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私を水の都へ連れてって

道祖の願い

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ーごくりー
静かな部屋に、俺が唾を飲む音が響く…ワケはないが、それ位静かだ。
夜の自室に、好きな女の子と二人きり…。
そのシチュエーションの緊張から、俺はもう一度深呼吸する。
紅茶の匂いと道祖の匂いが混ざって鼻孔をくすぐる。
あ…コレはヤバイ香り…。

「高御座君?大丈夫?疲れが出た?」
ヤバイ顔をしていたのだろうか、道祖が心配そうに俺を見る。
「い、いや、大丈夫!」
俺は慌てて我に返り、机を挟んで向かいのソファに座る道祖を見る。
召喚された時に着ていた制服姿の道祖が座っている。
こうしていると、元の世界に戻ったようだ。

召喚された時は肩より少し長めだった髪が、今は肩甲骨の真ん中位まで伸びている。
召喚されて数ヶ月、時の流れを感じる。
俺は大部分ココを留守にしていて、道祖と顔を合わせるのは久しぶり、
ダール平原での戦い以降は道祖が引き篭もっていたので、尚更か…。

ダール平原での戦い…。
神前とはあの時に和解(?)できたが、この世界での倫理観について、道祖にはまだ納得してもらえていない。
せっかく今晩来てくれたんだ、ちゃんと説明できるといいんだが…。
「こうして話すのは久しぶりだな、道祖。少し、髪が伸びたかな?」
「うん…。」
道祖が毛先を捻りながら、頷く。

「あの戦い以来だな、こうして顔をあわせるのは。」
「そうだね。…ごめんね、心配かけちゃったね。」
くそっ!そうじゃない!これじゃ俺が責めてるみたいだっ!
チェーレの言う通り、道祖と神前の前では緊張してうまく話せないっ!

「あ、あのな、この世界の話なんだが…。」
「その話なんだけど、今度は水の大聖堂って所に行くんでしょ?」
話の腰を折られたが、道祖から話題を振られた。これはチャンスだ!
「ああ、さっきの宴会で聞いてたのか。ミュールって所に行くんだが、興味があるのか?」
「うん!」
道祖の顔が輝く。

「さっき凛ちゃんが少し言っちゃったんだけど、私、魔法が使えるみたいなの!」
「そうか、道祖は魔法使いとして適性があったのか。」
「高御座君がいない間に、王城に行ったんだけど、ソコで精霊さんにも会ったのよ。」
「ああ、ヴルカ達は今王城にいるんだったか。どいつが見えたんだ?」
「みんな見えたのっ!」
「みんなっ?!シェイディもかっ?!」
「ええ、すごいでしょう!」
道祖がエヘン!と胸を張る。
それを見ながら、俺は本当に驚いていた。
俺は、全ての属性に適性がある人間に会った事がない。しかも、最上位の精霊が見えるとは…。

「それで、神殿に行って、水の精霊帝に会ってみたいなって。」
「まあ、絶対いるワケじゃないが、いる可能性は高いな…。」
水の精霊帝に会うのは、俺の目的でもある。これは、道祖と和解してお近づきになるチャンスでは…。

「どうかな…。連れってもらえる?」
道祖が不安そうな顔で俺を覗き込む。その表情がたまらなく愛おしい。
「ああ、モチロン。」
「ホントっ?!やったぁ!」
道祖は立ち上がり、手を叩いて喜ぶ。
その仕草は今までの道祖より幼く見え、少し違和感も感じるが…カワイイから問題ないっ!

夜の自室に道祖が来る…色っぽい展開も期待していたが、今日はこれでいいだろう。
こうして、道祖との旅行が決定した。

つづく


読了ありがとうございます。
書き始めて半年ちょっと、ついに100話になりました!
今までありがとうございました。
これからも宜しくお願いいたします!
『異世界運送~転生した異世界で俺専用の時空魔法で旅行気分で気ままに運送業!のつもりが、ぶっ壊れ性能のせいでまさかの人類最強?!~』という小説を新たに書き始めました。
よろしければ、そちらもお願いします!
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