138 / 231
新章 序章は終わりを告げる――【佇む『観測者』は、脚本を綴る】
提案《Ⅱ》
しおりを挟むティンバー、田村、斑鳩の3人との小競り合いを終えて、帰路に付いたハートの前に暁が現れた。
路地に2人だけと思われたが、すぐ隣で暁の腕をがっちりホールドするシャウ・ランの姿が見えた。
「クモの糸に捕まった獲物だな。お前は……」
「クモの方が……まだマシだよ」
「もしや……紐や縄での、束縛プレイがお好きですか?」
顔を赤らめて、暁の頬に自分の頬を押し付けるシャウの隣で顔を赤らめて、暁は全力で否定する。
シャウの暁大好きムーブは、ハートも知っている。
だが、シャウの力で完全に気配を絶って自分に近付いた事に、ハートは殺気を込めた冷酷な目を2人に向ける。
その目の圧に、思わず2人が強張る――
力を取り戻したての黒とは違って、ハートは制限付きとは言え。黒の持っている懐刀の力は、伊達ではない。
その本質は、黒と違って敵と断言すれば身内にすら容赦がない所である。
流石のシャウも暁の背に隠れて小さくなる。
敵意がない事を先に伝えるが、ハートの手にはいつの間にか聖剣が抜かれていた。
「今回の戦いで、お前は何をしていた……」
「……気付いてたんだ。びっくりだよ」
「俺、翔、白を侮るなよ? ……あの黒と一緒だと思ってんだったら、今ここで死ぬか?」
「……本気、じゃないですよね? ハート様?」
「シャウ・ラン。大好きな暁を目の前で死なせたくなかったら……――全力で逃げろよ?」
「シャウ……どうやら、本気みたいだ。でも、死ぬ前に僕の話を聞いてよ」
聴くに値する価値があれば、だ。――と、踏み込むよりも先に、暁の手に持っていたある物品がハートに投げ渡される。
そして、瞬時に結界術式で3人を別空間へと飛ばす。
ハートが聖剣を捨てて、投げ渡された品物を両手で取る。
「……嘘だろ」
ハートの手には、最新鋭の高度なテックが搭載されておきながら小型化に成功したハイテクの詰め合わせのような携帯端末であった。
所有者が女性だと判断できるピンクのキャラクターのシリコンカバー付きの端末をハートは震えながら大切に触れる。
「……話を聞いて欲しい。そのテックの持ち主が、誰のとかも知っている」
「当然だ。このテックは、アイツの大切な物だ。それを――なぜ、貴様が持っている」
暁の前に、シャウ・ランが立って武器を構える。
――が、ハートの放った手刀によってシャウの肩から血が吹き出す。
直ぐに暁がシャウの肩に手を置き、止血と治療を同時に行う。
暁が冷や汗をかきつつ、前方のハートに提案を投げ掛ける。
「……黒が、あちら側からみんなを連れて帰ってくる途中で、何人かが妨害にあった。僕の感知で把握出来るだけでも、イシュルワに2人――その1人が、彼女だよ」
「つまり、お前は知ってて黙ってた。そういう事か?」
「――黙っているべきだと、判断した。だよ。ハートと黒なら問題なくイシュルワを滅ぼせる。でも、その後は? 政治的な考えを持たない黒とハートが原因で、また戦争でも引き起こすつもりか? 良く考えて行動しろ」
「俺が動けば、アイツはさらに危険になる……」
「……黒よりも話が分かってる。つまりは、そうさ。2人で大暴れして、彼女の身が危険に陥る可能性は高い。だから、僕が救うまで大人しくしていて欲しい」
「救える保証は……」
「約束は、出来ない……でも、僕が動く」
歯軋りするハート。幾分かは、黒よりも理性的に動く人物なある為、感情優先の黒よりかは説得しやすい。
ただ、黒よりもハートの方が数百倍恐ろしい――
黒に比べ、ハートは彼女に依存している訳では無い。
ベッタリな甘えん坊ではない上に、彼女は熱心な研究者であった。
行き先を告げるよりも先に、何処かへとフラッと助手を置いて消える。
大慌てな助手から、幾度と相談を受けて半ば諦めの境地にあるハートだったからこそ、今の今まで彼女の安否など気にしていなかった。
研究熱心で、きっと倭で研究に没頭していると勝手に決め付けていた。
――その結果が、今回の騒動であった。
「アイツは、無事か?」
「僕が知る限りだと、無事だよ。イシュルワには、殺す意味が無いからね……ただ、生かしておく必要性も徐々に薄くなって来ている。時間は限られている」
「大人しくししているだけか? それ以外に、本当は何かをさせるつもりだろ……」
「流石だよ。……ローグ、黒の2人がイシュルワでもう1段階領域を上げる。その、邪魔をさせないでほしい」
「つまり、イシュルワで護衛役か?」
「そうだよ……強い皇帝をローグと黒にぶつける。その為に動いて欲しい」
「つまり……弱い奴らは俺が早々に潰せば良いんだな?」
――話が、早くて本当に助かるよ。
そう、一言呟いてからシャウ・ランと共に、暁はその場から消える。
1人残されたハートがピンクの端末を片手に、苛立ちを抑える為に向かった先の廃材置き場の巨大な鉄材に拳を叩き付ける。
柱状の鉄材が奇妙な形に変形する。
廃材置き場の管理人がタバコに火を付けながら、呼吸が荒くなるハートの背を見る。
「昔の姿に戻ってんぞ。少し、冷静になれ……クソガキ」
「あぁ、分かってる。悪いな……商品をダメにしちまった」
「気にすんな。所詮は廃材、あってもないようなモノだ。んで、冷静になったか?」
「あぁ、スッキリした。――また、来る」
廃材置き場を後にして、ハートの背中を見送る老人がタバコを手で握り締める。
「……もう、来るな。嬢ちゃんとお前で、懐かしい過去に別れを告げたんだろ?」
老人が見送る背に重なったのは、黒の隣で異形を殺し回った時の《悪魔》と呼ばれたハートの背中であった――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる