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新章 序章は終わりを告げる――【佇む『観測者』は、脚本を綴る】
王ではなく。友として《Ⅲ》
しおりを挟む先に病院へと戻っていた黒の顔のキズから、母親である薫が黒と灰が喧嘩したのを察する。
「子供じゃ無いのよ……」
「何歳でも喧嘩はする。特に、俺らは……」
「知ってる。灰から連絡があって、服が汚れたから先に帰るって……あの子らしい」
「……わざと喧嘩ふっかけたのは、この話に乗らねー為かよ」
灰の考えを見抜いていた竜玄を睨む黒に、竜玄は鼻で笑う。
何かしらの灰なりの考えがあっての行動だ――と、竜玄は語る。
とは言え、それが原因で話が白紙になる訳でもない。それを分かっているからこそ、灰は黒からの話から降りた。
碧、茜の表情が変わる。少し怒っているかのように、黒を睨む。
「2人とも、可愛い顔が台無しよ?」
「「――むぎゅ」」
薫の手が2人の険しい顔を解すように、片手で2人の膨れた頬を押す。
梓の隣で、白が黒の話に耳を傾ける。終始笑顔を忘れなかった薫も碧と茜の手を強く握る。
「――本気なの?」
「あぁ、本気だよ。母さん」
「梓様や他のみんなに……話は?」
「一応してある。とは言え、肝心なのは橘のみんなとこの場にいる。家族が重要だ」
「黒、私は反対だ。双子だからこそ……分かる。お前は、死ぬ」
薫、梓、竜玄の3人でも、碧、茜の2人でも言葉にできなかった事を白は平然と告げる。
双子として生まれ、少なからず通じている物がある。
きっと、何を思って何を考えているのか……遠からず近からず、白も黒の事が分かる。
「最優先は、倭の守りか? ……白」
「……そうよ。倭の守りを強固な物にしてからでも遅くはない。そうでしょ?」
「いや、遅い。現に、倭にはイシュルワの手が届いた。それは、時間が無いと言っていると同じだ」
黒の言葉に、白の口が止まる。
異形との戦いで疲労し、傷付き倒れた者や壊れた設備や拠点など少なくはない。
その全てが以前の倭の姿を取り戻すのを待ってから動く。
白、薫の意見の尽くを黒は否定し、その上で自分の意見を述べる。
「……イシュルワの狙いは、俺とローグ達だ。だから、俺が向こうの出方を待つよりも先に四大陸に乗り込んで、ローグ、トゥーリ、ガゼルの3人に手を貸す。イシュルワをこの手で叩き潰す」
「倭が、その間狙われる可能性も高いのよ」
「だから、十二師団長と翔、暁――は、消えたな。……まぁ、取り敢えず仲間を置いていく。白と親父で守ってくれよ」
白が頭を抱え、溜め息を付く。
竜玄がどこか嬉しそうに笑みを浮かべ、それを白が指摘するかのように横腹を肘で突く。
碧、茜に未だ万全ではない母親を守る様に言って、黒が早々にその場から立ち去ろうとする。
梓が引き止めるよりも先に、薫が黒を呼び止める。
そして、娘達と竜玄を部屋から出て貰える様に言って、梓、薫、黒の3人が病室に残る。
「ハート君、未来ちゃん、ローグさん、トゥーリさん、ガゼルさん……この5人に黒が加わるのよね?」
「……あぁ、主戦力はハートとローグだけどな。俺は、適当にサポートするだけだ。もしかしたら、囮役かもな」
「ふふ、囮役ならピッタリよね。……未来ちゃんとは、話したの?」
薫の言葉に、黒が黙り込む。
直ぐに、未来に話していない事を察して薫がベッドの隣を手で叩く。
黒が渋々薫のベッドに腰を掛けて、薫が黒を力一杯抱き締める。
「アナタなら、大丈夫よ。それに、未来ちゃんはもう弱くない筈よ」
「何で、分かる。ずっと、入院生活が長いクセに……」
「分かるわよ。だって、私は黒の母親だもん。未来ちゃんを大切に思ってるのは、黒だけじゃないのよ? 彼女が黒に追い付こうと、必死に努力しているのを知ってるから」
薫が震える指先で黒を強く抱き締める。場合によっては、ここでお別れの可能性も有り得なくはない。
幾ら黒が強くとも、イシュルワの土地は未知の土地である。何があっても不思議はない。
ただ、きっとハートや未来となら無事に帰ってくると信じている。
だが、理解とは裏腹に心は不安でいっぱいであった。
そんな薫を安心させる一手として、黒はある人物の名前を口にする。
「――雨城心。知ってるだろ? 養成所で、未来と俺の共通の友人だった女の子……」
「……ええ、知ってるけど?」
「今回のイシュルワ行きは、何もローグ達との《約束》が元からあるからって訳だけじゃない。ローグの1件は、《王》としての責任だろ?」
薫の腕から離れた黒が再び薫の顔を見る。その真っ直ぐな瞳で――
「2年間、離れ離れだったのは何も俺だけじゃない。だから、引き合わせる。……心を四大陸に連れて行く。王ではなく。友としての責任を果たす為に――」
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