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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
キミを愛している
しおりを挟む幼い頃から、有望な兵士として徹底した訓練を受けた。
「さぁ、貴様が殺せ――」
親元を少しの間離れて訓練、離れて訓練、離れて訓練――この繰り返しに生きる意味が見付からなかった。
同年代の中でも特別有能と判断されて、両親と倭へと留学が決まって少しの平和が訪れた。
両親への監視は以前として厳しかった。が、イシュルワでの生活よりも平和で健康的であった。
そんな両親の生活水準の確保の為に、学生でありながら高い成績を要求された。
それに関しては、問題なかった。
同世代の人間がずば抜けて優秀過ぎて、自分の成績の低さが良くわからなくなったからだ。
そして、養成所襲撃事件で自分達に転機が訪れた。
異形の襲撃に、自分も含めて監視役が巻き込まれる。
スパイである本国の人間が見つかるのは、国際問題となる。
それゆえ、死体となれば彼らは秘密裏に片付けられる。それを逆手に取って――始末した
直ぐに両親は、安全な場所へと避難して身を隠す。
本国の連中も候補生の自分1人が消えた程度の損害は問題に取り上げない。
適当に記録を書き換えて、初めから存在しなかった様に世界から消される。
――そう、本国の情報を改竄した。
コレで、晴れて自由の身となる。
養成所では、黒を筆頭にとてつもない戦力が異形殲滅に力を入れている。
そのおかげで、イシュルワの人間は倭に近付く事はない。間違って迎撃される危険性が極めて高いからだ。
家族と一緒の平和な時間が出来て、平穏な幸せが訪れる。
そこで、彼女と出会った――
「斑鳩……紫苑さん?」
「――紫苑で、いいよ」
同じ養成所出身で、交流の多かった部隊同士の縁で交際が始まった。
自分と同じ様に、彼女も自由を手に入れた。イシュルワと言う名のトリカゴから開放されて――人としての幸せを掴んだ。
これまでの苦痛を忘れるように、2人で色々な場所を回った。
倭の外側には出れないが、イシュルワに見付かるぐらいなら倭でも充分だった。
「――とっても、幸せだよ。紫苑……」
「うん、私も……だよ」
唇を交わして、永遠に尽きない愛を誓った。
――だが、幸せは長続きしなかった。
イシュルワにとって、倭の《王の世代》と言う名前は――喉から手が出るほど欲していた。
不運にも、黒やハート達が世界に名を轟かせた。その事で、王の世代と言う人物達の価値は飛躍的に上がった。
そして、王の世代が最強だと世間に知れ渡ってから数年後――イシュルワは、その世代に目を付けた。
同じ年代に、イシュルワから倭へと送られた人物の情報が徹底的に洗われる事となった。
そして、イシュルワに――捕捉される。
当時、紫苑は妊娠していると分かった。
そこを突かれて、安静にしていた紫苑に逃亡阻止目的の爆弾や額に銃口が突き付けられた。
従うしか無い状況で、宗治は信頼できる人物を頼った。
が、その人物は、大切な人を失くしたばかりであった――
大切な人が自分の手の届かない所で、失くなった。
とても、自分の為に手を貸してくれとは言えなかった。口が避けても、傷心中のルシウスに頼れなかった。
――だから、従った。
幸いにも、約束を守って自分に利用価値があると判断されている内は、紫苑に指一つ触れられる事はなかった。
そして、手厚い看護の元で、紫苑は出産した。
分厚いガラスの向こう側で、イシュルワの医療機関の手の元で紫苑の腕に赤ん坊の元気な姿があった。
イシュルワの上層の指示であったのか、定かではない。だが、紫苑と子供はここでならば安全だと判断した。
それと同時に、宗治には――2人分の成果が要求された。
生まれてから、1度として抱いた事の無い我が子の為に――宗治はすべてを捨てた。
大切な人を守る為に、かつての幸せを捨てる。
倭で平穏に暮らす両親には別れも告げずに忽然と消える。それぐらいの覚悟でなければ、次は両親が人質となる。
とは言え、イシュルワも倭の住民を1人程度人質取るのですら一苦労であっただろう。
紫苑1人に多くの資金を投資して、その上で裏ルートで厳重警戒の下にイシュルワへと送られた。
そして、自分は自らの意思でイシュルワへと渡る事を条件にされた。
「……それだけ、倭は強大な国――」
だから、賭けた。
黒が力を取り戻し、復興が進む倭で問題を起こす。
無理を言って、紫苑と共に倭へと向かう。
誰にも聞かれないように、魔法で作戦を伝える。
王の世代でも、最強クラスだった人が集まる場所なら――と、淡い期待を抱いた。
でも、助けは呼べなかった。
船の内部に、自分と同程度の皇帝が隠れており。2人を監視していたのだ。
作戦は諦め、本来の目的に徹する。
王の世代であれば、気付くような違和感を演出した。無謀にも、翔に挑んだ。
黒の避けれる筈の攻撃をわざと受けたり、王の世代として共に戦った仲間とは思えないほどの違和感を与える。
それで、気付く保証はなかった。
――でも、藁にもすがった。
紫苑と子供を助けてあげれるのであれば、何にでも縋った。
紫苑の爆弾も人知れず解除して、ダミーの爆弾を取り付けた。
それでも監視のある中で、できる事は限られた。
最後に、我が子の顔を見たのは産まれたばかりの時に、紫苑に抱かれていた姿だけであった。
父親らしい事は何一つできやしなかった。
抱いてあげる事もオムツを替えてあげる事も、ミルクをあげて、子守唄を歌ってあげる事も出来なかった。
――それでも、2人の為に盾にはなれた。
背中へと拳銃の弾丸が打ち込まれる。
肺が、内蔵の至る所が出血するのを感じる。
意地でも貫通させまいと、気合を入れる。
薄れる意識の中で、自分の名前を泣き叫ぶ紫苑の顔が視界に溢れる。
遠くなる耳に、紫苑とは別の泣き声が聞こえた――
銃声に驚いて、眠りから覚めたのかもしれない。それとも抱いている人物の想いを肌で感じたのかもしれない。
膝が崩れて、地面に倒れる僅かな時間の間に、紫苑に抱かれたあの子の泣き顔が心を抉る――
――不甲斐ない。そんな父親で、ごめんね。
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