難攻不落の黒竜帝 ――Reload――

遊木晶

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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】

劣悪な環境《Ⅲ》

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  母親が横たわる建物の1室へと黒は入る。
  中を見て、黒はおぞましい物を見たような表情を浮かべる。

  眉を潜め、部屋の想像を絶する劣悪な環境に吐き気すら覚えた。

  だが、1番の吐き気を覚えたのは――

この様な生活を強いておきながら、何一つ改善しようともしない上の連中にであった。
  虫が住み着きながら満足な治療も受けれずに、ただ黙って死を待っている。

  「だから、死んだような目をしてたのか……」

  母親の隣へと向かう姉弟だった。
  その目には、苦しそうに呼吸をしながら朦朧とする意識の中を泳ぐ母親の苦しむ姿――

  誰から見ても分かる。
  とても、薬1つでどうにかなる症状では決してない。
  例え、薬が箱を積むほどあっても、病人からすれば延命するだけで苦しみが長くなるだけの生き地獄であった。

  ――あぁ、ムカつく。

  笑顔で母親へと話し掛ける。仲の良い姉弟であっただろう。
  だが、日に日に悪化して行く母の姿を見続けていた。

  それが、今日初めて――自分達を認識出来ない。そんな母親の姿に――絶望する。

  堪えていた筈の涙が笑顔の上から、溢れて流れる。笑っているのに大粒の涙が流れている。
  姉が、弟が、無理に笑って涙を誤魔化す。
  1室でもこの様であるのに、横の別室には同じ病人が溢れていた。

  「お母さん……今日ね。いっぱい、いっぱい……お金稼いだんだよ……」
  「うん、それに……上のお兄ちゃんがね。治せるかもって、来たんだよ」

  涙を堪えきれない。だが、笑っていた。
  そんな2人の痛々しいほどの姿に、黒の我慢は限界に――達した。

  「もう、バレるとか……そんな事、どうでもいい。心底、どうでもいい――!!」

  突然の黒の怒号に姉弟はもちろんの事、別室の者達も思わず驚く。

  壁のトタンを蹴り1つで破壊し、片腕に魔力を集中させる。
  地面に落ちたトタンの上に、飛び出た黒が勢いを付けて着地する。
  そして、足元のトタンを貫くほどの強化された腕力で地面に魔力を打ち込む。
  飛び出た際の勢いを利用して、腕力だけでなく落下の勢いを利用して硬い地面を片腕1つで穿った。

  下層部が大きく揺れ、凄まじいほどの漆黒の稲妻が大気中に迸る。
  それにより、大気中の異臭が蒸発する――

  新鮮とは言えないが、薬品による化学汚染の要因の1つが黒の一撃で消える。
  そして、地面に打ち込まれた魔力が次第に膨れ上がり、地面から突き出る。

  巨大な蔓をトタン住居の一部を壊して、街の方へと伸びる。
  揺れるトタン住居全域に、細い蔓が侵食する。
  そして、黒が慣れた手つきで蔓の先端を噛み千切って、2人の母親の口へとゆっくりと近付ける。

  「街で、騒いでいる元気な奴らに動かなくなっても生きてる奴や寝たきりの病人の口に、この蔓を口に入れろ――とデカイ声で言って回れ。先端は切っても千切っても構わない。中のエキスが確実に病人の口に入れば良い――さぁ、走れッ!!」

  黒の言葉を聞いて、2人は勢い良く駆け出した。

  魔力を注いで、蔓が更に成長し続ける。
  地面から巨大な樹木が生えて、ヘビのようにニュルニュルと地面を這って動く蔓が下層部に広がる。
  2人の声が下層部に響き、半信半疑の住人は渋々と病人や動かない生気を失った者へと蔓を向ける。

  そして、中から滲み出た僅かなエキスが口へと落ちる。

  すると、全身から高温の蒸気が立ち昇る。
  その後に、湯気の中から元気な姿を見せた事で下層部で歓声が響いた。
  姉弟が母親の元へと駆け寄って、勢い良く飛び付くがそれを黒が静止させる。
  黒が静止させたのには、理由があった――

  エキスを摂取した事で、毒素は完全に中和される。だが、栄養状態などの問題点が数多く残っていた。
  次に黒が動いたのは、生えた樹木が実を付けた果実にあった。
  地層に染み込んだ毒素吸収しながら、毒素を分解するだけの役割ではなく。

  エキスは、毒素の中和――
  果実は、健康状態の回復――

  トタン住居に横たわる全ての病人に果実を手渡し、状態を確認する。
  その後、外でエキスを摂取した全ての下層部の住民の状況を把握する。
  開けた広場に、黒は切り分けた果実と樹木から落ちるエキスによる治療を続ける。

  下層部の人間は、黒の行為で毒素から徐々に開放されていく。

  が、これほど大規模な魔法を行えば、必然的に上への者達へと感付かれる。
  広場で治療を続ける黒の前に、治療を待っている列を押し退けてイシュルワの軍人が迫る。

  「……黒竜帝だな。要件は、言わなくともわかるな?」
  「右腕をこっちに、そう……。安心して、大丈夫だ。必ず助けてやる・・・・・・・」  
  「おい、聞こえていないのか!!」

  黒の治療を受ける女性を退かそうと軍人の男が手を伸ばした所を、背後から接近した男の木材によって頭を強打された。

  「クソッ……何のマネだ。貴様ら……!!」
  「聞いてなかったのか? この人は、見ず知らずの俺達を救ってくれた。今も、他人同然の俺達を――必ず助けてやる・・・・・・・と言ってくれた。この意味、分かるか?」

  軍人の男が、仲間を無線で応援を呼んで不意打ちをした男と黒に銃口が向いた。

  だが、その場で軍人達は地下で強制労働を強いられた屈強な鉱夫達の前で袋叩きに合う。
  鉱夫の拳は、容赦なく軍人の男達に振り下ろされる。
  抵抗はすれど、軍人の拳に男達は微動だにしない。
  それは、果実による栄養状態の回復と毒素の中和によって、肉体が以前よりもより強靭な物へとなったからであった。

  「お前ら、上の連中は俺達の事なんざ気にしてない。だが、この人は違う。そうだろ、みんなッ!!」

  一人の声に共感して、多くの者達が声を上げた。
  その数は、5人や10人ではない。もっと、多い数の人間が黒に感謝していた。

  下層部の多くの者達は、変える事の出来ない運命だと諦めていた。
  が、黒の到来によって、自分達の運命は変わり始めた。そして、今日この場を以て、下層部の者達による――反逆の狼煙が上がる。


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