは夜中でしょう?」

 武からはたまにあるが、周からこんな時間にかかって来た事はない。午前7時。 試験の為に早めの朝食だった。 皇国は今、日付が変わる頃だ。

〔落ち着いて聞いてくれ。 武さまと透麿の行方がわからなくなっている。 二人が下河辺にすすめられて、学祭を楽しみに出たらしい。 一時は2~30人くらいで行動していたが、いつの間にかいなくなっていた。

 その後、武さまの上着ではないかと思われるのを手にした透麿が、高等部の敷地内から出て行くのが目撃されている〕

「武の上着? もしそうならGPSは意味をなしませんね。 武は携帯をいつも上着のポケットに入れていますから」

〔透麿の居所を確認出来ないかやってみたのだが…武さまの携帯は電源が切られていた。

 ……透麿の携帯に一度、かけてみてくれ。 お前からならば出ると考えられる〕

「わかりました」

〔気温がかなり下がっている。 シャツ一枚の武さまのお身体が心配だ〕

「折り返し連絡します」

 夕麿は周との通話を切ると、すぐさま弟をコールした。 コール音が続く。 再度かけ直そうとした瞬間、透麿の声がした。

〔…兄さま…?〕

「透麿、無事なのですね? どこにいるのですか?」

 敢えて武の事を尋ねないで問い掛けてみる。

〔その…さっき…寮に…〕

 透麿は二人部屋の中等部の寮で、何故か一人で部屋を使っていた。 同室の生徒が最初からいなかったのだ。

「わかりました」

 夕麿はそれだけ言って通話を切った。 久留島くるしま 成美なるみに電話をしている貴之に夕麿が頷いた。次いで 周をコールして、透麿が寮にいると告げた。

 夕麿は冷静だった。 武の事ではいつも感情が激する。 だが今日はそんな様子は微塵もないのが異様と言えば異様だった。だがすぐにその冷静さが、沸点を超えた怒りゆえだと全員が気付いた。

「夕麿さま、透麿君を発見しました」

 貴之が告げると凍てつくような声が答えた。

「特別室へ」

 と短く答えた。夕麿は心底怒っていた。武の上着を透麿が持っている。それはそれに付けられている記章をなくしたくないから、わざわざ脱いで透麿に渡したという事だ。夕麿が武に残して来た記章を守る為に委ねた。委ねなければならない状況に、直面したという事だ。それなのに透麿は武の上着を持ったまま、誰にも危機を知らせずに逃げたのだ。

 武を裏切ったのだ。それは同時に兄である夕麿を裏切ったという事だ。

 許せなかった。あの女が産んだ子供でも、たった一人の弟を愛しく思っていた。まだ子供の彼には罪はないと。彼に継がせて傾いた六条家に、もう一度力を取り戻したかった。しかし彼は自分の願いも武の好意も無駄にした。

 それが許せない。

「所詮はあの女の子…という事ですか…」

 肉親の情で信じた自分が悪かったのか。夕麿は自嘲気味に呟いた。せめて弟だけは信じたかったのに。肉親は誰もかれも自分を裏切り捨て去るのか。悲しみはもうなかった。純粋な怒りだけが、夕麿の中で冷たく揺れていた。怒りの余りに握り締めたフォークが歪んだ。

「夕麿さま、お手が傷付きます。武さまが悲しまれますよ?」

 雅久がそっと手を重ねて言う。

「あ…そうですね。雅久、ありがとう」

 雅久に返した笑顔すら、冷たい炎に包まれていた。雅久は怯まずにかすかな笑みで応え、フォークを放した夕麿の手を確認した。少し赤くなってはいたが、傷は出来てはいない。

「大丈夫でございます。傷にはなってはおりません」

 雅久は透麿にまだ会った事はない。だが武が探して再会させたのだ。二人を裏切る行為は許せないが、拗らせないでいて欲しいと願う。

 再び周から電話が来た。

「いえ、周さん。素直に話せば良いですが、それならすぐに下河辺君たちに知らせていた筈です」

〔事情があるのではないか?〕

「兄の私や皇家の一員である武を裏切った時点で、情状酌量の余地など存在しません。それにそんなに時間はかけられないでしょう?武の身が危険にさらされているのです。どのような手段を取ってくださっても構いません」

 電話の向こうで周が息を呑む。周にとっても透麿は従弟だ。

〔わかった。偽薬を使う。

 ……僕に任せてくれるか?〕

「有効な手段だとあなたが思うのならば」

〔わかった、透麿が到着次第、またかける〕

「わかりました」

 義勝たちは声も出せなかった。冷気が溢れるような、夕麿の怒気が全てを物語っていた。

 朝食を終了後は登校時間までの間に、試験範囲を確認する予定だったが、それどこではなくなった。試験を受ける為に9時にはキャンパスに到着していなければならない。試験を受けなければ、クリスマス休暇明けのキャンパスに自分の居場所はなくなる。

 何を置いても武の身を案じたい。 だがここでUCLAの学生資格を失えば、武が無事に戻った時にどれほど悲しむだろう。 貴之は部屋から学院の見取り図を持ち出して来てテーブルに広げた。成美に問い掛けて、現在までに捜索が終了した場所にチェックを入れて行く。 都市部では都市警察が、大学部では学生会が、中等部では相良あいら 通宗みちむねが独自に人員を出して武を探していた。

 義勝たちは再びかかって来た周からの電話に答える、夕麿の言葉を無言で聞いていた。

 ハンズフリーのスピーカーに繋いだらしい会話の内容に息を呑む。 夕麿の言葉に容赦はなかった。 彼は既に弟を切り捨てた。『六条家の恥)とまで断言する。 その行為が結局、夕麿自身を傷付ける。 雅久はいたたまれず、義勝の腕に手を置いた。

 高辻は無言で夕麿を観察している。

 「図書館近くのベンチの所で戸沢 美禰たちに襲われたそうです」

 そっと貴之が携帯に耳を寄せた。 そこから聞こえた人数に、貴之は首を振って答えた。

「…通常でも武さまの体力では無理です」

 如何に合気道が相手の力を利用する武道だと言っても、集中は体力を消耗する。 身体を使わないわけではない。 疲れた状態では、さほど体力が続かなかった筈だ。

 夕麿が顔を歪める。 貴之はそれを見て急いで地図を眺めた。

「まさか…」

「貴之、どうした?」

 強張った貴之の顔に義勝が問い掛けた。

 貴之が地図の一点を指差し、夕麿が目を見開いた。貴之は頷き携帯の向こうの成美に告げた。

「久留島、武さまは旧特別室だ。急げ、 あそこは倒壊の恐れがある」

〔直ちに向かいます〕

 成美たちが急行している間を待つように、夕麿が周と旧特別室の話をする。 貴之も一人で確認しに行った事があった。 そこは二人が言うように無残な姿だった。

 不意に耳に当てていた携帯から、小さな悲鳴が上がった。

「どうした、久留島?」

〔良岑先輩…中からピアノの音が……〕

 かすかにだが貴之にもピアノの音が聞こえる。

「武さまが中にいらっしゃる。 速やかにお救いしろ」

 亡くなられた宮の幽霊が出る、という噂は本当なのかもしれないと思いながらも、今は武の安否が最優先であった。

〔は、はい!〕

「良いか、そこはかなり傷みが激しい。 倒壊の危険があるのを忘れるな!」

 確かにピアノの音に背筋が冷たくはなった。

「貴之?」

 携帯を手に言葉をなくしている貴之を見かねて声をかける。

「申し訳ございません。 少々動揺しました」

「珍しいですね? 何がありました?」

「その…かすかですが、ピアノの音が」

「聞こえたのですか?」

「はい」

「噂は本当だったのですね」

〔良岑先輩、武さまは無事おするするであらしゃいます〕

「了解した。 夕麿さま、武さまを無事にお救い致しました」

「良かった… 周さん、武はおするするです。 久留島たちがお連れすると思います」

〔良かった…準備をしてお待ちするよ〕

「お願いします。

 …私たちはそろそろ登校しなければなりません。 そちらの朝にまた、かけ直しします」

〔わかった。 試験を頑張って来い〕

「ありがとうございます」

 安堵感に全員が息を吐いた。

「では、出ましょう。

 文月、車の用意は?」

「既に待機しております」

 頷いて立ち上がった夕麿の頭には、最早弟の事はなかった。 義勝は心配する雅久を抱き寄せて囁いた。

「武が捨てて置かないさ」

「だとよろしいのですが…」

 互いに身内を失った身。 だからこそ夕麿の怒りがわかる。 怒りに吹き消した悲しみも失望もわかる。 夕麿はどのような仕打ちを受けても家族を愛して来た。なのに…どうしてその愛を彼らは裏切りで返すのだろう? 本来の夕麿は優しい性格だ。 激情家ではあるが、それは愛ゆえに極端になる。 血の繋がらない自分たちが、ここまでわかるのに…何故、彼らはわからないのだろう。

 義勝は泣きたい気分になった。 夕麿は平然としているように見える。 けれども高辻が相変わらず視線を外していない。しわ寄せの反動が心配だ。 昨夜の義勝のやった事も、どう影響しているのかわからない。

 キャンバスを足早に横切って、試験が行われる教室に向かう。 アメリカの大学の試験のほとんどが、論文形式になっている。 与えられた課題に対する論文。 授業内容を本当に理解していなければ、良い成績を上げる事は出来ない。 夕麿たちは今は雑念を捨てて、試験と向き合う事に集中する。



 午前中の日程を終えて、カフェテラスでぐったりとしていた。教科の中にはレポート提出が試験の代わりになっているものもあり全て提出して来たのだ。

 一番奥の片隅のテーブルに着くと早々に、 夕麿は携帯を取り出して周をコールする。

「おはようございます、周さん。 武の様子は如何ですか?」

〔今、朝食を召し上がられている〕

「わかりました。 ところで昨夜の自白剤の正体は?」

〔ふ…ただの生理食塩水だよ。 注射器に入れておくと、そうは思えないからな。……お前、中身が本物でも躊躇わなかっただろう〕

「武の生命にはかえられませんから。 当然だと思いますが何かご不満でも?」

〔……まだ怒っているのか?〕

「試験で気分はかなり変わりましたが、それはそれです。 先程、都市警察から彼らの処分についての問い合わせてが来ました」

〔武さまは穏便にとお考えだが?〕

「武の意見を訊いていたら、いつもそうなります。 学院に於ける風紀の乱れも気になります。 軽い気持ちや悪戯気分で、何でも実行されたらどうなると思います? 理事の一人として、それは由々しき問題です。ましてや中等部生徒会長と風紀委員長が、この様に事態を起こした事が問題でもあります。 もう少しで平堂上とはいえ貴族としての自覚も皇家への尊崇も持たぬ者が、学院の中心となる高等部生徒会長になる所でした。

 武が彼を高等部生徒会長の候補にはしないと言ったそうですが、その判断は正しかったという事でしょう」

 常にない夕麿の饒舌じょうぜつさが、未だに怒りが解けていないのを表していた。

「関わった者全員の厳罰を命令しました」

〔待て、夕麿。 それでは透麿も処分対象になるぞ!?〕

「それが何か? 武が危険なのをわかっていながら、逃げた上に誰にも知らせなかったのですから、当然でしょう」

〔…武さまが悲しんでご自分をお責めになる。第一透麿はまだ一年生だ。子供だというのを考慮しろ。これ以上お前が肉親と疎遠になったら、武さまはますますご自分を責めてしまわれる?

 どうやら佐田川潰しの事を、戸沢たちが透麿にバラしたらしい。武さまは透麿の行動は当然だと仰られているんだ。この状態で厳罰になんかしてみろ、どんな事になる?武さまをこれ以上傷付けてどうする?〕

「それは…」

〔透麿はそうだな…学祭への参加禁止と無期限の謹慎でどうだ?〕

「わかりました。武の為に譲歩しましょう。

 でも周さん。二度と透麿を武に近付けないでください」

〔それは僕が決める事ではない。武さまがお決めになられる事だ〕

 そう断言されると夕麿は何も言えない。武を悲しませたくない。傷付けたくもない。けれど許せないものは許せないのだ。透麿をたったひとりの弟を、愛しく思うからこそこの裏切りが許せなかった。夕麿の為に鬼となって佐田川潰しをした武。それを一方的に透麿が責める。傷付いたであろう武。ただ自分に罪があると言い訳をしなかった筈だ。それを思うと辛い。

「肉親に情を求めるのは、甘えなのでしょうか…」

 周との通話を終えて、夕麿は誰に言うとでもなく呟いた。

「そんな事はないと思います。武さまとお義母さまを見れば、おわかりになられると思います。ただ私たちの肉親が、情の持ち方を間違えてしまっているのでしょう…」

 雅久が夕麿を真っ直ぐに見つめてはっきりと言った。

 そう武と小夜子。ずっと母一人子一人で生きて来た二人。武は母を想い、小夜子は息子を想う。それだけではない。武の伴侶となった夕麿も、御園生の養子となった義勝と雅久も、分け隔てなく愛情を注ぐ。一人ひとりを彼女はちゃんと見てくれる。夕麿や雅久のように、心に深い傷を負った者を理解し受け入れてくれる。

 もうそれで良いではないかと思う半面、肉親の情を求めてしまう自分が哀しい。ただこの想いをわかって欲しいと望むだけなのに。それすら望んではならないのだろうか?やるせない気持ちを抱えて苦悩する夕麿の前に、高辻が膝をついて声をかけた。

「夕麿さま、ご帰宅されましたらカウンセリングをお受けください」

「ありがとうございます」

 こうして支えてくれる人々がいるから立っていられて前に進める。そして武の愛があるから明日に希望を持てる。

 夕麿はそっと左手首の紫色のミサンガに触れた。



 夕方、義勝は庭を散策していた。

 プールがあるテラス側とは違い、リビングから続くこちら側の庭は芝生と四阿あずまやに池と、静かな寛ぎの空間になっている。 池には睡蓮すいれんがあるが、冬に向かうこの時期に花はない。 池を背にして四阿に踏み入れようとした時、背後から声が掛けられた。

「珍しくひとりだな?」

「貴之か。 いつも雅久といるわけじゃない。 人をセットで見るな」

「しっかり尻に敷かれている奴が何を言う」

 義勝にとって貴之は夕麿とは違う意味で親友だった。 それは昨年の夏、雅久の危機を知らせてくれた時により深まったと感じていた。

「武が夕麿の異母弟おとうとを見付けて会わせたのが…裏目に出てしまったな…」

 義勝が四阿のベンチに座って呟いた。

「夕麿さまも他人ならばあれほど悩まれたりなさらないだろう」

「肉親だから…か。 俺にはよくわからない感情だな」

 義勝は夕麿と同じく、小等部入学と同時に寄宿舎に入った。 元々、各々の家の思惑で結婚させられた両親は、義勝が物心ついた時には既に別居していた。 彼は両親が面目上持っていた屋敷で乳母に育てられたのだ。 もう両親の顔すら覚えてはいない。 義勝はだから肉親の情が理解出来ない。

 自分を愛情深く育ててくれたのは、血の繋がらない乳母だったのだ。

 愛される。

 それはわかっている。 わかっているから愛せる。 それが義勝の愛情だった。 義勝には愛情と肉親が決して繋がらない。 むしろ『想い』と血は別のものだと思っていた。 肉親だからといって、愛情をくれるとは限らない。 愛せるとは限らない。学院には同じ想いの人間がたくさんいた。 また逆に夕麿のように肉親の愛情を信じ続けた者もいる。 そしてそのほとんどが無情に信じた肉親に棄てられた。

 信じなければそこまで傷付かなくても済むのに。 そう思う反面、心のどこかで羨ましく思う自分がいる。 夕麿は義勝にとっては、もう一人の自分でもあった。 少しでも両親が義勝を振り向いていたら、きっとあんな風に肉親を信じて待ち続けたかもしれない。 待って待って裏切られて泣いたのは自分だったかもしれない。

 雅久はもっと悲惨だった。 母と花街の妓女たちに愛情いっぱいに育てられた。 引き取られた戸次家で自分が望まれない存在だと、知った時にはどんな思いをしたのだろうと思う。

「…俺にはお前の気持ちも、夕麿さまや雅久の気持ちも…わからない。 俺の所は両親は普通だからな…」

「それが当たり前なんだ、気に病む必要はないさ」

 肉親。 それは一体何だろう…と義勝は思う。 両親も家族も揃って仲良しの麗は、それを捨てて愛する人の元へ行った。 二度と皇国の土を踏む事の叶わぬ恋人の元へ。

「貴之、お前は良いのか?」

「何がだ?」

「高辻先生の事だ…」

「別に。 そういうカウンセリングを受けていたようなものだったし…恋愛感情は欠片も存在してない。 むしろ幸せそうに成瀬警視と電話で話してるのを見て良かったと思ってる」

「そうか…なら良いんだが…お前、恋愛の話とかしないから…」

「……」

「恋した事がないわけじゃ…ないよな?」

「……」

 貴之は何も答えなかった。

「貴之?」

 彼はその呼びかけにゆっくりと顔を上げると、微笑みを残して踵を返して去って行った。 義勝は彼の無言の理由も、微笑みの答えもわからずに、立ち去る彼の後ろ姿をぼんやりと見送った。

 その様子をテラスに続く硝子越しに夕麿と高辻が、見つめていたのを二人は知るよしもなかった。

 ロサンゼルスも秋が深まりつつあった。 間もなくカリフォルニアは、雨の多い季節を迎える。
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