149 / 231
1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
隣を歩く条件《Ⅱ》
しおりを挟む砦の階段を上がって、朝日が昇る草原を黒と未来は眺める。
未来の手を握って、未来が少しだけ頬を緩ませながら黒の手を握り返す。
草原を吹き抜ける風に未来の栗色の髪が揺れ、黒が未来の隙を狙ってかのように唇を奪う。
押し付けた唇が重なったと同時に、未来の中へと黒竜の魔力を押し込む。
黒の瞳が青く染まり、すぐに元の色へと戻る。
唇が離れ、真っ赤な未来の頬を黒が優しく触れる。
黒が未来の額に自分の額を当てて、小さな声で呟く。
「大丈夫……絶対に帰って来る。未来の……キミの隣に絶対――」
「分かってるよ……でも、また離れ離れだよ。寂しいな……」
未来が黒の首に腕を回して、ギュッ――と、抱き締める。
黒も未来の腰に腕を回して、ギュッ――と、抱き締める。
朝日が草原を照らし、抱き締める黒と未来の2人を優しく照らす。
朝日に包まれて、未来が黒から離れる。
すると、僅かに黒の目に涙が浮かんでいる事に気付く。
未来が黒の頭を優しく撫でる。まるで、甘えたがりな子供をあやす母親のように、未来は黒に笑みを見せる。
黒が砦から外へと出て直ぐに、出て来るのを持っていたハートとローグと目が合う。
「もう、良いのか?」
「あぁ、帰ってくれば良いだけだろ? 大げさなんだよ」
「……帰って来れる保証があんのか?」
ハートの問い掛けに黒が答えても、ローグが自信がある黒に再び問い掛ける。
自信の有無に関わらず帰って来る――と、ややメチャクチャな返答を最後に3人はビフトロから去っていく。
ビフトロから3人の背中を見守る未来の隣に、心が寄り添う。
黒、ハートは強い。それは紛れもない事実である。
だが、イシュルワは数多の皇帝を抱えている。こちら側が把握していない戦力の可能性も十分ありえる。
「……大丈夫だよ。黒もハートも強い」
「……うん。そうだよね」
自分を強く保とうと未来は心の胸に顔を埋める。
不安さが無いと言えば嘘になり、心配させまいと自分を抑え込んでいた。
黒と離れ、ようやく本心を曝け出す。
「……黒くん。絶対に、守るよ。君が、心を守ってくれた様に――」
砦から微かに聞こえる嗚咽を聞いて、ビフトロが霧に覆われる。
覚悟を決め、ビフトロを死守する為――。友との約束を果たす為に、ルシウスが動く。
ビフトロから少し離れた地点で、3人は足を止めた。
深い霧の向う側から、ヘリのプロペラ音が聞こえた。
眩いライトによって、頭上から照らされた3人の瞬時に武装した兵士が取り囲む。
しかし、彼は一定の距離を置いて動きを止め、こちらの出方に警戒していた。
ローグがそんな兵士達の姿を見て、異常な光景だと自分の目を疑った。
それは、兵士達が全員小刻みに震えていた事である。
ある人物を前にして、数多の訓練や死線を潜り抜けてきた歴戦の洗練された兵士達ですら――《恐怖》したのだ。
それ故に、武装した兵士達の視界には自分は映っていない。
映るのは、眠そうにあくびをするハートと――堂々とヘリを睨む黒だった。
「なぁ……いい加減、降りて来いよ。それとも、怖くて前に出れねーか? ……以外と臆病者だったみたいだな」
黒の挑発に反応して、ヘリから降りてきたのはイシュルワの現トップ――ウォーロック・ザムザインであった。
霧の中から杖の――カツンカツンと、地面を小突く音が響く。
イシュルワのトップが黒の前に余裕な笑みを浮かべる。
「流石は、倭の皇帝だ。この私に気付くとは――」
立派なヒゲに触れながら、黒の前に立った。
――が、黒はウォーロックを素通りする。
まるで、眼中に無いかのように素通りしてその後ろで待機していた皇帝に挨拶する。
「ヘルツ――。今度は、逃げないのか?」
「……うるさい」
ヘルツが腕を組んでそっぽを向いた。
それを見た黒が、ヘルツの抱えている何かに気付いた――
その後ろで、自分を無視された事に腹を立てたウォーロックが声を上げる。
が、振り向いた黒がウォーロックのあまりの弱さに肩を落とした。
「コレが、イシュルワのトップですか……可哀想に、人材不足とお見受けした」
「――は?」
「あんたを見て、先ず思ったのが魔力の無さだな。欠片もねーよ。それと、覇気が薄い。全く無いわけじゃ無いが……覇気が薄味のスープ並みに薄いな」
「おい、黒、言い過ぎだ。仮にも、この雑魚はこのイシュルワのトップだぞ。本当の事を言ってやるな。見ろ、顔真っ赤だぞ」
黒、ハートの失礼極まりない言動に顔を真っ赤に染めたウォーロックだったが、見え見えの安い挑発だと己に言い聞かせて軽く流す。
挑発に乗らなかった所を見て、黒とハートは黙り込んだ。
あえてウォーロックが挑発に反応せずに、まるで客人の対応をするかのような振る舞いで3人をヘリに乗せてイシュルワへと向かう。
3人が乗せられたヘリの中は沈黙が続き、イシュルワまでの道中は一言も言葉を発さない2人にローグが困惑する。
ウォーロックは、護衛のヘルツと共にヘリへと乗り込む。
落ち着いた様子のヘルツだったが、薄目で正面のウォーロックを見る。
杖を握る手は血管が浮き彫りとなり、顔は真っ赤に染まっている。
怒りを発散する事無く、内側に溜めている。
溜めに溜めて、逃げられないイシュルワ内部にて発散するつもりであろう事は明白――
ヘルツが溜息を溢して、窓に目線を反らす。
キレイな草原の光景が、ヘリが進む事に変化する。徐々に緑が消える。
沼地、錆び付いた鉄屑や廃棄された瓦礫の山が広がる光景に胸を痛める。
「昔は、こうじゃなかったのにな……」
もう、取り返しの付かない過去に思いを馳せる。
かつての雄大な草原と豊かな自然の景色は、過去の思い出となる。
たった数年で、緑が消える。鉄と汚水による環境破壊されたイシュルワ周辺の土地を見て、自分達の行いの傷跡を目に焼き付ける。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる