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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
隣を歩く条件《Ⅰ》
しおりを挟む渡された招待状の内容は、至ってシンプル。黒1人を招いた晩餐会の招待状――
到底、参加などする訳がない招待状である。しかし、渡された本人は行く気満々――
頭を抱えて、ルシウス、心、未来が止める。だが、本人は罠の可能性など考えずに招待状を懐にしまう。
「黒ちゃん……絶ッッッ対に罠だと思うな。罠だと思うなッ!」
「分かってる、分かってるから耳元で叫ばないで……」
真横に貼り付いた未来が腕に抱き着いて、耳元で先程から同じ言葉を発する。
ただでさえ、イシュルワとの争いは危険極まり無い。なのに、単身で本拠地へと無策に挑もうとする。
考え無しのバカではあるが、ここまでのバカだったのか――と、トゥーリやガゼルも黒の考え無しな行動に頭を抱える。
「別に、考えが無いわけじゃないんだろ。ただ、言わないだけだろ?」
「……良くわかってるな。ハート」
「未来もだ。行くな行くなって、言っておきながら本気で止める気はないだろ?」
「……ぶぅ……」
「図星だからって、不貞腐れんな……それと、単身では行かせない。俺とルシウスが同行する」
「「――はッ!?」」
心、黒、ルシウスが思わず、反応する。
「イヤイヤ、招待状を貰ったのは俺だけだ――」
「あぁ、招待状を貰ったのは、黒だけだ。でも、その招待状って……晩餐会の招待状だよな? イシュルワに行っちゃ行けないとは……書かれても無い。だったら、観光で俺とルシウスが行っちゃ行けない理由は無いだろ?」
「はぁー、屁理屈すぎる」
「確かに……でも、屁理屈であろうとなかろうと、僕は行けない――」
ハートへ、ルシウスが真剣な眼差しで言葉を続ける。
イシュルワへと無策であろうとなかろうと、ルシウスはこのビフトロを離れる事はできない。
――その意思を伝える。
その言葉にハートが反応するよりも先に、黒もルシウスを防衛ならまだしも、それ以外での戦力の1つとして数えるのには反対だと、両者で意見が割れた。
ハートは、3人による最高位戦力でイシュルワへと向かう。
黒は、ルシウスを戦力の1つに数える事を頑なに許さなかった。
そんな、ルシウスの意思を尊重する黒の姿勢にハートも少なからず意思は汲もうとしている。
「が、現実を見ろ……イシュルワには、ティンバー、田村、斑鳩の3人に皇帝多数だ。その上で――ヘルツだぞ?」
「……」
「黒、正面に立った。お前だから分かる筈だ……今のヘルツは強いか?」
「……あぁ、悔しいがな」
ルシウスの肩に手を置いて、ハートがルシウスに戦力として加わる事を懇願した。
当然、ルシウスが争いを好まないのは知っている。それでも尚、黒と互角に殴り合える人材がハートには必要であった。
頭を抱えるルシウスの隣で、ローグが手を上げた。
「ルシウスさんには、遠く及ばなくとも……弾除け程度にはなりますよ」
「……ローグ、イシュルワの目的はお前達だぞ?」
「なら、尚更俺が適任だろ? 連中の狙いは俺で、俺の狙いはイシュルワのトップだ」
「まぁ、ローグなら……ある程度は耐えれるだろ? それに、俺らが不在だったらここの防衛は手薄になる。ルシウスは、残って守ってろよ」
肩を落としたハートに黒は慰め程度に肩を叩いた。
渋々、妥協したハートが招待状を持った黒とローグと共にビフトロを出発する。
出発間際に、黒が未来と誰もいない静かな所で話すとハートに告げる。
「出発間際に、2人だけの世界……」
「ローグ、茶化すなよ? 未来にとって、黒は大切な人だ。そして、黒にとって、未来の存在だけがこの世界を繋ぐ糸だ。断ち切れたら、俺でも繋げる事はできない――」
「つまり……ど言う事だ?」
僅かな沈黙の後に、ハートが言葉を慎重に選びながらローグの問い掛けに答える。
答えは非常に、シンプル――。しかし、シンプル故に誤解を招く危険性が伴う。
それが、黒焔でもなければ、倭や帝国の人物でもない。他国の《王の世代》でもない人物となれば誤解は大きくなりやすい。
「……糸が、切れたら黒は動けなくなる。その……何だ……そう、やる気をなくした人形。って所だな」
「なるほど、やる気が無くて動かなくなるか……」
ハートの言い方は遠回しに加えての遠回しの言い方ではある。
だが、大方認識は間違っていない。未来と言う黒とってのかけがえのない存在が、死に瀕した場合――
ハートは、自分の全存在を賭けて黒を止めなければならない。
2年前以前に、養成所の事件で《大切な友人》を失った程度で、あの力である。
万が一、未来や家族の身に何か起きた場合――。ハートは、黒を黒を殺す事を躊躇してしまうのか、と自分に問い掛ける。
今の自分の実力程度で、黒を止めれるかはさておき。躊躇って、恐怖して、慈悲を情をかけてしまう。
それが、最悪な事態のトリガーとなる。
そんな事を頭で理解しつつも、黒の隣を歩き続けると決めた自分の役目の重要さに、思わず溜息が溢れる。
「ん? 流石に、この状況下なら緊張はするんだな」
「あぁ、アイツの隣を歩くには……死ぬ覚悟が必要だからな――」
「なら、未来さんは……強いんだな」
「あぁ、強いぞ。俺達の中で、誰よりも――強い」
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