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秘密を共有する者達《Ⅰ》
しおりを挟む黒は、倭を1度見捨てた。
雪崩のように迫る異形を前にして、黒は我を忘れて怒りを抑える為に――倭を離れた。
帝国の橘領域の《霊域》で、2年もの間引きこもっていた。その間も倭は異形の驚異に晒されていた。
だが、帝国は倭へと大軍での援軍は不可能であった。
結果――。倭は、孤立した。
海の上に浮かぶ島国に、押し寄せる大軍勢の異形に蹂躙されないギリギリで耐え続けた。2年もの間――
到底、黒が受け入れられる筈はない。石は投げれるだろうと黒は語る。
だが、それでも倭へ行かなければならない。1度でも、見捨てた倭を助けるのは容易ではない。
きっと、周囲の当たりは厳しいだろう。それが、皇帝と言う立場のある者の性である――
「1つ、聞かせて欲しいのですが。なぜ、彼女に会う必要が?」
ナドレが手を上げて、黒へと質問する。セラとロルトの2人もナドレと同意見であった。
コップの飲み物を飲み干して、目の前の焚き火へと枝を投げ入れる。
炎に焼かれ、パチパチと音が聞こえる。
「……彼女に会うことで、1つの証明になる。2年前に消えた俺の仲間に、彼女の力と深く結び付いている奴がいる。藁にもすがる思いだが……理論上はそれで、仲間の居場所を特定出来る。もちろん、可能なだけだが――」
3人が揃って、倭へと向かう1番の理由に納得した。黒が、仲間を助けると言う事に何の疑問も抱かない。
例え、倭での立場が危うくとも黒は彼女の前に立つ。立たないと行けない理由がある。
倭が異形との戦いの最前線である以上、高い実力者である黒が前線に駆り出されるのは明白。その事に、3人が黒にどう考えているのか尋ねる。
が、既に黒の中には明確な答えがあった。仲間を救う為に、倭の存続は必要不可欠であった。
自分の命と天秤にかけても、倭の為に戦う事に迷いなど無かった。
「最後に聞かせて欲しい……。なぜ、仲間が生きていると、橘さんは断言するんですか?」
「……俺の仲間は、俺よりも強いからだよ。俺よりも強いのに、俺だけが残るのは不思議だろ?」
「私には、わからない。例え、どれほど強くとも人は死ぬ時は死にます。仮に橘さんよりも強者であっても、場合によれば簡単に死にます。それでも、断言出来ると?」
ナドレが黒へと詰め寄る。確証のない事を目的にして、この先へと進む。
万が一倭へ到着しても、その目的が達成出来ないとなれば、自分達はそのまま倭を取り囲む異形と戦う羽目になる。
現状、黒の力で押し寄せる異形の大軍を相手には出来ない。必然的に、3人に降り掛かる負担も増加する。
デメリットだけで考えれば、倭へと行く事すら既に危険性が高いのが現状である。
メリットと言えば、2年前に消えた仲間の居場所が掴める。掴めるだけで、その場で仲間の元へと向かうのは不可能と言える。
「……今は、異形の姿を視認していません。ですが、他国の刺客が自国の防衛の為にと、私達を警戒し続け常に狙っています。このまま進めば、いつかは刺客と異形の双方を相手にする」
「橘さん……。倭へと行くのは、賛成だ。でも、僕と姉さんは……それに見合うメリット的な何かしらが欲しいのが本音かな」
ナドレとロルトの2人は、セラと違って賛成とは言い難い。だが、この話に降りると言う訳でもない。
黒に自分達の命を預けるには、黒が隠している。何かを知りたがっていた。
異形、四大陸、それぞれを相手にする。それだけのリスクに対して、黒は明確なメリットを握っている。
仲間を助ける。倭を助ける。それ以外にも、何かしら隠している事があるのは明白であった。
だが、それが黒の口から出てこない。未だに、3人の裏切りを警戒しているのだろう。
セラを含めた3人が、黒の口からその秘密が出るのを期待する。
「……はぁ、分かってる。仲間と倭を助ける為に、倭へ向かう。てのは、他国のスパイや他の奴らを惑わす為のフェイクだ。まぁ、居場所を掴むのも本当の目的だが、俺から助けるとなると色々と必要な物があるからな」
「じゃ、他に目的があったの?」
驚きを隠せないセラが思わず立ち上がる。黒がカバンからアンプルを数本取り出して、中身の液体を口へと入れる。
一瞬で内側から漲る魔力が直ぐに綺麗に消える。プラマイゼロとなって、黒の魔法が3人を完全な密室空間に誘う。
「――ここでの話は、他言無用だ。この話を知っているのは、俺だけで……家族も知らない」
黒の指先がその場で弧を描き、描いた弧から文字が浮かび上がる。
短い詠唱と指による方陣の2つを掛け合わせた魔法に全員が包まれる。
密談や密会などで多用される。極めて防音、隠密性能に特化した結界術を目の当たりにして、ナドレとロルトの2人はこれから話される内容がどんな物なのか予想できてしまった。
「……マジか」
「その話って、もしかして……国1つ消えるレベルの極秘事項?」
「――そうだが?」
今さら気付いたのか――と、黒が口にしながら魔法が完成する。
真っ黒なボックスの中に、自分達が収まったかのような独特な雰囲気と全身に巻き付く鎖状の魔力の違和感が計り知れない。
「――釘を刺しておくぞ? ここから、他言無用だ」
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