stray Crow

社の章ー違和感ー

1

　俺が初めて違和感を抱いたのは5歳の時だった。








「はい、この問題わかる人ー」


　算数の授業中、ホワイトボードに担任の女が問題を書いた。
　「わかんないでーす」とウケ狙いのお調子者がわざわざ手を挙げて言う。うざ。それにクスクス笑う奴もうざ。

「エート、ちょっと難しかったかな？　わかる人いないかな～？」

　新卒らしい担任は、それっきり誰も挙手しない教室を困ったように見回す。
　俺は無視したが、「はい……」と俺の右斜め前の席に座るちさが――１学年1クラスしかないのでコイツとは同じクラスだ――手を挙げた。

　担任はもちろんクラス中がざわつく。ちさは国語しかできねぇアホだからだ。担任は「えっ……は、ハイでは、ちささんどうぞ」と動揺するも、立ち上がったちさは頭をフルフルと横に振る。

「わたしはわかりません……」
「は？」
「でも社がわかると思います……」
「は？」

　最初の『は？』は担任が、次は俺が言った。そうして役目は終わったとばかりに、満足そうに席に座り直すちさの背に俺は食ってかかる。

「なに言ってんだテメェ！　俺手ぇ挙げてねーだろがフザケんな！！」