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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
劣悪な環境《Ⅱ》
しおりを挟む眠る黒が、バハムートと共に小さな足音に気付いて目を覚ます。
ゆっくりと、だが確実にこちらへと近づく足音に黒が影から振一郎の刀を取り出す素振りを見せる。
「あの、大丈夫ですか?」
声の主は、黒よりも断然年下の女の子であった。
その後ろに、彼女の弟と思える小さな子供が汚れた衣服に身を包んで、小さなランタンの灯りを手にしてこちらの様子を伺う。
黒の存在には気付いてはいるが、死んでいるのか生きているのかは分からない。
安全な距離から声を掛けて、襲われないか警戒している。
『まだ、子供……警戒はするが、武器は余計な警戒心を煽るだけだ』
「分かってる……それに、こっちは深手を負った逃亡者だからな」
子供2人が、ゆっくりと近づくのに合わせてゆっくりと顔を向ける。
失った左腕を見せながら、深手を負っている事を知らせる。
「悪いが、こっちはケガ人でな……遊ぶ相手には、なれそうにない」
「違うもん! スゴい音がしたって、街のみんなが言ってるから、上を見に来たんだい!」
「――上?」
黒の質問に対して、元気いっぱいな男の子が指を空へと向ける。
そこで、ようやく理解できた。寝起きの頭であったからか理解力が欠如していたが、子供の言っている上と言うのが地上だと理解できた。
「あぁ、上な……少し、騒いでたからな」
「おじさんも、上の人なの?」
「おじさんって……俺はまだ20代だぞ」
「すいません。弟が……ただ、上から落ちてきたんですよね?」
「あぁ、そうだが?」
バツの悪そうな顔に、男の子が姉の袖を引っ張る。
小声での会話であったが、強化した聴覚では問題なく聞き取れた。
「ねぇ、何か持ってるよ」
「だめ、上の人って私達よりも強い筈だよ。それに、街のみんなで襲った方が、安全……」
「でも、僕たちの分が少なくなちゃうよ。お母さんのお薬、買えなくなっちゃうかもしれないよ……」
「……でも」
どうやら、弱った黒から金目の物を盗んで売ろうという魂胆であった。
とは言え、こちらも不要な戦いは避けたい。
それに、ローグと合流しつつヘルツやティンバーが動けるようにするには、下層部の連中に取り入るしかない。
「おい、お母さんは病気か?」
「――えっ! 何で、知ってるんですか?」
「おじさん、耳良いの!?」
「ちょっとした裏技だ。俺から金品を奪っても、対した金額にはならない……ただお母さんの所に案内してくれ。魔法での治療は得意だ」
その言葉に2人が、喰い付いた。
黒の元へと駆け寄って、治療出来るのかと食い気味で尋ねる。
とは言え、状況が定かではないと治療の有無はハッキリと答えれないと告げてこの場は収めた。
2人が黒を母親の元へと案内する事を条件に、金品の強奪はしないと約束した。
「なら、行こうか……お母さんの体が心配だからな」
「「うん!」」
2人の手に持った小さなランタンの灯りを頼りに、薄暗い横穴を通る。
大人2人程度が横になれるほどの大きな横穴が、黒は気付いて無かったが多く存在していた。
聞く所に、よれば、イシュルワの財源の1つである工場の原料に当たる鉱物などの地下資源を掘る為に、地下労働者の街があるという話であった。
地下生活を強いられ、そこで生まれた子供は強制的に地下労働が義務付けられた。
洞窟内の空気の薄さ、硫黄のような臭いに、工場からの排気ガスや滲み出る廃液によって、この地下は劣悪な環境どころの問題ではなかった。
「コレは、病気にもなるな……」
「みんな、死んでる。多分だけど、私達も大人になって……子供を産んだら死んじゃう。だから、早くに子供を産めって言われる」
「無理矢理の妊娠と出産か……なるほどな。ヘルツが子供の為に、必死になる訳だ――」
横穴を抜けると、そこに広がるは地底の世界――
トタンやガラクタなどの寄せ集めで建てられた。見るからにボロい見た目の家屋が所狭しに並んだその場所は、列記とした街ではあった。
だが、辛うじて街という機能を保っていた。
路地裏に積まれる異臭を漂わせた化学薬品や産業廃棄物の成れの果てが人を寄せ付けない。
排気ガスや廃液の影響か、体は痩せ細って正気が感じられない老若男女が道の脇で、身を小さくして固まっている。
固まって、動かない者達も動いて声を出して居る者達を見て、黒はある違和感を覚えた。
「ここの連中は、いつも騒いでんのか?」
「うん、いつも騒いでるよ……騒がないと、動かなくなっちゃうから――」
「うん、だから僕たちは、元気いっぱいに遊んで仕事するんだっ」
「体を動かし続けて、魔力の硬質化を防いでる訳か……原因は、工場の排水が地表に染みて出た事による。この臭いと、廃棄物に残った薬の成分だな――」
一目みて、この街の異常さに気付いた。
そして、ヘルツやローグ達がこの下層部の人達が普通な生活が出来る為に奮闘する理由を知る。
姉弟に連れられ、大通りから少し離れたトタン住居が積み重なった住宅地2足を踏み入れる。
ここも変わらず、廃棄物や薬品の臭いで頭がイカれそうになる。
錆ついて、所々を補強された階段をゆっくり登る。
「……よそ者だ」
「よそ者だな……」
「身なりが良い……よそ者だ」
階段を登る黒の背後に向けられる街の住人達からの視線を黒は気付いていた。
だが、住人の瞳からは日々を生きる為の活力が既に失われている事にも同時に気付く。
そして、黒を見た彼らに似た共通点があった。
「――病人か? ここに居る人達は?」
「うん、私のお母さんも……同じ病人です」
「だから、お母さんの前だけでも……元気じゃないと、心配しゃちゃうから……」
男の子の目から涙が溢れる。お姉ちゃんが優しく涙を拭ってから、無理にでも笑顔を作る。
その姿に、黒の胸は締め付けられた。
――母親の為に、辛く苦しい現実に耐えるしか無い。
「……ヘルツ。お前の救いたい人達が、どんな世界の人間なのか、少し分かったぞ。嫌でもな――」
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