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8. ニューヨーク Jan
しおりを挟むプライベートジェットの中で二人は向き合った。
「ニューヨークに帰る。君を送り届ける」
「……わかった。でも、最後に俺の話を聞いて。俺とウィルのこと」
「……」
意を決したようにユーリは話しはじめた。
「俺とウィルはニューヨークで出会った。四年前。俺がいつもどおりスーパーでコーラを買おうとしていた時。
ウィルは俺を見た途端、俺を抱きしめた。君は自分の運命の番だって。
でも、俺にはわからなかった。俺のオメガの部分はまだ育ってなかったんだ。ウィルは待ってくれると言った。自分にもすぐに番になれない事情があるからって。
それから俺たちは普通の友達のように、少しずつ仲良くなった」
ユーリは一度言葉を切る。
「きっと、ウィルは俺っていう最高級のオメガと出会ったことで運を使い切ったんだ。ジャックポッドさ」
彼は苦しそうに唇を歪めて笑った。
「ウィルには体の弱いオメガの母親とその体質を受け継いでしまったオメガの妹がいた」
エドは口を挟まず、ただ話を聞く。ユーリは感情的にならないようにゆっくり言葉を選んでいるようだった。
「ウィルは大学生で、宇宙や地球の頂点ーー南極を研究したがっていた。彼は、あんたみたいなハンサムじゃなかった。優しかったけど、とにかくお人好しで騙されやすかった。……何より運が全くなかった」
ユーリは暗い目をした。
「いつのまにか。俺の知らないうちにたくさんのバイトを掛け持ちしていたウィルは突然過労で死んだ。ショックを受けたのか彼の母親も、後を追うように。その時、俺たちはまだ番になっていなかった」
長い悲しい話だ。ユーリはひとくち水を飲んだ。
「ウィルにはたくさん借金があったことがわかった。それが彼の大切な妹に降りかかろうとしていた。
俺はウィルと番だって証明書を偽造して、借金を全て引き受けた。その時俺も下手をうってしまったんだな。借金はさらに膨れ上がった。どうせ生きているうちに返せる額じゃなかったからどうでもよかったけれど」
ユーリは顔を上げてしっかりと、エドを見据えた。
「サチが羨ましい。あんたと出会った時、サチはあんたが運命だってすぐにわかったんだろう」
「……だから、君は出会った時のサチの年齢を気にしていたのだな」
「そうだっけ、覚えてないや」
ユーリは首を傾げたが、エドは覚えていた。ローマで初めてサチの話をしたとき、静かに耳を傾けていたユーリだったが、不思議とサチの年齢については問い直していた。
「結局、俺は運命ってやつがよくわからないままに相手が死んじまった。だから、どこか世界を旅していたら、運命と出会えるかもって夢をみたかったんだよ。あんたを同情させようなんて考えてもなかった」
「……悪かった。あれは心ない言葉だった」
ユーリの告白にエドは素直に詫びる。
「いや、俺も訂正する。あの時、ニューヨークの小汚い病室で偶然隣同士になったゲロまみれのあんたとビッチの俺。アルファとオメガ。何の接点もないのに一緒に旅にでる、って運命的だろ? エドが運命だといいなと思ったんだよ」
ーーあの時、シンデレラストーリーを夢みた。
ユーリは微笑んだ。
エドは水を飲んで、大きく息を吐いた。怒りは消えていた。
「すまない。少し考える時間がほしい」
「わかった。旅は本当に楽しかった。ありがとう」
1月のニューヨークは身を切るような寒さだ。ユーリはダウンコートをしっかりと着込んでタラップを降りた。
ニューヨークで二人は別れた。
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幸のリスト
× ローマの休日
• 南極へ行く
× 運命に出会う
× おいしいコーヒーを飲む
× スシをお腹いっぱい食べる
× カジノで大金を使う
× 世界一の相手に抱かれる
× 英語でケンカをする
× 天空のプール
• オーロラ
• 信頼に応える
• 最高の治療を提供する
• 大切な人に会いに行く
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