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秘密を共有する物達《Ⅱ》

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 《八雲やぐも》一派――

 その名を知らない倭の国民は1人もいないと言われている。
 倭の歴史上で、その一派が鍛え上げた名刀は名刀とは程遠い代物であった。

 ――八雲の刀は、近づく全てを切り裂いた。

 その一言が噂となって、倭全域へと広まる。
 元々、倭以外の諸国にも八雲の鍛えた武具は出回っていた。その名が世界に広まる以前から八雲の武具は出回っている。
 にも関わらず、ある製法でのみ鍛え上げられた武具――《刀》だけは、特別であった。
 それが、黒が口にしなかった秘密に繋がる――



 「倭の中枢に、3代目八雲が打った《妖刀》が納められている。それが、俺が倭に行く最たる目的だ」
 「その……八雲? って人は、そんなにスゴいの?」

 セラが他2人に尋ねると、ナドレが頭を抱える。弟のロルトが姉に変わって、その八雲の恐ろしさを語る。
 冷や汗を掻きつつ、ロルトが八雲の恐ろしさを語る。セラも徐々にその恐ろしさを理解し始める。
 そして、この話が他言無用だと言う理由も自ずと理解した。

 「……今さら、降りれないよね?」
 「ムリよ。セラさんには、悪いけど……降りるなら、私がこの手で殺す事になる」
 「もちろん、セラさんだけが殺される訳じゃないよ。僕も本音を言えば、降りたいからね」

 ナドレが腰の拳銃に手を掛ける。可愛い実の弟であっても、黒の言葉を聞いて情けは掛けない。
 非情になって、彼女は2人を睨む。彼女だけは、主であるエースダルの守護者――《カエラ》の意思に順じている。
 黒もエースダルの支援とは言え、彼女達にこの話をした上で倭への道のりを共にするのは我ながら卑怯と思えた。

 「倭が異形に狙われるのは、八雲の歴史でも最も歪と言われた。3代目八雲の最初の妖刀――八雲怨嗟えんさ――それが、原因とも言われている」
 「そして、その八雲怨嗟を取りに行く。それが、私達の倭での目的でしょ?」

 ナドレが拳銃から手を離して、黒へと向き直る。冷静を装いつつも、首筋には汗が滲んでいる。
 そもそも、3代目八雲の名を聞く事すら《恐怖》の対象である。倭の歴史でも、3代目八雲と言う人物が存在したからこそ、現在の倭が簡単に他国の手に落ちない不落の島国となっている。
 また、大竜牙帝国も倭と友好な関係を築き上げて、決して敵対しない。それも全て――八雲が関係している。

 「でも、その八雲を取ったら……倭ってどうなるの?」
 「最悪、滅ぶ。運が良いと……俺の両腕が妖刀の呪いで、消滅する」
 「サラッと言ったよね。流石は、皇帝だ。私達の常識が通じない世界の住人だ」
 「おい、ナドレ。まるで、人が化け物みたいな言い種だな」

 ナドレ達と次元とは、一味異なる感覚を持った黒の常識はずれの言葉にセラもロルトも呆れる。
 黒にとって、大切な存在を守る為であれば五体満足でなくとも構わない。

 目がなければ、耳で――世界を知る。
 
 耳がなければ、感覚で――捉える。

 腕がなければ、両足で――戦う。

 脚がなければ、両腕で――立ち上がる。

 黒が皇帝の中でも、飛び抜けて異常なのは自分に降り掛かる災厄を物ともしない事である。
 そうナドレは、カエラから聞かされた黒に関する情報を更新する。
 カエラからの極秘命令の1つである『黒を無傷で、倭に行かせない』の実行には、黒の頭のネジがイカれた認識は利用できる。

 「それで、八雲が狙いなのは分かったわ。その先は、どうするの? 八雲の一件が無事に済んだとして、倭は本当に滅ぶわよ?」
 「心配か――倭が?」
 「当然でしょ?」

 ナドレが組んでいた腕に力を込める。それを見ていた黒が、ナドレの覚悟に対して尋ねる。

 ――なぜ、そこまで倭を気にするんだ。

 ナドレの中で、単純にエースダルの任務だから以外の理由があると気付いた。
 ナドレも隠す事ではない。そう思ってはいるが、本人の前で告げるのは少しばかり照れ臭かった。

 「……倭には、少なからず思い入れもある。それに、私も倭の騎士養成所出身だから……私達の世代にとって、橘さん含めた《王の世代》の隣に立てるのは――名誉な事なの」
 「名誉な事――か、今の俺にそんな資格は無いがな」

 王の世代――

 それは、黒と未来を含めた数多くの優秀な騎士がその世代に意図せず集中し、皇帝エンペラーの座を掛けて新時代を担う若者として周囲から呼ばれた通称――
 黒は自分から名乗りはしなかったが、約半数のバカ共の影響でその通称が広まった。
 ナドレやロルトなどのその下の世代からすれば、憧れの的なのは必然であった。
 時に、比べられもしたがそれだけの事を成し遂げた実力者の集まりが――王の世代である。

 「姉さんは、橘さんの事を必ず守る。僕も姉さんと同じで、絶体に倭まで護衛する。だから、情報を整理しませんか? この先のルートと刺客の可能な限りのデータを」
 「私も聞いておきたい。刺客が全員、暗殺者とかとは限らないしね。私もそこそこの腕には自信があるけど、2人に比べたらそうでもないしね」
 「セラさんは、光る物を持っているから自信を持って。体術だけで見るなら、弟以上。そうなると、この中で一番足を引っ張るのは――」

 ナドレの目が少しだけ、黒をバカにしているように見えた。だが、ナドレやロルトは分かっていないが黒は弱くなった訳ではない。
 魔力が無くなった。と、弱くなったは同じ意味合いではない。

 「他の国もナドレみたく、俺を甘く見て少ない兵の規模で向かわせて来ればいいけどな」

 黒が魔法を解除して、元の世界に帰還する。真っ暗な空間に居たからか、外が妙に明るく感じる。
 再び4人は、焚き火を囲んでこれからの話をする。

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