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新章 序章は終わりを告げる――【佇む『観測者』は、脚本を綴る】
王ではなく。友として《Ⅱ》
しおりを挟む灰が説教を受けた原因は、灰による度重なるナンパが苦情となって、母である薫の元へと来た事であった。
そして、竜玄が説教を受けたのは、灰のそんな遊び人な性格を肯定した事だ。
肯定したと言っても、単純に叱るなどの対応が面倒くさいからと言う根本的な部分が薫の導火線に火を付けた。
黒が説教を受けたのは、これまでの報告を2人の説教中に運悪く訪ねてきた。藤乃と文乃の2人から聞いて、その事で3人仲良くげんこつが振り下ろされた。
「なぁ、2人共……元気じゃん。薫、元気過ぎだよ? 入院患者じゃねーよな?」
「流石は、僕の弟だ。よく気付けたね」
「こら、2人共……母さんが碧と茜に夢中だからって気を緩めるな。正座は何があっても……崩すなよ」
男3人が仲良く並んで隅で正座する中で、薫は娘達と久しぶりの会話に笑みを浮かべる。
とは言え、2人の報告も藤乃と文乃から受けている為、姉妹揃ってカチコチに固まっている。
5人が揃って、母親の説教を受ける。見兼ねた梓が咳払いして、藤乃と文乃を後ろに連れて病室へと入る。
「薫さん、その辺にしなさい。回復したとは言え、まだ療養中です。それに、息子の件は……母親である私にも責任はある。灰の遊び人な性格も……躾の出来なかった私にもある。碧と茜の学校での成績……はともかく。先の戦闘での独断行動や危険な行動にも、私から後でキツく言っておきます」
梓が横にズレて、藤乃と文乃に隠れた人物を母親の前で紹介する。
その顔、声音、匂い、髪の色――。照れた時の仕草やクセのありとあらゆる行動が、かつての記憶と結び付く。
自然と薫の目から涙が溢れ、胸を押さえて咳き込む。透かさず黒が魔法でストレスや精神的に弱った内蔵などの器官を修復する。
「黒……もしかして……」
「力は戻ってるんだよ。この前、言ったろ?」
「……嘘だと、思ってたの。私を、元気付ける為の……じゃあ、あの子は――」
「嘘でも、幻でもない。正真正銘、俺の双子の妹で――橘薫の橘白だよ」
大粒の涙を流して、薫は我が子に抱き着く。病院の中だろうと構わず大粒の涙を流した。
梓、碧、茜の目にも涙が浮かぶ。抱き着かれた白も堪え切れずに薫を抱き締めながら、涙を流す。
その様子を眺めながら、竜玄と黒はその場から抜ける。
2人だけで、この病院の屋上へと向かう。黒が言いたい事は、たった一つだけである。
それを知っている竜玄は、余裕さをアピールする為に鼻歌を交えながら屋上へと上がる。
風が吹き抜け、2人の衣服を揺らす。髪が靡き、服が靡く。
「何で、喋った。アイツらの前で……」
「……喋るな――とは、一言も言われてなかった」
「……ちッ……屁理屈野郎」
「おい、バカ息子……勘違いすんなよ。何も、止めるつもりは無い。俺も、灰も――」
黒が振り向くよりも先に、黒の顔を掴んでそのまま病院の屋上から空へと黒と共に灰は跳躍する。
あの場で戦いになれば多くの人に影響が及ぶ。そして、黒の性格からキレたら躊躇が無くなる事を知っての行動であった。
「黒、久しぶりに兄ちゃんと遊ぼうぜ」
「うるせぇ、よ。この……ヤリチン野郎が――ッッ!!」
顔を掴まれた状態で、灰の後頭部をつま先で蹴る。空中で灰へと瞬時に組み付き、そのまま跳躍した速度を活かして地面へと灰の頭を叩きつける。
灰を上から押さえ込んだ黒が瓦礫の中から勢い良く弾き飛ばされる。
背中を鉄パイプに叩き付け、甲高い金属音が響く。強烈な衝撃に加えて、鉄パイプによる最悪なクッションによって痛めた背中を押さえて黒は立ち上がる。
「……良い蹴りだな」
「良い体術、だったよ――」
灰の躰道と独自のスタイルを組み合わせた我流の武術で、黒の体を真横から蹴り飛ばす。
廃材の上で1度跳ねて、直ぐ様空中で身を翻して回復と距離を取る。
鼻から流れる血を拭って、口から血と唾液を地面へと吐き出す。
廃材の中から鉄パイプを手に取って、灰に向ける。
「遊びじゃ、済まねーぞ?」
「僕も……そろそろ昔の感を取り戻さないと行けないからね。少し、付き合ってよ」
黒の持つ鉄パイプが近くの廃材を叩いて、金属音を響かせる。
特に意味のない行動に意味を与えて戦う。歴戦の猛者同士であれば、そう言った1つの行動が後々に響く。
例えば、先程の鉄パイプで廃材を叩いたのも近くに潜む仲間への合図であったり、何らかの魔法の仕掛けであったりする。
今回であれば、後者の線が濃厚である。
瞬時にそれらの可能性を考慮して、一歩黒から距離を取った。
しかし、思考とは裏腹に体は前へと動く――
「灰の事だから、攻撃性の魔法を警戒して距離を取るだろ? さっきの行動は、音に魔力を乗せて感覚を狂わせる魔法だ。言ったろ……遊びじゃ済まねーってよ」
前へと倒れる灰の顔に、黒の振るう鉄パイプが炸裂する。
本気ではないのか、漆黒の稲妻は出ない。
が、灰の顔面に鉄パイプが振られたのは事実――
鼻から血を流して、シャツが赤く染まる。
廃材の山から転げ落ちて、地面へと落ちる。背中から落ちた為に背中を強打する。
倒れた灰に見向きもせず、黒は廃材置き場から静かに立ち去る。
「……黒は、手加減ってのを知らねーな」
「別に良いんだよ。父さん……シャツが汚れただけだから」
何事も無かったかのように立ち上がり、シャツに染み込んだケチャップに視線を落とす。
灰が手に持っていたケチャップの空容器を魔力で圧縮し、ポケットの中へと突っ込む。
竜玄も灰の顔が真っ赤になっていてもさして驚きはしない。
そもそも、灰の顔には鉄パイプは当たっていない。
鉄パイプが顔面を叩く直前に、灰が隠し持っていたケチャップを鉄パイプに大量に塗ってから、自分の鼻に塗る余裕があったほどだ。
そして、そのまま鉄パイプに合わせて後方へと倒れる。
「わざと当たりに行ったろ?」
「当然だよ。僕は、黒のお兄ちゃんだからね……少しは、顔を立てて挙げないと」
「露骨なケチャップで、バレてるだろ……」
「ソコは、遊び人としての遊び心かな? ……何てね」
真っ赤なシャツのまま、竜玄と灰の2人が廃材置き場から立ち去って行く。
その去り際に、灰の頭に竜玄の拳が軽く振り下ろされる。殴られた理由はもちろん――食べ物を粗末にした。
ただ、それだけであった。
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