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アルフラーデ王国連合と異世界勇者

ダンジョンは続くよ、魔界まで その2

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ダンジョンの中は様々な顔を見せる。
石畳や石壁で整備された箇所があるかと思えば、
ゴツゴツした岩肌がむき出しの地面や壁、
小高い丘があるかと思えば小川が流れ、時には切り立った崖、
そこから流れ落ちる滝もある。
本当にダンジョンの表情は豊かだ。
そして、ガトフは今、
そんな崖の上に座り、一人瞑想にふけっている。

「こんなんで、本当に獣人化できるようになるんですか?」
崖の上のガトフを眺めながるカシネが、俺の修行方法を疑う。
「もちろん!修行といえば、瞑想だ!」
「そんな事言ってぇ…。
さっきまではは滝行だぁっ!って言って、
そこの滝にガトフさんを放り込んでたじゃないですか。」
「う。」
「その前の断食だって仰ってましたよ?」
「あ、あれはガトフのトラウマスイッチ入りそうだからヤメただろっ!」
「じゃあ、その前の前の火渡りってなんですか?」
「何って、火の中に飛び込んでだなぁ。」
「…それは刑罰か何かですか?」
「いやいやいや!本トに火の中に入るわけじゃなかったろっ?!」
「で、この瞑想なら、ガトフさんが獣人化できるんですね?」
「……多分?」
「…多分って……。」
「しかも、最後疑問形でしたよ!?」
二人が呆れ顔で俺を見る。

「そ、そんな顔で見るなよっ!
しょうがないだろっ!俺だってわかんないんだからっ!」
俺は憤慨して叫ぶ。
そう、勢いで獣人化のためのガトフの修行を請け負ったのだが、
このザマだ。
修行という事で、ダンジョン内で出来る範囲の、思いつく限りの修行を行ったが、
未だになんの成果もない。
とりあえず今は、滝行でその華奢な体が砕けそうになっていたので、
命の危険が少なそうな瞑想を行なっている…というワケだ。

「如何せん、俺は獣人化なんて出来ないからなぁ…。
教えようがないだろう…。」
出来る出来ないどころか、あんなの初めて見たし。
「あんなに自信満々でしたのに…。」
「俺に任せとけっ!って言ってましたよ?」
「うぐ…。」
二人の非難の視線に言葉が詰まる。

「ま、まあさ、肉体的な問題じゃないようだから、
内面の問題だって事は間違いないだろ?」
「うーん…確かに…。」
「そんな気はしますが…。」
「後はアイツが自分で自分の殻を破るのを待つしかないよ。」
「そういうモノですか?」
「……多分。」
「もぉ~。」
カシネの呆れ声が滝に飲み込まれる。


一方こちらは崖の上、
ガトフが獣人化の修行のため瞑想中。
瞑想前のハヤト師匠(?)の教えを思い出す。
『自分の内面を見つめ直すんだ。』
『自分という人間を問い直すんだ。』
『自分の殻を打ち破るんだ。』
すごくもっともらしい事を言っていた気がするが、
そのどれもが具体性に欠け、ただの精神論だった。
「私…何してるんだろ……。」
ガトフは呟く。

『硬い地面に座り続けてお尻は痛いし、
変な座り方、座禅?をさせられて足も痛いし…。』
こんな事で本当に獣人化出来るんだろうか?

「そろそろヤメさせて欲しいなぁ…。」
そんな事を考えていた時、
ードッゴァァァッッッ!!!!ー
「きゃあっ?!」
鼓膜が破れるほどの爆発音がダンジョンに響く。
地面も揺れ、天井からも石の破片が落ちてくる。
「な、何っ?!」
ガトフはハヤトたち3人がいるハズの崖の下を覗く。
そこには、飛んできた魔法を間一髪避けるハヤトの姿が。

「えっ?!た、戦ってるっ?!」
向こうの森の中から無数の魔法がハヤトに向け放たれる。
ハヤトはそれを避け、あるいは剣で切り裂き被弾を免れている。
しかし、魔法の数は圧倒的で、いつ被弾してもおかしくない。
「た、助けに行かなきゃっ!」
だが、眼下で繰り広げられる戦闘の激しさに、足が止まる。
『獣人化出来ない自分では足手まといになるんじゃ…?
ならこのままココに隠れていた方が…。』
だが、ガトフが迷っている間に恐れていたことが。
躱し切れなかった魔法がハヤトの腕を消し飛ばし、
ハヤトは辺りに血をまき散らしながら吹き飛ぶ。
「ひっ!?」
ガトフは短く悲鳴を上げる。

「ど、どうしよう?!どうしたらっ?!」
ガトフが崖下を覗き込みながら震えていると、
「ガトフさんっ!」
背後からカシネの呼び声が。
「カシネさんっ一体何がっ!ひっ!」
ホッとして振り向いたガトフが息を飲む。
血を流しグッタリしたチェーレがカシネに抱えられている。
最初の爆音の際負傷したのだろうか。
だが、そのチェーレを抱えるカシネも、
体中のあちこちから血を流している。
「チェ、チェーレさんっ!カシネさんっ!」
ガトフは慌てて二人のもとに駆け寄る。

「ガトフさん!急いで逃げますよっ!」
「ええっ?!カシネさんっ一体何がっ?!」
事態を把握出来ないガトフはカシネに詰め寄る。
「ガトフさん、落ち着いて聞いてください。」
カシネはガトフの肩に手を置き、ゆっくりと告げる。
「魔王軍が現われました。」
「!!!!」
ガトフは血の気が失せる音を聞く。
「大量の魔物に名だたる爵位持ちの魔族も多数、
特にあの、エフタフ伯爵も見えました。
アイツは以前僕も戦場で見ましたが、
本当に強いヤツでした。」
いつもは飄々としているカシネとは違う雰囲気に、
ガトフも事態の深刻さを理解する。
恐怖と緊張のあまり、ガトフの視界は揺らぐ。
「しっかりしてくださいっガトフさんっ!」

ーゴガアァァァンンンッッッ!!!ー
先ほどより大きな轟音。
崖も大きく揺れ、今にも崩れそうだ。
「!は、ハヤト様っ!ハヤト様はっ?!」
衝撃で我に返ったガトフが叫ぶ。
そう、この崖の下ではハヤトが戦っているハズだ。
慌てて崖の下を覗こうとするが、
「ダメですっガトフさん!逃げますよっ!」
「で、でも!」
「数が多すぎるんですっ!貴女を守りながら戦える数じゃないっ!」
「くっ!」
ガトフは自分の無力を悔いる。
獣人化さえ出来ればっ!
カシネは自分を責めるガトフの手を引く。
「今はとにかく逃げるんですっ!
ここはハヤト様に任せて離れますよっ!」
「で、でも!」
多数の魔力弾に襲われていたハヤトの姿を思い出し、
逃げるのを躊躇い、手を振り払う。
「たくさんの敵にはハヤト様の広範囲魔法が有利ですっ!
巻き込まれないように離れないとっ!
ハヤト様が全力で戦えないっ!」
全力で戦えない、その一言で吹っ切れたガトフも、
敵がいるのと反対の森を目指し全力で走り出す。

チェーレを抱えてもカシネのスピードは凄まじい。
ガトフは置いて行かれまいと必死で追いかける。
森に入り少しした所で、
ーカッー
辺りに閃光が走ったかと思うと、
ードッグァアゴオォォンンンンッッッッッ!!!!ー
背後からこの世が終わるような爆音が鳴り響く。

「!」
振り返ったガトフが見たモノは、
先ほどまでいた崖が崩れ落ちるのと、その崖の辺りを包み込む黒煙、
そしてその崖より高く立ち上り、遥か頭上の天井を舐める紅蓮の業火。
その様はまさにこの世の地獄だった。


つづく
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