【完結】不可解な君に恋して

とっくり

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 月に一度の、カタリナとリュミエールの定例のお茶会。

 エベルハルト伯爵邸の応接室には、磨き上げられた銀器と、色鮮やかな菓子が美しく並べられていた。

 大きな窓から射し込む午後の陽光が白磁のティーカップに反射し、室内は柔らかな輝きに包まれている。

 その中央に座るカタリナは、背筋を伸ばし、姿勢を正して紅茶を口に運んでいた。

 対するリュミエールは、いつも通りの朗らかな笑みを浮かべながら、その光景をじっと見つめる。

「お招きありがとう。これを君に」
 彼が差し出したのは、淡いピンク色のガーベラの花束だった。

「まあ……可愛らしい」
「カタリナに似合うと思って」
「この可愛い色が、私に?」
「もちろん」

 祖父母から派手な色のドレスや小物を禁じられていたカタリナにとって、ピンク色は縁遠い色。
 だからこそ、不意に差し出されたその可愛らしい花束が、胸の奥をそっと揺さぶる。

「ありがとうございます」
 口元がわずかに緩むのを、本人も抑えきれなかった。

「どういたしまして。喜んでもらえて嬉しいよ」
「アリサ、この花を生けてくださる?」
 淡々と侍女に指示を出しながらも、カタリナの頬にはほのかな朱が差していた。

 アリサが花瓶を抱えて静かに退室すると、応接室には二人きりの時間が広がる。

 沈黙の中、カップを手に持つ音、菓子皿に置かれたフォークのかすかな響きだけが耳に届いた。

「学園にはもう慣れたかい?」
「ええ。友人もできて、楽しく過ごしていますわ」
「ベルナー侯爵令嬢とリデル伯爵令嬢だね。三人並んでいると、なかなか絵になるよ」
 紅茶を口にしたあと、リュミエールは微笑んだ。

「お二人とも裏表がなく、心根の優しい方達です。先日は、リデル伯爵家にお邪魔させていただきました」

「邸に遊びに行くなんて、珍しいね」

「私も初めてのことで、少し緊張しました。リデル伯爵家で、セザンヌが受けるマナー講師の授業を一緒に受けてみないかと声を掛けていただいて」

「マナーの授業?君には必要なさそうだけど?」

「授業というより、講師を見に来てほしいというお誘いでしたの」
「講師?」
「ええ、何でも個性的な方で、笑わずにはいられないとのことで…」

 リュミエールは前のめりになり、興味深げに頷いた。

「で、どうだった?君でも笑わずにはいられなかった?」

「それが…セザンヌもクラリッサも肩を震わせて笑いを堪えていましたが、私は大丈夫でしたの」

「そうか……君には通用しなかったか」
 少し残念そうに笑うリュミエールを見つめながら、カタリナは問いかける。

「リュミエールは、ご友人はできましたか?」

「……そうだね、それなりに」
 いつもの調子で答えながらも、声の奥に微かな間があった。

 カタリナは首を傾げるが、それ以上は追及せず、紅茶を一口含む。

「来年からの選択科目は、どうされますか?」

 紅茶を含んだ後、カタリナは、リュミエールに穏やかに問いかける。

 エルディア王立学園では、二年次から進路に応じて学科を選択することになっている。

 政治・法学科、経済・商学科、領地経営科、女子限定の淑女教養科。

 さらに文学や哲学を深く学ぶ、文学・哲学科もあり、いずれも国が運営する学府にふさわしく、高い水準を誇っていた。

「僕は経済学を選ぶつもりだよ。シュタイン家は商家上がりだし……君の夫となった後も、当主である君を支えるためには必要な学びだから」

「そこまでお考えくださっているのですね」
 カタリナは感慨深げに呟く。

「僕は君を支えるために尽力したい。だから、僕にできることは、全部やるつもりだ」

 リュミエールのにこやかな声と笑顔の奥に、わずかな翳りが隠れていることに、カタリナは気づいた。

思わず、彼の名を口にする。

「……リュミエール?」
「なんだい?」
「……いいえ、何でもないわ。お茶のお代わりはいかが?」
「ありがとう。いただくよ」
 ふわりとした笑みを浮かべてリュミエールが答えたあと、話を続ける。
 
「カタリナは領地経営科に進むのだろう? 友人たちと離れてしまうね」

「ええ。彼女たちは淑女教養科に進むけれど、必修科目は一緒に学べますわ」

「ああ、そうだね。六年という長い学園生活だ、科が違っても友情は育める」

 リュミエールはカップを手に取り、わざと軽やかに笑った。

「ふふ、こうしてお茶を飲む場で、勉強や領地経営の話ばかりだと肩が凝るね。
せっかくのお茶会は、笑って過ごせる方が良いなぁ」

「ただ笑って過ごす時間……少し難しい気がしますわ」
 カタリナの小さな呟きに、リュミエールは肩を大げさに竦める。

「確かにね。じゃあ次回は、何か面白い話を仕入れてくるよ」
「……ふふっ。仕入れるなんて、まるで商売みたいですわね?」

 カタリナの唇から零れた笑みに、リュミエールは嬉しそうに頷く。
「ああ、それで良いのか。君は笑った方がずっと素敵だね」

 カタリナは視線を伏せ、紅茶に口をつける。

 窓の外では春風に揺れる庭木が影を落とし、室内に淡い揺らぎを投げかけている。

 学園ではなかなか一緒に過ごせない二人だったが、定例のお茶会では、少しずつ互いの心を寄せ合っていた。

 
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