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『おまんじゅうゲーム』開始
『オマンジュー』との出会い
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この人間、確かにオレ様に接続できるらしい。悪魔は感心した。だが、裏を返せばこちらの思う通りに操る余地も残されているということだ。天使まがいの人間を堕ちぶらせるほど美味なものは無い。
「美味といえば、おまんじゅうを用意したんです。どうぞ召し上がってください」
セツカは正方形の箱に綺麗に詰められたおまんじゅうを指し示した。なんの変哲も無い、ただのおまんじゅうだった。
これがオレ様に対する捧げ物、願いに対する対価のつもりか? 食い物でオレ様を釣ろうなど、下の下。この『オマンジュー』とやらにも失礼と言うものだ。
悪魔は不機嫌になりながらも、一つだけ包装紙から取り出されてセツカの真正面に捧げてあるおまんじゅうをまじまじと観察した。
実に見事な曲線だ。完璧ではないが、逆にそれが美しくも見える形。そして、柔らかそうな表面の丸み……。もちろん、オレ様に値する代物ではない。第一、人間の食い物に興味は無い。人間どもに粗悪な食い物を与えてやることはあっても、食い物に誘惑され、喰われるのはいつだって人間の方なのだ! だが……一度だけ、あのまん丸の輪郭に触れてみたい気もする。しかしそのためには、一旦この人間の意識の中から出ないといけないが……。
「もしかして、何か媒体が必要ですか?」
決して欲に駆られた訳ではないが、そう言うことだ、と悪魔は返した。
この人間の意識の中に居るだけでは、この『オマンジュー』を食すどころか、触れることすらできない。コイツの中に居る以上は、コイツの感覚・感情にしか接続できないのだ。コイツが代わりに『オマンジュー』に触れてくれさえすれば、オレ様は容易にそれを堪能することができるのだが、人間のおこぼれに預かるなど、このオレ様のプライドが許さない。つまり、何か別のものに移る必要がある。だが、なぜオレ様がそんなことを? この人間が自我を捨て、このオレ様に肉体を譲渡してくれさえすればいいものを!
「そんなことはできませんよ~。でも、この子に入ってみるのはどうですか?」
セツカはそう言って、白いクマのぬいぐるみを取り出した。
実に腑抜けたツラだ、と悪魔は嘲笑した。
悪魔の言う通り、そのぬいぐるみの、見ているだけでとろけてしまいそうな優しげなつぶらな瞳は、悪魔のカリスマ的な邪悪なエネルギーとは真反対だった。
「オレ様ニフサワシクナイ!」
「でも、かわいいですよ? これが一番生き物に近い形ですし」
生物に近い形なら、手足も操作できて便利なのかもしれないが、調子に乗りかけているこの人間の言うことを聞くのも気に障る。だが、オレ様は完全無欠の存在。腑抜けたぬいぐるみだろうと、感覚器官が無かろうと、媒体を介して『オマンジュー』に触れさえすればこちらの勝ち。オレ様のエネルギーと共鳴させることによって、その感触も、人間が感じるような味さえも、体験することができるのだ!
「オイ、貴様。オカシナコトヲ考エルナヨ? オレ様ヲ『ギュ~!』ナドトスル前ニ、貴様ノ首ヲヘシ折ッテヤルカラナ??」
セツカの無邪気な妄想を読み取った悪魔は、脅すように釘を刺した。
「うふふっ。すみません」と悪びれない彼女に、「コレガ終ワレバ、貴様ノ転落ガ始マルノダ。覚悟シテオクンダナ!」と捨て台詞を放ち、早速ぬいぐるみに乗り移った。
ふさふさの手のひらで、おまんじゅうを触った。
まずは、真上からぷにっとひと押し。人間が言う、「ヤワラカイ」という感触だった。さらに、おまんじゅうを両手でコネコネと転がし回し、全体の感触を確かめた。もちっと手のひらに吸い付くような弾力に、思わずつぶしたくなるような丸い形。いつまでもこねくり回したくなっていた。
(コレガ、『オマンジュー』……)
味も感じてみると、「アマイ」という感覚になった。人間が好むやつだ。もちろん、悪魔も嫌いではなかった。よく見ると、表面と中身で味が違うな……?
(一度デ二度モ三度モ楽シメル……。ソレガ、『オマンジュー』カァ……)
「おまんじゅう、好きなんだぁ」
「はっ」と我に帰ると、セツカがまじまじと覗き込んでいた。
何がそんなに楽しいのか、口元がニヤニヤ緩んでいる。悪魔は、自分が『オマンジュー』の夢に包まれていたなどと、決して思われたくなかった。だがそんな恥辱の感情すら、セツカには筒抜けだった。
(チガウ、チガウ、チガウ、チガウ、チガウ、チガウ、チガァッ~~ウ!!)
相変わらずの笑みを浮かべて、セツカは「はい、はい」と頷いた。
悪魔はなんだか屈辱的な気分になって、「モウイイ! コンナトコロ、サッサトヌケテヤル!!」 とセツカの中へ戻ることにした。
ところが、十秒経っても何も変わらない。
(アレ…………?? 抜ケラレナイ…………)
「美味といえば、おまんじゅうを用意したんです。どうぞ召し上がってください」
セツカは正方形の箱に綺麗に詰められたおまんじゅうを指し示した。なんの変哲も無い、ただのおまんじゅうだった。
これがオレ様に対する捧げ物、願いに対する対価のつもりか? 食い物でオレ様を釣ろうなど、下の下。この『オマンジュー』とやらにも失礼と言うものだ。
悪魔は不機嫌になりながらも、一つだけ包装紙から取り出されてセツカの真正面に捧げてあるおまんじゅうをまじまじと観察した。
実に見事な曲線だ。完璧ではないが、逆にそれが美しくも見える形。そして、柔らかそうな表面の丸み……。もちろん、オレ様に値する代物ではない。第一、人間の食い物に興味は無い。人間どもに粗悪な食い物を与えてやることはあっても、食い物に誘惑され、喰われるのはいつだって人間の方なのだ! だが……一度だけ、あのまん丸の輪郭に触れてみたい気もする。しかしそのためには、一旦この人間の意識の中から出ないといけないが……。
「もしかして、何か媒体が必要ですか?」
決して欲に駆られた訳ではないが、そう言うことだ、と悪魔は返した。
この人間の意識の中に居るだけでは、この『オマンジュー』を食すどころか、触れることすらできない。コイツの中に居る以上は、コイツの感覚・感情にしか接続できないのだ。コイツが代わりに『オマンジュー』に触れてくれさえすれば、オレ様は容易にそれを堪能することができるのだが、人間のおこぼれに預かるなど、このオレ様のプライドが許さない。つまり、何か別のものに移る必要がある。だが、なぜオレ様がそんなことを? この人間が自我を捨て、このオレ様に肉体を譲渡してくれさえすればいいものを!
「そんなことはできませんよ~。でも、この子に入ってみるのはどうですか?」
セツカはそう言って、白いクマのぬいぐるみを取り出した。
実に腑抜けたツラだ、と悪魔は嘲笑した。
悪魔の言う通り、そのぬいぐるみの、見ているだけでとろけてしまいそうな優しげなつぶらな瞳は、悪魔のカリスマ的な邪悪なエネルギーとは真反対だった。
「オレ様ニフサワシクナイ!」
「でも、かわいいですよ? これが一番生き物に近い形ですし」
生物に近い形なら、手足も操作できて便利なのかもしれないが、調子に乗りかけているこの人間の言うことを聞くのも気に障る。だが、オレ様は完全無欠の存在。腑抜けたぬいぐるみだろうと、感覚器官が無かろうと、媒体を介して『オマンジュー』に触れさえすればこちらの勝ち。オレ様のエネルギーと共鳴させることによって、その感触も、人間が感じるような味さえも、体験することができるのだ!
「オイ、貴様。オカシナコトヲ考エルナヨ? オレ様ヲ『ギュ~!』ナドトスル前ニ、貴様ノ首ヲヘシ折ッテヤルカラナ??」
セツカの無邪気な妄想を読み取った悪魔は、脅すように釘を刺した。
「うふふっ。すみません」と悪びれない彼女に、「コレガ終ワレバ、貴様ノ転落ガ始マルノダ。覚悟シテオクンダナ!」と捨て台詞を放ち、早速ぬいぐるみに乗り移った。
ふさふさの手のひらで、おまんじゅうを触った。
まずは、真上からぷにっとひと押し。人間が言う、「ヤワラカイ」という感触だった。さらに、おまんじゅうを両手でコネコネと転がし回し、全体の感触を確かめた。もちっと手のひらに吸い付くような弾力に、思わずつぶしたくなるような丸い形。いつまでもこねくり回したくなっていた。
(コレガ、『オマンジュー』……)
味も感じてみると、「アマイ」という感覚になった。人間が好むやつだ。もちろん、悪魔も嫌いではなかった。よく見ると、表面と中身で味が違うな……?
(一度デ二度モ三度モ楽シメル……。ソレガ、『オマンジュー』カァ……)
「おまんじゅう、好きなんだぁ」
「はっ」と我に帰ると、セツカがまじまじと覗き込んでいた。
何がそんなに楽しいのか、口元がニヤニヤ緩んでいる。悪魔は、自分が『オマンジュー』の夢に包まれていたなどと、決して思われたくなかった。だがそんな恥辱の感情すら、セツカには筒抜けだった。
(チガウ、チガウ、チガウ、チガウ、チガウ、チガウ、チガァッ~~ウ!!)
相変わらずの笑みを浮かべて、セツカは「はい、はい」と頷いた。
悪魔はなんだか屈辱的な気分になって、「モウイイ! コンナトコロ、サッサトヌケテヤル!!」 とセツカの中へ戻ることにした。
ところが、十秒経っても何も変わらない。
(アレ…………?? 抜ケラレナイ…………)
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