難攻不落の黒竜帝 ――Reload――

遊木晶

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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】

駒には不要な感情

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  広場に用意されたいくつものテントの中で、炊き出しが用意されていた。
  暖かなスープにご飯やパンなどの主食に、簡単なおかずがテーブルへと出されている。
  ご飯を完食して、器に盛られたスープを胃へと流し込む。黒、ハートの2人が食事を終えて、揃って広場から足早に離れる。
  なるべく誰にも見付からないように、バレる事無く。広場から遠ざかり、裏路地へと入る。

  「……出て来いよ。隠れても、無駄だ」

  黒、ハートの目の前に黒ローブ姿の人物が複数人現れた。
  顔を奇妙な面で隠して、ローブの下から金属製の多数の機械仕込の義腕が黒を指差す。

  「……ビフトロから、去れ。イシュルワの裏切り者を残して去れ――」
  「イヤだ。って言ったら?」
  「……実力行使だ」

  黒達の背後から隠れていた仲間が飛び出して、揃って2人に襲い掛かる。
  義腕の形が変形し、カマキリの鎌の様なブレードが両腕から飛び出る。
  狭い裏路地で、刺客が振るうブレードが壁や配管を容易く切り裂く。
  背中合わせの黒とハートが前後から迫る刺客を睨んで、タイミングを見計らっている。
  黒達へとブレードを振り下ろされる直前に、ハートがブレードの動きを見切る――
  振り下ろされる筈だった腕が凄まじい握力で握り潰される。
  グシャリ――と、 音を上げてブランコのように揺れる腕を見て驚愕した刺客の1人が頭上から振り下ろされた足によってアスファルトを赤く染める。

  「後は、お前だ――」
  「何を言って……」
  「お前以外の全員が、俺に殺されてます。だから、後は、お前だけだ――」

  刺客の背後に立っていた黒が、首を捻り折られた仲間の遺体の衣服を掴んで投げる。
  後ろには、共に黒達を囲んでいた筈の仲間の死体が転がり、路地の足場が埋まっていた。
  横たわる仲間達の姿を見て、直ぐにでもその仲間入りをする自分の姿が思い浮かんだ。
  顔を真っ青にして、その場から飛んで逃げる。しかし、背後を取った黒からは逃れる事は出来ずに隠し持っていた暗器を奪われる。

  「さようなら――」

  奪い取った暗器を相手の喉元に突き刺して、鮮血を噴き上げる刺客の背中を蹴る。
  ゴミ箱へと落ちる刺客をクッションにして、黒は無傷で着地する。
  服の汚れを落としながら、2人は路地裏から離れる。
  その後ろ姿を見ていた男が、僅かに虫の息だった部下の伸ばした手を払う――

  「虫けらには、存在する価値はありません――」

  グシャリ――。と、生々しい音と共に男の靴底が赤く濡らした。
  血液と肉片がこびり付いて、自分の靴底が汚れた事に舌打ちする。
  眼下に広がる使い物にならなかったゴミを見下ろして、ため息が溢れた。

  「私が、行くしか無いか……」

  男が懐から1枚の手紙を手に、広場へと向かう。



  ――広場へと何食わぬ顔で戻って、ルシウス達の元へと戻る。
  黒から、ハートの手から微かに感じる血の匂いに、ルシウスが感付く。
  心、未来が気付くよりも先に2人の手から感じる血の匂いを2人から遠ざける。

  「……刺客?」
  「……ルシウスなら、気付くと思った。内部ビフトロに結構な数が潜んでる」
  「オレと黒の2人で、何人かは消した。とは言え、元々潜入していたのか……昨日の襲撃で入ったのか……それによって、数が変わる」
  「そうか、ありがとう2人共……。僕が手を出すと、心に余計な負担を掛けちゃうから」

  ルシウスが2人に隠して渡した資料に目を落とす。
  黒、ハートの表情が僅かに険しくなる。
  渡された資料には、先の戦いで亡くなったイシュルワ兵士の情報であった。
  そこには、通常では考えられない濃度の薬物反応が大きく出ていた。
  それも《精神支配》に重点を置いた配合で作られたと思われる濃度と薬物反応に、彼らが死に対して恐怖を抱かなかった仕組みを理解した。

  「兵士に、薬物を投与してやがる。それも、治療とかじゃない。中毒にして、従順な兵士に変えてやがる」
  「恐怖を捨てさせて、命令に忠実な従順な兵士を作って……死地に放り投げる。イシュルワは、昔からクソだったな」
  「これじゃ、人権が無いに等しい。戦いたくなくても、命令を聞かなきゃ薬で無理矢理って事だろ? 黒くん」

  ルシウスの質問に黒が頷いた。
  医学知識がハートやルシウスよりも豊富な黒が、顎に手を当てて考えにふける。
  兵士の体から出た薬の成分が、全て精神に働くモノであった。それだけでに留まらず。
  ドーピング目的と思われる成分も数多く成分分析で判明する。
  その濃度の高さから、戦う瞬間に薬物を投与したと推測される。
  路地裏の刺客もルシウスに頼んで、成分分析をしてもらうと似た成分が検出された。

  「まだ、刺客の方がマシだな……」
  「その、理由は?」
  「兵士は、無理矢理。刺客は、自ら投与してある。濃度の濃さから、時間を逆算した。どうも、兵士は使い捨てって言う認識だな」
  「……強さによるドーピング目的じゃなくて、逃げない為のドーピングか?」
  「――そうだ」

  刺客の遺体を手早く片付けるルシウスの部下が黒に頭を下げて、去っていく。
  その背を見ながら、黒とハートがイシュルワのやり方に怒りを覚えた。

  「恐怖を捨てる。人を、道具だと思ってんのかよ。兵士を駒のように扱いやがって……」
  「ハートくん。どんなに怒っても、仕方ないよ。それが、イシュルワのやり方だからね」
  「ハート、ルシウス。お前らの言いたい事は分かる。恐怖の無い兵士は、兵士じゃない。恐れは、人間に必要な感情だ――」

  ハート、ルシウス、黒の3人が再び広場へと向かう。
  避難民が集まる広場は賑やかで、平和を噛み締める事ができる。
  その時、広場の片隅に黒が視線を向けて思わず立ち止まる。そして、3人の会話を聞いていたかのように言葉が聞こえる。


  ――駒には、不要な感情ですね。


  黒、ハート、ルシウスの3人が立ち止まる。声が聞こえた方を睨みながら――
  木陰のベンチに座って、片手で本を読んでいる。
  その者の服装から、イシュルワの軍人と3人は断言した。ルシウスが広場の人々を離れるように叫ぶ。
  心と未来が前に出て、守るように男を見る。

  ビフトロの戦力3人を前に、男は虫けらを見るような目で平和なビフトロを見回す。
  いつの間にか内側に入り込んでいたイシュルワの刺客に、怯えた表情を浮かべる避難民を前に男は不気味な笑みを浮かべる。

  「この程の雑な警備であれば、私1人でビフトロは十分落とせますね。……非常に、期待外れですね」
  「そりゃ、悪かったな。なら、今度は茶菓子でも用意して待ってるよ……そん時は別の意味で期待を裏切ってやるよ」
  「その言葉、嘘では無い事を期待しています。ですが、私の今日の目的は……宣戦布告ではありません。アナタです。黒竜帝バハムート――」

  男が、胸ポケットから黒宛の招待状を投げ渡す。そして、ククッ――と笑って、3人の前から煙のように消える。

  黒が渡された招待状の中を見て、黒は表情を変える。



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