難攻不落の黒竜帝 ――Reload――

遊木晶

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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】

心を縛る鎖

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  力の差は、養成所時代の時点でハッキリしていた。
  例え、どれ程鍛錬してもあの領域には達する事は出来ない。
  そう、学生の時点でヘルツは諦めていた。
  だからこそ、あの雨の中で薄れる意識の中、目にした光景は、私の未来を決定付けた――


  ――内側から胸が苦しくなる。
  締め付けられる様に、その姿を目の当たりにして気が狂いそうになる。
  何かの間違いで、自分があの場所に立っている光景が目に、脳裏に過ってしまう。
  何度も頭の中から拭い去っても、その心臓を高鳴らせて止まない魔力の波動――
  心の臓の奥底から地鳴りの如く魔力に響く、あの皇帝太鼓共鳴音色――

  肌がビリビリと、刺激される。震えすら覚える凄まじい圧力オーラ――

  全身の細胞が目を覚ますような不思議な感覚が、感覚を狂わせる。
  今まで眠っていたかのように、血液が熱を帯びて全身を駆け巡る――

  圧倒的な魔力の濃度と量に、心が踊って仕方が無い。
  何せ、僅かでも可能性が見えてしまうのだから、その勇ましいほどの姿が、自分に重なってしまって仕方が無い。


  「その力……。その領域ステージに私も立っている。そんな残酷な幻覚が、脳裏に過って仕方が無い――ッ!!」


  黒の体から絶えず溢れ続ける魔力に当てられ、ヘルツの顔は高揚で歪む。
  手が、震える。足が、震える。決して、恐怖からではない。

  ――断じて、恐怖・・ではない。

  内側に宿る魔物ギフトが、待ち望んでいたかのように戦いを渇望している。
  力を得て、高みを目指したいというかつて捨てた《夢》が再び手を伸ばせば届く距離に、目の前にある・・

  自ら手放して捨てた想いが、再び溢れて止まない――



  『……再び、目指してみるが良い。その領域に踏み込め、我が宿主マスターよ』


  ヘルツの内に宿りし魔物が、宿主たるヘルツの心の奥底に抑え込んだ筈の想いを刺激する。

  刺激された事で、決壊寸前のダムのように抑えが効かない。心の奥底から脳内に響く鼓動が鳴りを潜める事は無い。
  目前の男は、後の事など考えもせずに全身から魔力を放っている。
  湧き水の如く魔力が溢れているとでも言いたげなほどに、魔力を放出する。
  その結果、黒を中心に半径数キロの大気中に存在する魔力残滓が根こそぎ黒の魔力に反応する。
  漆黒の魔力が黒の体内を駆け巡り、黒の体に抑え切れない魔力が稲妻となって大気中に迸る。


  天地、傅け。《バハムート》――


  その言葉が、確かに聞こえた――


  「完全顕現……本当に、本気なのね――」

  草原に降臨する漆黒を纏う黒竜が、曇天の空に咆哮を轟かせる。
  ビフトロの者達も当然、黒の魔力や顕現した黒竜の姿をその目で見ている。
  その上で、黒はヘルツと向かい合う。
  もはや、自分の役目は彼女の相手をする事だけとなっていた。
  彼女も黒のそんな意図を理解している。
  その上で、黒を越えた先に待ち受ける。ハート、ルシウス、ローグ――

  彼女の中で、現在のビフトロで脅威となる者達の微かに魔力が感じられる。

  ここらが、引き際――

  イシュルワ軍も撤退のタイミングが今だと思っていた。
  例え進んだとしても、勝ち目は万に1つと無い。この時点で、イシュルワ軍は《負け》が確定しているのに前進出来る訳もなく。
  軍隊は立ち止まり、ヘルツ達の指示を待っている。

  だが、ヘルツとは別の者が声を上げる。

  ――進め、全軍前進せよ。

  その身勝手な指示に、ヘルツは怒号を挙げた。
  だが、その者がウォーロック直属の部下だと知ると、言葉を挟むのを止める。
  そして、興を削がれたとばかりに刀を鞘に納めて自分の直属の部下を率いて黒の前から消える。

  「やれやれ、勝手な方だ――」
  「おい、ヘルツは退いたが……お前は退かないんだな?」
  「えぇ、それが……我々イシュルワ軍の本懐です」

  ヘルツよりも格段に強さでは劣る男が、軍服姿をのまま黒へと飛び掛かる。
  死ぬ事に恐怖を抱かないこの男の異常な眼力に、狼狽した黒へと剣の剣先を突き出す。

  しかし、黒にその剣は届く事は無い――

  喉から鮮血を噴き上げて、男は力無く前のめりに倒れる。その時の表情は、黒の中に眠る何かに訴え掛けてきた。
  男は、言葉を発する事無く絶命した。にも関わらず、黒の耳に男の柔らかな声が聞こえる。

  「ありがとう……私に、安らぎを与えてくれて――」

  血の池で横たわる男の瞳を優しく閉じる。
  死への恐怖を持たないこの男に続いて、まるで特攻する事を強制された様に兵士達がビフトロへと進軍する。
  ビフトロの防衛力を前に、彼らはただ無駄な屍を築く。
  そして、死臭漂う草原から黒竜が消える。緑色に染まり、吹き抜ける風が心地よい筈の草原が赤く色付く。


  「恐怖を抱かない人間……そんな奴が、居る訳がない」


  この世界で、恐怖に関して誰よりも・・・・知識を有する黒が、恐怖を抱かない彼らの屍を見詰める。


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